第47話 世界を愛する——。
「じゃあ、日が傾いてきたら、別荘に集合ね」
「「はーい」」
「お弁当も持ったよね?」
「「持ちましたー」」
……ナニコレ、遠足?
忍冬、冬青。
俺は一応心配なので、2人にあることを頼もうと話しかける。
【なぁにー?】
【んー?】
2人はこの島に詳しい?
【うん! 千年以上住んでるから!】
あら、元気なおじいちゃんおばあちゃんだこと。
【女性の年のことでディスるなんて非道いよ! 殿!】
ごめんごめん。
……忍冬は女性ってより女の子だと思うけど。
【ちょっと!】
違う違う、若いってことだよ。
【あ、そうなの? ならいいや】
ちょろすぎますよ忍冬?
【それで、どうしたの?】
あぁ、そうだった。
みんなが間違って変なとこ行ったりとか、危険が及んだときとか、助けてくれないかな?
【つまり護衛ね】
まぁ、そういうこと。
【いいよ! ……久しぶりの仕事で腕が鳴るな】
【だね。殿がいなくなって以来だよ】
何やら、気持ちが高まってる様子の2人。
……どういうこと? 全く以って意味が分からん。
えっとまぁ、頼んだよ。
【はーい】
その言葉の意味が気になったが、もうみんなが出発し始めてしまったので聞けずに頼むだけになってしまった。
2人は冬青の返事を合図のように、どこかへ消えた。
「じゃ、私達も行こっか」
「あ、うん」
―――――――――
てきとーに森を歩く。
この森、ほんとにすごいな。蒸し暑さも全くないし、樹木のにおいで臭くもないし。
そんな時、レイが唐突に話しかけてきた。
「シン、この世界には慣れた?」
なぜか、悲しそうな目で言葉を発するレイ。
「……少しは慣れたよ。レイは?」
「私は、慣れそう」
……慣れそう?
「ほんとは、慣れようと思えば、もっと簡単に慣れることが出来た。でも、この世界に慣れちゃうのが……怖い」
「……!」
俺の顔の正面に、レイの姿を持ってくる。
「私達の元の世界は、どうなったんだろ? それにもし……もし、あの世界に帰ることができたなら、今と同じように、この世界のことも恋しくなる」
「…………」
「この世界を……愛すのが怖い……」
「……」
そのことについては、俺も、何度も考えた。
「桜の会……」
「え?」
唐突に『桜の会』という言葉が出てきたことに戸惑う。
「桜の会でシンのベッドに乗った時、枕に、すごくしわができてるところを、見つけた。……あれ、ぎゅって握りしめた跡だよね。——シンも、考えてたんだよね」
……ばれてたか。
「セレスは、そのしわに気付いた?」
「私が隠したよ」
「そっか、ありがと」
「シンはさ、この世界を愛す?」
レイが、初めて俺に目を向け、聞いてくる。
「……俺は、愛する愛さないの問題以前に、愛してしまう。かな」
「……シンらしいね」
「ふふっ……それで俺が傷付いたとしたしても、俺は、この世界を愛さない方が、後悔する。——それに、自分が愛したせいで自分が傷付いたとしても、愛したもののせいにはしないじゃん?」
俺は、レイを少しでも元気付けようと、最初と最後に、笑みを浮かべて言う。
「……そうだね」
レイは、穏やかな微笑を浮かべて、そう返した。
「——!!」
俺はそれに対し、不意に心を打たれた。
そのレイに当てはまる言葉は、シンプル且つ、最高の誉め言葉。
——『美しい』
俺の頭脳は、瞬間でその言葉に占領された。
「…………シン?」
レイに魅了され、黙っていた俺が傍から見たらおかしかったんだろう、レイが声をかけてくる。
「あっ……何?」
「どうしたの? 急にぼーっとしたりして」
「あ、いや、ごめん! 見惚れちゃって……」
あ、やば。あまりに突然のことすぎて馬鹿正直に言っちった。
「み、み、みと、み、見惚れ……?」
俺と同じようにレイの方も突然のことで動揺しているんだろう。
「ごめん! 今のことは忘れていいから!」
「あ、うん……」
頬を紅潮させながら俯くレイ。そりゃ照れるか。
なんせ俺達は、恋愛対象とするようなことはあまりしないのだから。
手を繋ぐでドキドキはしないが、好きとか言うのはドキドキする。そんな感じ。
……これでレイの頬を紅潮させた理由が照れじゃなかったら俺、痛いやつだな。
「でも、照れるよ……」
その言葉を発し、更に頬を赤らめるレイ。
「……そんなこと言われると、俺も照れるだろばか」
レイから目を逸らし、右手の甲を、左頬の赤くなっているであろう部位に当て、恥ずかしさを紛らわせようとする。
レイがそんなこと言うから俺も照れてしまった。
恥ずい……。
【……こら! 2人でいい感じにならない!】
唐突に、忍冬の声が脳内に響く。
「うわっ!」
「きゃっ!」
そのいきなりな声に思わずビビる。
「ちょ、忍冬。いい感じになんてなってないから」
【嘘だー! 私見たもん! あとちょっとでキスするの!】
「誰がキスしようとしてた!」
【殿と姫が!】
…………姫?
「……」
忍冬が『姫』と言った瞬間、レイの目が泳ぎだした。
「レイ……もしかして……」
「違うの! これは、その、不可抗力で……」
「不可抗力って言うと、俺みたいな?」
「そう!」
右手が思いっきり力んでいるレイは必死に弁明する。
……うん。嘘だね。
まぁ、ここで無理やり聞き出すのも可哀想だから、やめてあげよう。
「そっか。それで、忍冬。俺達はそういうことしようとしてないから安心して」
【はーい】
不満そうだったが、上手く納得してくれたようで、忍冬はまた消えた。
「ふぅ……ったく。忍冬め」
「ふふふっ。お茶目な子だね」
「困ったもんだよ」
忍冬のおかげか、引き締まっていた空気が緩んだ。
「まぁ、俺が言いたいのはさ」
俺は忍冬がさっきまでいた場所を見ながら話し、レイは話し出した俺を見ている。
「何があっても、後悔しないように生きようよ。後のことを考えるのもいいけど、それで悲しまないために愛さないなんて選択をしたら、悲しみはしないかもだけど、きっと後悔する。そんなの、後味悪いでしょ?」
「……そう……だね。うん! そうする!」
「もちろん、どんどん俺を頼ってくれていいんですよ? 姫? 姫の為ならばなんなりと。喜んでお力になりましょう」
俺はいつもの元気なレイでいてほしくて、からかうようにレイの方へと振り向き、姫と呼ぶ。
そして、執事を真似るように礼をして言う。
「……!」
だがすぐにレイからの返事はない。
——大丈夫。レイならきっとこの後……。
「ひ……! 姫って呼ばないでーー!!」
黒歴史を引き出しの中にしまい、もう二度と出さんとするように、叫びながら俺を追いかけてくる。
俺はそれに、条件反射で逃げる。
「——良かった。それでこそ、いつものレイだよ」
「待てーー!!! シーーン!!!」




