往年の廃列車 6
ダリアはクレマンと共に新型車両のある車庫へ向かった。
ディーゼル式の車両はどれも蒸気機関のスペランサ号よりもどっしりと重く重量感があった。
「これが最新式です」
クレマンが案内したまだ傷一つのない新品の車両が淡く群青色に光っていた。
その色は朝焼けの夜に近い色をしていたが、この上なく青く、秋の空を眺めていると吸い込まれ祖王になるような深みを持っていた。
「すごい...」
ダリアは単純な色の凄さに圧倒されて感嘆をもらした。
「この色を作った人は誰ですか?」
本来の目的を忘れ、ダリアはただ着色した相手への興味にかられた。
「誰て、ダリアさんの師匠のモナさんだけど」
「へ?」
「だから、この色を作ったのは絵師モナですよ」
「えぇぇぇぇ!!」
その晩ダリアは非常に不機嫌であった。
「どうぞ」
ガンッと食器を置き師匠に料理を進めるがそこに尊敬の態度はない。
ダリアは腹を立てていたのだ。
一人前と認められて任された仕事が元々不要なもので、それを知らずに行きこんでいた自分に
そして、自分を手の上で転がすようにしたモナに腹を立てていた。
「そんなに怒ることか?」
火に油を注がないよう慎重にモナは尋ねた。
「今回は師匠が悪いです。頼んだ、て言ったくせに」
「そんなこと言ったか」
モナの不用意な言葉が藪蛇をつついてしまった。
「言、い、ま、し、た!」
「あんなにお前に任せたぞ、て空気を出しといてホントは何もかも知っていたんですね。ズルいです。」
最新の車両を塗ったのはモナでその色がスペランサ号と類似しているのは聞いていたことであった。
そのせいで、昨晩と違い今晩は立場が完全に逆転してしまっている。
「お前に手間取らせたのは悪いと思っているが、これも修行のうちで若いころ俺もよくやらされたぞ」
「違います、違います。師匠は何にも分かってないです。」
「分かっているさ、やらなくてもいいことをやらされたことに怒っているんだろ」
ダリアに触発されてモナの言葉にも熱を帯びる。
「師匠は分かっていません。弟子心はそんなんじゃないです。」
「じゃあどうしろと...」
モナは育児に初参加した父親が娘に匙を投げる様にギブアップと両手を上げた。
それをダリアは見逃さなかった。
「じゃあ師匠、なんでもお願い聞いてくれますか」
ダリアは最終地点を想定して甘えた声でおねだりした。
「あぁ」
それに対してモナはこれまでのやり取りに疲れ少々投げやり気味に答えた。それが良くなかった。
「本当に何でもですか?」
「デザートの食い放題でも、列車の旅行券でも何でもいい」
「やった!」
喜びのあまり小さく跳ねる
「なら今回の依頼私に完成させてください!!」
途中から着地点が見えていたダリアは確証を得られて喜ぶ。
対して何も予期することができなかったモナはしまったと、頭を抱えて言葉を口にすることができなかった。
ーー展示会当日ーー