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2話 田中良子1

 九法宮学園は難関であり、名門であると広く知られていた。

 卒業生には数多の有名人がおり、入学できただけでその後の人生が約束されるとまで言われている。

 そんな憧れの学園に田中良子は無事入学することができたのだが、入学式を終えた彼女は混乱の極みにあった。

 講堂を出て校舎に向かおうとしたら、なぜか森の中で一人きりになっているのだ。

 何かの間違いかと何度も見回したが、周囲はどこまでも森でしかなかった。


「夢……なの?」


 彼女にはそうとしか考えられなかった。他に解釈のしようがなかったのだ。

 そうなると、九法宮学園に入学できたことが夢だったようにも思えてきた。

 良子ごときに入学できるわけがないと言われたら、そういうものかと納得してしまえるのだ。


「夢なら……早く覚めてよ……」


 入学式の前日に見ている夢であってほしいと願いながら、良子は頬をつねった。

 十分に痛かったが目覚めることはなく、あたりは森のままだ。

 一体どうすればいいのか。呆然としていたが、腰ポケットが震えていることに気づき、学園から支給されたスマートフォンを持っていることを思い出した。

 学園には私物のスマートフォンを持ち込むことができず、支給された端末を使うことになっていたのだ。

 もしかすれば電話をかけて助けを求めることができるかもしれない。

 良子は慌ててスマートフォンを取り出した。


『九法宮学園へようこそ』

『ステータスを設定してください』


「なんなのよ!」


 電話を使おうとしただけなのに、よくわからない画面が出てきて操作することができない。

 テレビゲームに詳しくない良子には、その画面が何かよくわからなかったのだ。

 この設定をしなければスマートフォンが使えるようにならないようだが、どうすればいいのかがわからない。

 四苦八苦していると、何かが足元を通り過ぎた。

 良子は、尻餅をついていた。

 足首に違和感を覚え、確認する。足首から先がなかった。足がおさまったままの靴は、何事もなかったかのように、少し先の地面にあるのだ。

 やっぱりこれは夢なんだ。だって、こんなことになっているのに何も痛くない。

 そう思い込もうとした良子の目の前に、緑色の人に似た生き物が立っていた。

 子供のような大きさのそれは逆三角形型の頭部をしていて、手には血に染まった長大な爪を備えている。

 その様を見て、ようやく良子の感覚が現実と一致した。

 斬られた。

 そう認識した瞬間、良子は激痛に襲われた。

 

「うわあぁあああああああああああ!」


 絶叫し、転げ回る。

 斬られた。足が。襲われた。痛い。化物。

 思考は混乱するが、とにかく逃げなければならないことだけはわかる。

 良子は、手で地面を掻いてどうにかその生き物から距離を取ろうとした。

 手首から先が、なくなっていた。


「たすけ……助けて……」


 蹴られた良子は仰向けになった。

 緑色の怪物が、すぐ目の前にいた。

 やはり、人の類いではない。目玉は大きく頭部の左右についていて、顎は左右に分かれている。その人間離れした顔から表情を読み取ることはできないが、良子にはそれが何を考えているのかが手に取るようにわかっていた。

 それは楽しんでいるのだ。

 それがその気になれば、良子を殺すなど簡単なことだろう。しかしそうはしない。

 甚振って、弄んでいる。できるだけ長く、良子で遊ぼうとしている。

 怪物が爪を振り下ろし、良子の服が切り裂かれた。

 同時に皮膚も裂け激痛が走ったが、それで死にはしなかった。

 内臓が露出しようと、飛び出そうと、即座に死ぬわけではないのだ。

 良子の絶望は、まだ始まったばかりだった。

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