【番外編】節分の復讐! 魔王(推し)に豆を投げつけたら、美味しく完食されました
「今年もついにこの日が来たね。」
私が部屋に入ってくるとシルビオ様がソファから立ち上がった。
そう今日は節分。この一年に私が受けた雪辱を果たす一日だ。
ちなみにシルビオ様には彼の身のうちにいる魔王を払う儀式として説明してある。
転生者サトウの日記にある節分の記述にも近かったのですんなり受け入れられた。
ふふふ。つまりは堂々と豆をぶつけられる日なのですよ。
「シルビオ様、ご覚悟はよろしいですか?」
にんまり笑いが止まらない。
いつも振り回される私にとって、煎り豆を気兼ねなく思いっきりぶつけるというこの行為、最高だわ。
「マーガレット、思いっきり頼む。」
今日もシルビオ様は悔しいほどに爽やかだ。豆の入った枡を持つ手が震える。
「では、この魔王の仮面をお被りくださいませ。」
いくら普段虐げられているとはいえ、推しの端正な顔にはとても豆をぶつけられないわ。
「ああ、いつもすまない。」
ええ、悪いのはその綺麗な外見じゃない。シルビオ様の内面、魔王のような性格の悪さよ。
あなたの本質を現したこの魔王の仮面をお被りなさい。
「では行きますわよ。魔王は外ー。魔王は外ー。福は内。福は内。」
渾身の力で豆をぶつける、この一年の恨みを込めて。シルビオ様め、よくも私のスルメを。
食べ物の恨みはらさずにおくべきか。
シルビオ様が少しでも性格が良くなりますようにお多福様お入りくださいませ。
ボリボリ
ん?
「マーガレット。やはり、この豆というものは香ばしくてうまいな。今年は特に。」
くっそう魔王め。今年こそはと今朝早くから豆の強度を増そうと煎りに煎ってきたというのに。
これすらもやつの強欲な胃袋を満たすのか。
「シルビオ様、豆は年齢+一個までと決まっておりましてよ。」
私は悔しまぎれに叫んだのだった。
「そうだ、マーガレット。先日ノックス商会の会頭に聞いたのだが、恵方巻というものがあるとか?」
シルビオ様の瞳がギラリと獰猛に光る。ああ、私の恵方巻ちゃんよ。さようなら。
来る途中の屋台で買ったグロテスクな恵方巻を差し出した。
「こ、これは。」
海苔代わりの人間の皮膚のような肌色の何かに包まれた赤く着色された寿司飯。
新鮮すぎる具材が断末魔の叫びよろしくビチビチともがいている。
「恵方巻ですが、このようなグロテスクなものシルビオ様にはとても……。」
はっきり言ってこれを買うのはさすがの私といえども勇気がいった。
しかし去年の節分の帰り、シルビオ様に豆をぶつけてやった興奮のままにずっと気になっていた恵方巻を買ったのだ。
ウネウネと蠢くその物体を恐る恐る口に入れた瞬間私は無になった。
その時、今まで買わなかった事をどれほど後悔したことか。
「マーガレット、気にするな貰おう。」
今年はなくなる前にと、全種類を購入したというのに。
「シルビオ様、どれか一本だけですわよ。」
この食いしん坊にしっかりと釘を刺しておかないと私の恵方巻きちゃんが。
「わかっているマーガレット、お前はどれがいいんだ?」
「これですわね。」
一際豪華な恵方巻きを指差す。たくさんの海鮮達が蠢いている。これはすごく高かったんだぞ。
「ならば、これからいただこう。」
さっさとパッケージに書かれていた恵方を向いたシルビオ様は私の大切な恵方巻きを次々に胃袋に収めていたのだった。
魔王め、まだ退散していなかったのか。
だが、グロテスクな恵方巻を食べるシルビオ様も世紀末の魔王のようで格好良い。
くっそう、私の推しめ。格好良いぞ。
慌てて残っていた恵方巻きを口に入れた。神様、シルビオ様の性格が良くなりますように。
そして、また来年も一緒にいられますように。




