第79話 迷怪領域乱戦
翌日。これまでの収集が正午前だったのに比べ、少し早く日が昇って少しした頃、大体午前8時くらいに収集した。
早い時間でも学園対抗戦は価値があるのか、連日に変わらず大衆は集まっていた。
先日密かにマキから聞いた内容、それをその通りに説明が行われる。
マキから聞いていない情報は、大将制度。メンバー6人の中で1人決め、その人が倒されると倒した学園に5ポイント。他は全員1ポイントで、その点数がそのまま今の点数に加点される仕組み。
よく思い出してみれば、シェル先輩に聞いたことがあるようなないような。
俺達の大将は何故か俺でゴリ押し決定された。
そして『障害物競走』の時のような巨大な街に各それぞれ1人ずつ他選手との距離も不平等にの転移が行われる。
『迷怪領域乱戦』開幕です。
そう響くと街の中心部上空に半透明に数字が動く。
2:59:56。その表示を確認した時には、左から三番目の数字が51になっている。
「左から1番目が時間、2番目が分で3番目が秒か……。さて、と」
つまり3時間。昼の休みを挟んで、もう一度今度は5時間、また休みを挟んで最後に2時間行われることになっている。
分かることを確認すると次に他選手の存在を確認することにする。探査……魔力を薄く拡げる。
「……ん? これ、魔力の大きさすらも分からないようになってる」
でも、位置なら分かる。手始めにそこに向かってみると、その反応もこちらに来ていた。
あっちも一緒の考えで、俺と相対するつもりみたいだ。
「……なるほどね?」
いざその人物と相対すると、輪郭が黒と白の縞模様。中身が固まったスノーノイズのようになっていた。
視覚から分かる情報は、身長、体の大きさ。武器すらもモザイクがかかっていて形状くらいしか分からない。
下手なことを口走らないよう、俺も相手も何も喋らない間が続く。
「ここは、お互い見逃し合いませんか?」
ここで無理に動く必要もないと感じ、そう持ちかけると相手からえぇ、そうしましょう。と返ってきた。
ここで気付いた。声も変わっている。よく聞き取れるし言うほど不快感もないが、人の声ではない。
これでは相手が嘘を言って懐に入ってきても嘘だと見抜くのは難しい。かと言って本当の仲間を攻撃してしまうのは勿体ない。
……予想以上にめんどくさいな。相手の目線すらどこを見ているのか分からない。戦闘時も厄介なシステムだ。
だが相手からも自分の視線が見えないと思い、すれ違うその人物を凝視しながら歩く。何か、見落としていることがないかと。
「……何もないか。これ、どうやって見分ければいいんだよ……。こんな長時間やる理由が分かったわ……っ!? っと!」
一息安堵すると、後方から殺気を感じた。反射的に日影を前にして振り返ると、相手の剣のシルエットと俺の日影がぶつかった。
「んな……敵か味方かも分からないのに!」
「分かりますよ。少なくとも貴方は味方ではありません」
綺麗な佇まい。そして育ちの良さそうな口調。十中八九さっき話した相手だ。それが容赦なく俺に刃を向けてきた。
その人が口にしたこと。何も情報はないはずなのに俺を敵だと判別したことに驚くと、挙動で察したのかそれを話してきた。
「最初に会った人ですしそれに私の一撃を察知し反応した。なので特別に話しますよ。私達の学園メンバーの中で簡単な取り決めをしていたんです。会ったら逃げずに、襲われない限りは30秒後に戦闘を始めると」
……あ、そうか。そういう取り決めをしていたんなら、誰かは分からなくても敵か味方かは分かる。分かった後に誰か調べれば良い話だ。
「つまり、俺が見逃す素振りを見せた時点でバレてた訳か」
「そういうことです。今は気分がいいので特別に自己紹介をしましょう。但し、貴方もすること。いいですね?」
……正直する意味はない。でも、俺の直感が囁いてくる。この人の名は聞いておけと。
いつも通り直感に従い受け入れる返事をすると俺でも聞いた事のあった名が飛んできた。
「ローレイ=クライア。フェラス学園の1人です」
「あ……シェル先輩の友達って言う?」
「シェル……ソルセルリーのメンバーですか」
バレてしまったことは別にもういい。どうせ自己紹介をしなければならないから。
フェラス学園……ちらっと時間の上の点数表を見る。
クリア学園:11ポイント
セイミナス学園:11ポイント
リュギア学園:14ポイント
フェラス学園:19ポイント
ディアライト女学園:19ポイント
ソルセルリ―学園:21ポイント
高っけぇ……。しかもローレイさんって、強いってシェル先輩が言ってたな……。
よし、頃合いみて逃げよ!
「ソルセルリーのシン=サクライです」
「あぁ、貴方が。マキから聞いていますよ。それと、マキとこの競技中に会わなければいけないことも。なら行かせてあげたいところですが、あのマキの友人。私も気になるところがあります。なのでほんの少しだけ、お手合わせしてもらいます」
マキに聞いていることを驚く間もなくどんどん事が運ばれていく。お手合わせ願いますじゃなくてしてもらいますかよ……。
「漆ノ型 螺旋水」
シェル先輩を相手にする感覚で、定石通り極撥で打ち返そうとする。
「……は?」
だが気付くと、俺の身体は痛みと建物に覆われていた。
「シェル先輩より断然はえぇ……」
起き上がってすぐ、日影を構えようと隙ができた瞬間。反応出来ないピッタリのタイミングで音が聞こえる。
「紅蓮纏い玖ノ型 灰燼阿修羅」
「なろッ! 建物ごと壊す気かよ! もう壊れてるけど! めちゃくちゃすんなあの人! 陸ノ型 極夜」
何とか防ぎつつ、心の中で危惧していた。
やばいやばいやばいやばいやばい。久しぶりの戦いでめっちゃ身体訛ってるしローレイさん追い詰め方上手いし全然誘いにも乗ってこないし勝てる気しねぇ……。
仕方がないと極夜を解く。その瞬間に詰められることは分かっていた。だから少しでもこの状況が変わることを望んで迅一閃で落ちても身体強化で死なない程の上空に飛んだ。
ちょっとした絶景が見え、それを楽しむとすぐ隣にローレイさんが現れた。
「早すぎだって! 極撥!」
身体を捻り、大きく振りかぶって上から下に堕とす。
「自分から背中を見せるなんて、空中戦は未経験みたいですね」
俺の刀をあやすようにいなし、その剣を俺の背後からその刃が狙う。
……斬られる?
──ドクン。
不意にも芯が嘆いた。切られた経験は、ディザイア襲撃の時の1度だけ。あんな、傷口が燃えるような、ずっと抉られ続けるような激痛はもうごめんだ。
あの時は気を失いかけてたし実際すぐに失ったけど今みたいな状態で貰う訳にはいかない。
心臓の波打ちが早くなるのを刹那の時間の中で感じ、気づくと、視界はぼやけていた。
異創空間でやったレイとの鬼ごっこ。あの時と同じような感覚に陥る。
「……っアァ!!」
金縛りから逃れるような呻きをあげると同時に前に見た黒い瘴気が顕れる。ソレは前と全く同じく片方だけの翼を象る。
飛べるか? 必死の中で思念すると返事するように心が唸る。
切っ先が接着する前に翼をはためかせ、前進して脱出する。すぐさま空中で自在に動けるようになった利を生かして反撃できない位置から刀を振るう。
「まさか貴方も飛ぶとは……こんなところで使わなければいけないとは思いませんでしたよ。──煉獄纏い拾ノ型 焔天迦楼羅」
ローレイさんの全身から熔岩を思わせる炎が荒ぶって漏れる。
ぶつかるのは危険だと感じ突撃するのを手前で無理やり中止する。
その荒炎は俺の出した黒い瘴気と同じ様で翼を象る。ただ1つ違うのは、その翼の数。
俺のは片方の1つでなんだか不安定に見えるのに対し、ローレイさんのものは2つしっかりと立派なデキを持っていた。
「炎の……翼?」
「驚きたいのは私の方ですよ、何ですかそれは。共振の型を扱う者として、全ての型は例外無く頭に入っています。魔法も勿論使用可能なものも不可能なものも記憶しています。なのにあなたのそれは1度も耳にしたことがありません。どういうカラクリですか」
共振の型を扱う者として、全ての型は例外無く頭に入っています…………? 俺、今まで見たことあるやつしか知らんけど?
そういえばシェル先輩も知ってる風だったな。え、それが普通なのかな?
これが終わったら勉強しようかな、と。初めて勉強を自分から決意した。
「……さあ? 俺もこれについてはよく分かりません。ただまぐれで出来たってだけで」
俺が本当のことを気まずそうに言うとローレイさんはまた饒舌に口を開いた。
「まぐれで私の知らない物を……? そんなの、深淵級スキルを持っていないと普通有り得ないはずなのですが……まさか、深淵級スキルを?」
「いえいえ、持ってるわけないですよ」
深淵級スキルについてくらいは、俺でも知ってる。
それ以外のスキルはスキルを持っていない人でもやろうと思えば出来るもの。
例えば、料理というスキルを持っている人がいるとする。その人は料理の才能があるから、当然得意だ。
だが料理のスキルを持っていない人でも、得意な人はいる。苦手でも、出来ないという訳ではない。
それらが一般級、上級、伝説級、英雄級のスキル。
対して深淵級スキルってのは、その才能がないと絶対に出来ないもの。誰でも頑張れば出来る訳ではないもの。
例えば、腕を好きなだけ生えさせることが出来たり、イルカと意思疎通ができるレベルの高音と地鳴りかと聞き間違うほどの低音の発声が出来たり、目を光らせたり等。
ディザイアの破壊属性なんてものが深淵級スキルの1つらしい。
でも記録には英雄、マゴスの持っていたものしか載っていないらしい。




