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無理ゲーみたいな異世界ですけど、壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? ~即死チート外伝~  作者: 藤孝剛志


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65話 春原夏葉1

 九法宮学園の新入生はランダムに転移させられる。そこには何の意図もなく、ただの偶然によって座標が決定されるのだ。

 当然、場所によって難易度に差が出てくる。

 王都などの栄えた場所であればいきなり死ぬことはないし、田舎であっても人がいるなら幸運な方だ。人がいなくとも危険な野生生物などがいない地であればまだましだろう。野生生物が蔓延る地だったとしてもまだ最悪ではない。

 最悪なのは魔界、それも奥地に出現してしまうことだ。こうなってしまうとほぼ詰んでいる。初手でスマートフォンの設定に気付かなければ瘴気で死ぬだろうし、ジョブに就けたとしても瘴気の薄い場所を見つけなければすぐにHPが削られてしまう。どうにかジョブに就き身体能力を強化できたとしてもそこに棲むのは凶悪な魔物どもだ。どれほど有利なスキルを使えようと、所詮は素人である新入生がいきなり襲いかかってくる魔物に対抗できるわけもない。

 理不尽な話だ。どれだけ異世界への適性があろうと、どれだけ強かろうと運が悪ければ死んでしまう。

 運も実力のうち。学園はそう言いたいのかもしれないし、事実そう考えていることだろう。才能のあるものを育成して異世界に適応させるのならもっと穏当なやり方があるはずだからだ。

 学園は適当に異世界に放り込んでも生き延びることができる即戦力を求めていて、その選抜方法がこの無茶苦茶なやり口なのだ。

 春原夏葉は、ふざけるなと思っている。

 世界の為、人類の存続の為だという。何十億という人間の平穏のためにはたかが数百人程度の犠牲は仕方がないという。確かに必要なのだろうし、夏葉も世界が滅んでいいとは思ってない。だが、それでもこれはおかしいと思っている。

 このやり方が最適なわけではないし、十分な検討がなされているとも、考え尽くされた結果だとも思えない。

 だから、夏葉は勝手に助けることにした。

 自治組織はあるがそれもどうにかこの世界で生きようとあがいた挙げ句の寄り合いに過ぎない。学園の課題さえこなしていれば、この世界でどう行動するも各人の自由だからだ。


「このあたりに魔物は?」


 夏葉は、設楽藤四郎を地面に放り出して尋ねた。


「いないけど……え? これなに? そもそもここどこなの!?」


 夏葉は、宿舎の自分の部屋でぼんやりとしていた藤四郎の襟首をひっつかんで無理矢理に連れてきたのだった。休憩中であろうと彼が制服姿なのは、制服の防御力を頼りにしてのことだ。比較的安全な都市部の宿舎であろうと異世界なのだから何があるかわからない。そのため学園の生徒は常に制服を着用しているのだった。


「魔界」


 人の手が入っていないであろう鬱蒼とした森の中だ。地面は折れた枝と苔、下生えに覆われ、青臭い匂いが満ちている。藤四郎が戸惑うのも無理はなく、夏葉は藤四郎を掴んで転移してきたのだ。


「ちょっとぉ! なんでこんなことになるんだよぉ!」

「迷ってる人がいたら助けようと思って」


 藤四郎のジョブはスポッターで周辺環境の把握を得意としている。脅威度を判定できるため危険な魔物を確実に発見することができるのだ。


「勝手にやっててよ! 僕は関係ないでしょ!」

「このあたりまでは別件で来たことあったけどこの先は危ないかなって」

「はああぁああ!? 僕の意思は!?」

「うるさい。人助けの何が悪い」

「……うぅ……わかったよ! 敵がこないか見てればいいんだろ!」


 藤四郎があまりごねなかったのは逆らっても仕方がないと思ったからだろう。藤四郎の能力では自力での帰還はまず不可能であり、夏葉に頼るしかないのだ。


「でもさぁ! 事前に説明が必要だよねぇ! わかってりゃちゃんと索敵やったよ!? いきなり魔物がいたらどうするつもりだったのさ!」

「倒すか逃げるけど?」


 当たり前のことを訊かれて夏葉は首を傾げた。勝てそうなら倒すし、負けそうなら逃げるだけのことだ。夏葉は闘争、逃走のどちらも一瞬で行える転移系スキルの持ち主なので、どうにでもなると思っていた。


「はぁ……慎重に! 慎重に行こうよ! ね!? で、ここは……かなり封輪に近いなぁ」


 封輪とは、世界の中心部分を覆う輪状の地帯で、人以外の生物が死に絶える空虚な空間だ。古代の人々が作りあげたとされているが、その意図は公に知らされておらず、ましてや異世界人である夏葉たちには知る由もなかった。

 ちなみに藤四郎が転移してすぐに現在地を把握出来ているのはマップのおかげだ。二年生にもなればスマートフォンを使わずにシステムにアクセスできるのが当たり前だった。


「しかし、こんなとこまでよく一人で来たね」

「中央には行ってないからね」


 誤解されがちだが、奥地だから危険なわけではない。最も危険なのは魔界の中央部であり、中央を避けて回り込むように向かえば奥地であってもさほど難易度は変わらないのだ。封輪のある最奥はただ遠いために行きづらいだけだった。


「念の為に言っとくけど、新入生の位置はわからないからね?」

「うん。だからそっちは動体感知とかでそれっぽいの教えて」


 動体感知は全ての生徒が持っている基本スキルだが、藤四郎の方が感知範囲が広いので周辺状況の確認は任せた方が効率がよかった。


「わかるかなぁ……いまのところそれっぽいのはないけど」

「じゃあ行こう。魔界を抜ければ人のいるところがあるらしい」


 当面の目標は封輪にある塔だった。その周囲には中央聖教の拠点があるらしいのだ。新入生がこのあたりに転移してきて生きているならそこに辿り着く可能性は高いだろうと思ってのことだ。


「春原さんはテレポートが得意なんだよね? どんな感じなの? 目的地にすんなり行けないっぽいのはわかるんだけど」

「遠距離だと行ったことがあってランドマークがあるところにしか転移できない。これは一度に十人ぐらいは転移できる」


 夏葉はちらりと背後を見た。そこには一際大きな巨木が生えている。今回はこれがランドマークだ。何がランドマークかの判定は単純で、マップにランドマークアイコンで表示されていればそうなる。そのため、この脳みそが壊れるなどするとランドマークではなくなりその場所への転移はできなくなるのだ。


「近距離だと視界の範囲内。でもこれは安全に転移しようとすると集中力が必要だから、あらかじめこうしようと想定した転移しかできない。だから自由自在に転移しながら戦うとかは無理」

「素人考えだとさ、空を見上げて転移して、見下ろして転移ってすれば距離を稼げそうな気がするんだけど」

「無理。空への移動は出来てもそこから墜落までに次の転移の発動ができないから。要は次のランドマークまでは地道に歩くしかないってこと」

「はぁ……」


 転移で楽々移動できたらと思っていたのか藤四郎はあからさまに落胆していた。

 夏葉が歩き出すと、藤四郎はすぐ後ろを付いてきた。

 足を動かす度に草や枝がひっかかり少し歩くだけでも手間がかかるが地道に進むしかないだろう。黙々と歩いていると、うんざりとした様子でうなだれていた藤四郎が顔を上げた。


「えーと……脅威度Cが一直線にこっちにやってきてるんだけど……こんなまっしぐらなことあるの?」


 脅威度はABCの三段階になっている。Cは脅威度が低いことを表しているのだが、それはAやBに比べればという話だ。どの程度の強さかは戦ってみるまでわからない。


「位置情報共有して」


 夏葉のマップにCと中に書かれた赤い三角が十個表示された。前方100メートル先からこちらへと高速で移動している。

 藤四郎がどこからか剣を取り出した。

 夏葉は何もせず、ただ敵を待ち構えた。

 それは上から降ってきた。

 妙に長い手足を何本も持った巨大な甲虫だ。その手足を樹に引っかけて移動してきたのだろう。

 次の瞬間、甲虫はバラバラになった。

 夏葉が雑に転移を繰り返して空間をかき混ぜ、甲虫はそれに巻き込まれたのだ。

 強固な外殻を頼りに突っ込んで来たようだが、どれほど硬かろうが転移失敗に巻き込まれれば確実に分断される。甲虫は青黒い血と肉をぶちまけ、巻き込まれた樹木と渾然一体になっていた。


「まだ五体いる! え? もう来てるはずだけど!」


 死ねば地図上では灰色になるが、赤い三角は五個残っていた。


「上にはいないから、下か」


 土塊が目前に出現して落下した。一辺三十センチほどの立方体が何十個と現れたのだ。藤四郎に転移には目視が必要とは言ったが、雑でよければどうとでもなる。夏葉は地下にいるであろうあたりを細かく分けて地上へ転移させたのだ。

 土塊には血肉が混じっているがどのような生物なのかはさっぱりわからない。だが、地下の敵が先ほどの甲虫と同程度のサイズなら死んでいるはずだ。


「全滅したよ……え? 春原さん、こんな強いの?」

「バラバラになったら死ぬ程度の奴ならどうにでもなる」


 生徒同士の間に能力を開示する義務はない。隠すつもりは無かったが、吹聴する気もなかったので夏葉の能力の詳細までは知らない者も多いだろう。


「じゃあ行こう」

「う、うん」


 何事もなかったかのように夏葉は歩き出した。藤四郎の索敵で発見できた魔物を回避して少し遠回りになったりもしたが道行きは順調だ。しばらくして、藤四郎が立ち止まった。何かに気付いたようなので、夏葉も足を止めた。


「この先、浸蝕領域があるみたい」

「どこ?」


 夏葉は前方を見渡した。注意深く見てみたが何かあるようには思えなかった。


「100メートルぐらい先だけど、樹とかが邪魔で見えないかな」


 夏葉は先を見通せる場所を探して移動した。確かに何かあるようではあった。どことなくぼやけて見えるのだ。ピントがあってないとでもいうのか、森であることはわかるが細かいところが判然としなかった。


「んー、どうするかな。入ってみたほうがいいんだろうか?」

「やめとこうよ。きっと危な――なんかいる! 脅威度A!」


 遙か遠く、浸蝕領域の手前にそれはいた。

 黒い塊。直前まで何もなかったはずの場所にいつの間にかあらわれている。

 夏葉は即座に逃げ出した。

 脅威度B以上とは戦うべきではない。存在を認識できた瞬間に逃げ出すのが正解だ。

 夏葉と藤四郎を含む空間を大雑把に切り取って転移する。

 瞬時にあたりの光景が変化した。

 学生寮として使われている建物の一室、緊急避難転移先に設定している医務室だ。


「うわあぁああああああ!」


 藤四郎が床の上をのたうちまわっていた。

 噴き出る血が清潔だったであろう部屋を赤で塗り替えていく。藤四郎の右腕が肩のあたりからなくなっているのだ。

 夏葉は転移を失敗したかと思ったが右腕が床に落ちていた。

 転移が発動するまでの一瞬でなんらかの攻撃を食らい、千切れた腕も一緒に転移してきたのだ。


「え!? 何がどうなってんの!?」


 待機していた治療系ジョブの生徒が慌てふためいていた。


「くっつけたげて」

「えー!?」


 この場にいてもやることがないので夏葉は医務室を出た。


 ――なんだったのあれは?


 何をされたのかがまるでわからなかった。夏葉は脅威度Aと聞いて反射的に転移しただけであって、攻撃の気配を感じたわけではないのだ。

 認識できない攻撃をしてきて、HPの防御を突破して身体に直接ダメージを与えてくる。藤四郎が助かったのは運がよかっただけなのか、それとも細かく刻んで弄ぶつもりだったのか。

 夏葉はこれ以上の捜索を諦めた。いきなり異世界に放り出された新入生たちを助けたいという気持ちはあるが、明確な危険があるのなら気持ちだけではどうにもならない。夏葉も命を賭けて助けたいとまでは思っていないのだ。

 勝手に都合良く差し出された救いの手は、新入生たちが知らぬうちに引っ込められたのだった。

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