第37話 可愛い妹欲しかった〜
「ね、シン君」
「はい、なんですか?」
「ぎゅーってして?」
何コレ、可愛い。
これでお姉さんって言ってたんだから、面白いよな。
「ぎゅー」
俺が通常に戻った時、これを瞬時に黒歴史という名の引き出しの中にしまい込み、悶えるのはこの時の俺には全く分かっていなかった。
「うー……」
スリスリしてくる先輩。やっぱ可愛い。
と、ここで音楽が切れる。
「……ん?」
なんで俺は先輩を抱きしめてるんだ?
「あの、先輩? これどういう状況ですか? 先輩がオルゴールみたいなのを取り出したのは覚えてるんですけど」
「…………」
先輩は冷や汗を流している。そしてすぐに顔を埋めて表情を見せてくれない。
「先輩?」
先輩の顎辺りを持って無理やりこちらを向かせる。
先輩の目は、俺を見ないようにあちらこちらに動き回っている。
「説明してくれますよね? 先輩?」
少し怖い雰囲気も添えて。
「…………はい」
「よろしい」
―――――――――
俺は今までの流れを先輩から聞き出した。
……どうしよう。これバレたらレイ達の呼び名が絶対に泥棒猫に定着してしまう。
そしたら生徒会の話もなくなっちゃうんだよなぁ。
「いいですか? 先輩。このことは秘密です」
「う、うん! ……私とシン君だけの秘密?」
うん、それは変な風に聞き取れちゃうからやめようね?
なんか、シェル先輩に敬語使うの忘れる時があるな。多分俺が先輩のことを妹として見てるからだろうけど。
妹欲しかったんだよなぁ……。だからなのか妹ができた感覚になって先輩のお願いは断りずらい。
「じゃ、じゃあそろそろ戻ろっか?」
「あ、はい。そうですね」
俺が先に戻る。その後先輩も出て来る。ボロ出さないといいけど、不安だ。
「あ、シン随分と遅かったね?」
「ん? あぁごめん。最近寝不足だったから仮眠とってたんだよ」
「そゆこと。確かに最近は魔法のおかげで普通の時間よりも少し早めに起きてるもんね」
お、勝手にいいように解釈してくれた。ラッキー。いや、俺の嘘が上手いのか?
「うん。でも寝たら完全に眠気もなくなったよ」
「それは良かったね」
「……ね、シェル。ちょいとこっち来るんだし」
「? うん」
リア先輩に呼ばれてシェル先輩は2人で資料室に入って行った。
「どうしたんだろ?」
「さぁ……?」
「どうしたんでしょう」
「ね、シェル、さっきシン君のとこに行ってたし?」
「え!? なんで知って……!」
「やっぱり行ってたしか」
「う……」
「あんまり大きな声出さないでよ?」
「大丈夫し。忘れた? ここは完全防音だしよ?」
「あ、そうだった」
「でも、よくあんな優良物件がいたね〜。イケメンで、頭も良くて、性格も難なし。この世にそんなイケメン簡単にいるしか?」
「それは確かに……」
「それでレイちゃんとセレス様もシン君に惚れてるみたいだし?」
「え! やっぱりそうなの?」
「見れば分かるし。そんで、シェルも惚れてるし?」
「惚れてないもん!」
(まぁ、恋愛経験完全ゼロのシェルじゃ、自分が惚れてるかも分かんないか……)
「じゃあシェルはシン君のことはどう思ってるし?」
「え……えっと……優しくて私のこと尊重してくれてたまに男っぽい親しい人?」
(え、思いっきり惚れてるし)
「あ、ちょっとお兄ちゃんみたい?」
「あぁ。シン君もシェルのこと妹だと思ってるみたいだしね」
「え!? 嘘!」
「ほんとだし」
「うぅ……頑張ってお姉さんっぽいところ見せてるのに……」
(シェルが身長のせいでお姉さんっぽくしたいって思うのは分かるけど、かえって可愛い妹だと思われるだけだと思うし……)
「まあでも、距離を縮めるアドバイスをするとすれば、素のシェルでいきなり攻めたりしないで、焦らずゆっくりと接してれば今はいいと思うし」
「攻めない方がいいの……?」
「そうだし」
「攻めまくれって言ったのはリアなのに……」
「ん? 何か言ったし?」
「あ、ううん。なんでもないよ!」
「あ、戻っちゃったし。てか、今さらっと好きだって認めてなかったし?」
(距離を縮めるアドバイスを素直に受け入れたし)
しばらくすると、2人は戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないよ」
いや、なんかあるだろ。
「本当ですか?」
「うっ……」
あ、こりゃ誤魔化せないタイプの人だな。
「まぁまぁ、それくらいにしてあげるんだし。知られたくないことの1つや2つ、誰にでもあるし」
「それもそうですね」
いじめてみたい気持ちもあるけど可哀想だからやめておこう。
「じゃあ、この後どうしようか?」
「あ、そうだ。ちょうどいいから今伝えちゃおうか」
「何です?」
「この学園の伝統の1つなんだけどね、学園対抗戦メンバーは2週間ほど強化合宿に行くの。だから少し準備しておいてね」
「そうなんですか。分かりました」
「ちなみに行くのは私、リア、シン君、レイちゃん、セレス様、マギアス君、カイル君の7人だよ」
「生徒だけで行くんですか。ってあれ? なんでリア先輩も?」
「リアは対抗戦メンバーではないんだけどね? 回復系全般の魔法が特に得意だから回復要員として同行するの」
「なるほど。それでその強化合宿ってどこに行くんですか?」
「それはもちろん、我がアストリア家所有の島。アルスベリア島!」
「アルスベリアって……あのアルスベリアですか!?」
「セレス、知ってるの?」
「はい! 知ってるも何も、この国の領地の中で最高のリゾート地です。そこに行けるのは年に10名までで、貴族でも行った経験のある人は少ないんです」
「セレスは行ったことないの?」
「小さい頃に1度行ったそうなんですが、記憶がなくて。もはや行ったことないのと同じです!」
セレスがここまで興奮してるってことは、相当すごい場所なんだろうな。
俺も楽しみだ。
―――――――――
「ねーセレスー」
「なーにー?」
おや、今日はこのテンションですか。日によってテンションが違うって、なんかガシャみたいだな。
「アルスベリア島ってどんなとこなのー?」
「気象も地形も地質、水質。どれを取っても年中ずっと最高級の島です。そしてその島の特徴なんですが、島全体を強力な魔力が覆っているそうで、色が透明、蒼、翠色の3種の海が楽しめるんです」
おぉーすごい。見るのが楽しみだ。
「それとその魔力のおかげで成長速度も上がるとか」
「すごいな! あ、だからそこが強化合宿の場所になったのか」
でも、そんな場所でずっと修行って軽くいじめだな。
だって最高のリゾート地で遊べないんだよ?
「明日抗議してみるか」
「何を?」
「え?」
独り言で呟いたつもりが、2人に聞こえていたみたいだ。
「あ、いや、アルスベリア島って最高のリゾート地って言ってたじゃん」
「あ、確かに遊びたいね」
……出たよ。たまに出るレイのめちゃくちゃ勘の鋭いやつ。
「いいね。私も一緒にやるー」
「あ、私もー」
どうやらここでセレスも察したようだ。
―――――――――
昼休み、俺達は特に理由もなく生徒会室に向かう。
いや、理由ならあるか。
昨日生徒会役員の一員になったとみんなに知れると『シャムル先輩ってどんくらい強いんだ!?』や、『シャムル先輩ってどんな人なの!?』とか、『実物はどれくらい可愛かった!?』など、質問の嵐に曝された。
隙さえあればすぐにそれだったから、大変だった。
そんなに生徒会が珍しいものなのかね。いや、シェル先輩が人気なだけか? てかロイド、最初に気にするの可愛さか?
あとついでに抗議もしなくちゃだし。
そんなことを考えていると生徒会室の前に着いた。
今度は特にノックをすることもなく室内に入る。
昨日シェル先輩に『もう生徒会役員なんだからわざわざノックなんてしなくていいよ。毎回やるのもめんどうでしょ?』と言われたのだ。
確かに毎回それはめんどそうだと思ったので都合が良かった。
「お、来たね」
「来たねって……それじゃまるで俺達が来るのを待ってたみたいな言い草ですけど」
「うん、待ってたよ」
その瞬間、後ろから殺気を感じる。
「シンを待ってた……!」
「やはり泥棒猫……」
いや、シェル先輩が待ってたのは俺じゃなくて俺達だよ?
あと泥棒猫なんて言わないの!




