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第62話 偽物の言葉

挿絵(By みてみん)


「じゃあ次はこれ!」

 先の言葉で少し調子に乗ったレイが、ノリノリで着替え終え、中から陽気な声とともに出てくる。


 それに対して出てくる俺の感想はやはり1つ。


 可愛い。


 いや、これはしょうがない。まじで可愛いとしか言いようがないんだから。


 今度は白い水着に半透明に近い生地が使われたパーカーを羽織り、愛くるしい感じが出たレイが出てきた。


「可愛いです……」


 さっきみたいに不安にさせるのは些か申し訳ないと思い、今度は早く感想が言えるようにと注意していた。


 だがその中身とはかけ離れた。清廉さが滲み出る姿を見ていると、俺が見ていいのかと、謎の罪悪感が生まれ、目を逸らしなが言った。


 あと、レイを可愛いと思うのって、小っ恥ずかしさがあるし。


「……なーんか投げやり感があるのは気のせいかなぁ」

「き、気のせいじゃない?」


 実際、本当に投げやりになっているのは事実だろう。


 それは自分でも分かる。


 ただし、本当は可愛くないと思ってるから、投げやりになっているんじゃない。


 むしろその逆。


 本当に可愛いと思ってるからこそ、本物の『可愛い』が出てくるんじゃなく、偽物の『可愛い』が出てきてしまうんだ。


 可愛いからこそ、それを言うのが恥ずかしくなる。結果、本物の『可愛い』は心の中に留まる。


 でもなんとかそれを伝えなければならない。その解決法として、偽物の『可愛い』が相手に届くんだ。


 これは恐らく、俺自身の考えだけど他のことにも当てはまることだと思う。


「む……ホントかなぁ」

 ぎこちない俺の様子に不信感を抱き、疑いの目を向けてくる。


「ほら、次の奴もあるんだから早く着たら?」

 このままこの話題を続けているのは危険だと思い、かなり無理やりだが、変えてそう提案した。


「……じゃあそーするよ」

 不満を感じてはいるが、納得してくれたようだ。


「じゃあ、この3つの中でどれが良いか考えておいてね? シンの返答で決める予定なんだから」

 さっきのことは忘れる代わりに、条件としてこれはやれ。そんな意図を感じる声で釘を刺し、人差し指を俺の鼻の前に控えめに掲げる。


「分かりましたよ……ったく」

 反抗は出来ないし、する意味もなかったので承諾したが、その威圧を前にして謎の敬語が出てしまった。


 まぁ、言葉に敬意は全く込もってないけど。


 しかも俺が決めろということは、しっかり見ていろ。そんな意味も入っている。


 見なきゃいけないのか……。そう憂鬱に思い、少しだけ不満を漏らした。


 そしてさっきの着替える時間よりも、長い時間を使って着替えたレイが、試着室から出てきた。


「ごめんね! ちょっと着るのに手間取っっちゃって……」


 遅れてしまったことを詫びながら、少し焦った様子で出てきた。


 ……スク水姿のレイが。


「……」

「どしたの? シン」


 黙った俺にただ首を傾げ、不思議そうにしているレイ。


 いや、俺が首を傾げたいよ! 何なの!? スク水って!


 おかしいでしょ! 普通そんなの選択肢にすら入らないと思うけど!?


 ……本当はスク水って案外普通で、俺がそのこと知らないだけかな? ほんとは常識だったり……。


「あー……うん。なんでもないよ」

 その説が頭に浮かんでしまい、口論するのを諦めてしまった。


「そ、そう……? あ! じゃあ早くどれが一番良かったか言ってよ!」


 言いたいことがある様子なのに、何も言わない俺を見て少し気に食わなそうにするが、レイにとってはそんなことよりも、そのことの方がよっぽど大事だったようで。


「あぁ……じゃあ、一番最初ので……」

 これを選んだ理由。


 それはごく単純で、簡単なもの。


『消去法』だ。


 最後のスク水は言わずもがな。


 2つ目の半透明パーカー羽織りの奴は、それ自体は何も問題ない。


 ただ、問題点が2つ。


 それを着る人が、レイだということ。そして、地味にパーカーが小さめなこと。


 前にも言ったが、レイの胸部は、着やせするが、水着だと一切自重しない。

 それだけでもう充分だが、このサイズのパーカーを羽織るとなると、当然身体とそれが一緒に視界に入る。


 一緒に入ると、人間の目は大きさを比べてしまう。すると、通常より小さいそれと、普通に大きいそれを比べることになる。


 つまり、ただでさえ大きいものが、更に大きく見えるということ。


 よってレイがそんなものを着ては、これまで以上に目のやり場に困ってしまう。


 それに、他の人がそれを見て変な欲を抱かないとも限らないし……。


 ま、レイなら構わずにあしらうか、襲ってきたら軽く撃退すると思うけど。


 でも、それでも俺の心が嫌だと言っている。


「うーん……じゃ、これにしよっか……スク水もちょっと着てみたかったんだけどな」


 何か納得しない様子だと思ったら、精算するため俺から離れる際に、ボソッと口を尖らせた。


 いや待て?


「いやプライベートでスク水着て観光したいって、どういうメンタルしてんの?」

 別に責めるわけではなく、ただ本当に驚きと心配だけがたが、原因で迫った。


「え? だめかな?」

 私、何かやっちゃった? のような無自覚系チート主人公っぽさをレイが醸し出したが、俺はその雰囲気には騙されない。


「うん、だめ」

「そんな即答しなくても……」


 げっそりしたように落ち込んだが、いつもの勢いでか、すぐに元気を取り戻した。


「でも、そんなに否定するほどおかしくはないよね?」

「いや、おかしい。それとそう思えるレイの頭もおかしい」


 この時は流石に馬鹿なんじゃねぇの。そう本気で思い、これから間違ってもこんなことが起きないように強めに否定した。


「アタマも……!」

 そんなになる程か? 俺がハテナを持つほどレイがバカっぽく衝撃を受けた。


「ハイハイ、もう最初の買って。そんでもう行くよ」

 砂漠の中心に1つ佇む寂れ壊れた機械のように固まっているが、今回は場所が場所なだけに、長居はしたくないのでスルーする。


「ふゎー…………」

 半ば意識が飛んだ状態でいるレイを俺が引き連れて半強制的に会計を終わらせ、さっさとその店から去る。


「はぁ……やっと、やっと抜け出せたぁ」

 自分で思ってたよりもあそこにいるストレスが多く、間抜けな声で安堵する。


 周りの人から見えている俺達は、妙に嬉しがっている俺と、上の空のレイ。


 つまり、完全に不審者だ。


 ……通行人の方々、すみません。

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