第83話 対峙
「ここは見逃し合わないか?」
「……分かった」
北西方向で、こんなやり取りが行われていた。
片方が提案するともう片方は頭を搔いて考え、武器を異空間収納へ仕舞い、腹の前で自分の手を使って握手の形を作った。
「ロキだ。どっちだ?」
「アシウスです」
「あとはカラムか」
簡単なサイン。誰でもする動作で、絶対に自然にはしない動作。
リュギア学園の『帝王』の称号を持つロキ=レグラム。彼は彼とのコンビネーションに長け、十分な戦力として使えるカラム=ソクマ。そしてアシウス=ベェンドの2名との合流を、最も長い第2次で最優先に決めた。
第2次のこの段階で他人と遭遇したのはリュギア学園代表者だけではなく、もう一組。それが西で行われていた。
「共振融合が思わず出ちゃうような強敵と戦いたいかなぁ……?」
一度偶然から共振融合の発動を成功させたレイ。その器が原因か、今故意に挑戦しても失敗に終わると悟っていた。
自分の力量では不可能だと。前のように、自分本来以上の力を引き出してくれるような状況が欲しかった。
誰かいないかと。挑戦してくれる人はいないかとわざと雑な魔力操作で探査魔法を行う。
「一人しか引っ掛からないかぁ」
たった一つの存在に少し早歩きをして向かうと、その反応は逃げるように動いた。
「あれ……、戦う気ないのかぁ」
戦意が無い相手と戦うのは自分の力を引き出してくれるから不安だったが、せっかく掴んだ微塵のチャンス。逃したくなかった。
「共振同調。漆ノ型 迅雷」
稲妻が空を翔る如く風を切り裂いて進み、姿の見えない代表者の進行を妨げるよう突風の威を持って前を陣取った。
「あなたは誰かな? 良かったら戦わない?」
レイは顔は見えなくとも今相手が自分にどういう感情を抱いているか何となく理解した。その立ち方が、自分への警戒を露わにしている。
少し間を置いて、どうしてですか? そう言った。あまりに前提を壊しそうな質問に、レイは思わず気が抜けた。
「どうしてって……そりゃ勝って点取って優勝する為? そういう催しなんだし」
「そういう意味じゃないです。もしあなたが今下位の学園なら問答無用で点を奪いに来るはず。上位で余裕があるなら無理に戦おうとする必要も無いです。必要が無くとも活躍したいなら、それこそ問答無用で襲ってくるはずです。なのにあなたは最初に話しかけて来たんですよ? それが気になって」
馬鹿な質問をしてきたと思ったが、自分が馬鹿だったかと見直した。十分すぎるほど理にかなった問いだ。レイ自身、それに納得している。
あ……? そういえば極力戦わないようにって泥棒猫先輩に言われたっけ……。
忘れていた作戦、決め事。もう破ってしまったそれを『上位で余裕があるなら無理に戦おうとする必要も無い』で思い出し、少し焦りだした。
あぁー……どうしよ。まいっか。
適当に問題を解決すると、その間もずっと答えが欲しそうにこちらを見ているシルエットが見える。
「うーん……戦いたい、じゃダメかな?」
緻密な作戦を織り、その上で慎重に勝利を取りに行く学園ばかりの中、ただ一人ほぼ何も考えずに動いているような言葉。勝利が要らないではないニュアンス。
それらから今対峙しているのは上位学園の代表者だと推測する。当てずっぽうで言ってみた。
「ソルセルリー学園のメンバーですか?」
「ほぇ? え、なんで分かったの?」
不意打ちを狙う出場者だっている。そんな人達は、皆仲間のフリをしたり小細工をする。だがレイは戦うのが目的故、誤魔化す必要が無い。
だから純粋に聞き返した。
「勘ですよ。良ければ名前を聞いてもいいですか?」
「いいよ。こ……レイ=コウサキ」
「レイ=コウサキ……? あぁ、『限界闘技』見てましたよ。物凄かったです。……私はサリア。姓がフローレンです」
あ、聞いたことある。そういえばマギアス君がさっき異空間収納の魔法陣を使う厄介な相手って言ってたな。
………………じゃあ、強敵ってことだ!
「いきなり闘志むき出しにして、どうしたんですか?」
「玖ノ型 轟く裁雷!」
今まで話を続けていたことから、話が出来る相手だとほんの少し油断していた。どこか気を抜いていて、始まる時は何か合図があると考えてまでいた。
甘かった。サリアは本気で後悔した。何とか直前でギリギリ魔法吸収の魔法陣の描かれた紙を取り出すのが間に合った。
「共振武器を扱う人ですか……、甘く見ていました。次からは気を抜きません」
「うん、そーして? その方が私も嬉しいから」
サリアはとても動揺していた。この無駄に動けば動くだけ不利になる競技の中で、こんなにも無駄に動く人間がいるのかと。それも王者と称されるソルセルリー学園のメンバーが。
しかしそれに見合った実力を兼ね備えている。本当に厄介だと。
だから出来るだけ不意を突くような戦いで、短期決戦を望んでいた。だが出来ない。
サリアは異空間収納を戦闘に用いられるほど頭も地頭も良い。それゆえ相手の動きに合わせてのカウンターのような勝負に長けている。
共振武器の使い手を相手にするならば、まず力負けする可能性がある。だから不確定な攻撃は出来ないと踏んでいた。
対してレイは相手がどんな戦いを繰り広げてくるのかとワクワクしながら待っていたが、敵から行動してくる様子はなく、薄々勘付いた。
相手に合わせ、臨機応変な戦いをするタイプの可能性がある。
下手な小手調べをしてリードを持たれると厄介だから、技ではどうにも出来ない力の差で一歩取ろうと考えた。
「稲妻纏い参ノ型 万雷の圧・八方塞城」
「さっきからっ! 性格悪いですね!」
不意を突いたり力業だったりと、意図的に自分の嫌な手しか使ってこないのに悪口を吐きながらも結界の魔方陣を発動した。二枚同時に。
魔方陣は自分単独じゃ出せないような威力を発揮することもある。本来の力以上のものが二つ重なったことで、レイの力業にも対応出来た。
「多分こんなんじゃ均衡したままだろうし……早めに仕掛けるしかないかな?」
「何をぶつぶつ言ってるんですか?」
「ううん、なんでもないよ——雷豪 剣の形・円舞!」
今まで一つの剣を自由に操り近距離戦闘もこなしてきたレイ。
だがそれには、近距離をしている間には遠距離が、遠距離をしている間には近距離が出来ないというデメリットも実はあった。
それを可能な限り無に近づけたのが、円舞。
自分の周りを複数の剣で固めることにより近距離を危険を減らし、遠距離はもともと得意な自分の手で行う。
単純、周期的ながらも効率化されたその手は相手からすると非常に厄介な上等手段だった。
近距離対策を得たことで強気にサリアとの距離を詰め展開する。
事実サリアにとって今のレイは剣役とレイ役の二者を同時に相手しているのと同様だった。
自分の苦手分野に持ち込まれるわけにはいかないとバックステップを幾度となく繰り返しながら避けてさばき、隙を見て奇襲出来ない程度の距離を保った。
「ひょっとしたら……マギアス君より厄介かもしれませんね……」
「おぉ、それは光栄なことなのだよ」




