第56話 意外なところの齟齬
『さぁ! 学園対抗戦、早くも2日目ですッ! 今日の競技は、『障害物競走』だぁッ!』
「「うおおぉぉぉぉ………………?」」
その競技名に違和感を感じたのか、いつもなら歓声を上げる観客も、最初は上げたが、次第に声が弱々しくなっていき、最後は気まずい空気だけが残った。
『う……えっとぉ……ル、ルールはその名の通り、数ある障害物を躱しながらゴールを目指すだけ! その順位によって獲得ポイントが変動します!』
あーあ、実況さんも観客達の反応に傷付いてるよ。まぁあんな名前なんだからそりゃそうなるけどさ。
そんな運動会の種目みたいな名前だったらさ。
「なんか『障害物競走』って、運動会みたいですね」
俺と同じことをレイも感じたようで、先輩達この世界組の人に肯定を促す。
「……? うんど、うか……い?」
とすると、意味が理解できないといった様子になった。
それを切るなら、運、動、会。じゃない?
そのみんなが困惑した様子に、俺達もなぜそうなったのか分からないので困惑する。
そして俺達が困惑したことにより、みんなもまた困惑し、それに俺達も困惑する。
困惑の連鎖である。
「その、うんど、うか、い? っていうのは?」
「あ……もしかして、この世界にはない、の?」
「俺の知ってる限りじゃないな」
「そ、そっか……運、動、会ってのはほら、小学生がやるいろんな種目で競う大会みたいなものだよ」
まさかの運動会すらもここにはないことが発覚し、さらっと切り方の間違いを訂正しながら説明する。
「しょ、しょうがくせい?」
「え、まさか小学生も分からない?」
「あ、初等部の学生のことじゃないですか?」
「あ、そうそう」
セレスが小学生は初等部の学生を同じだということを察し、俺がそれを肯定する。
そういえば、高校生とかじゃなくて、高等部の学生って表すんだった。
俺達はソルセルリ―学園の高等部の学生。
勿論初等部、中等部もある。
まぁつまりは、6歳からはみんな学生ってことだ。
「そんな小さいころから競うの……? シン君達の世界では……」
「むごいことするし……」
「可哀想に……」
「シンも、それを乗り越えてきたんだな……」
「え?」
シェル先輩がが驚愕したら、リア先輩はそのことをむごいと言い、セレスとカイルに同情された。
思いもしなかったその同情の反応に、ただ首を傾げる。
「乗り越えてきたって、運動会くらい年に一回毎年やるよ?」
「そんな……! 嫌じゃなかったの?」
「むしろ楽しみでしたけど?」
ものすごく心配そうにシェル先輩が聞いてくるが……運動会と言ったら普通、子供は大体大喜びだろ?
「た、楽しみ……!」
「それが普通と洗脳されて、楽しみとさえ思ってしまっていたんしね……」
「もう大丈夫ですよ。ここでは、そんなこと起きませんから……」
先輩が口を開けて驚くと、リア先輩は居た堪れない表情になり、かと思ったらセレスは慈愛に満ちたように、柔らかい声をかけてきた。
「あの……どういうこと……? 可哀想なとこなんて、何もないと思うけど……」
俺達と先輩達の間にある温度差を痛感するが、俺は俺の考えで反論した。
「だって、そんな小さいころから、毎年大会が開かれてたんでしょ……?」
「まぁ、はい」
「幼いのを利用して、武力行使を楽しいと思い込ませて、毎年友達同士で争わせるなんて……!」
……あれ? なんか、話が噛み合ってなくない?
……なんで先輩達は運動会イコールむごいもの、と思ってるんだ?
それに、武力行使? どゆこと?
「あの……なんで、運動会がむごいものってなってるんです?」
このまま話を聞き続けていても理由が分からずもやもやするだけだと思い、思い切ってなぜか聞くことにした。
「だって、その運動会って、大会のことなんでしょ? だったら……」
確かに大会ではあるけど……。
……あ。
今までの話を無理やりつなぎ合わせると。
『大会は武力で競うもの。そして、小さいころからそれをさせていたからむごい』ってことなんじゃ……?
それなら、これまでのみんなの言動も頷ける。
「あの、もしかして、みんなは大会は武力で競うものって解釈してたりする?」
自分の仮説があっているのかどうか、みんなに確認をする。
「え、そうじゃないの?」
すると、まるでその解釈が当たり前とでも言うように返された。
「え?」
「え?」
ここで俺は、俺達と先輩との常識の齟齬を正そうと、それぞれ自分にとっての常識を言ってもらった。
すると驚くべきことその答えは、2つ出た。
1つは、『運動会、というより、大会はどれも余興の延長線上にあるもので、平和な仕来り』という答え。
もう1つは、『大会と言うのは武力と武力で戦うのが基本で、運動と言えば戦闘』という考えだった。
もちろん俺とレイは前者。
そしてなんと、後者は俺ら以外の全員だった。
……なんでそんな怖い考え方なの?
「なるほど……つまり、シン君達の言ううんどうかいは、遊びの一環なのね」
「すごいですね……」
「遊びなんて、鬼ごっこやかくれんぼくらいしか知らなかったし」
「「お、鬼ごっこやかくれんぼくらいしか知らないぃ!?」」
幼稚園児レベル!?
「え……シン君達は他にも知ってるの……?」
「えぇ、身体があったらできる遊びと言えば、土管踏みとか、だるまさんがころんだとか、色鬼とか、前に言ったじゃんけんとか……」
「ボールや縄なんかがあれば、もっと幅が広がりますよ」
「シン君の世界って、すごい発展してるんだね……」
先輩達が感嘆したように言うが。
いや、この世界も結構発展してると思いますよ?
転移が無料で出来るとか、前じゃ考えられなかったんですけど?
「そっちの世界って、すごいな」
俺らとしては魔法があるこっちの方がすごいですよマギアス?
「あの、『障害物競走』の代表者を伺いに来たんですけど……」
その時、学園対抗戦の運営の人っぽい人が代表者を聞きに来た。
「やば、話してて決めてなかった!」
その人に聞こえないよう声を潜め、焦った様子で相談してくる先輩。
あれ、マギアスだけ会話には入れてない。大丈夫かな?
「まぁ、困ったら……この2人に頼るんが一番じゃないですかね?」
先輩にレイも声を潜めて、俺とマギアスを見ながらそんな案を出した。
「弟君は、取っといた方がいいしよね?」
するとリア先輩は俺のことを見て、『弟君』などと言った。
お、弟君!?
そ、そういえば……前に弟として見てるとかなんとか言ってたな……。
兄にはなってみたかったものの、いきなり望みもしていなかった弟気分を味わえて、思わずげっそりしてしまう。
俺がそんなことを考えている間に、みんなはさっきの会話で決断したような顔になり、マギアスを視界に捉えた。
その目線に釣られて、俺もマギアスのことを見る。
一体マギアスを見てどうするんだ? そう思っていたところ……。
「おぉ、君、名前は!?」
「え? ま、マギアス=イディオですけど……」
「マギアス=イディオ君だね。分かった、じゃあね!」
そう言って急いだように出て行った運営の人。
……なんでマギアスの名前を聞いて?
…………あ。
うわー……この人達、ひどっ。
先輩達の企みに気付き、途端にマギアスが可哀想だと感じる。
「ごめん、マギアス」
「え? ……あ! え、ひど!」
マギアスもそれに気付き、俺と同じ感想を抱く。
そりゃ、代表者は誰か? と問われ、みんなで一人を見つめたら……その人がそうだと思うよな。
「はぁ……分かりましたよ。行きますよ」
「ご、ごめんね。つい……」
えへへと笑うように、可愛く謝る先輩。
これで可愛いから憎めないんだよなぁ、この人……。
……アレ、ナンカ、背後カラ殺気ヲ感ジルゾ?
「……シン?」
「ひぃっ!!」
背後から感じたひんやりとした冷気に、思わず背筋が伸びる。
「今、何を思いましたか?」
見なくても分かる。
今この2人の目には。
情が一切ないッッ!!!
急に背後取られるのは恐怖でしかないわッ! お前らはメリーさんかッ!
「何も、思ってないです……」
心の中では思うことが出来ても、実際に声に出すことは出来るわけがない、自分のヘタレさに悲しくなりながらも、マギアスの応援をすることにした。




