第1章 ⑦
◇
次の日がやってきた。
昨日荷解きを手伝っていたら華枝姉さんが帰ってきて、僕の取り合いで口喧嘩を始めてしまったので、そそくさと退場して自分の部屋に籠もった。
ちなみに、姉妹の口喧嘩に関しては、ほぼ日常的に行われている。
外はまだ若干肌寒さを残しているが、日は出ているので、アウターは必要ないだろう。
学ランが好きなので、なるべく上に何かを羽織りたくはない。
学ランは男子であることを確固として証明してくれるから。
まあ、女性が学ラン着てると普通は思われるけど、そこはスルーの方向で。
通学路を歩いていると、見慣れた集団が遠くにいることが確認出来る。
これは、昨日のデジャビュ早速到来か? と嫌な予感がしたが、近づくに連れてケンタ君が僕から目を逸らすように歩いてくるのが分かる。 他の手下スタンスな二人も同様である。殿を務めるユウキ君はそんな三人を見ながら、心なしか頬笑んでいるように見えた。
最初は横道に逃げる事も視野に入れていたが、その変化を目の当たりにすると、逆に近づきたい気持ちに駆られていく。
徐々に距離が近づく。
このままでは横を素通りして終わりになるが、ケンタ君の方から視線を逸らしながら話しかけてきた。
「あの・・・・・・」
いつもの元気が萎れてどこか弱々しい声を出している。
気まずそうにして、声をかけてきた今でも顔をこちらに向けてくれないので、表情が見えない。
「どうかしたの?」
僕はその急激な態度の変化にキョトンとしながら、ケンタ君に聞いた。
「・・・・・・いままで、・・・・・・なさい」
「えっ?」
今のは意地悪とかじゃなくて、本当に聞き取る事が出来なかった。
「ごめん。もう一回お願いしてもいいかな?」
その、調子外れな態度に限界に来たのか、
「だから! いままでごめんなさい!!」
あくまで僕とは顔を合わせず、地面を見ながら叫ぶように謝罪してきた。
言い切ってようやく僕の顔を見る。
それはまるで、羞恥を耐え抜いた少年の顔だった。
目をキリッと鋭くして、睨むように僕を見てくる。
彼が何故、僕に謝る態度を見せたのか。それは・・・・・・あくまで僕の予想に過ぎないけど、
ケンタ君が、ユウキ君の秘密に気が付いている可能性がある。
僕は、怒りを乗せるケンタ君に微笑みを返した。
「うん。分かったよ」
元々僕はそこまで怒ってもいないし、もう何度も言われている事だから。
「じゃ、じゃあ。そういう事だから・・・・・・。いくぞ、お前ら!」
ケンタ君は顔を伏せながら、逃げるように僕の側から離れて行ってしまった。
手下な二人は待ってよと言いながらその後を追う。
遅れるようにユウキ君はやってきた。
「あの・・・・・・昨日は、ありがとうございました」
「うん。まあ、色々頑張ってね」
「はい。では、僕も失礼いたします」
ランドセルの肩紐を持ちながら、三人に置いて行かれないように小走りをするユウキ君。
再会して話をするのは、また暫くになりそうだ。