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第85話 ルーベルVSロキ

第85話 ルーベルVSロキ

 シン、マキ異世界コンビとメリア、ミレアの弐凛姉妹が素顔を晒して相対したとほぼ同時刻、北西方向でメイタールの思惑通りに混乱が出来上がっていた。


 北西ではリュギア学園の帝王、ロキ=フォン=レグラムとアシウス=ベェンドが事前に決めていた合言葉で合流を果たしていたが、メイタールが素顔の見える設定を施した後、その2人は協力関係を切った。


「……一体誰だ?」

 リュギア学園の大将を務めているロキは、素顔が見えるはずの仲間の姿が見えないままでいることによって真実に辿り着いた。


 敵が何らかの事情で自分らの決めていた合図を知り、潜入してきたか。それとも偶然にせよ、敵が仲間のフリをしていることには変わりない。


 ◇◆◇


 年齢に比べれば心が未発達なルーベルが敵か味方かもわからない相手に勝負を仕掛けるのは珍しいことではなく、一番最初に見つけソイツを遊び相手に選んだ。


 普段と同じく適当に戯れて止めを刺そうという局面で、司会の言葉が頭に思い浮かんだ。『この迷怪領域乱戦だからこそできる潜入がまだ起こっていないので中盤以降が楽しみです』


 ……潜入。


「たっ、助けてくれ! ここで自分が使い物にならなければロキさんに何をされるか……!」


 遊び相手に選ばれたリュギア学園の生徒……アシウス=ベェンドの必死な悲願はルーベルには届かず、だが届いたのかと紛うようにルーベルの心情は変わった。


「ねぇ、もしかして君の学園メンバー同士での合言葉みたいなのあったりする? あるなら教えてよ。殺らないであげるから」

「……! 言う! 言うから……」

「そういうのいいよ。早く言いな」


 そして終始ルーベルとロキに怯えた様子で簡単に秘密を吐いた。これがバレたらそれ以上に酷い事態になると分かっていたのに。


 基本このような場合アシウスを見逃すはずがないのだが、この時のルーベルは一味違った。


 レイ=コウサキという温かい光にてられたルーベルは自分も優しくなってみようと、子どもが影響を受けたものの真似をするのと同じようにアシウスを逃してみた。


 ◇◆◇


 そのような経緯でルーベルは合図を知り、その合図を片っ端からやりまくってやっとのことで潜入できた。


 ルーベルはまさか潜入がバレる機会がこんな形で来るとは思ってもおらず、それに重ね潜入することしか考えていなかった。

 つまり潜入した後のことを何も考えていなかったのだ。


「えぇ、この後どうしよう……?」

「…………答えないのなら、問答無用で即刻敵と見なすが?」


 その腰に据えた刃を抜刀術の構えで堅く持ち、姿が細かく見えなくとも分かる強い目力と覇気で威圧した。


「はぁ?」

 明らかに落胆する素振りで、つい強い口調で顔を顰めた。


 ルーベルは腕に魔力を纏わせ、軽く透けている発光色の篭手に包ませる。

 刹那の間にロキの死角へと回り込み、感情に任せて大振りに構える。


「——なんでキミの方が上みたいな言い方してんの? ……青龍の覇臥」


 その手が何にも遮られることなく標的に触れることになる時、派手な衝突音が鳴り響いた。


 だがロキの周囲だけは、先刻と何ら変わらない状況だった。


 確かにルーベルには当たった感触はあった。


 それもそうだ。なんせ当たったのだから。


「随分と、準備がいいんだね」

「ふん、何も考えずにただ攻めるような野蛮族のような戦い方はするわけがないだろう」


 ルーベルが当てたのは、ロキが戦闘前から起動していたトラップ式の障壁。


 このような下準備。それを駆使し、常に現在の事を現在対処せず、過去に現在の事を。現在に未来のことを動かすのが帝王と呼ばれるロキの戦い方だ。


 だがロキの内心、かなり驚いていた。ロキは戦闘中に結界を張り直すことで隙を生まないよう、常に最高傑作と言える出来だけの結界を常備している。


 それほど丹精込めて作った結界が今のルーベルの一撃で九割ほど壊滅してしまった。


 今のような一撃を何度も連発してくるような相手なら、本腰決めて脳をフル回転させて戦わなければ即死だ。


 異空間収納に入れてある自分の戦闘器具を正確に思い出し、強敵とのシュミレーションを簡単に行う。


 もう攻撃を喰らうわけにはいかない。最大の許容範囲が一度……賭ければギリギリ二度までだ。


 まずは戦闘を自在に操りやすいよう、先手を取って主導権を奪う。雷、氷、炎の属性を一つの自分の獲物に纏わせルーベルの足を狙う。


 他の代表者とは違って自分の武器を一つも所持していないルーベルは容易にとても身軽なステップで躱す。


 地面を盛大に叩いた剣を起こし、その動きの流れでもう一度斬りかかった。


 貴族の生まれであるロキは、幼少から家庭教師に剣術も端麗なものを教えられていた。

 だから鬼気迫った感情振るいの一撃の繰り返しでも、不思議と野蛮な印象は抱かせなかった。


 何度も凶器で殴り掛かられるのに飽き、だるいと感じた少年はそのうち魔力を実体化するほど集め、一瞬の隙にロキの脇腹に打ち込み、抱え込んだところを吹き飛ばすことにした。


「吹き荒れていいよ? 精魔の波動」


 掌に皿状に波動の塊を伸ばし、遊ぶことを忘れ掌撃の一撃で葬ろうとした。ルーベルまでもが倒れこんだのは、その時だった。


 右手を突き出す瞬間、少年の視界に太陽かと過信するものが写った。

 ロキが仕掛けていた炎が眼球に間接的な物理ダメージを与え、痛くとも手を止めなかった少年の視界は陽炎の如く曖昧な敵を見た。


 無意識に倒れる少年の右手の平はロキとルーベルのちょうど間の地に落ち、二人を衝突後の爆散する波動が襲った。


 ル-ベルは体質から波動の影響は風しか受けなかったが、ロキは身体を吹き飛ばされ建物に衝突するまで減速すらしなかった。


「あああァァ…………!」

 馬鹿げた体質と強さを持っているルーベルでさえも身体の作りは一般人と同じ。


 流石に眼球の回復にはそれ相応の時間がかかった。


「くっ! うぅぅ……」

 痛みは残るが平常の動きをするには我慢すれば十分な程に回復した時、ロキはルーベルの下へ戻っていなかった。


 アァ! という咆哮と共に目を抑える手を振り払い足に力を込めてロキを潰そうと顔を上げた。


 だが地から足を離したことろで転んだことにより、今更自分の下半身がロキの魔法によって氷結状態にされているのを認識した。


「ヘタな小細工しやがって」

 魔力弾で何度壊そうともまた張り付いてくる小さな障害に鬱陶しさをぶつけながら歩みを進めていると、ロキの姿を捉えた辺りで氷は再生しなくなった。


「やっとか!」

 自由になった脚で大きな跳躍を見せてロキの射程圏内にまで近づく。地に足が付いたと同時に急突進をする。


「——魔法陣完成。アステリコス・アイギス・パゴス……」


 ロキはルーベルが目を痛め、苦痛に苦しんでいる間に追撃をかまそうと思えば余裕でかませた。それをしなかったのはロキなりに考えた結果だった。


 例え自分も手負いとはいえ、おそらく手負いの状態のルーベル()であれば倒しきれないだろう。

 そして眼球が回復するまでに倒せなかったら、勝機は確実に激減する。


 自分が学園の大将を担っている責任を適当に感じているロキは、そんな不確実な勝負は最後の大将同士になった時だけにしかしないと決めていたから、それよりも勝率が高いと思ったこの方法を選んだ。


 ルーベルが来ないまでの時間を魔法陣作成と罠、仕掛けの準備に専念させた。そして本当にギリギリ完成したのが、ロキの得意な氷の魔法陣魔法。


 五芒星を基にされた魔法陣がロキの前で発光し、ルーベルを中心とした五角形の頂点に青白い光の塔が落ちる。


 五つの塔はそれぞれ光線で繋がり、上空視点で五角形が創られ、その直線はいつしか曲線に変わり円を描いた。


 また新たに光線がそれぞれの頂点を着々と紡いでいき、円の中を飾りつける。


 五芒星が完成した時、ロキは最後の単語を唱えて魔法名は完成した。


「……クリュスタリュス!」


 光の塔はいつしか一つの真っ白な城を連想させる趣きのあるのある塔に変わっていて、紡がれた光線からは氷の結晶がゆっくりと降ってきている。


 なぜルーベルが襲い掛かっているのにも関わらずこんなにも多くの事象が襲われない間に起こるのか。


 それはこの幻想的な魔法に合わせてこの中の生物の時間が遅れているからだった。


 五つの白い塔を一部とした円は結晶を模っていき、折りたたまれるかの如く中点に集結していく。


 五段。

 大きな結晶が魔法陣のように重なり少年の頭上で逆円錐を創る。


 残った塔の光が一層強まるとその姿が吹雪の中のように霞んでいき、いつしか煙が立ち込み最上の円の中心点へと吸い寄せられた。


 五段結晶が展開されると一段と大きい白光線……結晶の集まりが垂直に中心を貫く。


 雪崩が起きたような爆音が、この舞台街を揺らす程に轟く。


 ルーベルはそこで気が飛び、一瞬のそれだけで為す術を全て奪われた。

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