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君と創る歴史  作者: 秋月
第1章~異なる世界~
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第7項:遠き夢への誓い 其の一

この学園で初めての試合をしてから数日。

シグレもようやくこの騎士達の学び舎である聖シュバルツ学園に慣れてきた。

元の世界ではなかった楽しさや面白さがこの学園にはあった。

毎日が驚きと笑いの連続であり、何より仲間といる事が楽しかった。

そして、今日もその仲間と共に―――。



「シグレ〜?もう時間だよ〜?」

「分かってる。今行く」


カディウスの呼びかけに応え、シグレは足元にある今しがた最後の確認をしていた小型の鞄を持つ。

部屋の外に出ると、既に準備を終えて自分を待っているカディウスがルームキーを持ちながら壁のもたれ掛かっている。


「それじゃ、行こうか」

「ああ」


カディウスが鍵を閉めると、シグレ達は外へと向かった。

そう、今日から五日間のサバイバル訓練なのだ。

ここに来てからこの国が戦争をしている事を知ったので、この訓練があるという知らせにはあまり驚きはしなかった。

当然といえば当然の事だからだ。


「シグレはサバイバル訓練初めてだったよね?」


外へ向かう歩みを止めないまま、カディウスがこちらを見て尋ねた。


「初めてだな。というか、この国の常識が俺の国では非常識だからな」

「…やっぱり、僕は君の国へ行ってみたいな」


目をキラキラさせながら歩みを進める。

以前、カディウスに元の世界の話をしてからずっとこんな感じだ。


「だって、君の国には争いがないんだろう?素晴らしい事じゃないか!」

「前にも言ったけど、争いがまったくないってわけじゃないだぞ」

「それでも、こんな戦争は今では起きてないんだろう?それだけでも凄いよ」


拳を握り締め、興奮しているカディウスにとりあえず苦笑いで応えておいた。


「そういえば、サバイバル訓練って何するんだ?詳しくは聞いていないだけど」


それもそのはずで、一昨日に担任のバーンから急に「サバイバル訓練があるから準備しとけ、以上。俺は眠いんで帰る」と一言あっただけだ。

それで理解できる奴がいたら教えてもらいたい。


「このレスティア王都から少し離れた所に”メアディ・アル”っていう樹海があるんだ。この学園では主にそこで訓練するんだよ」

「樹海?危なくないのか?」


樹海とはその名のとおり、樹の海。

もはや森とは呼ばずに海と称している時点で広さの桁が違うことが伺える。


「たしかに獰猛な獣や毒虫がいるし、迷えばほぼ確実に出られないだろうね」

「……そんな所で訓練するのか?」

「だけど、ちゃんと先生達も着いててくれるから安心だよ。流石に僕達だけじゃ危険すぎるからね」

「まぁ、そりゃそうか…」


カディウスの言葉にとりあえず納得し、ため息をついた。


「ちなみに行動は五人一組でするんだ。食料や寝床は各チームで探したり作ったりするから実際には本格的なサバイバルなんだけどね。その証拠に、非常食がちょっとしか用意されてないだろ?」


カディウスが鞄の中からビニール袋に包まれた少量の非常食を出して見せた。

中身は乾パンや乾燥させた豆などの乾燥物が入っているのだ。


「実際の戦場での状況を再現するようにしてるから、非常食はこんなものさ。それに先生がいたとしてもどうしても危険になるから、参加できるのは上位組と下位組の優秀な者だけ」

「戦場では一人になる事のほうが多いと思うが?」

「それはほら。一人だけにすると先生が回るのが大変だからって…」

「マジか…」


「大変だから嫌なだけじゃ…」と呟きながら歩いていると、挨拶をしてくる生徒が何人かいる。

その挨拶に返事を返していると、どんどん挨拶が増えていった。


「はははっ。君、この前中庭で目立ったからね。ファンができたんじゃない?」

「冗談はやめてくれ…」


額を手で押さえながらやれやれと言う風に顔を横に振る。

元々騒がれるのはあまり好きではなく、人混みなどはいつも避けて通ってたほどだった。

今ではそこまでではないが。


「ごめんごめん。まぁ、上位組には強い人が多いから下位組にファンクラブができるのはよくある事なんだよ。実質、上位組の殆どにファンクラブがあるしね」


カディウスがそう言って、廊下の途中に張り出されている掲示板を指差す。

シグレは立ち止まって掲示板に張り出されているこの学園の報道部(仮)の新聞に目を通す。


『新星現る!!聖騎士組、氷の貴公子!!その名はシグレ=アマガサキ!』

『氷の貴公子のファンクラブ結成!現在総員69名!』

『今週のファン数第一位に輝いたのはサン=イシュタリア!!』


その記事を見てシグレは唖然とした。シグレに対して苦笑いをしつつ、会話を続ける。


「この学園の報道部はどうもそっち系のゴシップが好きみたいでさ。大体、週一で新聞が発刊されているんだ」

「こ、氷の貴公子…」


頬を少し赤く染め、わなわなと新聞の一面に載せられた自分の写真を指差しながらカディウスを見る。

そんなシグレを見て、カディウスはやはり苦笑いを返すことしか出来ない。


「上位組の殆どにそんな風な二つ名がつけられてる。ちなみに僕は”樹の聖者”…」


カディウスもその二つ名を口にすると少しだけ頬を赤く染める。


「正直恥ずかしいよ…。でも、慣れるしかないから諦めなよ」


カディウスの言葉にズーンと落ち込み、足取りを重くしながら外へと向かった。



ようやく寮から出ると空は蒼天に包まれて―――はいなく、雲が重なり合った曇天がそこにあった。

このどんよりした天候がシグレの落ち込みに少しだけ拍車をかける。

カディウスはシグレを慰めながら集合場所である校門へと向かった。

校門に着くとすでに殆どの参加生徒が集合しており、後は出発の時間を待っている様子だ。

シグレとカディウスがキョロキョロしていると、見知った顔がこちらに近づいてくるのが見えた。


「シグレ、カディウス。遅いぞ!」

「そうそう。アタシ達二十分ほど前に来てたんだよ?」


会って早々愚痴を言うサンとイグサ。結構前に来て待っていたらしい。

二人とも小型のバッグに自分の相棒である武具を持って、軽くストレッチをしている。


「このサバイバルの間、私たちはチームだ。団体行動を乱していては生き残れないぞ?」

「いくら訓練と言ってもサバイバルなんだよ。規律は守るべきだね」


う〜ん、とサンが掌を組んで真上に伸ばし、イグサが逆立ちをしている。

正直イグサのほうはストレッチではないような気もするが、まあいいだろう。


「そういえば、この訓練って五人一組だろう?あと一人は?」


サン達を見習って、シグレも屈伸をしながら周りを見渡す。

同様にカディウスもアキレス腱を伸ばしながら辺りを見ている。


「え〜と……誰だろうか」

「忘れたんだな…」


ハテナマークを浮かべるサンに少し呆れた顔を向けていると、後ろから自分達に向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。

その足音はシグレの後ろで止まった。


「どうやら、私が最後のようだな」


シグレを含めた四人がストレッチを一旦止めて振り返ると、そこに居たのはシグレよりは低いがそれでも十分長身の部類に入る女性だった。

腰まで伸びた艶やかな漆黒の髪に、自分達を写す黒曜石のような瞳…そして一本だけ飛び出た髪の毛が印象的だ。

現れた女性を見て、シグレを除く三人がああっという顔をしたかと思うとサンが指を指す。


「おおっ!最後の一人はカノンだったのか」

「指を指すな指を。まったく…お前という奴は」


親しく会話をする二人を見て、シグレはイグサにそっと耳打ちする。


「知り合いなのか?」

「なっ!?」


突然近寄られて、イグサは少しだけ頬を赤くして飛び退いた。


「い、いきなり近づくな!びっくりするだろ!」

「ああ、悪い。…で、どうなんだ?」


イグサはシグレから顔を背けて、一旦心臓を落ち着けてから再び彼の顔を見た。

依然、シグレの目はイグサに向けられていた。そして、また少しだけ頬を染める。


「アイツはカノン=ウィアルド。アタシ達と同じ上位組で唯一サンとまともに戦える奴。ちなみに、歳は十八」


簡潔な説明に謎の備考がついていたがとりあえずはよく分かった。

といっても、その説明から一番分かったのはサンがとても強いということだったが。

サンと話しているカノンを見ていると、視線に気づいたのかこっちを向いてチョイチョイと手招きしてくる。


「…どうすればいい?」


手招きをしているカノンのほうに指を向けて、カディウスを見る。


「行ってくればいいんじゃないかな?少なくとも、僕達は面識あるから」


相手方に分からないようにハァと小さくため息をつき、トボトボとサン達のほうへ向かって歩く。

その光景を見て、カディウスとイグサは笑っているらしくクスクスと言った笑い声が微かに聞こえてきた。


「自己紹介がまだだったな。私はカノン=ウィアルド。クラスは見ての通りお前と同じ聖騎士組だ。よろしく」

「俺はあまがさ…じゃなかった。シグレ=アマガサキ。こちらこそよろしく」


普段言い慣れない英語の名前のように自己紹介をして握手を交わす。

そのとき、彼女の瞳は真っ直ぐにこちらを見ていた。


「お前の事は良く知っている。この前の中庭での試合以来ずっと見ていたからな」

「ずっと…?」

「あっ!いや、そういう意味ではなく…単純に強いものとしてだな…」


バッと握っていた手を離すと、頬を赤く染めるがすぐに正常に戻る。


「できれば、手合せ願いたいところだが…。もう出発のようだな。手合せはまた今度にするとしよう」


カノンはフッと笑うと、『出発すっぞ〜』と前で声を張り上げている担任のバーンをほうを向いた。

というか、バーン先生っていつもいるよな…。


「シグレ。カディウスと手を繋げ」

「はい?」


サンの言葉の意味を一瞬考えていると、右手はサンに、左手はカディウスに握られていた。

見ると、チーム五人が円を描くように手をつないでいる。

周りのチームも同様の事をしていた。


「そういや、シグレは知らないんだっけ?アタシ達の学園じゃ、転移魔法は訓練の時じゃ必ず使うのさ」

「いくら王都の郊外って言っても距離はあるからね。僕達が走って行っても二時間はかかるからさ」

「それでも、やはり転移魔法は慣れないな。転移する時の感覚がな…」

「それはともかくだ。シグレ、手を離すんじゃないぞ?」

「あ、ああ。分かった」


転移魔法…か。この世界に来て退屈する事はなくなった。なくならざるを得なかった。

俺は、サンと繋がれている右手に力を込めた。


『ほいほ〜い。んじゃ、わ〜ぷ!』


脱力しそうな声と共に、俺達は体がねじれて消えるような感覚に包まれながら空間を越えた。

少しだけ恐かったので目を瞑っていたが、「着いたぞ」というサンの声に恐る恐る目を開けると目の前に”メアディ・アル"と書かれた看板が立っている。

周りを見渡せば、先程までいた他の生徒は見当たらずにただただ樹が生い茂っているだけだった。


「転移した時点からサバイバル開始だからな。それでは私たちもいこ―――」


ドゴオオオオオオン!!!

サンの言葉を遮るようにもの凄い爆発音が樹海に響き、シグレ達の鼓膜を揺らした。


「な、なんだ!?」

「この匂い…。学園の奴らじゃない奴がいる!!」


獣人の特徴である人間より優れた感覚の持ち主であるイグサが叫んだ。

イグサの頭部にある人間とは違った獣の耳が活発にヒクヒクと動いている。

イグサが周りの状況を探っている時にも、多くの爆発音があたり中に響き渡る。


『てめえら!聞け!』


シグレ、サン、イグサ、カディウス、カノンの五人の間に割って入ってきたのは担任のバーンだった。

しかし、バーンの体は透けており、時折ブンッとラグがはいる。


『今、魔法で各グループに映像を流している。いいか、よく聞け!今、襲ってきている奴らは敵国、”ゼルガド”の兵士共だ!』

「馬鹿な!!」


バーンの知らせに反応したのはサンだった。その顔色はいつもと違って青ざめており、額に汗が流れる。


「なぜ、レスティア国内のこの樹海に奴らがいる!!我々を狙ってきたと言うのか!」


現在、レスティアとゼルガドは冷戦中でどちらの国も兵力を温存している。

それでもその温存している兵を送り込んできたと言う事は、何かを狙ってでしかありえない。


『とにかくだ!チームには上位組がそれぞれ最低でも一人いるはずだ。上位組!チームを引っ張ってとにかく逃げて生き残れ!これは訓練じゃねえ!本当のサバイバルだ!もう一度―――』


バーンの魔法による映像はそこで途切れた。術者であるバーンが魔法を続けていられなくなった証拠だ。

少しの間、全員が何も喋らずただそこに立ち尽くしていた。


「狙いは…国の未来を担う騎士見習い…。それも稀少である上位組が参加している訓練を…」


カディウスの髪が薄く見えるほど、彼の顔は青ざめていた。恐怖と絶望が混じって、もはやどうすればいいか分からなくなってきているのだ。


「と、とにかく!今は身を隠すことが最優先―――」

「何か来る!!」

『!!!』


カノンの言葉を遮り、イグサの感覚の全てが何かを捕らえた。

全員に緊張の戦慄が走った。

五人全員が背中を向け合い円状に周りを警戒する。


「…!!サン、目の前からくる!!」


イグサがサンに叫ぶと、サンが相棒である剣を背中から抜いて大きく斬り下ろす。

ザクンッと嫌な音がしたかと思うと、サンが大きくバックステップした。

全員がサンの斬りつけた陰に注目する。

生きているのか、いないのか…もしかしたら襲ってくる…!?

そんな気持ちが渦巻く中、陰からガサッと音がして鮮血に染まった鎧を着た男が前のめりに倒れた。

その瞬間、全員が凍りついた。これでようやく理解したからだ。この生死を、命をかけたサバイバルが始まった事を。

全員が即座に走り出した。サンを筆頭にひたすら爆発音から遠ざかるように走った。

いつのまにか、雨が降り出していた。雷が鳴り始めていた。

俺達は今、崖の下にあった洞窟の中で雨風を凌いでいる。先程まで聞こえていた爆発音は今はしない。


『………』


転移する前までのいつものような会話はなかった。全員が真ん中に焚かれた焚き火を見詰めて沈黙を通している。


「…他の奴ら。どうなったんだろうな」


必死でひねり出した言葉がこれだった。というより、他の言葉が見つからなかった。


「分からない。だが、真実であるのは急襲にあった事と…私が人を殺したことだ」


熱くなってきた目頭を少し擦りながら、つい先程の事を思い出す。

自分が斬った人の肉の感触、血の臭い、生ある者から奪った命。その一つ一つが重くサンの肩に圧し掛かった。

ふと、自分の横に置いてある自分の相棒を見る。鞘から引き抜くと、その刀身には自分が命を奪った者の血で塗れていた。


「その剣…」

「私の…半身だ」


鞄から布を取り出して刀身を覆う血を優しく拭う。

その様子があまりにも痛々しく見えて、シグレも胸が痛くなった。

このままではいけない。そう思い、とりあえず話題を作る事にした。


「なぁ、皆の召喚した武器ってどんなのなんだ?」

『?』


今まで俯いていた顔が一気に上へと上がる。

カディウスとイグサに至っては、唐突かつ場違いな質問に目を丸くしている。

カノンも少し唖然としていたが、すぐに口の端を軽くつり上げて自分の腰にある鞘から一対の短剣を取り出す。


「これが私の半身。”ホワイトウィング”だ」


カノンが手にしているのは、白い翼を象った双剣だった。

見るからに軽そうであるからしてカノンは連続攻撃が得意なのであろう。

カノンがチラッとシグレのほうを見ると、再び微笑する。


「アマガサキ。お前のその漆黒の刀は何というのだ?」


自分の双剣をしまいつつ、シグレのほうへと目をやる。

そう尋ねられて、シグレは鞘から刀を抜く。漆黒の中に月が踊った。


「いつ見ても美しいな…」


カノンが感嘆の言葉を漏らす。刀とシグレを見詰める瞳はいつもより優しげだった。


「え、えっと…名前…名前…」


刀を鞘に戻し、腕を組んでひたすらうんうん唸っていたシグレを目の前にしてこの場の空気に変化が訪れた。


「……ああっ!もう!苛々する!考えてないのに何で尋ねてるわけ!?」

「ははは!…シグレらしいね」


イグサがイライラの限界に達し、両腕を真上に上げてウガーッと大声を上げる。

カディウスはその隣で笑っている。


「もういい!アタシが先に言うから考えなさい!」


ビシッとイグサの指がシグレに向けられた後、イグサは腰に真横に携えている鞘からキラリと光る刀を取り出した。

刀と言っても、シグレのものよりは短く(つば)がないまさしく忍刀と呼べるものだった。

刀身の猛々しいほどの赤で刻まれた文様が一層燃え盛る炎を連想させる。


「これがアタシの忍刀”獅子王”。この忍刀がアタシの分身。だから、いつも共にあるの」


赤く光る刀身に焚き火の炎が映し出されて、神秘的な色が放たれている。

その刀を握る彼女は気高き獅子の使い手に相応しいと思えるほどに彼女は真剣な顔つきだった。


「次は僕の番だね。僕の武具は……これさ」


カディウスがスッと右手を前に突き出す。しかし、手を見ても何も握られていない。

よくよく見てみれば、右手の人差し指に緑の石がはめられた銀の指輪がつけられている。


「これが僕の”常磐の指輪”さ。この指輪を媒体に僕は魔法を使っている。本当言っちゃうと、この指輪がなくなれば僕は魔法が使えない」


静かになおかつ淡々と指輪を見て話し続けるカディウス。その瞳はどこか寂しげな雰囲気だった。


「僕の家系は代々賢者騎士だった。皆は僕の歳くらいには媒体なしで魔法を使えていた。でも、僕だけは使えなかった。だから、召喚の儀で媒体が出たんだろうね」


悪く言ってしまえば落ちこぼれ、非常識。誰もがその言葉を脳裏に掠めたが、誰も言う事はなかった。

仲間を言葉で傷つける事が最低であるからだ。たとえ冗談だとしても、言って良いものと良くないものがある。


「さぁ、次はシグレの番だよ?ちゃんと考えてたんだろうね?」


シグレは「ああ」とだけ返事を返すが、やはり自分で名前を考えるのは気恥ずかしい。

自分のセンスを回りに曝け出す様なものなのだから、当たり前だ。でも、やっぱり恥ずかしい。


「ちょっと…何恥ずかしがってんのよ。アタシ達はちゃんと紹介したんだからね?」

「別に誰も変だなんて言わないと思うよ。君のセンスが本当に変じゃなければ…だけどね」

「男なら覚悟を決めろ」


イグサ、カディウス、カノンが急かすように追い詰めてきた。

仕方がないとシグレは観念して、自分の手に握られている漆黒の刃を見詰めた。


「この刀の名前は………”月華(げっか)”」


シグレの言葉に呼応するかのように、月華の刀身は焚き火の光を照り返してキラリと光る。

しばらくの間、誰も何も言わなかったので恥ずかしさがこみ上げてきて顔が火照る。


「やっぱ、変か?」

「いや。変じゃない…。むしろ、素晴らしい名だ」


意外な事に口を開いたのは、今まで己の剣を布で手入れしていたサンだった。

その後もサンは言葉を紡いでいく。


「星も出ない漆黒の夜に朧気ながらにぼんやりと光を放つ月。まさにその刀に相応しい名だ」


サンのお墨付きを貰った事で、シグレは安堵の息を漏らした。

正直、自分でも格好つけ過ぎたと思ったくらいだったのでひやひやしていたのだ。


「月華…良い名前じゃない!!シグレって変にセンスあるんだね!」


「どういう意味だ」と返すと、イグサはにゃははと笑ってごまかす。


「…やっぱり僕は、君なら何かしてくれるんじゃないかと思うよ」

「何かって?」

「何かとは言えない。でも、時代を変える大きな何かを…」

「それはないって!だってシグレって案外優柔不断だし」


「それは関係ないだろ!!」と大声を張り上げ、イグサを追い回す。

それを見てカノンはやれやれと思いつつも微笑しながら、まるで親のような優しい目でシグレたちを見ていた。


「最後は私か。…ん?こんな台詞を最近聞いたような…」


今まで黙々と布で手入れをしていたサンが立ち上がり、いつものようにいつもの調子で話す。


「大切なものを守るための私の半身”サンライズ”。この剣は剣であると同時に盾でもある。時に傷つけ、時に守る。これが私の半身だ」


サンの綺麗な手で握られているエストックの”サンライズ”からは暖かな光を感じた。

イグサの”獅子王”とは違う猛き炎をその身に宿している。

鮮やかで鮮明なオレンジが刀身を包んでいて、自分の刀を月というのなら、間違いなく彼女の剣は太陽。

それほどまでに眩しい光だった。


「皆、決意は固まったか?私はもう固めた。この戦い、絶対に生き残る」


サンの瞳の輝きが決意の強さを物語っていた。同様に、自分を除く他三人の瞳も輝きを放っている。

俺の瞳はどうだろうか。皆と共に輝いているのだろうか。

たとえ輝いていなくても、俺はこの仲間と共に生き残る。

そう決意したシグレの瞳は夜空に浮かぶ月の如く輝いていた。


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