第44話 忍冬と冬青
「あぁ、深淵級スキルは……」
「玖ノ型 轟く裁雷!」
「玖ノ型 水禍!」
「玖ノ型 華ヤカナル降雹!」
「玖ノ型 竜の息吹!」
「玖ノ型 灰燼阿修羅!」
大事なところで、みんなの息が合った邪魔が入る。
「え……嘘……」
あまりにもいきなりのこと過ぎて、反応が出来ない。
そして全てが俺に直撃し、吹き飛ぶ。
「うわぁぁぁ!!!」
「……たーまやー」
俺が悲惨な体験をしている中、マギアスは、花火を見ているかのような目をしながら、静かにそう言った。
―――――――――
「うぅ……」
俺は森の中で目を覚まし、痛みで唸る。
「いったー……病み上がりにあんな思いっきり、渾身の一撃叩きこむやつがあるか……」
文句を言いながらも、現在地を把握しなければ戻りようがないと思い、ここはどこかと辺りを見回す。
「……どこ? ここ」
全く知らん場所だった。
「……そりゃそうか。なんせまだ別荘と砂浜しか行ったことないんだから」
この島に来てからまだ遊んでないからな。
で、こっからどうやって戻るかが問題だけど。
「あ、探査魔法でみんなの位置探ればいいだけか」
すぐ解決できることだと分かり、安堵して、立ち上がって探査魔法を使う……のをやめた。
「……なんだろ、これ」
理由は、俺がいるすぐ近くに、洞窟があったから。
「……戻るのはもう少し後でもいっか」
普通なら何があるか分からないのでみんなと一緒に、となるが、どうしても好奇心が勝ってしまった。
「うわー暗……」
洞窟の中に入ると、全く光がなかった。
流石に、これでは動くこともままならないので、魔法で少し光を出して辺りを照らす。
しばらく歩いていると、暗く、広い場所に出た。
そして奥に何かがポツンと佇んでいる。
「これは……祭壇、か?」
もうずっと使われていないような祭壇が、そこにはあった。
「うーん……どうしよっか」
この祭壇何かあるかな? なんか、秘密の力みたいな。
……ありそう。こんな場所に古い祭壇とか、いかにもって感じだろ。
「こういうのは大抵変わった箇所があったらそこになんかあるよな……ん、横に石像が2つ?」
祭壇のすぐ横、両端に……犬と、猫?
右側に犬、左側に猫の像があった。
「……なんかあるな」
にやっとして何かあると確信した。わくわくしてきたゾ。
……気持ちわり。
自分の心の中の口調を気持ち悪がりながらも祭壇を探る。
「……ん?」
手探りをしていると、丸型に凹んでいるところがあった。
これは……? 何か書いたらいいのかな?
「じゃあまずは俺の好きな印を……」
自分の好きな晴明桔梗印を書いてみる。
まず上、次に左下、んで右上、左上、そして右上にやって、最後に上に戻すっと。
すると、残念ながら何も起きなかった。
ちっ。やっぱそうか。ちなみにこれで挑戦したのはただの気分。
でも、ここで謎の対抗心が俺の中に沸々と沸き上がり、この印でもう一度挑戦しようと決意した。
でも、さっきと全く同じじゃ駄目だよな……。
「……魔力? あ、そうだ! 魔力で描いたらいいんじゃね!?」
ふと魔力のことを思い出し、そこで魔力を使ってやればいいかも、と閃いた。
さっきと同じように星形を描く動きをし、さっきと一点違く、ただ描くのではなく、魔力で描いた。
そして、ちょうど描き終わった時、祭壇が光った。
「えぇ!? 嘘!!」
これでいけたいな。いけたらいいな。とは思っていたが、まさか本当にいけるとは思わず、声に出てしまう。
次第にその光は、二つの石像に集まっていく。
「ま、眩しい……」
その光に耐えられず、腕で目をふさぐ。
「……」
光が収まったので、目を開けると……。
「うえぇ!?」
俺が驚くのも無理はない。
なぜなら、石像だったはずのの犬と猫が……生きているのだ。
「……え?」
【あなたがボク達を目覚めさせてくれたんですか?】
「うえぇ!?」
突然俺の頭の中に声が響き、色々と驚きが重なって大声を出してしまう。
え、えっと、この声はこの犬と猫のもの……?
【そうです。それと、ボク達は犬と猫じゃないです】
「えっと……?」
【まず、ボク達が話すことに納得してください】
「は、はい……」
【ボク達2体は精霊ですから】
「精霊……」
……精霊!?
【ボクは犬神、そっちの猫っぽいのは白虎です】
【猫っぽいのってなんだ!】
黒い犬は犬神、ホワイトタイガーは白虎と。……白虎とホワイトタイガーって、一応同じ意味だよな?
「えっと、聞いていいかな?」
【なんですか?】
「君達は目覚めたとして、何するの?」
精霊ってのにはもう疑問ない。異世界だからで普通に納得できた。
しかし2人は目覚めたとして、目覚めて何をするのか気になった。
【目覚めさせてくれたお礼に、あなたに仕えます】
なんでやねん!?
【安心してください。ペットのようなものですので】
「あぁ確かに。まぁ、それならいっか」
【ではボク達に名前を付けてください。それでボク達が受け入れたら、主従の関係が完了します】
名前……名前かぁ……じゃあ、やっぱりあれかな。
前、この言葉を知ってからペットが出来たらこれにしようって決めていたものがある。
「じゃ、犬神は冬青、白虎は忍冬ね」
なんかよくない? この名前。
【分かりました。それではこれからそう呼んでください】
「うん、よろしくね」
やった。可愛いペットができた。前は何も飼ってなかったから、ちょっと憧れたんだよなぁ。
ペットに。
【そういえば、これからいつでも、声に出さなくても主従の関係を結んだので会話できますよ】
え、ほんと?
【はい】
どうやらほんとみたいだ。
そういえば、忍冬が全然喋らないな。
冬青、忍冬全然喋らないけど?
【あぁ、それは……】
それは?
【ただ寝てるだけですよ】
「ただのばかじゃん!」
【ほら、お姉ちゃん起きて】
冬青が忍冬をゆさゆさと揺らし、起こそうとしている。
こいつら姉弟だったのかよ。
【んん……なに……?】
【お姉ちゃん、名前は分かる?】
【あぁ……冬青でしょ?】
【そうだよ、それでボクが忍冬】
「うん……あれ? 違うよ! 犬神が冬青で白虎が忍冬!」
忍冬はともかくしっかりとしてそうな冬青まであほになんないで!
俺まで騙されちゃったじゃん。
【あ、そうでしたっけ?】
うんうん。さっきのは逆になってた。
【そういえば、あなたの名前、聞いてもいいですか?】
あ、まだ言ってなかったか。
「俺はシン。サクライ シンだよ」
【なるほど。転移者ですか】
うん、そうだよ。
この2人には別にいいよな?
【ね、なんて呼べばいいのかな?】
? シンでよくない?
【王とかじゃない?】
【あ、そうだね】
「やめて!」
【だめですか?】
だめ。
【じゃあ先生?】
おかしい。やめて。
【シン様?】
様はやめよっか。
【姫!】
確かに様はやめてるけども! 性別変わってるよ!? さっきよりやだわ!
【皇帝!】
なんでだ! やだわ! 俺のどこに皇帝要素がある!
【殿!】
なんで!?
【じゃあ殿で】
なんで!!?
【否定しなかったもんね】
【ねー】
……そういえば確かに。
【殿、なんで殿はこんなとこにいたの?】
と、殿……。
【……?】
『殿』にやはり引っかかったが、2人が本気で何かおかしいかな? みたいな顔をするので俺は素直に諦め、強化合宿のことやここに来た経緯を全て2人に教えた。
【そうなんだ。大変だったね】
「そうなんだよ。あと、特に冬青、俺に敬語はいらないよ」
【そうですか?】
「うん」
【じゃあ、分かったー】
なんか急に砕けた。
【じゃあまず殿の仲間のところに行こーよ】
「殿……確かに早くいった方がいいか」
やはり殿に引っかかった。
じゃあまず探査魔法でみんなの位置を……そう思って探査魔法を使おうとしたところ、忍冬に話しかけられた。
【移動するなら私に任せてー】
【お姉ちゃんに任せた方がいいと思うよー】
ん? よく分からんけど、そこまで言うならそうしよっか。
【行き先はこの殿じゃない魔力の近くでいいよねー?】
「う、うん」
【じゃあ……ほっ!】
忍冬が変な掛け声をすると、その身体から煙が出た。
次に目に捉えたのは……人が乗れるサイズになった忍冬だった。
「うわ、こんなことも出来るんだ」
【殿はいいからお姉ちゃんに乗ってー】
「う、うん」
忍冬に乗っていいのかとも思ったけれど、背中を押されて乗る。
そして冬青は俺の肩に乗った。
【じゃあしっかりつかまってね。そんで舌噛まないよーに】
【本気でぎゅーってしてないと血まみれになるから気を付けてー。本気で】
……一応身体強化本気でしておこう。
【いい判断だと思うー】
【じゃあ……しゅっぱーつ】
力ない掛け声とは裏腹に超絶スピードで俺と冬青を乗せて走っていった。
「……!!!」
必死に口を開けないように踏ん張って1秒も経たない頃、もう着いたのか止まった。
体感では10秒はあった。
「う……うぅ……」
やっと終わったかと思い、忍冬の背中からずり落ちる。
【殿だいじょーぶー?】
元の小さい猫の姿に戻った忍冬が心配してくる。
この大きさの2人小動物でめっちゃ可愛いな。
「シ、シン?」
「あれ、レイ?」
なんでレイがここに? って、あ、そうか。忍冬がみんなのところに連れてきてくれたのか。
「シンおかえり。んで、その子達は何?」
俺は、みんなにさっきの出来事を説明する。
何回も説明して……もう疲れた。
俺今日喋りすぎじゃね?
―――――――――
「せ、精霊……」
忍冬と冬青が精霊だと知り、茫然とするシェル先輩。
「ほんとに、このワンちゃんとにゃんちゃんが……?」
呼び方可愛いなおい。
ワンちゃんとにゃんちゃんって。
「まぁ、このワンちゃんとにゃんちゃんは精霊ですよ」
やべ、先輩につられて俺までワンちゃんにゃんちゃんって言っちゃった。
【改めまして。殿に仕えることになった、犬神の冬青です。よろしくお願いします】
丁寧にぺこっとお辞儀をして挨拶をする冬青。
【冬青と同じで殿に仕えることになった忍冬だよ! よろしく】
この2つを続けて聞くとまさにおてんばお姉ちゃんとおとなしい弟だな。
「と、殿?」
最初にレイが俺が一番触れられたくなかったところに触れてくる。怪しげな視線も付きで。
「そ、それは1つのミスからそうなったことで……」
否定をせずにツッコミだけしてしまうというミスを。
「まぁ、これがシンの望んでなかった結末だったことは分かったよ」
俺の表情と口調から読み取ってくれたみたいだ。
よかった! 俺がそうさせたとか思われたら、これからしばらくイジられるいじられるとこだった!
「えっと、そういうわけでこの2人がペットになりました! どうか仲良くしてやってください!」
とにかくこのみんなが混乱してるままだと落ち着くまでずっとここに居座ることになりそうだから半ば強制的に締める。
なんか新入社員の歓迎会みたいになったような気もするけど。
その日の夜、忍冬と冬青の歓迎会ということで、急遽だがパーティをした。
みんなすごくはしゃいでたな。
てか、歓迎会よりも、ただパーティして騒ぎたかっただけだろアレは。
そして朝あった俺への理不尽な怒りは、俺を吹っ飛ばしたときに晴れたそう。
……俺はサンドバッグかよ。違うぞこのやろー。




