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第74話 まものともんすたー

挿絵(By みてみん)


 私はその時、ただこうなって欲しいなと曖昧に望んだ。その結果がこの雷製のローブ魔物モンスターだった。


 その事実から、突飛で反則的な仮説が立った。


 もしや、自分の望みを叶える能力……言わば、『具現』? いやまさか、そんな深淵級スキルみたいな能力ちからが共振融合で使えるようになるなんてないとプロットさんは言ってたのに。


 それでも実際に『具現』していることには変わりないからレイは混乱に包まれた。だが、これまでにレイは何度も謎に包まれた経験があった。それ故に、その状況下でのやり様は既に学んでいた。


「いくら考えても答えが出てこない……むしろもっと混乱する。こんな時はやっぱ、気にしないが1番だよねっ」


 知らないと実体のない恐怖に苛まれ無知が怖いシンに比べ、幼馴染みはその逆で無知でもなんとも思わない。むしろ知って傷付くことがあるなら知りたくない。

 真逆の考えを持った2人がここまで相性良く親しくなったのは、中途半端に同種ではなくきっぱりと正反対だったからこそだろう。


「もし本当に私の特化能力が『具現』なら……思い切って思う存分利用させてもらうよ!」

 これの制限について知れるし? と正当化して片付けると早速何を望もうかと考えた。ここは今実体化させたローブ魔物モンスターを動かしてみようか。


「よし、ナリちゃん。クロちゃんをその鎌で切ってみて!」

 するとレイが言い切る前。考えが纏まった時には、ナリちゃんことレイサイド魔物モンスターはクロちゃんことSランク魔物モンスターに襲いかかっていた。


 Sランク魔物モンスターはそれを自前の鎌で迎え撃とうとドンピシャのタイミングで、打ち勝ってカウンターを仕掛けようと十分に込めた力で思い切り振り切ると、鎌は振り抜けた。


 あまりに自然な不可解な出来事に、黒ローブはその事象がおかしいと気付くのさえ遅れた。


 黒ローブは相手の鎌を打ち返そうとした。すると作用反作用の法則に沿って自分に抵抗が来るはず。

 なのに現実はそんなこともなく見事に振り抜かれた。……敵をすり抜けて。


「わぉ。これも思うがままに変えられるんだ」

 レイが試したのは、魔物モンスターの性質変化。


 さっきまではその存在が消えないよう固定するために念の為実体のある雷。言わば硬い雷で構成されていたが、急にすり抜けたら強いよな。と思うと想像は現実で応えられた。


「フゥゥゥッ!」

 風が通り抜けるような忌まわしげな声を上げ、黒ローブは自身の体を黒い瘴気に霧散させた。

 レイの魔物モンスター、レイ命名『ナリちゃん』の雷鎌は霧を切っただけに収まった。


 霧散した黒ローブの霧は警戒の表れか少し距離を置いた位置で一体に収束し、黒ローブ本来の姿を取り戻した。


「うーん……ナリちゃんだけ戦うの飽きたなぁ。決めた! ナリちゃんもういいよ。私も戦いたい」


 新しいゲームを買ってもらった子どもがいち早くそれを試したいように。新たな技術を習得した者がそれを披露したがるように。レイはうずうずが抑えられなかった。


 自分が戦闘に出る合図として、創ったナリちゃんを雷が自由に羽ばたくように無に還した。


 仮説『具現』を正答と考えるとして、今何をしたいか考えた。


 自分の背から生えた大きな翼が見える。右を見れば神聖な。左を向けば禍々しいものが。当然、翼を見れば誰でも思うよね? レイはこの世界でも数人しか出来ないという超技に挑戦することにした。


「この翼……飛べるのかな?」

 そこで冷静なレイが挑戦を一瞬邪魔した。その一瞬で頭の回転は悪くないレイは至る。


 今は学園対抗戦の最中で、自分の映像は大衆に目撃されている。つまり今出来ることを見せてしまうと、手の内を明かすことになってしまう。


 右手を勇敢に振る。挑戦が見えてしまわないように自分の周囲6方向に1発ずつ黒い稲妻が落ちた。

「ハッ!」


 瓦礫が粉砕し、誕生した埃が放送用魔道具の邪魔を果たす。

 その間にレイは少しだけ飛びたいと願った。


 すると、本当に少しだけ。レイの理想通りの高度を確かに飛んだ。


 ……やっぱり出来る。ほぼ確信していた予想が当たり気が済んだところで放送用魔道具を警戒してすぐに飛行を解除した。


「さてさてさーて……まだまだいっぱい戯れようね? 私のモルモットちゃん」


 現実主義リアリズムより夢主義ロマンチズムのレイにとって試したいことはまだまだ尽きるはずもなく、むしろ夢が叶えられるかもという夢のような話が目の前にあることによって妄想、願望は膨らんでいった。


 ―――――――――


 フェラス学園専用の観戦ルームでは、私以外に人はいなかった。持ち前の集中力で久方ぶりのレイの姿を目に焼きつける。


 早く逢いたい。話したい。触れたい。声が聞きたい。肌で感じたい。逸る衝動をまだその時じゃないと我慢しながら。


「あ……ルーベル。レイに変なことしなきゃいいけど」

 ルーベルは私と同じタイミングで入学した少し特別な境遇の子だと聞いた。なぜだかここに来た途端に勝負を仕掛けられ、私が勝つと簡単に黙って言うことを聞くいい子になったよく分からない子だ。


 でもなんとなく分かる部分もある。剣道の世界にもいた。というより、武道の界隈には絶対にいる人種。

 自分の尊敬している人物。または勝てない、強い相手には従う。他は見下すといったのが、今のルーベルには当てはまるんだろう。


 私の境遇はルーベルも偶然から知り、無理やり吐かされたことであの子とローレイ先輩、そして学園長はシンとレイの存在を知っている。

 中でもルーベルはその話を興味ありげに聞いていたから、何か変なことをしないか心配だ。


 すると案の定、ルーベルはレイに襲いかかった。

「うわ……レイの強さは分からないけど、あのルーベルに勝つのはキツいんじゃないかなぁ……? この競技にルーベルが出ることは失敗だったかな」


 心の中でレイに謝罪したけど、そんな謝ることでもなかった。


 ──そういえばそうだった。レイは何かとトラブル解決力を持っている。想定外の事件にも的確に対処するから、クラスで何かをする時のリーダーにされることがよくあった。


「……そのトラブル解決力持ってるせいで、レイはシンを躊躇わずにトラブルに遭遇させてたんだよなぁ」


 ご愁傷様。とシンを傷みながらレイが言葉だけでルーベルを崩した映像を真剣に見る。


「随分と真剣に観戦しますね」

「……あ、ローレイ先輩。それは、まぁ」


 私の歯切れない様子を見て観戦ルームに1人でやってきた先輩は察したようだった。

「なるほど、この子が貴方の言っていたレイ=コウサキですか。流石マキの幼馴染みの1人と言いますか。戦い慣れしていないはずの異世界人がここまでの強さを持つとは」


 今流れている映像はレイが黒ローブを纏った魔物モンスターを横取りしているところ。こんな場面なのに一目見てある程度の力量把握ができるあなたは一体どれほどの実力者なんだ。


 敬語も忘れて質問攻めしたくなる。そんなことを冷静をメインとしている私は悟られたくなく、別の話題を用意することにする。


「ところで、前々から聞きたかったんですが魔物まもの魔物モンスターって何が違うんですか?」


 フェラス学園の課外授業で1つ、魔物狩りの授業がある。そこでは魔物まものと呼んでいたのに、今回は魔物モンスターとしか言っていない。


 無理やりな話題転換だが、本当に気になっていた疑問をぶつけた。


「あぁ、そういえばマキは異世界人でしたね。あまりに反則的な力なので戦い慣れしていないという異世界人とは思えません……いえ、異世界人だからこその強さ、ですかね?」

「あの……」


「おっとすみません。魔物まものは、放っておくと強大な害になるので、普段からハンターや冒険者、軍。たまに学生が狩っている自然的に発生した魔力を持った人間以外の生物というのは知っていますよね?」

「はい」


「では魔物モンスター。これは、魔力を持った人間以外の生物というのに変わりはありませんが、人為的に創ったというのがポイントです。つまり自然的か、人為的か。それが2つの分け目になります」


「え……」

 魔物モンスターの説明を聞いて、思わず絶句してしまった。驚愕すべき恐ろしい事実に。


「……それって、例え魔物だとしても、生命を創ることが可能ってことですか?」


「あぁ、説明不足でしたね。安心してください。そんな残酷なことではありません。所詮は人が創った代物。体は魔力の塊ですし、脳もありません。製作者の指示通りに動く。ですから使われるのは訓練や、こういう祭り事だけです」


 なるほど、つまり魔物まものは害のある魔力を持った人間以外の生物。魔物モンスターは死に至るほどの害はない魔力を持った人間以外の生物。という感じか。


「ありがとうございます」

 説明してくれたことに礼を言うと、新たな疑問が浮かんできた。


 いくらなんでも、魔物モンスターを創るのが簡単なことではないはずだ。魔力だって、こんな数を超速で創るのに膨大な量が必要なはず。そんな力の源がどこにあるのか。


「どうやって『限界闘技』の魔物モンスターを補充してるんですか? 一体どこで、どれだけ多くの人が……」

 巨大な宗教が不穏な儀式を行っている様子が目に浮かび、嫌なものを想像してしまったと思うと、気持ちを塗り替える驚きの答えが帰ってきた。


「たった1人でやっているんですよ。……本当に流石です。サンクテュエール王国四天王第1席、メイタール=レイザー様」

「え……まさか、その人1人でこれを担ってるんですか!?」

「昔から全てあの方が1人でやっていますよ」

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