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第72話 共振融合

挿絵(By みてみん)


 レイ自身とて、なぜ見知らぬ少年に対してこんな接し方をしたのかは分からない。


 ただ、見ていてこちらも痛くなるその様を見ていて、耐えられなくなっただけだ。

 だからあの少年の渾身の一撃。レイにとっては抵抗できずに生を奪われるであろう攻撃を前にしても、臆せず語りかけた。


 魂が抜けたように呆然と崩れているその姿を見て、今もレイは胸を痛める。


「……ねぇ、君、なまえ……なんて言うの?」

 少年がどうしても知りたそうに訊く様は、先の狂的な憎悪からは想像もつかないほど弱々しかった。


「……レイ=コウサキだよ。君は?」


 一瞬驚いて言葉に詰まったが、少年の憎悪が消えたことが分かって嬉しさを感じながら答えた。


「ボクは……」

 少年は思った。この人に、自分の真名を呼んで欲しいと。でも、思い出せない。


「ルーベル。ルーベル=ソリアって呼んで」


 真名を告げられずに名前すらも呼んでもらえないというのは耐えられなく、仕方なく妥協して学園で使っている『静寂の戦姫』ローレイ=クライアに命名された名を教えた。


 ローレイはルーベルを貧民街から拾ったフェラス学園の学園長に、ルーベル自身に起こった全貌を聞いている。その上で名付け親に任命されたローレイは、ルーベル=クライアと提案した。


 空白で欠落感を感じていると考え、その上で自分と同じ家名を提案した。


 だが少年は断った。内心嬉しみを感じたが、プライドの鎧を被った。


「ルーベル……うんっ、よろしくね?」

「うん……」

 先の目視できるオーラはいつの間にか消えているが、目視できないオーラは同じものを纏っているレイの笑顔は、ルーベルの心の雲を全て払った太陽だった。


「じゃあ、私はもう行くね? うかうかしてたら他の学園の人達に負けちゃうかもしれないし」

「え……」


 もう行ってしまうのか。それと、ボクにトドメは刺さないのか……? 疑問や切なさが飛び交い、戸惑った。


 レイは急ぎ、また種目1位を目指して走り始めた。


 取り残された少年は立ち上がる。再生した魔物モンスターが襲ってくるのを、目線すら動かさず、何事もなく返り討ちにする。


 なんて、温かいんだ。


 少年が初めて感じた、人の温かみ。自らの行動によってそれから疎遠になっていたことを後悔した。


 種目攻略に戻ったレイは、すぐに魔物モンスターを見つけ出し、殲滅を始めた。

 さっきの戦闘の名残か、身体の動きも魔法の威力もいつもより軽く重い。


 順調になってきたが、レイはまたも違和感を感じていた。


「ルーベル君以外の参加者の、誰とも会ってない……」


 その実、レイとルーベルの闘争は、周囲にも甚大な被害、影響を与えていた。


 自分らとはかけ離れた次元の戦いの気配に、他の参加者は安全を取り全員がレイ達から逃げた。過信し向かってくる馬鹿な者など、誰もいなかった。


 その事実は、レイやルーベルより強いものがいない……いや、力不足な者しかいないことを物語っていた。


 他の参加者の気配がないことを正確に察知したレイは別の目標を立てた。レイが1人では倒すことが出来なかった魔物モンスター。Sランクだと思われる黒ローブの奴だ。


 アイツに負けたままってのは、絶対嫌だよ?


 自分に意見を容赦なく聞く形でぶつけ、鼓舞する。それはとても有効で、溢れた力に追いつくように気分がアガってきた。


「Sランク……Sランク……どこだぁ? くろちゃーん?」


 すると当分走っていたのか、他の代表者の嘆きが聞こえた。それを屋根から見下すように伺うと、お目当てのものが発見できた。


 どこかの代表者と、Sランクと思しき魔物モンスター。その二者は真剣に対峙している。代表者のほうは、ボロボロになっている。

 何度か構えている鎌と三叉槍トライデントを交え、代表者の方が察した。圧倒的な力の差を、とレイは推理した。


「ねぇ、その魔物モンスター、私がもらってもいい?」

 レイは水を差すことに躊躇わず、代表者に大声で話しかけた。


「……!? ……」

 代表者は驚いた。この種目の中でこんな化け物を相手にするのは割に合わない。時間の無駄なのに、そんな提案をしてくるなんて余程の馬鹿か、それとも実力者か。そしてそれをしてお前に何の得があると。


 だがこの窮地を脱することが出来るならと、何も聞かずに頷いてレイに託した。


 魔物モンスターに背を向け急いで逃げようとする代表者を黒ローブは追おうとするが、レイが間に立ち塞がってそれを食い止めた。


 獲物の捕獲の邪魔をするレイを、魔物モンスターは卑し気に見つめる。襲うことを忘れ、首を傾げて。


「さっきの奴じゃないことは分かってるけど、八つ当たりとして倒させてもらうよ……全身全霊で! ——行くよ、雷華? アポロン!」

 共振武器のめいを呼ぶと、2人は共鳴するように耀ひかりを灯す。各共振武器の色である、金と銀に。

 光と共に、音のような聲が強烈に響いた。


「雷華……アポロン……」

 レイは嬉しそうに言った。レイ以外の者では、その音が聲だとも分からない一つの音は、しっかりと二つの聲としてレイに届いた。そして、それが自分の共振武器、雷華とアポロンだということも。


 姿は見えないのに、そこにいるような感覚がする。自分に手を差し伸べている様が見えている。


 その2つの手を……そっと、しっかりと握りしめる。


 ぐっ。

 しっかりと握りしめたからか、なんとなしにそんな音が出たような気もした。


 またもや目視できるオーラ……ではなく、魔力が溢れ、ある程度晴れてくると変容したレイが見えた。


 片方には神々しい翼そして……もう片方には、禍々しい翼を背負った姿が。


 黒ローブの魔物モンスターは思わず身を引きそうになった。これが、Sランクたる所以だ。


 頭脳。それがSランクとその他の圧倒的で、決定的な差。訓練で殺し合うのと、本物の殺し合いを行うのでは紛れもない隔たりがある。それと同じほどの力量の差をSと他ランクは持っていた。


「……また」

 まただ。最近よくこんなことがある……というより、多い。多すぎる。これを覚醒状態とするならば、なぜこうなったのだろうか。おかしいとは思っても、これをやめたいとはレイは思わなかった。


 そしてこの状態が共振融合をしていることも容易に分かった。師から、共振融合状態での能力は十人十色。試すまで分からないと言われた。なら自分は何なのだろう。

 手始めに、魔力を雷に変えて放出してみた。


 すると一閃が響いたと思った時には火爆が起きていた。それでも、魔法特化が能力ではないと勘で分かった。ただ、こんなにも基礎能力が上がるのかと感心した。


「まぁいいや。ただ時間は目一杯あるんだし……思う存分、実験台になってもらうよ?」

 威圧のある言葉に、黒ローブはあるはずのない本能で身を震わせた。

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