55話 極楽天福良24
山賊王のアジト。どこかにあるアジトへの出入り口を作成するスキルと説明にはあった。
この説明を鵜呑みにするならアジト自体は能力で作り出されたものではなく、どこかに実在していることになる。ならばアジトから別の場所へ移動できるのではないか。
福良はそう考えてアジトの中を探索したが、他の出入り口は存在していなかった。換気用の穴や水路はあったのだが、人が通れる大きさではないし、その先がどうなっているのかはさっぱりわからない。あわよくば目的地の近くに出られればと思ったのだが、さすがにそこまで都合よくはいかないようだった。
「どことも知れなさすぎて不安すぎるんだが。俺のスキルだけど。つーかスキルってのがいまいちわからねーんだけど」
アジトの探索を追えた福良と諒太はテーブルにつき、向かい合っていた。
アジトの中でも特に広い部屋で、大勢の山賊たちがたむろするような場所なのかもしれなかった。
「そうですね。ここがどこかわからないと安全とは言いきれません。ですがこれからの旅にかなり有用だと思いますよ」
外の事が何もわからないのだから不安にはなるのは当たり前だが、福良はあまり心配していなかった。瘴気に満ちた魔界でどこからやってくるかわからない敵を警戒し続けるよりは遥かにましだからだ。
「トイレあるけど、出したもんはどこにいくんだ?」
「それを言い出すと換気ができているのもよくわかりませんし、細かいことは気にしなくてもいいんじゃないでしょうか?」
「えー? 何もかも納得しようとまでは思わねぇけど、ある程度のロジックは欲しいんだが」
「ですが、この二人で話し合ったところで答えが出るとは思えませんよ」
「だよなぁ。とりあえずはわかった範囲を共有しとくか」
「先ほども言いましたが出入り口は一つだけですね」
「で、中から外の様子はわからない。まずいよなぁ」
空間が隔絶しているのか、索敵系のスキルでも外の様子は一切わからなかった。
「賊のアジトですからね。普通は外に見張りを置くぐらいはするんじゃないでしょうか」
「今の所は入る瞬間を見られてないか気を付けるぐらいか。出るときは……勢いだな」
罠がしかけられていたら勢いよくかかりにいくことになるが、それを言っても仕方がないので福良は曖昧にうなずいた。
「トイレ、厨房、お風呂、個室なんかがありましたので不便はなさそうですね。よくわからない魔界を行くにあたってこれらが用意できるのはすこぶる都合がよいです」
「温泉湧いてるんだもんなぁ……あと気になったのは無茶苦茶違和感のある壁なんだが」
「私もおかしいと思いました」
諒太が言っているのは、やけに平滑な壁のことだろう。洞窟内なのでゴツゴツとした岩肌を活かした造りになっているのだが、ところどころに真っ平らな壁があったのだ。
「ゲームなら叩くと隠し通路が出てくるなんてのがありそうなんだが」
「特に何もなさそうでしたね。なんとなくですが拡張予定の場所なのではないでしょうか?」
「なるほど? スキルレベルを上げると部屋が増えるとかそんな感じか? そうなるとますます元々どこかにあったアジトって気がしないんだけど」
スキルの強化は2種類存在している。一つは熟練度。これは使い続けることでごくわずかずつ性能が向上していく。もうひとつがスキルレベル。これはスキルの取得画面で上位レベルのスキルを取得することで性能を劇的に向上させられるものだ。
「山賊王のアジトはコストが高すぎるからなぁ。これを強化していくと他のスキルが取れなくなるが……環境を重視するってのもなくはないけど……」
「現状、事足りていますので無駄にレベルを上げる必要はなさそうです。さて、当面の安全は確保できましたので今後のことについて考えていきましょうか」
これまでは落ち着ける環境ではなかったが、ここでなら納得がいくまで話し合うことが可能だろう。
「まず、なんかよくわからんが入学式の直後、よくわからん場所に移動しちまった」
「おそらくここは異世界で、他にも新入生がやってきています。全員来ている可能性がありますね」
「異世界……異世界なぁ。幽界やら狭間やらちょっとずれた世界があるってのは聞いたことあるんだが、ここはそーゆーのとは違う感じだよな」
「ちなみにそういった世界に迷いこんだ場合、外部から助ける方法はあるんですか?」
「ああ、神隠しを捜す専門の術者がいたはずだ。けど、それも行方不明になったとわかってないとどうしようもないしなぁ」
「一学期終了までは安否確認の方法がありませんので、助けがくるはずがないですね」
九法宮学園は山奥に存在する全寮制の学校で、敷地外への外出と学外との通信は禁止されていた。外部からは学園にいる生徒の様子を知りようがないのだ。
「今考えると連絡一切不可って怪しかったな」
「この方針は創立以来のものです。そうなると異世界送りを最初から意図していることになりますが、この状況が外部に広まっていないのはおかしな話ですね」
各種有名人を輩出し続ける名門校。それが九法宮学園の世間一般的な評価だ。後ろ暗い噂があれば広まっているはずだった。
「だよな。夏休みに生徒が帰ってこなけりゃ大騒ぎになる。けど、そんな話は聞いたことがない。それにお嬢が合格できたのもおかしな話にならないか? 上流の人間なら、極楽天がどれほど厄い存在かなんて誰でも知ってる」
「なるほど……学園の関与は確実と考えていましたが、そうとも言いきれないですね」
九法宮学園は上流階級や権力者と密接な繋がりがある。当然、極楽天の名を知っているはずであり、福良の常識で考えれば極楽天を敵に回す愚か者がいるとは思えないのだ。
「いや、学園の関与はあるだろ。イレギュラーな点はまた別の事情があるんじゃないか?」
「そうですね、そこは分けて考えた方がいいのかもしれません」
「何にしろ助けは期待できないんだけど、帰る方法なんてあるのか? 地図に印があるだけで確証はないんだろ?」
スマートフォンの地図を見ると、現在地から東側に星型のマークがあった。それだけの話でしかないので、もちろん福良にも確証はない。ただ、当面の目標としているだけだった。
「可能性は高いと思っています。直接帰還する方法でなくとも何かしらの手掛かりはあるのではないかと」
「まあ転移させてほったらかしってのはなさそうか。そこかしこに意図は感じるし、元の世界との関連が完全に切れてるようにも思えないしな」
「それよりもですね、諒太くんはこのままでいいんですか?」
「どういう意味だよ?」
「いえ、せっかく異世界にきたんだからやりたいこととかないのかなと。異世界万歳! 的な?」
「なんでだよ。お嬢は帰りたいんだろ? だったらつきあうまでだが」
「そこも気になる点ですね、私に付き従うのが当たり前と考えておられるようなんですが、この状況では自分のことを最優先にしてもおかしくないのでは?」
「そう言われてもこれが仕事だからな」
「もし、諒太くんがこの世界で好きにやりたいと言うのであれば咎めはしませんよ。私だけが帰還できた場合はそもそも出会いもしなかったと説明しますが」
「いや、そもそも俺洗脳されてんだよ。死んでも任務をやり遂げるように。だから他の選択肢なんてないわけだ」
「洗脳されている自覚があって、洗脳を解こうとも思わないようにも洗脳されている?」
「そういうわけだな。別に不満はねぇしそういう家に生まれついたんだと思ってるよ」
「そんな家庭だと言われるとなんとも言えませんね」
福良自身、極楽天という常識からかけ離れた一族に生を受けたことを特に疑問なく受け入れている。人の家庭のやり方に文句を言う筋合いもなかった。
「では、いざと言うときは弾よけにでも使わせてもらいますね」
「それはなんか釈然としねぇな!」
護衛の覚悟を決めている者を気遣うのも無粋だ。有効活用するのが礼儀であろうと福良は考えていた。




