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7話 極楽天福良4

 福良は、スマートフォンの地図を見ながら歩いていた。

 全幅の信頼をおけるわけではないが、それでも動体感知は頼りになるはずだった。


「しかし……これはどういう状況なのでしょう。これが異世界転移だとして、学園が関わっているのは間違いないようですが」


 入学式が終わって講堂を出たタイミングでの移動。こんな場所でも使用できる学園支給の端末。装備として扱われている学園の制服。新入生らしき死体。これで、全く無関係なはずがなかった。


「こんなことならサバイバル術も習っておけばよかったですね」


 福良が修行している武術、壇ノ浦流弓術には様々な技法がある。その中には野山で自給自足する技があるらしいのだ。

 だが、福良は壇ノ浦流を護身術として習っているにすぎなかった。山で遭難することを想定するよりも、街中での危機回避に重点を置く方が効率がよかったのだ。


「水だけでも数週間は生きられると聞いたことがある気もしますが……その水もないですね」


 緑豊かな環境なので水源もどこかにはあるのだろうが、探そうとすると骨が折れそうだった。それよりも今は人がいる場所へ向かうことを優先するべきだろう。

 独り言が多くなっているのは不安が故だが、福良はそれほど深刻には捉えていなかった。

 自分の選択と運を福良は信じているからだ。


「おや?」


 地図に表示されている道が途切れていたので、福良は立ち止まり前方を見た。

 たしかに道が途切れていた。それどころか、森ではなくなっているのだ。

 そこは草原だった。

 森の中に唐突に草原が広がっているのだ。


「道をそれるなということでしたが……」


 草原は円形に広がっていた。森の中にはめ込んだかのように、そこだけが草原になっている。

 広さは直径100メートルほどで、中には土塊が点在していた。高さ5メートルほどの小山だ。福良の知る中では、蟻塚に近いように見えた。

 福良はスマートフォンのカメラを起動した。

 ズーム倍率をあげて草原の反対側を映すと道が続いているのが見えた。直進すれば草原の端の方を通ることになり、70メートルほどで道に辿りつけるだろう。

 このまま進むべきか。

 福良は嫌な予感を覚えた。この草原はいかにも怪しく思えたのだ。

 どうせ道から外れるなら森の方がいい。草原を避けてもそれほど遠回りにはならないはずだ。

 福良は、左側へと歩き出した。道をそれて森へ入る。走って一気に道まで辿りつくという方法もあるが、それでは周囲への警戒が散漫となるかもしれない。

 それよりは、ゆっくりと歩いた方がいいと判断した。

 周囲の音を聞き、地図を見て、周囲を確認しながら歩く。木々の密度は低く、見通しはいいのでいきなり襲われることはないはずだ。

 草原を右側にみながら慎重に歩いて行き、半ばに達したところで地図に赤い点があらわれた。

 前方に二つ。

 敵が来るならこのあたりだろうと福良は考えていた。どちらの道からも一番距離があるのがここだからだ。

 木の陰から小さな影が二つ現れ、福良はスマートフォンをポケットにしまった。

 現れたのは、最初に倒したのと同じ緑色の魔物だった。小柄で、逆三角形の頭部に、刃の様な爪を持つ獣。

 基本的に、人間は野生動物には勝てない。先ほど福良が勝てたのはいきなりの遭遇戦で敵も混乱していたからだろう。しかも相手は襲う場所を考えるぐらいの知能はあるのだ。普通にやれば勝ち目はない。

 だが、福良が壇ノ浦流を学ぶ過程で想定されたのは、普通なら勝てないような相手が襲ってきた場合であり、そんな事態に対処するための修行だった。

 福良は、すでに石を両手に持っている。

 そして、前を見たまま、背後へと石を投げつけた。

 壇ノ浦流弓術、斑鳩。

 手首と指先の力だけで予備動作なしに礫を投げつける技だ。

 敵が前方に現れたなら、後方にもいるものと思え。壇ノ浦流の教えであり、福良は背後の気配に敏感だった。何かがいると感じたので、牽制目的でとりあえず放ったのだ。

 当てることは考えていない。それで敵が多少でも驚けば儲けもの。そんなつもりだったのだが、唐突に聞こえてきた破裂音に、福良は思わず振り向いた。

 血まみれの魔物が倒れていた。

 慌てて福良は前に向き直った。

 敵も驚いていて動きを止めていた。

 福良はポケットから石を取り出し、須転を続けて放った。

 石は二体の顔面に命中し、そして爆裂した。

 頭部が弾け飛び、血を噴き出しながら倒れたのだ。


「えーと……これがブラッディパーティでしょうか」


 クリティカル発生時に確率で爆発が発生する。そんなスキルだったはずだが、これは福良の意図した結果ではなかった。

 とりあえず目を攻撃して怯ませ、その隙に道まで行こうとしていただけなのだ。


「毎回こんな調子なのはちょっと嫌ですね」


 生き物を殺したというのに、福良は少しばかり不快感を覚えただけだった。これも壇ノ浦流の修行の成果だろう。修行の過程で暴力と惨劇に慣らされてしまっているのだ。

 福良はスマートフォンを取り出し地図を確認した。周囲に敵はいないようだ。

 今のうちに道へ向かうべきだろう。

 魔物の死体の側を通り、歩いていこうとしたところで腰ポケットが震え、何かがぽとりと足元に落ちた。

 福良は落ちた何かを見た。

 巨大な目玉と、刃のように長い爪だった。

 何が起こったのか。その答えはスマートフォンに表示されていた。


『自動回収に失敗しました。現在のストレージに格納できないアイテムです』


「なるほど?」


 倒した魔物の部位は、倒した者に所有権が発生するのだろう。そうなると自動回収で近くに落ちているアイテムが回収される。ストレージに格納するとのことだったが、福良が持っているストレージはスカベンジャーポケットであり、これにはガラクタカテゴリのアイテムしか格納できない。そのため回収しようとはしたが、格納できずに足元に落ちたという流れのようだ。

 気になった福良は、他の魔物の側にもよってみた。

 長い爪、牙、外殻が足元に落ちた。これらは血まみれなわけでも、体組織が付着しているわけでもなく、綺麗なものだった。


「これは……もったいないですね」


 貰える物なら貰っておくのが福良のポリシーなのだが、これらを持ち運ぶ手段がない。地味にストレスを感じる福良だった。


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