往年の廃列車 2
痩せ細った運転士クレマンに連れられ、モナとダリアの二人はスペランサ号が隔離されている錆びれた古い車庫へと案内された。
「ここがスペランサ号が隔離されている車庫になります」
車庫の中央鬼目をやると往年活躍したであろう蒸気式の列車が鈍い光沢を発しながら鎮座していた。
周りには黒い靄のようなものが確認できて、この列車が呪われていることが確認できた。
列車をよく見ると、最初こそ威厳を発していたが細かなところは塗装が剥げ胴体の鉄の部分が見えるほど劣化がすすんでおり今回廃棄となってしまうのが肯けるほどであった。
さらに足元のピストン機構と車輪との繋ぎ目は長い走行によりひずみが生じてしまっていることが窺がえる。
そんな傷ついたボディを手でなぞりながらクレマンは列車について突然語りだした。
「今の若い人たちにはご存じないと思うのですが、コイツは結構人気だったんです。」
「本当にコイツには助けてもらいました。私の初運転から3年前までお客様を乗せて一緒に走っていたのです。」
「ほぅ」
「3年前から旅客は引退して貨物だけの運余殃になりました。原因は走行中の揺れが酷いのと、最新のディーゼル車が主流になってきたことです。世代交代ってやつですよ。」
「それで」
「3年間走り続けたのですが先日ついに動かなくなってしまいまして...だから今回廃棄が決定したんです。廃棄が決定する急にこの黒い靄が出始めてきて呪われていることが発覚したんです。」
「呪いが発現したのは正確にはいつですか?」
曖昧に相槌を打っていたが、解呪に関することがクレマンの口から飛び出したとき空かさずモナは尋ねた。
「7日前です。廃棄が決定した翌日です。」
「それからこの倉庫に?他に伝染はしていませんか?」
「ありません。元々ここがコイツ専用の車庫でして靄が出始めてからは動かしていません。」
クレマンの説明から他に呪いが伝染している可能性が低いことからモナは安堵した。
クレマンとモナが車両の状態について話し合っているとき、ダリアは車内を見て回っていた。
スペランサ号は外観と同様所々傷みが見えており、貨物用となった車内は座席などが取り去られており、閑散としていた。今では人々を乗せて走っていたとされる貫禄は跡形もなかった。
列車の中の状況を確認したダリアは車窓から顔を出して
「師匠、やっぱり現状からの解呪は無理そうです。」
モナはやっぱりと頷くが、クレマンはダリアの言葉を想定していなかったのか、酷く狼狽えた。
そして酷い剣幕でダリアを怒鳴りつけた。
「解呪ができないってどういうことだ、コイツは最後まで懸命に走り続けたのぞ。なのに呪いが解けないってどういうことなんだ!」
「落ち着いてください。」
モナが狼狽えるクレマンの肩を掴み諭すように言い放った。
なぜクレマンはここまで動揺したのか。それは呪われたが解呪できなかった場合の末路に起因する。
呪いの発現は諸説あるが、正確に原因を特定することはまだできていない。
なので、解呪できないものはすべて跡形もなく燃やすことがこの国では決まっている。
だから、今回で言えばスペランサ号と可能性は低いが伝染の疑いがあるこの倉庫まるごと焼却されるだろう。
このことを危惧してクレマンは激しく動揺したのである。
クレマンの肩を掴みモナは続けた。
「落ち着いてくださいクレマンさん。弟子の言い方が悪く誤解させてしまったかもしれませんが、あくまで『このままでは』解呪ができないということです。解呪には条件があるのです。」
「条件!?」
「そうです。解呪にはいくつか条件があってスペランサ号は今回2つ条件が欠けているんです。」
「じゃあその条件とは一体...」
モナのロジカル的な説明にクレマンは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「今回は『最盛期の状態』と『最も快適な思い出』が足りないのです。この2つの条件を満たせば、スペランサ号は焼却されずに済みます。」