第29話 人生は謎だらけ
「シンの……! ばかぁぁぁぁ!!!!」
びくぅ!!
耳に入ったその叫びのせいで、俺の意識は戻った。
俺は半身を起こし、焦る。
一体何事だ? と。
「な、なんだ? なんか急に寒気がしたけど……」
ふと隣を見ると、ベッドでマギアスが寝ており、それによって今の状況を理解した。
「……そういう事か。でも、あの夢みたいなのはなんだったんだろう」
誰に聞かせるでもなく、ただそう言いながらあの男の姿を思い出す。あの顔の整った謎の男性を。
「先導してやろうかって言われて、気付いたら身体が勝手に動いて……そうそう、あの時なんであんなこと出来たんだろう?」
玖ノ型、拾ノ型、闇纏い、すごく頭が冴えた、全然遅く見えた
まず、玖ノ型と、拾ノ型。あんな威力の玖ノ型は出来ないし、拾ノ型はまず使えない。
闇纏いは論外だ。
あと、頭がすごく冴えたよな? マギアスの動きさえもハッキリと……いや、むしろ遅く見えた。
まるでゾーンに入ったように、没頭していたみたいに。
あ、そういえば、マギアスが最後に使ったやつなんだ!? 確か、共果! って叫んだらテカってパワーアップしたんだよな。
謎は増えるばかりだ……。
「あと、さっきレイが俺の悪口言ってたような気がしたんだけど、気のせいかな?」
窓の外のグラウンドで、テストをしているみんなの方を向きながら、呟く。
まぁ、そっち向いてもみんなは見えないけど。
―――――――――
雷纏い玖ノ型 轟く裁雷!
これを簡潔に説明すると、百雷の業の大きいバージョンのようなもの。
でも、実を言うと百雷の業は、名の通りいくつもの雷を落とすもの。
以前はターゲットが絞れていたので魔力を節約するために、1つにしただけのこと。
私だって、こんなに時間あったんだからこれくらいできるようになったもん!
「伍ノ型 風縫……!」
風縫……その範囲内の全てを空気に縫われたように硬直させる型。
それにより、静電気が発生することが出来ない為雷は止む。
……自然の雷の場合は。
今回は魔法の力も加わっていることにより、威力は落ちてしまうが、十分な威力を出すことができる。
「……残念だったね。セレス」
「嘘……」
そのすぐ後に雷が直撃し、大きな悲鳴をあげるセレス。
でも、これだけじゃ恐らく足りない。
その証拠に、セレスはまだ立っている。悪い気持ちも抵抗もあるけど、行かせてもらうよ! セレス!
心の中で謝罪をしながら追撃を仕掛ける。
「漆ノ型 迅雷」
「風縫! 弐ノ型 太刀風・爪!」
風縫で弱体化させ、そこを狙って打ち消された。
見事なコンボだなぁ。
純粋に関心してしまった。
「弐ノ型 荒波!」
うわ、水だ。水が相手だと不用意に雷使えないんだよなぁ。感電して自滅したら笑えない……。
それはセレスにも当てはまるんだけど。
「光纏い壱ノ型 耀乱」
これはもはやただの光の弾丸。
一応これを言わなくても纏いは使える。
だけどプロットさんに聞いた話だと、言ったほうがスムーズに行えるし威力も高くなるとかなんとか。
よく分かんない法則だ。
自分に当たるであろう波のところだけを狙い、自分を避けるよう流れるように仕向ける。
と、成功した! とでも言うかのような笑みを浮かべるセレス。それに私は気付かなかった。
「水神纏い肆ノ型 篠突く雨……」
……あれ、今私の聞き間違いじゃなかったら、『水神』って?
「……標的……レイさん」
そう言って私に銃口を向ける。私も万雷の圧で防ごうと思い、セレスに銃口を向ける。
セレスが引き金を引くのと同時に、先の荒波の水が1つ1つ雫状の弾丸となり無数のそれが襲ってくる。
「うあっ……!」
セレスのところから飛んでくるものだと思ってた私は、見事に不意を突かれて身体中を痛めつけられた。
せめて抵抗はしようと、魔力を凝縮して透明な弾丸にしたものを撃ちまくる。雷を使っては感電してしまう。そんなヘマはしない。
共振武器の銃を纏いなしで使うと、今やったようなものになる。一応見えない分、敵にとっては普通の銃より面倒な代物。
魔力を消費してしまうが、それさえクリアできたらかなり使える。
私が放つ弾丸も無数の水弾の前には焼け石に水で、思うがままにやられてしまう。
でもこのままだとセレスの魔力が尽きるしかこれを抜け出す方法がなくなってしまう。恐らく私が倒れるまでずっと続ける気だろう。
「豪華……絢爛……」
なんとか呟き、引き金を引くと私のことを光が反射せずに通るので姿は見えなくなる。更に上手い具合に屈折させて自分の打たれ続けている姿を見せる。
だけど姿が見えなくなっているだけで、打たれ続けていることには変わりない。早く脱出しなきゃ……。
……そうだ。あれをやればいいんだ。
私はこれを打開できるかもしれないものを思い付いたが、なんだかやさぐれない気持ちになった。
なんか、シンのパクリみたいでやだな……と。
何故か光纏いと影纏いって似てるんだよな。なんでだろ? 表裏一体ってことかな?
それよりも、こんなこと考えてないで早くやらなきゃ。
打たれる痛みを必死に我慢し、集中する。
「……閃光纏い陸ノ型 白夜」
光の弾丸を自分の周りに飛ばし、間合い内のものに反応し打ち砕く。
閃光にしたのは、セレスが極級纏いを使ったから。
私が上級のままだったら、押し負ける可能性を考えた末の判断だ。
閃光も頑張れば使えないことはない。ただ集中し直さないと出来ないので、相手に隙がある場合しか使えないのだ。多分これはセレスも同じ。
だから、実力は互角というところだと思う。あとは戦い方の問題かな。
セレス頭良さそうだから正直あんまり自信ないなぁ……前の観光? のルートだって数秒で考えてたし。
抜け出したら白夜を解き、豪華絢爛が破られるまでは考えよう。
「やっぱり不意打ちで思いっきり叩き込むしかないかなぁ……」
ちょっと考えていたが、出てくる案はやはりこれだけ。
よし、ここで時間使うのももったいないし、叩き込もう!
次の行動が決まった瞬間、途端にやる気が出てくる。
「稲妻纏い玖ノ型……」
この大事な場面を逃さない為に、標的をしっかりと目で捉える。
と、ここで魔力の動きで気付かれてしまったようで、こちらを振り向き、そういうことかと驚くセレス。
でも、もう遅いよ!
「轟く裁雷・3連!!」
1度引き金を引くだけで、雷鳴が3度鳴る。
「ネロー・エクリクシ!」
抵抗しても無駄! その一時はそう思ったが、すぐに自分の勘違いに気が付いた。
……待って? 確かこの魔法って……!
私の悪い予感が当たってしまい、戦場に水が、爆発するように行き渡る。
それはきれいな水ではなく、不純物の入り混じった水なので、当然通電する。
道連れって選択肢は考えてなかった……。
傷の痛みを感じるよりも先に、自分の浅はかさに若干悔しさを覚えた。すぐ後、傷と痛みで倒れる。
だがセレスは立ち上った。フラフラになりながらも。
あれだけダメージ負わせたのに、なんで立ち上がるのよ……ゾンビか!
心の中でそう悪態をつきながらも、対抗心で私も立ち上がる。
1番最後のやつで魔力は使い果たしちゃったし、残っていたとしてもこの痛みのせいで魔力が乱れてどちらにせよ、魔法は使えないだろう。
あとはセレスがどうなのか、ってことが問題。セレスが魔法を使えるなら十中八九負け。使えないなら肉弾戦になって、勝率は5分5分だろう。
そのセレスは使う気配もなく、ただこちらの様子を伺っている。この様子だとあっちも同じなんだろう。
私は卑怯かとも思ったが、素手より銃でやったほうが効率は上がると思い、銃を持ちながらセレスの元へ向かう。撃つ為ではなく、殴る為に。
―――――――――
私達はまだ殴り続けている。あれからどれだけ経ったかも分からない。痛みで意識が飛びそうになり、全くもってそれどころではない。
本来なら、テストでここまでやる必要はどこにもない。これ程の傷を負った時点で中止だろう。
でもこの時の私達は、そんなこと……痛みで考えられなかった。
——いや、どうでも良かった。
ただ単に、セレスに勝ちたかった。負けたくなかった。
テストなんて忘れ、身体の限界さえも忘れ、負けたくないという執念だけで動く。
私達は、同じタイミングで動きが止まる。双方体力も尽きたのだ。
「レイさん……覚悟してください……!」
「そっちこそ……!」
これが最後だと直感し、正真正銘最後の力を振り絞り、出来る限り全力でぶつかる。
「「…………」」
もはや、私達に喋る力は残っていなかった。
次第に身体が傾き始め、私が後ろに倒れる。セレスは膝立ちで耐えた。
「……私の……勝ち……ですね…………」
セレスは少ない動きで勝利の笑みを浮かべる。
そのすぐ後、セレスは私の上に倒れた。
「セレス……軽い……」
「ちびでは……ないですよ……?」
「シンと10センチ以上……差があるくせに……」
「あら……レイさんの方が私より低いですよね……?」
「いつか抜かしてやる……」
冗談を言い合い、互いに笑い合う。
「っていうかセレス……」
「なんですか……?」
「これだけやり合った仲なんだから、そろそろ名前で呼んでよ……シンのことも……名前呼びなんだから……さ……」
「え……?…………あ」
「もしかして、今まで……ずっと気付いて……なかった?」
「無意識でした……嫌悪感、抱かれてない……でしょうか……?」
急に焦った様子になるセレス。
「大丈夫じゃない……?たまに名前呼ばれてにやけるの……我慢できてないし」
なんか、ムカついてきた……。
「じゃ、じゃあ、大丈夫……? ですかね?」
「うん。だからさ、私のことも……名前で呼んでよ……」
「はい……わ、分かりました」
「……セレスは可愛い!」
思わずセレスを抱きしめてしまった。
「ちょ、レ……レイさん?」
赤くなりながら驚くセレス。あーもう可愛いなー。
「うーー」
愉しくなり、謎の声をあげながらセレスの抱き心地を堪能してしまう。
だが……。
「い、痛い……」
「そうですよ……」
雷で当然火傷を負ったのでこの状態のまま抱きしめると当然痛くなる。すっかり忘れてた……。




