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3話 ちっぽけで、大きな覚悟


空が…きれいだなぁ。

庭の雑草がボクの背中を心地よく擽る。


救世主(メシア)よ。もう10分は経ちましたが、いつまで倒れているのですか」

「あと5分」

「御意」


「御意じゃねーよ。アホか」


「…あ、父さん」


いつのまにか父さんがテラスにいた。珍しい。


「服汚して家入るとリアやアトラに説教されるぞ?とりあえず草だけは払っとけよ」

「はーい」


ちなみに、リアというのはボクの母さんのこと。

フルネームは…いつも『母さん』としか呼んでないから忘れちゃった。

アトラはウチの使用人の一人で、母さんの親友らしい。アトラもフルネームは長くて忘れちゃった。

境遇はほクリオラと似たような感じだけど、敬語とかは使わず、『家族』みたいに接してくれる。


とりあえず立ち上がって服を払っていると、父さんがこっちに歩いてきた。


「しかしまあ、クリオラ。久しぶりにちょいと鍛錬を覗いてたが、お前現役の時より強くなってねえか?」


「当然だ。やはり救世主(メシア)の成長率は凄まじい。一日ごとに別人のように強くなっている。

私もそう易々と追い越されるわけにはいかないと必死なのだよ」


「いや、ランク2の魔法使って余裕ぶっこいてる奴のセリフじゃねえと思うが…」


すごく同意。父さんもジト目だ。

対して、クリオラは『心外な!』とでも言いそうな顔で口を開く。


「それはだね。アークよ。『ランク2』というのはあくまでも『私自身を高めるための鎖』であり、決して『救世主(メシア)を軽く見ている』というわけではないし、実際、余裕でもない」


そして、とクリオラの意識がボクに向く。


「…もう、いいですかね。…私のそれは、ただ表情筋が死んでいるだとか、そういう訓練を受けてきたというだけで、本当に余裕ではありませんでしたし、実際、一対一で戦う際には、『劣勢であると見せかける』というのは、相手が油断してくれて、付け入る隙が見つかる立派な『戦術』の一つです。

しかし、貴方(救世主)は違う。貴方(救世主)は常に『劣勢であることを見せない』ことが求められる。

……貴方(救世主)は将来人類を背負って戦う御方。

貴方(救世主)が絶望することは人類の絶望を意味します。

貴方は、決して折れてはいけません。

貴方が折れなければ、それだけで人類は輝く明日を信じることができる。

酷なことであると理解しています。

6歳の子供に世界を背負わせるなど、おかしいと理解しています。

それでも、こうして一筋の光に縋らなければ存続できないほどに、世界は疲れ果てているのです。

だからーー」


クリオラが跪こうとする。

クリオラの言葉は、慟哭のようで、懺悔のようで。

それでも、ボクが『光』となれるというのなら。

クリオラの言葉を遮って、言う。


「分かったよ、クリオラ」


「ーーっ!」


「ボクはまだ、何も知らない。

『邪神』というのがどのくらい強いのかも、まるで分からない。

絶望というのを経験したこともない。

これは薄っぺらい覚悟かもしれない。

それでも、」


クリオラの目をしっかりと見つめる。

クリオラはいつも通りの強い目をしている。でも今はそこに、救いを求める眼差しを感じる。

父さんは優しげな、一抹の寂しさを覗かせた目でボクを見つめている。


これは、ボクの好きな物語、『えいゆうモンジンのぼうけん』の主人公『モンジン』の、ボクが憧れた言葉だ。

カッコいいから、将来言いたいな、なんてことも思ってた。

だけど、それでも。今、ここで宣言するのは、ボク自身の意志で。


「ボクはただ、絶望を裂く一振りの剣であればいい」



ちなみに改訂前をご覧になっていた読者様に補足させていただくと、ドーキガンくんの口調改訂前がめっちゃ幼稚で「あっれれー?」レベルだったのが割と冷静になったのは、メタ的に言えば作者が見返す時に感情移入しながら読むと悶えすぎて恥ずか死ぬからですが、設定的にちゃんとした理由もあります。

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