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美男少女と可憐少年  作者: 薔薇百合深呼吸
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第1章 ③


 ◇

 仕方ないと、諦観しながら高校に向かう。 

 その間に少し僕の事を話しておこう思う。

 冒頭でも出たけど、僕の名前は(ひめ)()()(おる)。 

 名前だけ聞くと女の子にしか聞こえないけど、僕はれっきとした男性である。 

 男性でありながら何故女の子な名前なのかと聞かれれば、名付け親である父親にしか分からない。 

 聞いた事もないし、聞きたくとも思わない。

 その父親の仕事の影響で、僕は中学を卒業したと同時に少し遠い地へ引っ越しをした。

 そのせいもあって土地勘がなく、周囲の散歩を行いながら、僕が通う高校の下見を行っていた。 

 その時にケンタ君を筆頭とする小学生集団に絡まれた。

 ケンタ君や先ほどの不良とのやりとりを見て貰ったなら、説明する必要がないのかもだけど、僕の顔は、異性そのものである。

 幼稚園の時は白雪姫をやらされても、感じるものはなかった。 

 けど、小学校に上がるにつれて、顔の変化が如実に表れるようになり、普段着だったので当たり前のように女子として間違われる日々を送ってきた。

 僕はモテていた。だけど、それは主に男子に——だけど。

 校舎裏や人気がない時の階段の踊り場、屋上など、至るところに手紙などで呼び出しをされては告白を受けた。 

 断る度に僕は男であると言っているのだが、それでも諦めない輩は数人いたりする。 

 外国に行けばそんなの関係ないだとか、女子より可愛いからだとか、シュレディンガーの猫と一緒で蓋を開けるまでは男か女か分からない論まで出してきた輩もいたりした。

 そんなこんなで中学生になり、学ランになった。これで少しは男としての自分になれると思っていたのだが、そう甘いものではなかった。

 何故か学ランを着るかセーラー服を着るかが自由な校則があった。なんだそりゃ。

 そのせいで、僕は女で、学ランを着て登校していると思っている輩がいたりして、結果、小学生の頃ほどではないが、告白を受けた。

 後は女子に同性の仲間意識のようなものを持たれて、裁縫部に入部していた。

 本当は柔道とかやろうと思っていたけど見学の時点で心半分折れていたし、せっかく誘っていただいたのに無碍にも出来ないと、体験感覚で裁縫を始めた。 

 けど、なんだかんだで三年が経過しており、自分で小物やらなんやらを作成出来るくらいにはなっていた。

 そして、今日。 

 少し離れた地に住む事や、高校への第一歩目ということもあり、過去は過去だと自分に言い聞かせて前へ向かうつもりでいたが、ごらんの有様であり、前途多難な人生が降りかかってくる事になるだろう。 

 でも、助けてくれた人もいたし、きっとなんとかなる。僕はそう信じてみることにした。

 そうこう語っているうちに私立紀(きの)(まつ)高校に到着した。                                    

 校門には竹刀を持った体育教師が立っており、姿勢を低くしながら近づく。  

 当然、何故遅刻したのか問われたが、道中迷いましたと適当な理由をつけた。 

 新入生ということもあり見逃して貰えたので、体育教師の横をささっとすり抜けた。

 当然の事ながら昇降口の周りには誰もおらず、1人でクラス表を確認して、教室へと向かう。

 ここで、ふいに緊張感が襲ってきた。

 そういえば、この状況よくよく考えればまずくないかな?

 今教室にいけば、奇異な者を見る視線が一点に集約されて、耐えきれずに吐いてしまうかもしれない。

 ここは今入らないで、入学式の時にそれとなく一番後ろにいる選択も出来る。 

 などと思考を巡らせている間にも、教室の真ん前についてしまった。    既に先生が説明を始めているようで、とても入れるような空気ではなくなってきた。 

 どうしよう・・・・・・。 

 胃が痛くなってきた。

 と、ここで立ち往生していたら、

「おい」

 と、不意に後ろから声を当てられて、反射的にそちらへ視線を注いだ。

 瞳孔ががっと開くのが分かる。 

 そこにいるのは、先ほど僕を不良から助けてくれた彼女だった。

 相変わらずの厳しめな双眸に、けだるそうな表情を貼り付けている。キャンディーとか口に含めば似合いそう。

「え、ええと・・・・・・」

 何を言えばいいのか分からず、銅像のように硬直してしまう僕。

「何やってるんだ? さっさと入れよ」

 彼女の辞書には、緊張とか空気を読むなどのワードはないのだろうか? 僕はたじろぎながら、今はちょっと入りづらくないですか? と聞いたが、

 がらがらがらがら———。

 質問に答えず扉を開いてしまった。 

 僕はあばばばばと胸が張り裂けそうになりながら教室内を見る。

 突拍子もなく開いた方角へ、皆が視線を向けてきょとんなる。 

 教卓の前にいた先生も当然同じ反応だ。

 先生は一瞬あたふたとしたが、手元の名簿を確認しながら呼吸を整えて、努めて冷静に対応する。

「え、ええと。(こおり)(だか)(なぎ)さんと、(ひめ)()()(おる)くんでお間違いないかな?」

 郡鷹さんかと確認された彼女は首肯し、僕はそれを真似する。

 先生は胸を撫で下ろしながらほっと一息吐いた。

「良かったです。来ないから心配してました。でも来てくれたから安心しました。今入学式に関する説明を行っていますので、席について下さい。郡鷹さんはあちら、姫乃君はそちらの席になります」

 彼女は、郡鷹さんは、もう一度首肯すると、自分の席へと向かっていく。 

 僕も「ありがとうございます」と一言零して首肯し、席についた。 

 遅刻した事に関するお咎めはないようで良かった。

 一瞬心臓が爆発しそうになったけど、今はなんとかなったと胸を撫で下ろしながら、どくんどくんと今だに脈打つ心臓を、正常動作に戻そうと努めた。

 

 ◇

 入学式を無事に迎えられて、今は本当にほっとしている。

 もし、郡鷹さんの救出劇がなければ、今頃あのゲスい不良に陵辱されていたかもしれないからだ。あの時の恐怖を思い出すだけで、息が詰まりそうだ。

 壇上に立つ校長先生の話を聞きながら、視界の端で郡鷹さんを見ている。

 相変わらずのきつい表情で壇上を見つめ、少しも揺れる気配がない。まるでそこだけ時間が止まっているかのようだ。

 郡鷹さんは今何を考えているのだろうか? 少し考えて見たけど全くもって分からない。 

 ポーカーをやったら負ける自身があるくらいに。

 結局、先生方や先輩のありがたい言葉にあまり耳を傾けず、視界の端で郡鷹さんを見続けた。 

 結局、彼女の時間が動くことはなかった——。

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