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第77話 イストリアの丘で

挿絵(By みてみん)


 自部屋で魔法の練習など適当な時間の過ごし方を満喫していると、いつの間にか日も暮れ、お腹も空いた。


 ここの宿はカラオケのフリータイムに似たような制度で、宿泊日数によって変わる料金を先払いすると食事も風呂も好きな時間に行える。ルームサービスのように、部屋に運んでもらうことも可能だ。


 部屋で1人で食べるよりも人がいた方が落ち着ける俺は食堂に降り、見栄えの良い濃厚そうな肉と、多めの白米、簡単なサラダをトレーに乗せて空いた席に座った。


「いただきます」

 俺のルーティンと言っても過言ではない食事の前に姿勢を正して礼をする、初めに好きな肉を口に入れながら苦手なサラダを完食する。


 それから多めのご飯と肉を好きなように頬張った。


「あれ、シン君早いね」

 美味しい料理を堪能していると見知った声が俺の名を呼んだ。

「シェル先輩達も、早いですね」

「街をいっぱい歩いてたらお腹も減るもんだし」


 その後すぐに残りのレイとセレスも合流し、みんなでご馳走になった。その時、リア先輩を筆頭にこの街の名所を自慢げに話された。


「じゃあ、おやすみー」

「おやすみです」

「おやすみなさーい」


 各それぞれ部屋に戻るのを確認すると、俺は入った部屋をすぐに後にした。


 そして、みんなのさっきの話の中にもあった、この国ほぼ全てが見渡せる丘。そこに足を踏み入れる。


 ……魔力をできる限り凝縮し、作った半透明のペンを浮かせて魔法陣を描く。マキに教えられた魔法陣だ。


 すると魔法陣はぐにゃりと曲がり、一体に縮んでいった。そして人型を象り、そこでパンッと余韻を残して破裂した。

「……久しぶり」

「うん、久しぶり」


 会って嬉しいはずでも、この世界でその姿を前にすると未だ何故か緊張してしまう。


「マキ、領域乱戦のことで話って?」

「うん、協力して欲しいってのは言ったけど、それにちょっと問題がありそうなんだ」


「問題?」

「今年の領域乱戦が特別って言ってたから調べてみたんだけど、その内容がかなり面倒みたい」


 俺は、マキにレイとマキが接触してしまう可能性のある領域乱戦で関わりがないように頼まれた。

 マキから言い渡されたのは、それに俺の協力が難しいものだった。


「毎年『領域乱戦』は巨大なフィールドにメンバー全員が召喚されて最後の一人になるか制限時間が来るまで戦い続ける、でも制限時間はすごく長いから今まで時間で終わったことはない。ってのが恒常化してる競技だってのは知ってるよね」

「うん、先輩から聞いたよ」


 ここまでは全て事前に自分も知った内容だとスラスラと聞き入れるが、その次の言葉でとてつもない突っかかりができた。


「毎年ツーマンセルやスリーマンセルで行動する人達もいたし、それができるからシンの協力も簡単に貰えると思ったんだけど、今回のは相手が誰か分からないんだ」

「……ん?」


 『相手が誰か分からない』理解が十分に追いつかない言葉に気を取られた。


 英語のリスニングで、分からない。曖昧な文を聞いて一瞬聞こえている内容から気が逸れると、すぐに着いて行けなくなる。俺は先を言われていないこの場合でもそれが起きた。


「えっとね、相手がいるのは分かる、見えるんだけどそれが誰か識別出来ないような仕組みらしいの。簡単に言えば、みんなが着ぐるみを着て領域乱戦を行うみたいな」


「……あぁ、ってそれ、めちゃくちゃ厄介じゃんか」


 マキの例えが本当に分かりやすく感心したせいで、その厄介さを理解するのに数泊掛かった。


「うん。相手が分からないんじゃ強敵への作戦だって無駄だし、1人じゃ戦力にならない選手だっている。それにもしかしたら味方同士で戦ってるかもしれない」


 その制度考えた奴、相当に良い性格をしていると見た。

「で? それを俺に伝える為だけに呼び出したってわけ?」


「うん、私達だからシン達との判別については大丈夫だけど、混乱したまま始めるより落ち着いて競技を始めた方がやりやすいと思って」


 駄目だったか? と不安がる様子も考える様子もなく、凛然と語る。


「それと、運営は私達代表者の対応力も測る為に説明した後すぐにフィールドに飛ばす気みたいだよ」

「なるほどね……おっけ、ありがと。俺もがんばるよ」

「うん」


 久々にマキと沢山話せてよかった。思っても口に出すことは出来なかった。レイを、仲間外れにしているような罪悪感があるせいで。


 だからただ一つ、今俺が言いたいのはこれだけだ。


「終わったら、俺もレイも楽しみにしてるからな」

「……うん、私も」


 じゃあ、と挨拶をすると、マキは1枚の魔法陣が描かれた紙を異空間収納から取り出し、それを発動した。半透明の魔法陣がマキを包み、さっきと同じく破裂する頃にはマキの姿はなかった。


 俺は帰る気にはなれず国が見渡せる丘、『イストリアの丘』に佇まい自然を思わせる夜景を凍てつく風を肌に感じながら目に焼き付けた。


 ―――――――――


 翌日の午後1時辺り、着替えたもののまだ眠くベッドに横たわっていると、コンコンコンコンッと多めのノックが響いた。


「だれ……? またセレスとか……?」


 昨日と同じようなノック方式にセレスかと扉を開けると、セレスとは違う見知った顔がいた。


「よ、シン。遊ぼーぜ」

「ザック……アレク……」


「あー……ごめんね? 急で。ザックが聞かないもんで」

「いーだろ別によ」


 青髪の好青年が俺の眠そうな顔を見て気を使ってきたのに、銀髪のヤンチャ小僧が一蹴で正当化した。


 いや、ザックに責任を押し付けたのを振り払っただけか。

「まぁ、いいけど……遊ぶっつっても何すんの?」


「ザックが言うには街を探索しようって言ってる。それともう一つ要件があるんだ」

 ザックが興味深そうに部屋を覗き込んでいる中、俺は無視してアレクと話をした。


「シンはさ、もう自分が2年生になってること分かってる?」

「ん? …………あ、そうじゃん。俺もう2年になってるんだ」


 そういえばそうだ。時期的に考えればすぐ分かることなのになんで忘れてたんだ。


「あぁ……みんな忘れてるのか」

 みんなというのが気になり聞くと、アレク曰く俺と同じ1年……いや、2年生の対抗戦メンバーも全員2年になってることを覚えていなかったらしい。セレス以外は。


「まぁ、対抗戦メンバーの人は予定が重なって始業式に参加出来ないからしょうがないっちゃそうなんだけどね」

「ほぉ、俺もなんかの式には参加したいな」


 思い出してみると俺はソルセルリーの式、何一つとして参加出来ていない。

 気付いたら式に参加したい衝動が湧いてきた。


「それで年が上がるにあたってクラス替えがそりゃある訳だけど」

「まさか、俺落ちた……?」


「安心してよ、僕達Sクラスは誰一人として変わらなかったって伝えに来ただけだから」

 成績を保てたことに安堵するとザックが耐えられなくなったのか早く行こうと急かしてきた。そして俺達は、街に繰り出した。


 なのに、どうしてこうなった?

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