第69話 理由としてエゴ。理解として……
荒紫天濤発動した直後、ナニカが天から飛来して祭りを起こした。
その驚きからか、ガクンと地に膝と手を着いてしまった。本当は分かってる。なぜこうなってしまったのか。
驚いたからこうなったわけじゃない。びっくりはしたけど、それだけならすぐに立ち上がれる。
なのに今は全く動けない。
英雄級神雷纏い拾ノ型 荒紫天濤の発動が充分に成功した。したが、その分の魔力消費だって普段に比べて比にならない。当然、魔力切れを起こした。意識が無くならないだけ今回はマシだ。前なんて、シンは魔力切れで気を失ったんだから。
「ふうぅぅ…………」
さて、どうするか。先の攻撃でも、この魔物は倒しきれなかった。
ダメージは与えられたが、今はそんなこと全く関係ない。注目すべきは倒せていなく、私は戦闘不能状態ということ、ただそれだけ。
私の苦しい状況を少しでも悟らせないようにと、視線でソイツに威圧を掛ける。ソイツの表情は、ローブの陰で全く見えない。
今どうなっているのか測れない緊張感から、汗が目の近く、頬を伝う。
今襲ってこられたら、すぐに負ける。襲ってこないことに賭けるしかないが、ここにいる魔物は察知した魔物以外の生き物を襲う仕組みになっている。つまり私が見逃される可能性は、0パーセントと考えていい、いや考えるべきだ。
黒ローブの魔物は、優雅にゆっくりと歩いて近づいてきた。そして動けない私の目の前に堂々と警戒もしないで立ち、鎌を大きく振り上げる。
その時は陰で見えない顔も、なんだか不穏に笑っているような気がした。
悔しさと諦めから目を瞑り、口を結んだ時、若い男の子の声が聞こえた。
「……そんなことで終わっちゃうの? つまらないなぁ」
上から聞こえるそれが気になるけど、どうせすぐに私は終わる。だからどうでもいいか、そう思って鎌に当たるのを静かに待った。
でも、いつまで経っても感触はない。え、もしかして……。
にわかには信じられない仮説を確かめるため、顔を上げて状況を視る。
前には、建物の残骸とある程度開けた道。そして、元気に残っている建築物の上に、少年がいた。
魔物の姿はない。
「君は……」
「なんであそこで目を瞑ったの? 確かに今は種目の中だから死なない可能性の方が高いけどさ、死なない保証はどこにもないんだよ? それとも何? もう死んでもいいやって諦めたの? そんなことで諦めるほど、君にとっての仲間って薄い存在だったんだ?」
君は誰。そう訊く前に、まるで私の心を知っているかのようにグサグサと的確に辛い言葉を凶器のように刺してきた。
否定したいけど出来ない。口が動かない。少年を真っ直ぐと視れない。
「……全く、興醒めだなぁ。期待して損したよ」
うんざりしたように背を向けて立ち去っていく。
「君、なんで生きてるの」
「——!」
答えは期待していない声で失望したように呟き、無慈悲な背中を見せつける。
——思い出した。あの言葉を。
『もう! ……嫌だよ! こんなことなら……いなくなった方が……いなく、なりたいよ……!』
『………………ごめん』
弱々しい声で、やっと聞き取れるほどの声量で、囁いた。
『……え』
『ご……めん。泣かないで……生きて……。生きる理由が……いなくなりたいと思うなら……思ったなら……俺のために……生きて……』
エゴでいい。自己中上等。ただ、悲しんでる姿を見たくない。そんな強い決意が、弱々しい声と姿から感じられた。感じられてしまった。
『……なんで……っ! なんで』
『大切、だから……』
その言葉を最後に、真はまた昏睡状態になった。
……なに、諦めてんだろ。バカだなぁ。全く。
自分に呆れてしまうと、誰かが力を貸してくれるように、どんどん込み上がってきた。振り絞って、立ち上がる。
「ねぇ、待ってよ」
言われっぱなしじゃ、やっぱり終われないよ。……悔しいよ。
「……はぁ? なん……え」
少年は驚き恐怖した。尽きたはずなのに、とっくに燃え尽きて、再燃焼するなんて、有り得ないのに!
……なんで、そんなオーラを発せるんだ!
眼には、ゆらゆらと黄金のオーラを強烈に目視できるほど発するレイの姿が写っている。
「ごめんね……もう、大丈夫だよ」
私は微笑んだ。




