第80話 脳筋ゴリラと共振武器
悠々と燃え盛る炎と陽光では派手な黒が代表者の蔓延る街の西側上空で飛んでいる。
「あれ……多分ローレイ先輩だ」
その一方、炎が飛んでいる様を見てマキは自学園の先輩だと瞬時に察した。もう片方は誰かと気になったが、今の少ない情報では分からないとまたすぐに諦めてシンとの合流を優先した。
同じくフェラス学園代表者他2名もその光景が目視できる場にいたことでそれが有数の実力者、ローレイ=クライアと確信した。
1人はある程度の距離があることから仲間との合流を失念したが、もう1人はそれほど遠くはないと警戒しながら信じて歩き出した。
そして2つの浮かぶ存在を見て行動を変えた者がもう1人。
「片方は……煉獄纏いの拾ノ型か。もう一つは……シンだな」
少し迷ったが確信した眼で小さく見える黒色を見つめる。
「煉獄の拾ノ型……今のシンじゃ少し心許ないな」
すぐに助け舟を出したい気持ちが現れるが、同時にそれでもどこまでやれるか試したい気持ちもありゆっくりと歩いて向かった。
「──迅一閃!」
先手を仕掛けたシンを受け止めるように剣を横振りする構えを取るローレイ。
「陸ノ型 陽炎」
跳ね返してやる。優位を取って勝負を決めに掛かるシン。勢い十分すぎる抜刀しない抜刀の動きで振り切る。
その振り抜く途中、念の為身体強化が施されているシンの目は捉えた。自分の刀がローレイの剣と接触する……いや、した時。
接触している部分が揺らいで結果自分の身体諸共貫通してしまったのを。
情報が入るのはすぐ行われてもそれの処理解析は易々と終わらず、理解しないまま身体は単純にホームランを打ったように爽快に一周回転までした。
「……え?」
「どうやら貴方は、共振武器を持ってそれに頼るだけになってしまったようですね。まるで考えようともしていない。ただ我武者羅に技を連発するだけで負けるなんて、当たり前のことです」
黒い存在が、赤い存在に触れると綺麗な直線を使われていない住宅に向かって画いた。
シンはしっかり飛ばされる前に聞いたローレイの言葉を考えていた。
つまり、俺が言われてるのは工夫しろってこと。今のままじゃ脳筋ゴリラだと。
自然と脳筋ゴリラという単語から、レイの姿が連想された。
……レイだったらどうすんのかな。『共振武器の力……型に頼りきっている』
「ふっ……はは……。レイならしそうで、俺なら絶対しないなぁ」
今レイが自分の状況だったら。すぐに答えが出てきた。自殺行為と同じくらい危険な行動。それでもシンはレイを信じて実行した。
シンもレイも、マキも。絶対口にはしないし、いつものように貶し合っているが心から互いを尊敬している。
基本的に人が『才能』と呼ぶものは自分が持っていないものを指す。
それが尊敬や歓心の対象になれば天才と賞賛される。
それが畏怖や嫉妬の対象になれば化物。不快と罵倒される。
3人は互い同士みんなに才能を感じ、互いに信頼している。
そうだから、シンも信じてそんな行動に出られた。
カツン。カラカラ。細い金属音が響く。
「……なんの真似ですか?」
「いえ、ただ俺の尊敬してる奴だったらこうするだろうって工夫しただけですよ。ローレイさんの警告通りに」
ローレイは理解の出来ない光景に顔を顰め、それに嫌味たらしく挑発気に、両手を開いて隙を見せ堂々とする。
「唯一勝機のある可能性のある刀を自ら捨てるなんて……愚かとしか言いようがありませんよ。マキの気にかける気持ちが分からなくなりました」
嫌味も挑発も。悪気もなく素直にその行動に出た気持ちを考えた。分からない。何故不安要素を自ら作るのか。
「今ならこんくらいは出来んだろ」
前はほんの少ししか影を纏うことが出来なかった。成長した今ならもっと広範囲に濃いものを出来るだろうとこの世界に来た最初の時を思い浮かべて魔力を動かす。
影がブレザーの袖から蠢いて右腕に纒わりつき、一種の籠手のようになる。手を開くと指は一本一本が鋭い爪に、拳は硬い装甲で覆われている。
いつもより窮屈な感じもするが別段問題なかった。
でも、ワイシャツ半袖くらいに折っといて良かったぁ。
シンは窮屈な服が苦手な部類。ワイシャツだって一年中ずっと七分か半袖くらいにに折っている。暑かったらそのまま、寒ければそれにブレザー、それでも寒ければダウンを着るのがすっかり馴染んでいた。
窮屈だったろうな。と安心した。となるが、場は戦場。安心は出来なかった。
「水神纏い伍ノ型 篠突く雨」
視覚で認識して解析する暇なんてない。見て反応する。それが限界の速度で次々と突きを放ってくる。それも片手で、形相一つ変えず、汗も気配が無く。心底恐ろしいと感じた。
いつの間にか同じ籠手になっていた左手も応用して捌く。見た目に劣らず耐久力も半端なくいくら防いでも装甲が破れる前触れはない。
シンは自分の実力次第で全てが変わると緊張する。
逆にローレイはシンの対応に驚いた。刀という武器を捨ててここまでするとは。
刀や銃、強力な武器を手にするとその者は自分自身が強くなったと過信する。そんなのはただ武器を壊すだけで死んだも同然。
そのタイプの人種を何人も見てきた。心のどこかでそれ以外の人種なんていないと思っていた節すらある。
だから驚いた。その裏切りがこんな所で行われるだなんて。
「……面白い」
肩甲骨から一貫して一本一本突きを放つイメージ。激しく思惑通り動く攻防の中で初めてローレイの表情が変わった。
少し距離を取ろうとバックステップのフェイントを入れて左足に力をいっぱいいっぱい溜めて右後方アパートの屋根に乗った。
「ぅっ……らアっと!!」
シンは戦えている今の状況を崩すまい。ローレイのリズムを作るまいと手を開き地面を叩きつける。
コンクリートが破裂する勢いでローレイが乗った建物の支柱も侵食され、近くの地面も建物も崩壊した。
崩れる前にいち早くローレイは不安定な足場より飛んで脱出する。翼をはためかせ上昇する。シンも腕を叩きつける直前に気づき、腕を引き上げずにしゃがんだ脚を引き締め翼を振ると同時に跳躍する。
隣に追いついたシンは大ぶりに蹴りの構えを見せ、本気で影纏いの回し蹴りを喰らわす。
その戦闘を遠くの大きな屋敷の屋根に座り見ている少年が1人。他の人間に見つかることなんて視野にない大振りな態度で。
「ローレイ……派手にやってるな。お、仲間っぽいのが2人逆方向から来てんじゃん」
「やっと着いた!」
小柄な影がシンとローレイが射程内に入る距離に到着した。それと同時にマギアスも射程内に。
「シンの実力はまぁまぁ分かったし、そろそろ助けに入るか…………ん?」
マギアスがシンを呼ぼうとする前に、そこへ飛ぶ魔力の塊を感知した。何か嫌な予感を察知し、衝突する前に魔力放出の容量で銃弾のように飛ばしてシンに当たるのを防いだ。
「防がれた!?」
第三者の登場なんて予期していなかったローレイの助っ人はローレイの相手の仲間かと合流を急いだ。
「躊躇いもなくあそこに攻撃を? しかもシンだけを正確に狙ってたってことは……煉獄の銃ノ型の使用者が仲間だってこと。俺らの敵確定って訳ね」
マギアスもゆっくりと合流するつもりだったがあれを相手にシンが二対一は危ないと走った。
「ローレイ先輩!」
「シン!」
全く同じ機械的な声が同時に響く。シンは自分を呼ぶ方へ向かい、奇襲に備えて第三者にもローレイにも対応できるよう第三者の隣に立った。
ローレイも同じ行動を取る。
「誰だ?」
「マギアス=イディオ」
信憑性を増すため、苗字までしっかりと言う。
「証拠を」
信じるための条件提示をすると第三者はシンの額に手を当て、魔力を一瞬流した。
シンは感じ取った。この魔力の感じ、確証はないけどなんとなく本当にマギアスだと。
魔力の質というのだろうか。絵の具の色を他の色で隠しても全て完全に隠すことは出来ずほんの少しでも跡は残るように、メイタールの施したこの魔力の大きさも隠す魔法はそれを隠さなかった。
シンがマギアスだという確証を得た時、ローレイも自分の仲間だと確証を得ていた。
「どうする? 俺があの翼の方やるか?」
「正直その方が助かるけど、大丈夫。俺にやらせて。マギアスにはあの助っ人を頼むよ」
「……そっか。了解」
ローレイさんはマキと俺がこの競技中に会わなければならないと知っていると言った。なら会わせる気があるということ。
それに俺を本気で狩ろうとはしに来ていない。勝負を決めるという気迫がない。
ならば万が一マギアスが負けるより、敗北はないと言えるシンが相手をした方が得策だろうとシンは考えた。




