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第39話 アルスベリア島

挿絵(By みてみん)


「セレスはもともと乗り物に弱いの?」

 依然、手を握り締めて穏やかな声で語りかける。


「はい。今のように酔うことが多々……」

 自分の乗り物弱さで他人に多大な迷惑を掛けているのが申し訳ないといった表情で苦しげに答えた。


「へぇ。そういえばさ、前に言ってたこと以外にアルスべリア島の特徴って何かあるの?」

 これ以上同じ話題を続けてもセレスが自虐するだけなりそうだったから一度相槌を打ってから変えた。

「うーん。ただほぼ全てが最高級としか……」

 セレスはそんな流れに違和感を感じなかったようだが、表しようのない最高級に戸惑った。


 ただ最高級と言われても何が何だか分からず必死に想像を働かせアルスベリア島の様を思い浮かべるが、何ら意味が分からなかった。


「シンの手、やっぱり懐かしいです……」

 ん? 懐かしい? 俺に似た人がいたのかな。


「シン……」

 さっきのは思わず出た独り言のようだったので返事はしなかったが、今度は目を見て語りかけてきた。

「どうしたの? セレス」


「ありがとうございます……」

 微笑みを浮かべながらただそれだけを満足気に言うセレス。


 この言葉には何かセレスの特別な思いがあるのか、不思議と重みを感じた。


「セレス、それってどういう意味——」

 聞こうとしたら、セレスは気を失って寝てしまっていた。


「……おやすみ、セレス」

 さっきのことが気になりもしたが、眠りを邪魔してはいけないと思いそのままにする。


「……あとどれくらいで着くのかな? ……ん?」

 揺れが収まればセレスもすぐに回復するだろうと思い、あとどれくらいなのか先輩に聞きに行こうとしたところ、セレスが自分の手をぎゅっと握って離していないことに気が付いた。


「仕方ないか。起きるまで待ってよう」


 ―――――――――


「うぅん……」

 しばらくした時、セレスが可愛く唸る。


「うぅー……?」

「あ、起きた?」

「あ、はい……?」

 随分と寝ぼけてるな。


 寝惚けていると分かると、つい悪戯心が働きセレスの頬をつまんでみた。ふにふにだなぁ。


「……なにふるんでふかぁ」

「……ふふふっ」

 普段はお茶目なところをあまり見せないセレスがこんなにも子どものような反応をするのがが面白くてつい笑ってしまう。


「な、なんで笑うんですかー!」

「いや、ごめん。面白くてつい……」

「むぅー」

 セレスが頬を膨らませている。またつままれたいのかな?


「シンくーん! セレスー! あとちょっとで着くしよー!」

「あ、はーい分かりましたー! ほら、もう着くから準備しよ?」

「なんか無理やり話逸らされたような……」

 気のせいだよ気のせい。


 ―――――――――


「おーここがアルスべリア島かー」

 なんと、今はまだ寒い時期のはずなのに暖かいぞ。


 王国の方は暖かく、長袖にコートを着ていたが暖房がたっぷり効いたような気温に俺達一行はみんながみんな上着を脱ぎ、長袖を肘辺りまで捲った。


「では、また2週間後に迎えに来ますので」

「うん、お疲れ様」

 アストリア家の操縦士の人がシェル先輩と話している。


「さ、じゃあまずはここの別荘に行こうか!」

 アルスべリア島に来ただけあって、みんなウキウキだ。初めてではないシェル先輩も初体験とばかりに喜んでいる。


 そしてそのアストリア家所有のその別荘に行き、荷物を置いてリビングに集まる。


 みんなに個室が振り分けられた。そしてなんと、この2週間俺達の貸し切りだそう!


「さて、これからどうしようか」

「やっぱ遊ぶし?」


 ……今日遊んだらだらけて特訓しなくなるんじゃないか?


「「あの、今日遊んだらだらけてまともに特訓しなくなりそうなんですけど」」

 マギアスも同じ考えのようで、見事にハモった。


「んーそうだね。遊びたいけどしょうがないか」

「遊ぶのは最後がいいんじゃないですか? がんばったご褒美ってことで」

「そうするか」


 その後各自自分の共振武器を持ってくることになった。ここにいるメンバーは全員共振武器を扱えるようだ。


 そして謎なのはこの後。何故か水着を着てくるようにと言われた。


「……なんで水着?」

 疑問に思いつつも水着に着替える。


 着替え終わり、集合場所のビーチの前に行くと既にマギアスとカイルがいた。


「女性陣はまだ、と」

「やっぱ時間かかるかー」

「予想はしてたけどね」

「だよね」


「シーン!」

 と、その時ちょうど女性陣が来た。


 レイは赤と白の水着。セレスは水色と白が少し入ったものだ。


 シェル先輩は蒼い水着、リア先輩は黒い水着にパーカーを羽織っている。


 ちなみに俺とマギアスは黒、カイルは青だ。……誰得情報だ? でも女性陣だけ紹介って差別じゃないか?


 あ、ビキニじゃないからな? 海パンだからな?


「それで、水着になってどうするんですか?」

「もちろん…………遊ぶ!!」


「「……」」

「ちょ、ごめんって。嘘だってば!」


 遊ばないと言ったそばから遊ぶなんて言った先輩にジト目を送る俺達。それに必死で弁明する先輩。


「じゃあ、本当はどうするんですか?」

「まず、修行場はこの砂浜だよ」

 ふむ。ちゃんと修行するみたい。


「言うより見た方がいいかな? じゃあシン君、私と模擬戦だよ」

「え? ……あ、はい」


 俺がぼーっとしたまま急遽シェル先輩と模擬戦することが決まった。


 あちっ! 砂あちぃ!


「シン君、相手が女子だからって手抜かないでよ!」

「が、がんばります」

 砂に気を取られて心無い返事をした。


「じゃあ、構え!」

 マギアスが言ってくれるとシェル先輩は剣を構えた。

 何気に異世界で初めて見た剣に感動していると先輩が狡猾……いや、地形を活用した……いや、卑怯な手を使ってきた。


「エリスロースロトス!」

 先輩が俺の近くの砂辺りに炎を打ち込む。


「……っあっつ~~!!!」

 瞬で高温に変わった砂で思わず跳んでしまう。


「水神纏い漆ノ型 螺旋水らせんすい!」

 うわ、ここ突いてくる!? ずるっ!


「やっぱ先輩性格悪いですねっ!」

 影纏い参ノ型 獄撥で対抗する。


「んなっ!?」

 俺に性格が悪いと言われたのに動揺したのだろう、先輩の温度も上がった。


「冰纏い弐ノ型 凍霜とうそう!」

 さっきのようにせこい攻め方をされないように足場の砂を凍らせる。

 そしてこうしておけばひんやりするのと少し滑るのがあっても俺にとってはさっきよりマシだった。


「あ、足場を凍らせるのは禁止だしー」

「んなっ!?」

 呑気な忠告にびっくりして着地に失敗してしまい、転んでしまう。


「はい、とりあえず今は攻めないであげるからそれ解いて」

「分かりましたよ……」

 素直に従って解く。


「じゃあ、仕切り直しだよ」

 その直後、さっきと同じく螺旋水らせんすいで襲ってくる。


 俺は左にスライドして避けようとする……が、砂に足を取られて思うように動けなかった。


「うわっ!?」


「甘いよ、シン君!」

「砂で足場が悪いとは分かってたけどここまでかよっ……獄撥ごくばち!」


 仕方なくさっきと同じように対処する。


 ちょうど相殺出来たので、シェル先輩の動きが俺の近くで止まった。


 確実に攻撃を入れたい。となるとやっぱりこれが最適手だと考え容赦なく剣を振るった。


 ここまで本気で凶器を振ることが出来るのは先輩がこの程度でやられないとどこかで確信できるくらい無意識に先輩にカリスマを感じているからだろう。


「影纏い捌ノ型 八咫烏やたがらす

「水神纏い弐ノ型 荒波あらなみ!」

 先輩は8つの刃をスレスレで宙を回転しながら躱し、その勢いで技を放ってきた。


 運動能力良いな、オイ! ……ん、でも今の先輩の水で砂が熱くなくなってる。らっきぃ。


「参ノ型 滅冰泉めっひょうせん!」

「参ノ型 滅冰泉めっひょうせん!」

 先輩は足場が悪くない状況に変わった俺の射程内に入るのを警戒したのか中距離で攻撃ができる技を使ってきた。

 俺も先輩に対して同じ考えだったので同じ技を放っていた。


「荒波!」

「エリスロースロトス!」

 先刻足場を豪快に濡らした文字通りの荒い波を一段と強い炎で無理やり蒸発させる。


「うぅ……」

 俺に攻撃を与えられなくて不満そうな顔をする先輩。


「そんな顔するってことは、まだ全然余裕があるんですよね?」


「当たり前でしょ? まだまだ行くよ! 肆ノ型 水神ノ舞踏!」

「肆ノ型 竜飛鳳舞」


 超速変幻自在の舞いの攻撃を繰り返す。つまり部分的に見れば、ずっと移動している。俺はそんなことがすっぽりと頭から抜け落ちていた。


「水神纏い参ノ型 彗穿!」

「そんなのに当たるわけ……ないじゃないですかっ……お?」


 今更それに当たるわけがないと慢心したところ、俺は何かに足を取られ躓いた。

 踏ん張って転びはしなかったが、もう既に技を避けられる距離と体勢ではなかった。


 ——仕方ない。もう少し粘りたかった。出来れば使わずに勝ちたかったけど……やらないと負けるな。


「冰纏い弐ノ型 凍霜とうそう

 その刹那、先輩の剣、腕、脚が凍る。


 凍霜の原理は目に見えない、肌で感じないくらいの水蒸気を出し、それを一気に凍結させてるというものなのだ。


 その水蒸気に、さっき先輩の水を蒸発させた時のやつも使ったことにより、随分と強靭な硬さの氷が出来ているはずだ。


「……もしかして、ずっとこれを狙ってた?」

「はい。砂で思った以上に足場が悪くて、こういう手段じゃないと勝てないと思ったので」


「えっと、私の負けだから早くこれ解いてくれるかな?」

「あ、はい」

 解いてくれと言われたので、すぐに解く。


「はーぁー……負けちゃったか。でもまぁ、こんな風に砂場だと足場が悪くて上手く動けないし、それだから踏ん張って強攻撃も出せない。それにこういう足場だから、筋力もつきやすいって理由でここでやるよ。それと、実戦に勝るものはないって言うしそれに近い模擬戦をひたすらやるからね」

「「うへぇ~」」


 ひたすら模擬戦をやり続けるというワードに反応したのだろう、声で嫌な気持ちが十分なほど分かる。


「はい、そんな嫌な顔してないでやるよ! サボったり、ズルしたりしたら普通の時間より3時間長くやるからね!」

「「うえーい……」」


 相変わらず嫌そうだ。俺も、もちろん嫌だ。


 ってか俺、みんなよりも無駄にったじゃん! 非道い!


 ……って、女性陣も水着でやるの? さっきとかシェル先輩の胸のせいでかなり気を紛らわされたんだが。


 考えないようにしたけど。


 そして、何故かここに集まってるのは、みんなこの歳の平均以上だ。顔も、胸部も。あ、頭脳も魔法もか。


 かなり困るんで、出来れば隠して欲しいんだが。……別に絶対にやめてほしいってわけではないけど。


 どれもこれも声に出したら死ぬ未来が見えるので必死に口を閉じながら考えていると、思考から抜け出させてくれる手が差し伸べられた。


「じゃ、シン。やろーぜ」

「あ、おっけ。……前みたいに暴れるな? 疲れすぎるし、大変だから」


「言われなくてもあんなんやんないって……そこまで馬鹿じゃないよ……」

「ま、それもそうか」


 同い年の男子というものはやはり落ち着くなとアットホーム感を勝手に味わい、和んだとこで真剣になった。


 妙に手加減してると絶対にマギアスには負ける。分かりきったことだ。


「行くぜ? ……らァ!」


 そして俺達は戦い始めたのだった。

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