51話 天堂龍太郎2
「純魔テンプレビルドを紹介するぜ! スタート直後のムーブは別で紹介してるから、今回はビルドの説明だけだぜ!」
「よくテンプレとかってあるけどさ。自分であれこれやるのがいいんじゃないの?」
「ゲームなら試行錯誤して楽しめばいいけど、これは一つ間違えば死んじまう現実の話なんだぜ! 安全側にふりまくるのが正解だと思うぜ!」
「あ、危険なのね。だったら安全策でいいんだけど」
「じゃあさくっと行くぜ。まあ序盤に取る魔法はどの構成でも変わりはないんだけどな。ほぼ選択の余地がないので、ビルドによる個性はこれらを取った後からだ。まずはマジックストレージ。荷物を大量に保管できる魔法だ。わかりやすく言うと猫型ロボットのアレだ! 特に解説の必要もないだろ。あったら絶対に便利だ」
「そんなのあるなら絶対取るわね」
「フィジカルブースト。身体能力が向上するバフだぜ。しかも人間の上限を超えてのパワーアップが可能だ!」
「……体格ステータスって……」
「これが魔力全振りでいい理由だぜ。ただ明示的に使用する必要があるし、有効時間があるからそこは気にする必要があるんだ」
「そうよね、さすがに何もかも上回るわけじゃないわよね」
「マジックアーマー。簡単に言えばバリアだな」
「HPもバリアみたいなもんじゃなかった?」
「そう。だから二重のバリアってことだぜ。むっちゃ頑丈になるんだ。これもバフの類だから有効時間には注意だぜ!」
「いくつもバフかけるみたいだけど、私バフの管理って苦手なのよね」
「そのあたりはうまいやりかたを別に紹介する。で、フォースフィールド。これもバリアみたいなもんだが、指定範囲をドーム状に覆う位置固定のバリアだな。休憩に使ったり、敵を閉じ込めたりとかそんな用途があるぜ」
「サバイバルもばっちりって感じね。もしかしてだけど水とか食料は……」
「あるぜ。クリエイトエナジーウォーター、栄養ドリンクを生成するんだ。味の方はお察しだが最低限の栄養補給はできるというものだぜ!」
「逆に何ができないの?」
「難しい質問なので次に行くぜ。マジックコンソール。これは便利機能だな。目の前に半透明のウィンドウが表示されてそこにいろんな情報が表示されるぜ。スマホの代替だな。スマホ片手に戦闘なんてやってらんねーだろ」
「スマホでできることはそれで出来るの?」
「ああ。ウィンドウをタッチしてもいいし、念じることでも操作できるぜ」
「圧倒的に有利じゃない。他のジョブが馬鹿みたいだわ」
「コンソールがないと使ってられねー魔法もあるからなぁ。というわけでオブジェクトサーチだ。これは周囲のオブジェクトの位置がわかるようになるぜ。コンソールウィンドウに表示した地図上にオブジェクトがマッピングされるんだ」
「……感覚ステータスって……」
「オブジェクトの指定にコツがいるけど、基本スキルの動体感知よりもいろんな物を探せるぜ! とにかく魔力全振りで、なんでも魔力で代替だ!」
「ジョブバランス考えてくれない?」
「リモートビューイング。指定座標の様子をコンソールウィンドウに表示できるぜ。座標はオブジェクトサーチで得られるから組み合わせて使うことが多い。視認が必要な魔法と組み合わせるのも効果大だぜ!」
「どういうこと?」
「たとえばファイアボールはオートエイム設定だと視界内のターゲットに自動的に当たるんだが、オブジェクトサーチとリモートビューイングを組み合わせると遠距離必中攻撃になるんだぜ!」
「それで視認したことになるってずるくない?」
「ずるいが? だから魔法使い一択なんだよ」
「他のジョブの立場は……」
「次はちょっと毛色が違ってエンチャントMPドレイン。エンチャントは武器に効果を付与する魔法で、MPドレインは攻撃した相手からMPを吸収するんだ。いくら魔法が便利で強力だって言ってもMPがないとどうしようもないからな。むちゃくちゃ重要なんだぜ!」
「武器ってもしかして……」
「序盤攻略で紹介したワンダリングブレイドとの組み合わせが強力だぜ! 壊れない剣にエンチャントドレインしてワンダリングブレイドで攻撃する。MPがもりもり回復するから魔法を使い放題なんだ!」
「いや……さすがにそれは……あ、でも敵がいないとどうしようもないよね?」
「そこらへんの木でも岩でも攻撃すりゃドレインできるぜ?」
「ふざけんなよ、おい」
「そういうもんなんだよ。むちゃくちゃ魔法使い優遇なんだ」
「やりたい放題すぎるわね」
「そしてかなり重要なのがマジックアシスタント。こいつは設定に応じて自動的に魔法を使ってくれる優れものなんだぜ!」
「はい?」
「つまり、攻撃を食らいそうになったらフィジカルブーストとマジックアーマーを自動発動! なんてことが可能なんだ。これだったらMPの無駄遣いが減るし、バフのかけ直しを考える必要もないぜ!」
「もう、言葉がないわ」
「攻撃魔法はワンダリングブレイドさえあればとりあえずはOKなんだが、屠龍の大剣に頼りっきりだと運用上問題があるので他の武器も使い捨て用に集めてくれ。そこら辺に武器を持った魔物の巣があるからレベル上げがてら回ってくれよな!」
「普通は飛ばした武器は壊れるのよね?」
「壊れる時にちょっとした爆発が起こるからそれはそれで役に立つんだぜ!」
「デメリットが行方不明だわ……」
*****
天堂龍太郎は仲間殺しによってレベルアップし、大量のスキルポイントを獲得した。
スキル選択の幅は増えたが何も知らなければ一見強そうなものを適当に選ぶだけになるだろう。だが、龍太郎には生まれ持った能力があった。
のんびりチャンネル。
脳裏に丸っこい生首があらわれて様々な事柄を動画で解説してくれるという能力だ。
龍太郎は動画で紹介された通りにスキルを取得していき、モンスター狩りを行って武器を溜め込んでいった。
順調ではあったのだが、少しばかり問題もでてきた。そこらのモンスターを倒したところで中々レベルがあがらないのだ。どうやらモンスターと学園の生徒では経験値にかなりの差があるらしい。
龍太郎は生徒を狩ることにした。すでに仲間は殺しているのだから今さら躊躇する理由はない。
龍太郎と同時にやってきた生徒が十人ほどはいたはずだ。死んでいないならまだ数人はこのあたりをうろうろとしているかもしれない。
オブジェクトサーチで制服を着た人間を捜してみると、森の中を歩いている三人組を発見できた。
リモートビューイングで確認すると、男一人に女二人だ。見覚えがあるような気もするので、やはり一緒にやってきた生徒だろう。
屠龍の大剣をストレージから取り出し、エンチャントMPドレインを付与し、リモートビューイングで視認したターゲットめがけて、ワンダリングブレイドで大剣を投擲する。この一連の流れはマジックアシスタントに登録された手順に従って自動的に行われた。龍太郎が操作したのは、投擲方向ぐらいのものだ。
龍太郎は上空めがけて大剣を放った。初手で木を切ってMPを回復する必要はないので気づかれにくい方がいいと思ってのことだ。
天高く飛び上がった大剣が獲物目がけて落ちていく。
まずは一人。やけに頑丈な女だとは思ったが、半ば以上切り裂いているので死んだはずだ。
そして、そこからが意外な展開になった。
攻撃が当たらないのだ。
屠龍の大剣と使い捨ての短剣を投擲し続けるも、悉く躱されてしまう。
「くそっ! どうなってんだよ。魔法は必中とか言ってなかったか?」
もう諦めて仕切り直すか。そうも思ったがここで逃せば二度と遭遇できないかもしれない。貴重な大量経験値を得る機会を失ってしまうかもしれないのだ。
龍太郎は、攻撃を続けながらLIVE動画を再生した。
これは生首の二人が適当に雑談をしているだけの動画だが、コメントを送ることでレスポンスを期待できる能力だった。
『天堂龍太郎 魔法が当たらないんだが』
脳裏にコメントを思い浮かべる。
だが、生首どもは反応しなかった。これは確実に情報を得られる能力ではないのだ。
『天堂龍太郎 ¥10000
魔法が当たらないんだが』
仕方がなく、投げ銭を行った。
反応が返ってきた。
*****
「天堂龍太郎、ありだぜ!」
「あ、ちなみになんだけど、この世界では日本円なんて意味ないから寿命をいただくわ」
「ま、ゆーても大した事はねーぜ。1万円稼ぐぐらいの時間て感じだ。数時間ってとこか?」
『天堂龍太郎 前から疑問だったんだが、お金とか寿命とか俺の能力のくせに必要なのか?』
「何にだって対価は必要だろう? それにちょっと誤解があるぜ。俺らはお前とは独立した存在だ。お前はどっか別の世界の動画にアクセスするって能力を持ってるだけなんだよ」
「で、魔法が当たらないって言ってるけど? そういえば魔法は必中って言ってなかった?」
「おいおい、常識で考えてくれよ。折れないシャーペンって言われて、ハンマーで叩いたら壊れた。なんて屁理屈いうやつはただの馬鹿だろ。普通は折れにくいんだな、ぐらいに思うはずだぜ?」
「えー……だったら最初から当たりやすいとか言っとけば……」
「なんでもかんでも留保して保険をかけて曖昧にしてりゃいいってもんでもないぜ! そーゆーもんなら言い切ったほうがわかりやすいだろ!」
「でも実際当たってないんだから説明はいると思うけど?」
「ざっくり説明すると2パターンあるんだ。まずは魔法で生み出した何かを飛ばすような場合。ファイアボールとかな。これはほぼ当たる。むっちゃ誘導するからな。躱してもUターンしてくるぐらいだぜ」
「ほぼってのは?」
「ギリギリで躱し続けるとかされるとそのうち魔法弾が消滅するので当たらない可能性もある。で、もう一つが既に存在してる何かを飛ばすような場合だ。剣とか岩とかそんなんだな。これは誘導が利きづらい。魔法での制御よりも物理的制約の方が大きいんだ。だから誘導っていってもちょっとコースが変わるぐらいで、外れればそのまま飛んでっちまう」
「ワンダリングブレイドは後者の方ね。でもファイアボールなら当たるんでしょ。そっち使ったら?」
「距離が離れすぎてて射程外だ。当てるならもっと近づかないと駄目なんだが……下手に近づくのはやばそうだな。こいつら戦い慣れしてねーか?」
「どうしても倒さなきゃならない敵ってわけでもないし諦めたら?」
「おいおい、そりゃはぐれメタルに攻撃が当たらないからって逃げ出すようなもんだぞ。大丈夫、やりようはあるんだぜ!」
「当てる方法があるの?」
「誘導性能をあげるのは難しい。だったら避けられないぐらいの速度で攻撃すりゃいいんだ」
「それができるなら最初からやってるでしょ」
「今だからこそできる技がある。EXゲージ技がな!」
「なにそれ、格ゲーかなんか?」
「まあ概念としては似たようなもんだな。戦闘中、戦闘行動に伴って戦場にエネルギーが溜まっていくんだ。通常は攻撃ヒット時に消費されるものなんだが、お互いに攻撃が当たらない状況だとエネルギ-が飽和する。そのエネルギーを利用するのがEXゲージ技だ! ワンダリングブレイドのEXゲージ技は音速の3倍とかで飛んでって大爆発を起こすからまず避けられないぜ!」
「なんというのか、塩試合に無理矢理決着つけるシステムって感じね」
「どうしようもなかったら撤退すればいいだけだから、とりあえず撃ってみていいと思うぜ!」
*****
ゲージってなんだよと思いつつ龍太郎はコンソールウィンドウを確認した。画面下部にそれらしきバーがあり、タッチするとEXゲージ100%と表示された。
どうやらすでに溜まりきっているらしいが、こんなもの説明されなければ何のことやらわからないだろう。
マジックアシスタントに任せればEXゲージ技が勝手に発動するかと思ったが、決め技の類いは自分で明示的に発動しなくてはならないらしい。
アシスタントの指示に従い龍太郎は片手を天へ掲げた。
戻ってきた屠龍の大剣が上空で待機し赤黒いオーラを纏い始める。EXゲージ技は瞬時に発動できるわけではなく、特定の所作とチャージ時間が必要なのだ。発動条件が揃ったとしても気軽には発動できないし、タイミングを見計らう必要があるだろう。実際、近接戦闘中に暢気に決めポーズでチャージしている余裕はないはずだ。
大剣が赤く輝き、小刻みに震えている。発動に必要なエネルギーは十分にたまったようで、後はターゲットを設定して手を振り下ろすだけだ。その瞬間に決着はつくだろう。
リモートビューイングで様子を確認した。女は木々が倒れて開けた場所にいる。男は少し離れた場所で木々に潜むようにしていた。
どちらを狙ったとしてもまとめて倒せるはずだ。音速を超える物体が衝突したなら一帯を殲滅できるだろう。とはいえ、ターゲットは選択しなくてはならない。
龍太郎は女をロックオンした。大差はなさそうだが、それでも弱そうな方を選んだのだ。
「何の恨みもねーけど、経験値になってくれよな!」
手を振り下ろす。
そして、龍太郎の意識が途切れた。
*****
意識を取り戻した龍太郎は見当識を失っていた。
いつどこで何をしていたのかわからなくなっていたのだ。
状況を確認しようにも視界が霞んでいるし、耳元では甲高い音が鳴り響き続けている。朦朧としていて思考がままならない。
ぼんやりとした視界の中、やけに地面が近いことに気づいた。どうやら倒れていて、上体がどこかにもたれかかっているらしい。
何がどうなっているのか。
ゆっくりと視界が晴れていくと、視界の中央で邪魔になっていたのが剣であることに気づいた。
屠龍の大剣。それが自分の胸に突き立っているのだ。
――はぁ?
声を上げようとして、それもままならないことに気づく。
抜かなければ。咄嗟にそう思ったが、手が動かないことにも気づいた。視野の端にだらしなく垂れているのが腕のはずだが、それは関節がどこかわからないぐらいに折れ曲がっていた。先端にぐちゃぐちゃになった指が付いているので、やはりそれは腕らしい。
そして、手足の感覚がまるでないことにも気づいた。
見えている以外の部分がどうなっているのか。考えたくもないが、想像は簡単にできた。
『助けて! 助けろよ! どうにかしろよ!』
懇願した。普通なら無意味な行いだが、龍太郎の場合には意味があった。
「さすがにこの状況で無視すんのはちょっと可哀想かなぁと思ったからレスしてやるぜ!」
「状況ぐらいは教えてあげてもいいんじゃない?」
「ワンダリングブレイドをジャストガードで跳ね返された。で、運がいいのか悪いのか、フィジカルブーストとマジックアーマーが自動発動してどうにか防御しようとしちまったんだよな。普通ならソニックブームやら爆発やらで消し飛んで即死してるところなんだが、どうにかこうにか耐えちまってギリ生きてるみたいな状態なんだよ」
声が聞こえてきた。もう動画と現実の境が曖昧になっていて、目の前に生首が浮いている気がしていた。
『どうしたらいい!? なにか助かる方法があるんだろ!』
「ない。HPが0になっちまったからな。全てのシステムが無効になってるので本当にどうしようもない」
「動画再生なんていうくだらない超能力じゃなかったらまだ何かあったかもだけど……」
「えーと……そうだな! 走馬灯を流してやるよ!」
「そ、そうね! この能力なら完璧な走馬灯の再現が可能だから!」
自分の身体が溶け崩れていくのが見えていた。HPが0になり、瘴気を防げなくなっているのだ。
だが、そんな見たくもない光景は、子供の頃の思い出によって塗りつぶされていった。
死の直前の恐怖から目をそらすことができる。それだけは救いかもしれなかった。