第8話 不器用
薬草採取は、学園から少し離れた森の中で実施されている。生徒たちは、五人以上の班を組み、広範囲に散らばることなく、採取にいそしんでいた。
クラリスお嬢さまは、この実習が気に入ったようで、率先して森の中を動き回り、何やら懸命に集めている。
「これは、中々の一品でござる」
「なな、何が、中々の一品でござるですかっ! 薬草を探して下さいっ!」
メアリーの大声。
「まあまあ、メアリーさん、落ち着いて下さい」
森で合流したアレンがたしなめる。
「まあまあ、じゃありません。アレンさんからもちゃんと言って下さい!」
キッとなって、メアリーは、アレンへ振り返る。
アレンが手に持っている物を見て、
「もうっ! アレンさんまでっ!」
と言い、ワナワナと肩を震わしはじめた。
「おお、アレン殿の太くて丁度良さそうでござる。それがしに、おぬしのを握らせて下され」
「そういう言い回しで、握らないで下さいっ!」
メアリーは、アレンから枝を取り上げて、ピシッとクラリスお嬢さまの頭にツッコミを入れた。
「なぜでござる? どの言い回しでござるか?」
クラリスお嬢さまは、涙目で頭を抱えながら、はてなマークを連発させている。
「なな、なっ! と、とと、殿方の物を、ふっ、ふふっ、太くて硬いとかいう、言い回しですよっっ!」
メアリーは、顔をボンと爆発させて、キャーとなって言い切った。
「硬いとか言ってないでござるよ。そうでごさるな、アレン殿」
「いっ、お嬢さまは、おっしゃってません」
ここに来て、アレンは、顔を赤くして、クラリスお嬢さまから顔を背けるようにして目をそらした。
「メアリー殿は、なにが硬いとダメなのでござるか?」
クラリスお嬢さまは、未だ、思いいたらない様子。
「だ、ダメじゃないですぅ! えっ、えっ、ちがいます! もう、放っておいてくださいっっ!」
メアリーは、沸騰したやかんのようになって、座り込んでしまった。
男性の声。
「クラリス様もそこまでに、されて下さい」
「おぬしは、なに奴でごさるか?」
「剣聖アルフレッド様です」
金髪の女生徒が代わりに答えた。
彼女との自己紹介はすでに終わっている。その際、剣聖アルフレッドも女生徒に帯同していたのだが……。クラリスお嬢さまとメアリーは、彼を空気として扱っていた。
「ソフィー殿は、良いでござるが、おぬしの随伴を許可した覚えはないでござるよ」
クラリスお嬢さまは、枝をブンブンと振り回す。どうも生粋のお嬢さま本能も、剣聖アルフレッドと対する時は、大いに手を抜くらしい。
「そんな、じゃけんにされないで下さい。それに、これをどうぞ」
剣聖アルフレッドは、今しがた見つけた枝を、クラリスお嬢さまに見せた。
「おおっ、これはっ! おぬしのも、なかなかに太いでござるっ!」
クラリスお嬢さまは、目を輝かせ、座り込んだメアリーは、耳をふさぎ、キャーッと頭から蒸気を噴き出した。
少し離れた木の影から、クラリスお嬢さまたちの様子をうかがう男子生徒たちと、黒いフードを深く被った二人がいた。
「騒がしい奴らだ。それに、剣聖の奴、やっぱり、グルだったんだ……」
負の感情が詰まった声色の主は、クラリスお嬢さまに決闘で敗れたカルロス卿だった。
「カルロス様、そろそろ、お約束を……」
中庭でクラリスお嬢さまに泥団子を投げつけた二人の男子生徒、その片割れだ。もちろん、もう一人の方も、この場にいる。
「そんなに、慌てなくても、これからが面白いんだ。なんだ? その顔は……、報酬が欲しいのか、卑しい奴め」
カルロス卿が皮袋を投げる。地面に小金貨が散らばった。
「これで、妹たちの腹がふくれる、母さんの病気だって……」
二人の男子生徒が土で汚れた小金貨を、地べたを這いずり、必死に集める。
カルロス卿と黒フードたちは、その様子を、蔑むように見ている。
「そんな小銭で必死になるとは、これだから平民は卑しいのだ。だから、お前らの所は、税が滞る」
カルロス卿が唾を吐く。それが、地面の小金貨を汚した。
「どうした? そら、拾えよ」
「だいだい、この金だって、誰が……」
二人の男子生徒は、地面に這いずくばりながら、拳を強く握りしめる。
彼らの故郷は、とても貧しい。そして、そこは、レフテン公爵の領地であった。だから、レフテン公爵の嫡子、カルロス卿の言葉には逆らえない。
「なにが言いたい? 志の低い平民を使ってやってるんだ。ほら、感謝して、それを拾え」
カルロス卿は、もう一度、唾を吐く。また、別の小金貨が汚れた。
二人の男子生徒は、最初から王国を担うなどという、志は持っていない。彼らは思う、「ただ、飯が食いたいだけだ、志では、腹は膨らまない! それは、誰のせいだ!」と……。そして、カルロス卿を見上げる。
「おい、しつけてほしいのか? いや、たしか……、お前ら、妹がいたな、それを売った金で、見逃してやる」
男子生徒たちの顔から血の気が引いていく。
「申し訳ございません。そればっかりは、どうか、どうか、お許し下さい。この金は、もういりません。どうか、それで……」
一人の男子生徒が地面に頭をこすり付けて平伏した。
「兄ちゃん……」
その姿に、もう一方の男子生徒が、唇を噛みしめながら、戸惑う。
それを見た、最初に平伏した男子生徒が、戸惑っている方の頭を押さえつけた。
「こら、お前も、頭を下げろ!」
二人の男子生徒は、双子の兄弟だったのだ。
「ふんっ、最初から、そうすれば良いんだ。金はくれてやる。妹を売るのもなしだ。俺は、寛大だからな」
「お慈悲、ありがとうございます」
双子の兄弟は、しばらく平伏したのち、汚れた小金貨を拾い集めた。
「おい、そろそろ、頃合いじゃないか?」
カルロス卿が黒フード達に語りかける。
「はい、カルロス様、手はずは、すでに整っております」
黒フードは静かに答える。
「お前らも、早く、金を拾え、この見世物は凄いぞ。剣聖の化けの皮もついでに、はいでやる。そうそう、お前らもきっと気にいるぞ。だから、早く、済ませろ」
カルロス卿は、一通り語った後、木の影から、クラリスお嬢さま達を、ジッと見つめている。
クラリスお嬢さまたちは、先ほどの一件も忘れ、薬草採取へと移行していた。
剣聖アルフレッドが花を摘み、クラリスお嬢さまへと差し出している。
「さあ、クラリス様、受け取ってください、私の気持ちです」
真っ先に反応したのは、メアリー。
「薬草を摘んでくださいっ! ほんとっ、役に立ちませんねっ!」
やかん状態から復活した彼女の両手は、沢山の枝で塞がっている。クラリスお嬢さまがどうしても持ち帰るとうるさいからだ。
さて、剣聖は、この程度の妨害では、ひるまない。なにしろ彼は、王国最強の一角なのだ。
剣聖アルフレッドが、摘んだ花を、花束のようにしてクラリスお嬢さまへと、グイグイ差し出す。その時の彼の歯は、キラッと輝いていたかもしれない。
お嬢さまが彼の花束をペシッとはたく。
「それがしは、花に興味ないでござる」
剣聖はフワッとした余裕の笑み。さすが、大陸最強との呼び声が高い男は、メンタルも強い。
それを見たアレンが、小さな声で悲鳴をあげた。
「えっ、そうだったんですか……」
彼の手にも、また花束が……。
「そういうわけでもござらん」
クラリスお嬢さまが、満開の笑みで、アレンの花を、優しく受け取った。生粋のお嬢さま本能が、ここぞとばかりに今日一番の仕事をしたらしい。
「あらあら、まあ」と見ていたメアリーも、すぐに我を取り戻した。
「もう、アレンさんも、真面目にやってっ! 今は、剣聖の真似なんかしないで下さいっ! まだ、一本も薬草がないですよ!」
彼女もずっと探しているが、そうそう課題に出ているような貴重な薬草は見当たらない。
そんな中、金髪の女生徒ソフィーは、頑張っていた。
「はい、見つけました」
彼女が手に持つものこそ、薬草、しかも課題に出されている種類のものだった。
「ソフィーさん、お手柄です!」
メアリーは、飛び跳ねるように喜んだ。
ゾッとするような、雄叫びが森中に響く。
引率の教師たちが、生徒たちを集めるため、危険を知らせる合図の笛をしきりに鳴らす。
離れた場所から、生徒の悲鳴!
「皆さんはあちらへ、私は、様子を見に行きます」
剣聖アルフレッドが、悲鳴の方へ駆け出す。
「それがしも、行くでござる!」
クラリスお嬢さまたちが、剣聖の後を追いかけて行く。
現場は、酷いことになっていた。
異臭を放つ人間の群れ。
血の気のない青白い肌、赤く輝く目がとても印象的だ。それらは、目的もなく、フラフラと動く。その集団の身なりは様々、小さな女の子もいる。
だが、その不気味な容姿は、生徒たちを恐怖させるのに十分だった。
「うわぁー、化け物だ!」
「魔族だ! 魔族が攻めて来た!」
生徒たちが逃げまどう。
「皆、落ち着きなさい!」
剣聖アルフレッドが叫ぶ!
生徒たちが応える。
「クラリス様、助けて下さい!」
大陸最強との呼び声も、学園には、まだ響いてないらしい。
生徒たちは、声の方角に、クラリスお嬢さまの姿を見つけ、駆け寄ってくる。
だが、この程度の些事に、最強の男は動じない。
「あれらの正体は、分かりませんが、特に、害は無いように見えます」
冷静に、遅れて来たクラリスお嬢さまたちに状況を説明した。いや、さすがにダメージがあったようで、気をつけて聞けば、その声は、やや震えている。
「そうでごさったか……」
クラリスお嬢さまと、異臭を放つ青白い人間たちと目が合った。
離れた場所の木の影からカルロスは興奮していた。
「見たか! これからだ! これからだ!!」
「カルロス様、どういうことですか! あれは、いったい!」
双子の兄弟は、声を震わせている。彼らには、あの異臭を放つ青白い人間たちに見覚えがあった。
「なんで、妹たちが……、父さんや、母さん、村の人たちがなんで……」
兄弟の腰がくだけ、地面に膝をつく。
カルロス卿は心底、楽しそうだ。
「何をしている? しっかり見ろ! これからだ! なに、心配するな、今は、まだ死んでない、心臓が動いてないだけだ」
「なにを、おっしゃって……」
「なにを? そうか、説明してなかったな。あれらは、死の際には、心臓が動き出す。だから、小娘も、剣聖の奴も、無実の人間を殺すんだよ! そうだ、お前らも、あいつらを憎め、あいつらが、お前たちの家族を殺すんだ!」
カルロス卿は、大声で腹を抱え、笑いはじめた。
「狂ってる……」
兄弟は、泥団子を投げ付けるよう命じた理由を理解し、直ぐに、クラリスお嬢さまたちの方へ駆け出した。
カルロス卿は、それからもずっと笑っていた。
異臭を放つ人間たちは、クラリスお嬢さまを見つけると、一斉に動きはじめた。
ある者は、大地を這うように駆け、またある者は、身軽に木の幹を飛び移りながら迫ってくる。
狂気を帯びた赤い目が、ギラギラと輝く。
「あれ、ぜったい、害がありますよ! 嘘つき!」
メアリーが、抱えた枝を放り投げ、そのうち一本で、剣聖の頭をポカポカと叩く。
「そんな、さっきまでは……」
剣聖が剣をゆっくりと抜いた。
フラフラと目的もなく動いていた、異臭を放つ青白い人間たちはが、急に、凶暴な意志を持ったかのように動き出したのだ。
「仕方ないでござる……」
クラリスお嬢さまが、刀の柄に指をかける。
その時、人影が割ってはいる。
「待ってください! 斬らないでください
!!」
中庭で、クラリスお嬢さまに泥団子を投げ付けた男子生徒で、双子の兄弟が、お嬢さまの目の前に、飛び込んできた。
異臭を放つ青白い人間は、もう目の前。
金髪の女生徒、ソフィーが魔法を詠唱。
「災いを遠ざけよ! 光の壁!」
淡い光が、レースカーテンのようになり、クラリスお嬢さまたちの周囲に広がる。
「私の光魔法で、しばらくは大丈夫です」
枝を杖のようにして、ソフィーは、魔法を発動させている。
「なんてっ! 便利な娘! 枝を運んだ、私ってエライわっっ!」とメアリーは、思いながらも口には出さない。代わりに剣聖の頭を一発、ポカっと叩いておく。
「おぬしらは、次は、斬るといったはずでござる」
クラリスお嬢さまが、制服姿の兄弟を睨みつける。
「あれは、妹たちなんです。父さんや母さんもいる! みんな、知り合いなんだ! だから、だから」
「落ち着くでござる。ソフィー殿、もうしばらく、頑張れるでごさるか?」
「はい、クラリス様、大丈夫です」
最初の枝が、魔力に耐えきれず折れそうになったので、メアリーは「なんかこれって、焚き火にくべる枝みたいね」と思いながら二本目を渡す。
「ソフィー殿に感謝するでござる。さあ、事情を申すと良いでござる」
兄弟たちは、いきさつを語りはじめた。
「どうか、妹たちを、父さんや、母さん、みんなを助けて下さい」
クラリスお嬢さまの空気が変わる。
居合の構え「静」
この場が、クラリスを中心とした戦場へと変貌する。そして、彼女は、大将首の気配を感じる。
「クラリス様、どうか、どうか……」
兄弟たちは、彼女に思い留まるよう、何度も繰り返し、声をからす。
「次は、いかようにあろうと斬ると言ったはずでござる。それに、それがしは、不器用なゆえ、刀を振ることしか知らぬでござる」
クラリスは、「静」を解き、自然体になる。
皆が言葉を失う。
「ムラマサも、そういうて、哭くでござる」
クラリスが刀を鞘から抜く。鞘と刀が擦れる音が、ハッキリと響き渡る。刀身が姿を表す、余韻の金属音が強く哭いた。
妖刀ムラマサ、生に終止を与える刀。その刀が、クラリスの手元で鈍く輝く。
「それがしは、いくでござる」
クラリスが、ソフィーの結界の外へと飛び出す。
「そんな、なんで……」
兄弟たちが崩れる。
「泣くのは、まだ早いですよ」
アレンが、兄弟の肩へ手をおく。
「そうです! お嬢さまなら、悪いようにしません!」
メアリーも強くいう。
アレンも、メアリーも、クラリスお嬢さまを信じて疑わない。
しかし、金髪のソフィーは不思議そうにつぶやく。
「そうなんですか?」
「はい、次の枝」
そんな彼女に、メアリーは、三本目の枝をくべる。
アレンとメアリーの信頼通り、クラリスは、異臭を放つ人間たちのなかを駆け抜ける。
泥団子には、彼らを引きつけて狂暴化させる成分が仕込まれていた。
だから当然、クラリスは、彼らに殺意をもって襲われる。
誰もクラリスには、触れることができない。
剣聖アルフレッドは、彼女の体さばきに驚愕した。彼との決闘で見せた、クラリスの居合からは、想像できない疾さ。
クラリスお嬢さまは、剣が速いだけだと、剣聖アルフレッドは侮っていた。
クラリスに触れることは、なににもできない。
彼女は、息を切らすことなく、集団の中を駆け抜ける。
その無駄のない疾い動き。
「まるで舞い姫のようだ……」
剣聖のつぶやきを否定する者はいない。
クラリスは、彼らの視界から消えた。
「あらっ、もう、来ちゃったの?」
黒フードから、女性の声が聞こえる。
森深く、異臭を放つ青白い人間たちを振り切った、クラリスは、黒フードと対峙していた。
陽射しも届かない、薄暗い深い森。
お嬢さまと黒フードが一人、対峙していた。
黒フードは、クラリスが「静」で感じた大将首。
「おぬしには、悪いが、とりあえず斬ってみるでござる」
クラリスは、刀先を黒フードへと向けた。
「ふふふ、残念な、お嬢さんね。人の剣では、私は、殺せないのよ」
黒フードを外す。青白い肌の女性が姿を表す。
「私は、吸血鬼の眷属、不死の存在なのよ。だからほら」
彼女は、ナイフで首を切る。
「血が出ないでしょ」
「安心したでござる」
凍えるほど寒い笑み。
吸血鬼の眷属が死の恐怖を感じた。
不死が、死を思い出す。
それは、ありえない恐怖。
「安心したですって、私は、生死を司る存在、不死の力を持ってるのよ!」
それを振り払うように声を張り上げる。
「ますます、安心したでござる」
クラリスは、自然体で歩き出した。
体温を失ったはずの、冷たい吸血鬼の眷属が凍える。彼女の素早く動けるはずの身体が動かない。
「だから、私は不死の存在だって言ってるのよ!! そ、そう、分かったわ、こちらへ、いらっしゃい、あなたの首を引きちぎってあげるわ」
クラリスは、歩みを止めない。
「不死であれ、なんであれ、存在すれば、斬れるのでござる」
クラリスが刀を走らせた。
妖刀ムラマサが、吸血鬼の眷属、その「生」を断ち切る。
地面に、彼女の首が転がる。その首は、なにかものを言いたげに転がっていた。
「すまないでござる。それがしは、少し気が立っている上、つまらない長ばなしは、無用でござる」
クラリスが刀を鞘を収める。その時、ムラマサがリーンと鳴いた。
同じ頃、後ろから、クラリスお嬢さまを追いかけていた異臭を放つ青白い人間の集団は、突然、意識を失い次々と倒れっていった。
まだ森の中。
ひと段落つき、教師たちは、ことの収拾に追われている。
青白い人間たちも、意識を回復しはじめている。多少の後遺症はあるようだが、金髪のソフィーによれば、数日すれば回復するだろうとのこと。
例の兄弟たちが、クラリスお嬢さまに礼を述べている。
「さて、次は、おぬし達を斬る番でござる」
兄弟たちが首を差し出す。
「おぬしらは、なにをしてるでござるか?」
クラリスお嬢さまは、可愛らしく、兄弟たちの頭にポン、ポンとゲンコツをした。
キョトンとする兄弟を放って、お嬢さまは叫ぶ!
「カルロス! 出てくるでござる!」
太々しい態度でカルロスが木の影から出てきた。
「カルロス! この一件、どう責を取るか、申すでござる!」
「な、なにを言っている。俺は、なにも関係していない、そんな、平民の証言など、誰が信用するか!」
カルロスは、兄弟を睨みつけている。その表情を見れば、酷い仕打ちを兄弟たちが受けるのは、明らかだ。
「この一件に、おぬしは関係ないと申すか」
「そうに、決まっている! 俺は、この一件には、なにも関係ない!」
「なら良いでござる、どこへでも、消えるでござる」
「ふん! 分かれば良いんだ! おい、お前たち行くぞ!」
カルロスが立ち去ろうとする。
クラリスお嬢さまは、兄弟の首根っこをつかみ、ついて行こうとするのを止める。
「貴様! なにをしている!」
カルロスが、お嬢さまに文句をいう。
「この者たち、おぬしとは、関係ないでござる」
「なにを言っている!」
「もし、関係があるなら、おぬしは、一件の責をとって、腹を切れでござる!」
クラリスが恫喝をした。
カルロスの股が濡れる。
「ちなみに、腹を切るは、自害のことですよ!」
トドメとばかりに、メアリーは、楽しそうに枝を振った。
「くそ、くそくそくそ、勝手にしろ!」
カルロスが一人で歩き出す。
「それと、あの者たちの領地も、それがしが預かるでござる」
クラリスの言葉を無視して、カルロスは消えていった。
「もうっ、どうするんですか? 領地を没収とか仰っちゃってっ!」
メアリーは、さっき、調子に乗って落としてしまった枝を拾う。
「なんとか、ならんでござるか?」
クラリスお嬢さまの、お願いポーズ。
「辺境伯様に、伝えときます。多分、なるようになります」
「そうか、なら良かったでござる」
実は、メアリーの本心では、「あの辺境伯なら、お金を払ってでも領地を没収しちゃうわね」と思っていた。
それは、ともかく、治世は領主の責任、その住民が学園の生徒を脅かしたのであれば、その責任は免れないだろう。
爵位制度において、爵位に見合った統治能力を示すことは重要だ。
「そ、それで、僕たちは……」
兄弟たちが、罰を受けるのを待っている。
「それがしは、言ったでござる。次は斬ると……。おぬしらと、カルロスの縁は斬ったでござる。あとは、好きにすれば良いのでござる」
「はい、ありがとうございます」
兄弟たちの表情は晴れた。
「お嬢さま、刀を振る以外にもできるのですね」
アレンの嬉しそうな笑顔。
「なに、それがしは不器用なゆえ、結局、斬ることしか出来ないのでござる」
クラリスお嬢さまは、アレンから目をそらし、耳を赤くして照れていた。