第82話 第2部開幕
「メリア、今回の強敵って誰だっけ?」
シン達の位置と真逆、東方面の路地で髪の長い2人が隙をさらけ出して歩く。
「ミレア、あなたも少し他人に興味を持ちなよ」
「んー、がんばるよ。それで?」
「はぁ、障害になりそうだと個人的に思うのが、マギアス=イディオ。ローレイ=クライア。シャムル=フォン=アストリア。ロキ=フォン=レグラム。レイ=コウサキ、の5人くらいかな」
異空間収納から帳簿を取り出し、それを捲りながら話す。そこには分かる限りの他学園メンバーの情報がメモされている。
全てディアライト女学園代表メンバーの注目株である、弐凛姉妹の姉であるメリア=ラリアスが独自に作った代物だ。
「負けると思う?」
「思わないけど、ソルセルリーのシャムルと、フェラスのローレイと、リュギアのロキは去年の時点で手強かったから注意ね……1人、左斜め前約40度450メートルにいる」
帳簿から目を話さず、妹に頼んだという形で話しかける。ミレアは人数、方向、距離を把握した途端に両腰にかけてある2つの剣を抜いてメリアの目の前から離脱した。
そこに1人残った姉は帳簿を閉じて時間の上の表を見る。パッと、ディアライト女学園の横の数字が19から24に変動した。
「あら大将だったの、ラッキーね。それにしても速いわね。流石『韋駄天』ね?」
「やめてよ、んな恥ずかしい称号」
疾風の如く元の場所へ、艶やかな束ねていない長髪を舞わせて降り立つ。
「ていうか、今のが味方だったらどうするつもりだったの」
「どっちにしろ私達が全員倒したら優勝じゃん」
叱るつもりでいたが、いつものように手にすら取らない態度に怒る前に隙ができ、言葉を発そうとする時には妹はもう奥を歩いていた。
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「んー……先輩と一緒にいれればいいのにな」
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0:24:06
得点変動が早くも多く動いている東西とは別に、南北はごく静かだった。
「誰かいないかなー……リアー? シンくーん?」
シャムルも、誰とも遭遇してないわけではない。むしろ何回か既にしている。だが毎回見逃し合っている。
それは自分の仲間、特にマギアスやカイル、シンやリアは自分が誰だが分かるようなボロは出さないと分かっているし、変に動いて戦闘になったら負ける可能性だってある。
だから次の休みまでは極力戦闘をしないと決めていたからだ。
そして第一次『迷怪領域乱戦』は何事もなく終了し、1時間の休憩に入る。
本当にそれからは何事もなく終わった。戦闘も起きず、誰かが無理することもなく、シンとマキは合流を果たすことも無く。
クリア学園……18ポイント
セイミナス学園……13ポイント
リュギア学園……15ポイント
フェラス学園……19ポイント
ディアライト女学園……24ポイント
ソルセルリ―学園……24ポイント
一次は、この結果で終わった。ソルセルリー学園代表メンバーは、次の5時間はあまり行動を起こさず、無理にやらずに過ごそうと決め事をした。
ただ、3点以上リードされたら問答無用で戦いまくれと指示を受けて。
シャムル曰く、このメンバーなら戦ってもすぐに負けないから、味方同士相打ちになることは無いとのこと。
合宿で戦いまくったから戦ってる内に味方かどうか判断しろと無茶ぶりを要求されて。そんな無茶に、反発する人はいなかった。みんな、味方は分かるだろうと謎の自信を抱えていた。
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多分、いるだろうな……。
圧倒的な勘で、1時間という少ない休憩の中ドクマ闘技場を出てある丘に足を踏み入れた。
イストリアの丘。人生で2度目だ。
「相変わらず綺麗だなぁ」
前はここから夜景を見た。少し寒い風が肌に当たりながらそれを堪能した。
今は違う。暖かい、包み込まれるような暖かい風を感じながら整った街並みを見る。
有名な絶景スポットだと言うのに俺以外に人がいないのは、それだけ学園対抗戦の注目度が高いことを示しているのだろう。
「やっぱりいた」
「シン、来てくれると思ったよ」
生暖かい風に、黒く綺麗な髪が開放的に揺れる。マキがこうして自らの意思で髪の結びを解くのは、気を抜く時。逆に言えば結んでいる時は気が引き締まっている。
「やっぱ疲れるか」
「うん。こう気が抜けないのが続くと、どうしてもね」
マキもどうして俺がそう言ったかと瞬時に理解し、その原因の未だ揺れる髪の一部を撫でた。そう静かな佇まいを見ると、今までどれだけ息を詰まらせていたのだろうと視線を逸らしたくなる気持ちに駆られた。
「単刀直入に言うと……っていうかシンも分かってるだろうけど、今から言うのは次の時間の合流方法。次は南方面で会お。最初の位置がどこでも関係ない。途中で会えたら儲けものってだけ」
「うん、だと思ったよ。てかそれしかないし」
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初回と同じく四天王、メイタール=レイザーが脱落していない代表者をランダムに舞台へ召喚する。そして光の魔法で互いの姿が見えなくなる魔法を掛け、ブザーが鳴る。
4:59:54。
シンの開始地点……北方面、1時の方向。
マキの開始地点……東方面、4時の方向。
「ほんとうに危なかった……マギアス君にはもう遭遇したくないなぁ」
サリア=フローレン。マギアス=イディオ。第一次に起きたこの二者の勝敗は、結論から言うと引き分けだった。原因は、制限時間。
サリアの内心、あと数分遅ければ確実に負けていたと本気で焦り、安心していた。
マギアスの内心、制限時間のことを忘れていなければ、確実に仕留められていたのに。
シンと互角以上に渡り合うマギアス。それに30分以上戦い合うサリア。この存在とソルセルリー学園のメンバーが当たれば、少なくとも大量に消耗してしまうと危惧する。
それに、それよりも断然強いであろうローレイ=クライアまでもいる。他にもまだ隠れている実力者だっているはずだ。
「…………どうしよ」
ぼーっと俯いた時、マギアスの顔を少し疎らな光が照らした。
「爆発?」
マギアスの耳で光と同時に感じたのが、爆発音。それも上方から聞こえた。後ろを振り返り、その上を見ると、もう少し薄暗い空には不釣り合いの派手な何種類もの光が浮いていた。
空が既に薄暗いのは、時差の問題。先の休憩時間の間に運営の人間が各学園へ訪問し、舞台には時差があり、次は薄暗く、最後の部には真っ暗になると告げた。
「……花火? なんで?」
「アーアーつまんないよー。相手が味方じゃないって分かるまで攻撃しちゃダメとか……」
上を向きじたばたする様子は、まさしく買い物で子どもが欲しいものを無理やり強請る時のそれ。
「今の花火に反応して仕掛けてくれれば絶対敵だから楽なのになぁー」
返り討ちにしてやるのニュアンスを込める割には屋根にうつ伏せに寛いでいるから、ルーベルを狙い潜んでいる他学園のメンバーに猛烈な違和感を感じさせた。
だが、今にでも容易に仕留められそうな様子に活躍と名誉を欲しているその1人の代表者が黙っているはずもない。
自分が動かなければ事態は変わらないと思考が至った現在4位のクリア学園のリザーブ枠に位置するその生徒は隙がある今の内にと、何故隙しかないのか全く考えずに飛び込んだ。
下手に刺激して避けられるより、一撃必殺で確実に仕留めようとギリギリまで近づき、得意の鎌さばきを披露してその勢いに乗り背中を抉る。
テライト・バウト。ケラ・フラーガ。ヴァノ・エクリクシ。アダナクラシィ・カスレフティス。プター・キュクリア・トラペサ。
今できる限り最大限の魔法の掛け合わせ。武器自体の性能を上げ、炎と雷の追撃を用意し、すぐ次に爆発の追撃も用意する。更に反撃された時の対策として一定の威力以下の魔法なら跳ね返せる付与を、最後にその全ての攻撃を連撃に変える。
これで負けるはずがない──討った。そう確信した。
その仕掛けた側も、誘った側も。同時に。
「やめさせよ? 叱制の断茨」
ルーベルは脱力して寝転んだまま、襲撃者を見る素振りもなくただ虚空を見つめ、話しかけるように呟く。
ルーベルの後ろから飛びかかった襲撃者は、討ったと思った次には身動きが取れなくなっていた。
地面代わりにしている屋根から人を拘束するのに十分な茨が生え、そのまま襲撃者を縛った。縛る時のあまりの圧縮度に襲撃者は持った鎌を落とし、負けを直感した。
「なんで……」
「なんで? なにが?」
恨めしく抵抗の目を向けられたのに、うつ伏せから直って座ったまま純粋な目線で見上げる。
「魔法を打ち返す対策をしてたのに……!」
「……あぁ! 多分僕がそういうの無効化するやつ使ったからじゃない?」
「は……? …………ハハッ、反則だろ……」
目の前の少年が自分の最大のパフォーマンスをいとも簡単に突破し、しかも突破する気は別段無かったと言う。
圧倒的な戦力差。状況。絶対に叶わないと感じてしまい、乾いた笑いが零れた。最後には完全に戦意も消え、トドメを刺せと身を委ねる。
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「あっちにも強いのいるな? ったく、シン達に勝って欲しいのに、上手くいかないなぁ」




