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第71話 理想と正解

挿絵(By みてみん)


 今まで姉のことなんか無理やり忘れていた、なのにレイの少年に対する姿勢のせいで思い出してしまった少年は、もう一度忘れるため、根因を絶とうとした。


「オマエは……ボクの中からいなくなれえェェ!! 魔絶の咆号!」


 少年は今までで最も殺意を込め、威力も込めた最大の一撃を万全の憎悪で放った。つもりでいた奥底でそれが偽心から出た八つ当たりの感情だと気付いていたが、本心で気付くのを拒否していた。


「もうッ! あんなことにはならせない! ボクの目の前で……ボクの領域内では!」


 いつの間にか本心が溢れてしまい、少年は本当に無意識で叫んでいた。


 本来少年は、心優しい少年だった。だが自分と、血の繋がった姉を産んだ両親の内父親は自分らを捨て、俗に言う貧民街に母親と子の2人は残された。


 なんとか母親が生計を無理やり立てていたが1人で3人を養うのは無理があり、少年が5歳になったばかりの時、終に病死してしまった。


 それからは、7歳歳の離れた姉が少年を育てた。

 不幸の中の幸運か、あまり歳の行っていない少年にとって両親の存在はそれほど大きなものではなかったため、その捨て事と死は言う程響かなかった。


 その分記憶の大半を占めている姉の存在がとてつもなく大きかった。


 だが少年の戸籍、出身は世間的に貧民街となる。貧民街に触れてしまったが1度、その人は一般に戻ることが難しくなる。少年もそれを分かっていたが、甘く見ていた。


 国にはもちろん温かい人もいる。貧民街にいたからこそ、それを痛感していた。だがある日、王族が国に帰省した時にパレードが行われた。


 その時に見てしまったのだ。

 王族の後列を歩く貴族。その従者として歩を進める幼い頃に見たはずの大人の姿を。


 最初に気付いたのは姉だった。思わずお父さん! と叫んでしまったが、観衆の歓声で少年以外の誰にも届くことはなかった。


 姉の気持ちにはまだ家族を再構築したい、出来るとの思いがあり、近づこうと頑張って掻き分けようと腕を踠く。それでも国民の波が反乱分子を排除しようとするばかりに姉と少年を弾き出した。


 父親を見るけるだけになった黙寂の日は、いつもと何ら変わらず空しく終わった。


 そんな家族を想う姉を見て喜ばせる為にと父親に近付いた無垢な少年は、幼い頭では考えなかった、王族貴族の闇をトラウマになるほど痛感することとなる。


 父親も家族としてもう一度接することができると信じて疑わなかった少年は、実父がその日行くと情報を得た王城に希望を持って会いに行ったがそこで精神に猛毒を喰らい、幼き少年の人格に支障をきたすのにそれは充分過ぎた。


 絶望で何も考えられなくなった少年は王族に反乱を起こした。特別な体質を持つ少年は怒りから力のコントロールをすぐに覚え、取り押さえられる者はそこには誰一人としていなかった。


 瞬で圧倒的な力の差を見せつけ、畏怖を大量に抱かせ充分に嬲って蹂躙を精神毒で侵されたことによる狂気で悦んだ。


 見える範囲の王族を殲滅達成に満足した少年は姉に褒められるだろうと思って軽い足取りで貧民街に戻って行った。


 少年の期待とは裏腹に、実際にあった事実を嬉しそうに告げられた姉は少年を叱咤した。1番最初に、少年をっていた。


 それは父親を殺した、王族に反乱し滅殺したなんてことにではなく、少年が危険を冒してしまったことに対しての心配と愛からの行為だった。


 まだ未発達な少年はそれが理解出来ず、王族を守る者達……先程殺した奴と同じ理由で襲ってきたと捉えた。


 なんで……。僕はただ、お姉ちゃんのためにしただけなのに……。


 今まで少年は、自らの考えで行動してそれを褒められた経験がなかった。生きるのに必死で、姉もそんなに余裕が持てなかったのだ。


 正しいって、なんだ?


 姉が言っていた。父親が、正しいことをすれば、必ず褒められる。正しいことをしていれば、必ずいいことがあるんだ。と言っていたと。


 少年にとってそれは正しいことだったのに、褒められるどころか叱られた。少年は『正しい』が分からなくなった。


 分からないよ……正しい……じゃあ、僕が『正しい』を創ればいいんだ。


 歪んだ生を貫いてきたことにより、歪んだ思考を持ってしまった。


 力があれば負けることはない。負けなければ、叱られもしない。勝てば、正しい。


 それから少年はあらゆる強さを手に入れるため、あらゆる手を尽くしてそれを追い求めた。


 勉学は、塾の講師などを圧倒的な力で屈服させて無理やり教えさせ、武道に対しても同じやり方で、思いつく限りのことは全て吸収した。


 ある日、貧民街の不良……数人が集って1人をいたぶっていた光景を見た時、少年は怒りを覚えた。


 なんで、抵抗しようとすらしないんだよ。なんで、強くなろうとしない? そうやってずっと下手に回ってやられっぱなしのままいるのか?


 いつしか少年の考えは、正しいことは強いことと置き換わっていた。


 そしてついでに、集団で群れなければ何も出来ない不良にも腹が立った。


『ねェ』

『ア? んだテメェ』


 冷静を欠いた少年は気がつくと、そのいたぶっていた側といたぶられていた側の両方を屠っていた。


『あーあ……』

 つまらないことしたなぁ、と後悔とまではいかないが残念がった。時間の無駄と言いたげに。


 その時、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 少年はいつも、学園でも親に付けられた真名まなを使っていない。


 嫌だからとか、そういう理由じゃない。ただ、忘れてしまったんだ。永い事呼ばれることがなかったから。思い出せないんだ。最後に呼ばれたのも、この時だった。


 久方ぶりの姉は自身が見た一部始終のこと、そして知っている限りの少年の素行をまた叱った。


『やっぱり……! オマエも同じなのかよ……!』

 少年の心にも、家族愛はもちろんあった。血筋の同じ姉が大きな家族愛を抱えているように。


 振り返って姉から離れようとした天邪鬼あまのじゃくの少年を引き留めようと、姉は寂寥を持って後ろから盛大に抱きついた。


 家族から抜け出そうと決意した少年はそれが嫌になり、一思いにその身体を穿うがった。


 少年は贖罪を必死にする哀しく愛した姿を見て、自分がしてしまったことを今更理解し本気で後悔した。

 後、その経験から変わり果ててしまった。


 一瞬にしてその全ての出来事を思い出してしまった少年。ただ1つ、自分の真名だけは、思い出せなかった。


 そんな不安を振り払うよう、レイに向ける魔法を思い切り強めた。


「君に何があったのかは分からない。でも、その様子を見て辛いことがあったのは察せるよ」


 迫ってくるそれは、気を抜くとほぼ絶対と言える確率で死ぬというのに、レイは構わず少年に語り掛けた。


「でも、ちゃんと思い出して欲しいな。絶に君が思っていることだけが正しいって訳じゃない」

「…………! ふ、ざ……けるなぁ!!」


 『正しい』って訳じゃない。その言葉に遂に耐えられなくなり、限界の攻撃を覇気で強めようと努力する。


「……星と言う物が牢獄に感じられる人もいるかもしれない。でも、自分らを真空の宇宙から護ってくれている結界とも取れる」

 初めは全く関係なく意味のないものと思える話でも、少年は無意識にレイの言葉に聞き入っていた。聞いていないつもりでも聞かないようにしても、脳に直接入ってきた。


「ほら。人間1人だけじゃ、正しいことなんて分からないんだよ。人間色んな人が集まって、それでみんなの理想が自然と『正しい』ことになっていくんだよ」

「理想……」


 お姉ちゃんは、僕に、どうして欲しかったの?


 本能。心の奥底で自然とそう思った。一切考えず、無意識に出てきてしまった思考。


 少年は気付いた。この思いこそが理想……ボクの、正解。


 少年のレイに向けた当てずっぽうな八つ当たりの殺意は、少年が膝から崩れ落ちるのと共に儚いものと散っていった。

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