1話 第三アルファの救世主
【とある赤子の夢】
何だろうか、妙に懐かしい感覚がする。
このボクに向けられている優しい声色はどこか、心の奥底をくすぐった。
──♪~♪♪~♪♪~♪~♪♪~~♪~♪♪♪~~
どうしてだろう。こんなに心が安らぐのは。
同時に、何故か悔しさが胸の内ににじみ出る。
何か、してあげたかったことが、出来なかった。そんな気がするんだ。
でも、その声にはたくさんの優しさが乗せてあって、聞いていると眠くなって、睡魔に抗うような気力もなく、そのまま意識を落とした。
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──ザナルキア家は神の住まわれる場所である。
そのような噂ができたのは、ある意味仕方の無いことだったのだろう。
第三アルファには古来より、予言が多く残されている。その予言は100%と言っていい信憑性を誇っており、予言のひとつに、『今より1000年後の未来に、第三アルファは邪神によって滅ぼされるだろう』というものがあった。
その予言された日から985年後の第三アルファ。
あと15年で滅びるであろう世界は、もはや既に終焉に向かおうとしていた。
多くの人間が暴徒と化し、存在する多くの国家のトップも政治がどうこうと考えることも無く、世界全体が無法地帯であった。
あと15年でお前は死ぬ。そう言われた時、人間はどうなるか。
生きる希望があれば、生きようともがくだろう。
しかし、予言が絶対的という認識を持つ第三アルファでは15年後の死は確実なものであり、決して逃れることのできない死に直面した時、人間は──理性を失った獣となる。
もちろん、何が予言か。そんなもの──と抗おうとした者もいた。
しかし、そんな者も周囲の狂気に染まり、堕ちていった。
そんな終焉の世界の中、とある未だに神を信奉する神官に神託が降りた。
──まあ、俺はお前らとかどうでもいいけどなんか世界救えそうなんで勇者送るわ。ザナルキア家なんでよろ。(意訳)
その神官は急いで王に神託を伝えた。
世界を滅びの未来から救う勇者が現れるのだ。と。
しかし、王も、国の重鎮も、誰もその言葉を信じる者はいなかった。
死の恐怖のあまり、幻聴を聞いたのだと思ったのだ。
──ザナルキア家に、生まれながらに存在値100の赤子が生まれたと聞くまでは。
ザナルキア家は、大きくもなく小さくもない。そんなありふれた子爵家だった。
しかし、武に関するスペシャルを持つ者が生まれやすい家系で、騎士団に入団したり、有名な冒険者となる者がとても多かった。
といっても、どのようなスペシャルを持っていようと、生まれたばかりの赤子に戦う力などあるはずもなし。精々が存在値1あればいい方である。
ちなみに、第三アルファの平均的な存在値は40程度。
そんな、一般人を遥かに超える赤子が生まれて、情報はすぐに世界中に伝わった。
そして、戯言ざれごととされていた神官の言葉もある程度は広まっていたこともあり、世界の救世主──勇者の誕生だ!と、世界が沸きに沸いた。
後日には、ザナルキア家には多くの人々が殺到し、情報が真実であることを確認、ザナルキア家は王命により形式的にのみ侯爵家とされた。
ドーキガン・ザナルキアと名付けられた、そんな勇者の誕生に、人々は生への渇望を思い出し、世界は、少しずつ、救済の道へと進んでいった──。
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6年後、ザナルキア家にて
朝日が窓から射し込んで、ゆっくりとボクの意識は浮上した。
ふぁー、と小さくあくびをして、ゆっくりと着替える。
侯爵家といえば使用人に着替えさせたりもするらしいけどボクはしない。恥ずかしいし。
「ドー、おはよう」
「ドーキガン様、おはようございます」
朝食のため、食卓に向かう途中でみんなと挨拶を交わす。
「「「いただきます」」」
そして、ボクと父さんと母さんで朝食を食べる。
平和な一日が、今日も始まる。