第67話 限界闘技
気が付くと、俺は覚えのあるベッドに横たわっていた。
不審に感じてすらっと上半身を起こすと、辺りを見回す。ここは、今俺達が泊まってる宿の俺が借りてる部屋か?
「なんでこんなとこに……?」
いや、普段こんなことがあっても、いつも通り起きただけと思えるだろう。
でも、俺はレイと出掛けていて、鬼ごっこをしたはずだ。その後休憩したことも覚えてる。だが覚えてるのはそこまで。
それ以降のことが全く思い出せない。
何が起きたのか分からない。拭いきれない嫌悪感からどうにかして思い出そうとする。
それでも思い出せない。
その時、何かのシーンが脳裏にチラついた。
「うっ……!?」
フラッシュバックに驚いたわけじゃない。その時ほぼ同時に現れた痛みに声が出てしまった。
回想のように鮮明に湧き上がる記憶。脳が思い出したがらない記憶が浮かぶ。
結局レイを公園に引き留めることは叶わずに、むしろレイが公園なんかにいる場合じゃない! と気付いてしまい、午後はいつもより急いでいるレイによって至難の道を通った。
思い出すだけで足が痛むほどに。
「ぅわあぁあ……」
それが嫌で嫌で身体を捻るように寝に戻る。……でも寝るのはまずいので途中でやめ、寝ようとなんかしてないことをアピールし、ベッドを降りて立ち上がる。
「どーしよ……」
昨日休みだったってことは、今日は学園対抗戦本番の日だ。でも窓から入る日は少し紅く、まだ早朝ということの証明となっている。
これからの時間を、どう過ごそうか。
今座っている椅子の正面から見て斜め左方向にある廊下。その奥の扉から、陽気な声が聞こえた。
「シンー」
なんと、鍵を閉め忘れていたのかキシキシと足音を立てながら俺のいる場へ向かってくる。
「なんで当然のように入って来とんねん……」
「な……シンが……起きてる」
この宿の部屋の構造は木製で、バスルームやその他諸々を除いてベッドや椅子、机付きのワンルーム。
そのたった一つの部屋。リビング且つ自室且つ寝室的存在に入るのとほぼ同時に俺が言葉を発し、それによりレイが身を大きく引いて愕然とした。
「そんな驚くこと……驚くことか」
ただ起きただけでそんなに驚くか……頭を折って諦め残念がったが、ふと考え直した。
俺は昨日、影魔法のアラームとして使っている魔法を起動しないで寝たはずだ。ということはつまり、俺が本当に自然と起きたことになる。
おそらくレイもそれを分かっていたからあんなに驚いたんだ。
「なんで……? あれ、ほんとになんだろ」
いつもの行動からして俺が素で早く起きることなんて前例ないのに。
「……ま、いっか。今日本戦なんだし、早く起きて損ないよ」
「今日の種目ってなんだっけ?」
昨日の鬼ごっこが印象的過ぎて、頭から離れてしまった。
「はぁ……もぅ、私が出る種目くらい覚えててもいいのに。『限界闘技』だよ」
……あぁ、そういえば実況さんが観客の歓声がなくて悲しんでる中頑張って取り繕いながら説明してたな。
『では、今種目、『限界闘技』についての詳細説明を改めて行わせて頂きます。まず参加される各学園の代表者様は、我々が用意する場に、自由に散っていただきます。そして一定の時間が経つと、ランダムに幾億の魔物が配置され、代表者様にはそれを狩っていただきます。そして、時間内に獲得した最終ポイントで優劣が決まる仕組みです』
「ええっとつまり、沢山魔物を倒せば良いってことかしら……?」
先日までの野太い実況さんではなく、洗礼されたような美しい声の持ち主の説明に対して、シェル先輩が納得いかなさそうに思考を述べると、追加説明をするように声が響く。
『もちろん、ただ多くの魔物を狩れば勝てるなんて野暮なこと、我々もしません。配置される魔物には、それぞれ強さに応じてSからDの、5段階にランクが付けられています。Dの場合、獲得ポイントは2ポイント、Cは3ポイント、Bは5ポイント、Aは7ポイント、Sは……4ポイントです』
「ただ闇雲に倒し続けるだけじゃ駄目、Sはできる限り無視……が妥当か?」
今度はマギアスが納得したような、でも迷いがあるような声を出した。
『ですが、Sランクを倒した場合、その4ポイントは学園のポイントにそのまま追加されます!』
「……なるほど? 種目で勝ちに行くか、ポイント稼ぎに徹底してある程度のポイントを確実に取るか、か」
でもSランクなんて言うくらいだ。種目で勝ちに行く方が全然勝ち目はあるだろう。メリットはあるが、Sの強さが分からない限り、危険だ。
『そして最後に、魅力点というものも、加算されます。魅力点というのは、審査員が代表者の活躍を観戦し、その感銘度によって付ける、特殊点のことです』
派手に魅せる……レイならノリノリでやりそうだな。
『説明もこれで以上です。では代表者の皆様、係の指示に従い会場に転移ください』
すると『障害物競走』の時と同じように、メインスクリーンが8つほど表示された。
『では、これより5分後。スタートとなります』
―――――――――
まだ猶予は5分足らずあるけど、もうここから勝負は始まっているだろう。
見るにここは、障害物競走で使われた場所と全く同じ。
どこにどんな魔物が出るか、ある程度の予測して動かなきゃすぐに差をつけられるだろう。
「でも、こういうのよくわかんないんだよなぁ……」
悩みながらも敵策は浮かばす、適当に足を動かしながら、街を見つめる。
「シンならこういうの、得意そう」
ぽけっとしながらも、しっかりと体内時計で時間は計っている。残り、16秒だ。
5秒。全方位、どこから来てもいいように注意を向ける。
4秒。いつでも対応できるよう、双銃を持つ両手に力を入れる。
3秒。対応性を高めるため、そこら中に自分の魔力を展開する。
2秒。人差し指の感覚が鋭くなる。
1秒。決意を固める。
0秒。コンマまでぴったり、その瞬間に青い光柱と共に鉄の装甲を纏った手のない竜らしきものが私の周りに5体ほど現れた。
これは一体、何ランクなんだろう。敵の力量を確かめるように弐ノ型 光鞭で薙ぎ払う。
街の建築物は派手に壊れるが、魔物は平然と起き上がり、私に向かって来た。
でも、遅い。スピードは全然ない。
「捌ノ型 八咫烏!」
両銃を使って形状を16発の弾を同時に放つ。全てが命中するが、それは動きが止まる程度。数秒経つと、また向かって来た。
こいつ……防御特化の魔物か!
初手から面倒なものに当たってしまった。舌打ちを放ち、それと同時に漆ノ型 蒼穹と迅雷と使って5体全体をできるだけ1箇所に集める。
ディザイアがやっていた、戯礫砕で私達を集めたように。その戦法で私も砕く。企みは見事に成功。
「参ノ型 万雷の圧・八方塞城!」
機械音にも似た断末魔を上げながら、鉄の魔物はパリンと音を立てて白い破片に割れて行った。
現在獲得ポイントと、魔物のランクは教えられないシステム……。
相っ当頭を使いながらやらなきゃ、厳しそうだなぁ。
まずは、さっきやった相手じゃない、別の魔物と戦ってある程度のランクを見極めなきゃ。
次の別種魔物目指して身体強化を使いながら建築物の屋根に上り、景色を見ながら走り始める。
「……あれが、レイ=コウサキ。楽しめるかなー」
少年は無邪気な声とは裏腹に狂気じみた眼で、しっかりと姿を捉えていた。
高い位置に傲慢げに座り、片手で顎あたりを支えて。レイを見下すように。笑みを浮かべながら。




