プロローグ とあるプロゲーマーの生涯
まず、長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
休載している時も暖かい声をかけていただき、ありがとうございます。
さて、突然ですが、これだけ休んだのだからいっそ最初からやり直そうかと思います。
理由としては、受験が終わったあと、改めて見てみると文が恥ずかしくて悶え死んだこと、展開についても粗さが目立ったためです。
根本の流れは変わりませんが、日常パートを追加するなど、細々とした所で結構変わっています。
今現在A´章3話まで改訂が済んでいますが、とりあえず1日一話投稿にしてみようと思います。
一話につき2日ペースで今のところ書けているので、このプロローグを含めて5話までは毎日投稿できると思います。進捗はTwitterで時々呟いてるので、気になる方はマイページからどうぞ。
前書きは以上です。長文失礼しました。
それでは、『ドーキガン・ザナルキア』をお楽しみください。
【道木どうき 元はじめの回想】
母親はOLで、父親もどうということはない、普通のサラリーマンだった。
夫婦仲も良好な、理想的な夫婦だった。
そんなごく普通の、幸せな家庭に生まれたボクは、ごく普通の、幸せな生活を送っていた。
転機は、6歳の誕生日。
いつも通りただいまという声が聞こえて、3人のささやかながらも、笑顔の絶えない誕生日パーティで6本のロウソクを消して、そろそろパーティが終わろうとする頃、父さんがリボンで結ばれた大きな箱をボクに差し出した。
ありがとう!と言って箱を開けると、当時世間を賑わせていた格闘ゲーム【永遠人形】のソフトとゲーム機が中に入っていた。
『 元はじめにはまだ早いとも思ったんだが、この前このゲームのCMを見て「面白そうだね!」なんてキラキラした目で言うもんだから。その時の笑顔がどうしても忘れられなくてね』
あの時は、本当に涙が出るくらい嬉しくてーー
そして、その日から、世界が広がった。
【永遠人形】は、従来の格闘ゲームとそれほど違うわけでもなかった。
あえて大人気であった理由を述べるなら、奥深さ。とでも言おうか。
まるで本当に対戦相手と闘っているような、そんな武の駆け引きをして、勝ったら本当に嬉しくて、負けたら泣くほど悔しくて、そんな魅力がこのゲームにはあった。
それ以降、ボクはほとんどの時間を【永遠人形】に費やした。
メインキャラは『ザナルキア』という天才少年剣士だった。好きな理由はかっこいいからとか、強いからとか、そんなありきたりなものだったけど、ボクは『ザナルキア』が大好きだった。
そして、それから2年が経ったころ、母さんに無理を言って、【永遠人形】の地区大会に出場した。
相棒はもちろんザナルキア。
地区大会とはいえ、100人いれば99人はやっているような、そんな超人気ゲームの大会は猛者ばかりが集まっていた。
そして、その猛者の中、ボクは優勝のトロフィーを掴み取った。
その夜は帰ってきた父親に優勝トロフィーを見せて自慢して、
『元は本当に凄いなぁ。将来の夢はプロゲーマーかな?』
なんて言われて、ボクはとびっきりの笑顔で
『うん!』と言った。
順調なスタートだったように思う。
10歳の時に【永遠人形】の県大会で優勝。
最年少での、天才プロゲーマーとして、【永遠人形】という超有名タイトルであることも影響し、一躍時の人となった。
両親も、心の底から楽しんでゲームをしているボクを、全力で応援してくれた。
そして────
────────────────────────
──道木どうき 元はじめ、17歳 【永遠人形】世界大会 会場──
やっと、来た。
万感の思いが、胸を駆け巡る。
夢にまで見た【永遠人形】の世界大会。
そして、次は──決勝。
緊張で心臓が高鳴っている。
今いるのは決勝戦への扉の前。
それなりに厚い扉越しに熱狂的な声援が聞こえてくる。
『さぁ!長かった【永遠人形】世界大会もいよいよ最後の試合となりました!!この試合で【永遠人形】世界一位の座を勝ち取るのは一体誰なのか!!!』
いよいよだ。
首に提げたロケットを開け、ここに至るまでの思い出を心に刻む。
ロケットに入っているのは転機となった6歳の誕生日の写真。
あの日から──いや、その前からもずっと両親には返しきれないほどの恩がある。
今この会場にも、応援に来てくれている二人を思い、嬉しさが込み上げてくる。
この大会の賞金は3億円。
【永遠人形】の世界一位となりたい。その気持ちに嘘はない。
でも、それよりも、恩を返しきれていない二人に、少しでも親孝行をしたくて。
そんなことを考えて──頭を振る。
違う。今はそれを考えるにはまだ早い。
この大会に優勝しなければ、それはまさに『取らぬ狸の皮算用』だ。
頬にペチンと気合いを入れ、実況を待つ。
『西の扉から出てきますは、最年少である17歳にして決勝戦まで進出!!そのコマンド捌きはもはや神業!!ドーキガン選手の入場です!!』
扉が開き、歓声が鼓膜を揺らす。
適当に名前をもじったこのプレイヤーネームも随分と有名になってしまったようだ。と他人事のように思う。
対面には既に対戦相手がいた。
彼も日本人のようで、何か不思議な雰囲気を纏った男だった。
「...ドーキガン、でええか?ワシ敬語とか苦手でなぁ。こういう大会出るの初めてやねんけど、まあ、よろしく頼むわ」
彼のPNは田中。この界隈の強者は大体把握しているつもりだが、彼のことはまるで聞いたことがなかった。
そして、圧倒的な実力でここまで勝ち上がってきている、とんでもないダークホースだ。
よろしく、と短く返答して、全神経を筐体の画面に集中させる。
数秒の後、カウントダウンが開始されーー
「ーーfight!!」
速攻。ボクはこのスタイルで数々の猛者との闘いを乗り越えてきた。
主導権を握らせることなく、一手のみを相手に強制させ続ける。
彼の操作キャラはエルメス。ギリシャ神話のヘルメスがモチーフらしいのだが、なぜか種族が竜人という設定が謎に包まれたキャラだ。
エルメスはAGIは高いが、代わりにHPとSTRが引くほど低いことで有名で、ネタ動画以外で使っているところを見たことがない。
しかしーー
相手は、天才だ。紛れもなく。
一瞬でそう感じた。
繰り出される行動の尽ことごとくが最善手。
コンマ数秒で戦況が変わる混沌のなかで、最善手しか打たないその技能には、もはや狂気に近いものを感じた。
──敗北。その2文字が頭を過ぎる。
世界大会だ。今までの闘いが楽勝だったわけじゃない。
しかし、この男は違う。違うのだ。
住んでいる次元さえ違う気がしてくる。
どのような頭の作りをしていればここまで『最善』を突き詰めたようなコントロールができるのか。
気づけば、ボクは既にハメ技の術中にあった。
無理だ。ここから抜け出すことは出来ない。
そう確信するほど、相手の男のコンボには無駄の一切が削ぎ落とされていた。
涙が、溢れる。
はっきりと、今、ボクは敗北を確信した。
観客も、父さんも母さんも、実況ですら声を出していない。
それほどまでに圧倒的だった。
子供の頃からの相棒が、何も出来ずに嬲られていく。
相手の男のコントローラーを操作する音とボクの嗚咽する声だけが、だだっ広い会場に虚しく響いていた。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい!
なぜ、ボクはこんなにも弱いのか!
ザナルキアで世界一になりたかった!
優勝賞金で、二人に恩返しをしたかった!
なのに!なのに!なのに!
ーー諦めるのか?
ふと、声がした。
スクリーンを見ると、1フレームの隙さえ許さないハメ技の中で、0と1のみに支配されたデータという世界の中で、それでも、この11年間を共に過ごしてきた『ザナルキア』が、無機質な『エルメス』を強い眼差しで睨んでいた。
ーー『諦めるのか?』
………。
ーー『俺はまだ、諦めていない』
…あぁ。
ーー『俺とお前は一心同体』
そうさ。
ーー『空ッポの奴らに負ける道理なんざ一ミリもねェ』
そうだとも。
「負けるわけにはいかない。ボクたちは、負けない」
だから、その覚悟を世界に刻みつける。覚悟を象にして、叫ぶ。
ーーボクが『ザナルキア』を好きな理由。かっこいいからとか、強いからとか、そういうありふれたものって言ったけれど、一番好きなのは、ストーリーモードの最後。他のキャラクターは大抵ハッピーエンドなのに、『ザナルキア』はラスボス『ソ・バベル』に遠く及ばず、全てを失う。
けど、それでも『ザナルキア』は最後まで勇気を叫んだ。その姿に、ボクは憧れた。
そうーー
「『ヒーロー見参ッッ!!!!』」
闘志を強く燃やした目で、エルメスを通して、『田中』を強く睨む。
一瞬、怯んだのか数瞬の隙ができーー
「ぬ、抜け出したーー!!!ドーキガン選手!『ザナルキア』の『ヒーロー見参』を叫んだ途端、急に動きが鋭くなったぞーー!!!まるで本当に生きているかのようだぁぁぁ!!」
これは、田中がやっているような『最善手』の無機質な戦いではない。今、ボクと『ザナルキア』は一つになって、一つの無粋な壁を越えた。
そして
ーー『認めよう。『ドーキガン・ザナルキア』。その可能性を』
唐突に頭の中に声が響き、視界が暗転しーー
──第三アルファにドーキガン・ザナルキアが誕生した。