第49話 二宮諒太7
諒太は、駆けながらベルトから剣を引き抜いた。
ちらりと上空を見る。福良が投げた小石が跳んでいるはずだが視認はできなかった。
――七秒って言ったか。どんな強肩だよ。
信じがたい話ではあるが、だからといって疑っている場合ではない。
道を直進し、右へと曲がる。その先にも分岐はないので、敵はその先にいるはずだ。
四人。
諒太を見て薄汚い男たちが顔色を変えた。
まだ距離があるがそれぞれが武器を構える。剣、槍、ハンマー、弓。矢は即座に番えられ、発射されようとしていた。
――あれぐらいなら避けられるか。
まず弓から排除する。矢を躱しつつ近づけばいいと考え、そして四人の男の頭部が爆ぜた。
「はぁ?」
急停止し、様子を見る。
首から上が無惨なことになっていた。全員もれなく頭頂部が消し飛んでいるので、いくら異世界人の生態が定かではないとはいえ死んでいるとしか思えなかった。
「あ、全員クリティカルでしたね」
福良と綾香がやってきた。
「クリティカルって会心の一撃とかのあれか?」
「はい。クリティカル発生時に爆発が起こるというスキルを持っていまして」
ブラッディパーティ。本来はクリティカルのおまけ程度の能力だろうし、そう易々と発生することを想定した仕様ではないだろう。だが、福良の豪運であれば四連続クリティカルもありえるのかと諒太は素直に納得していた。
「一応確認しとくんだが、殺しちまって問題ないのか?」
「露悪的に開き直るつもりはないのですが、このあたりではそれが常識らしいです。囚人のジレンマで相手が確定で裏切るような状況ですね。こちらも裏切る以外の選択肢がありません」
福良は平然と言ってのけた。
この程度のことを気にしないだろうとは諒太も思っていたので、さほどの驚きはなかった。
「俺はお嬢を守るためならなんでもやるわけだから別にいいんだが、篠崎はどうなんだ?」
「自分の身を守るためなんだから当然の対応よね」
「なんつーのか……守りがいのない奴らだよな……」
二人はこの大惨事を目の前にしても平然としていて可愛げが全くなかった。
「わずかでも罪悪感を覚えてるのは俺だけか?」
「郷に入っては郷に従えといいますし」
「くそっ。そういうもんだと思うしかねぇのか。で、こいつらこのあたりに住んでる奴ら? なんでこんなとこうろうろしてんだよ」
八つ当たりだった。
近隣に住んでいればこの森が危険なことぐらいはわかっているだろう。なのにわざわざやってくるというのが諒太にはいまいち理解できず腹立たしかったのだ。
「こんなところにやってくるのは教会にいいように扱われているからです。街の周囲は荒野でしたよね?」
「ああ、マジでなんもなかったな」
「あのあたりには人間以外の生き物は存在していません。そうなると食料に困りますよね?」
「ああ、食い物取りに来てるのか?」
「はい。そしてそれらを教会に献上して、功績に応じて得られるポイントで食料を得ているんです」
「ん? そのまま食えばいいんじゃねーの?」
「魔界産の食材はそのままでは食べられないらしいんですよ。教会での加工が必要とのことで」
「そんで命がけでやってきてこんな目にあうのかよ。やってらんねーな」
「異世界の事情ですからそういうものだと思うしかないですね」
すぐに順応できている福良がおかしい。諒太はそう思うことにした。
「もうちょっと安全そうなとこに移動しようぜ、一本道だとどうしようもないだろ」
「そうですね。道に分岐があれば避けようもありますし」
とはいえ、地図で見る限りではしばらくは道がまっすぐ続いているだけだった。
「どっちだ?」
「このまま進みましょう」
護衛としては情けない限りだが、どちらへ進むかといった問題では福良の運に頼ってしまったほうがいいと諒太は判断した。
「俺が先頭でいいな?」
「縦列に意味ある?」
「言われてみりゃぁ、横を警戒した方がいいのか?」
なんとなく護衛は前にいるべきだと思っていたが、それでは福良の様子がわからない。結局、横並びで歩くことになった。左から諒太、福良、綾香の順番だ。
死体の側を通り抜け、しばらく進むと十字路があった。地図で確認できる範囲ではそれぞれに道が延びている。このあたりなら遭遇戦は避けられそうだ。
「落ち着いて話しもしてられねーよな」
「ゲームでいうならフィールド上ですからね。仕方がありませ――」
福良が体勢を崩し、前のめりに倒れた。少しばかり焦ったが、どうやら窪みに足を取られたようだ。道ということになってはいるが、舗装されているわけではなく荒れ放題の状態だ。ぼんやりしていればそうなることもあるだろう。
「足元気を付けろよ」
諒太は立ち止まり、福良に手を差し出した。
「いえ、十分気を付けていたつもりなんですが」
福良を引き起こす。その間にも諒太は周囲に気を配っていた。もし福良を狙っている者がいるなら、動きを止めている今が好機だろうからだ。
道の前後には何もいないし、周囲の森の様子にも変化はない。だが、油断はできないし何かあればすぐに反応しようと心構えだけはしていた。
なのに、事が起こるまで諒太には何もわからなかった。
ゴギン。
鈍い金属音が、こんな場所で聞こえるはずのない音が聞こえた。
福良を注視しながら、音の発生源を見る。
巨大な剣が、少し先に行った綾香を切り裂いていた。
右の肩口から入ったそれは、胴体中央にまで達しているのだ。それを振るったであろう者の姿はない。大剣だけが単独でそこに存在していた。
「篠崎!」
叫びつつも駆け寄ることはしなかった。諒太は福良の護衛なのだ。彼女を見捨てることになっても、福良を守り続ける義務がある。
「……気を付けて。これ、まだ動こうと……」
大剣が動いた。
ずるりと、見えない手で引きぬかれるように綾香から離れ、ふわりと空へ飛んでいく。綾香は倒れ、動かなくなった。
諒太は、福良がしたような遠距離投擲攻撃だろうと思っていた。森を越えて放物線を描いて飛んできたのだと。だが、今の様子からすると勝手に動いて飛んでいるように見えた。
「何かの力で自在に動く剣だとして、全員を攻撃するつもりならそのまま襲ってくればよかったと思うんですが」
立ち上がった福良が訊いた。
「一度止まると威力がないんじゃないか?」
「そうすると勢いをつけて戻ってくるかもしれませんね」
「森に入るぞ」
道を外れれば魔物が襲ってくる。
だが、認識できない速度で飛んでくる大剣の脅威に比べれば些細なことでしかなかった。




