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君と創る歴史  作者: 秋月
外伝其の参
46/48

第45項:一時の平穏

『本の無視』


「ようやく、か」


ある部屋の扉の前に立つ俺―――尼崎時雨もといシグレ=オーフェニア=ベルナークは不敵な笑みを浮かべていた。

ある物の話を聞き、ずっと焦がれ続けていた物に今日ようやく触れる事が出来る。

考えただけで涎が垂れそうな位嬉しい話だ。


「この世界のありとあらゆる知識を詰め込んだ宝箱―――自動更新型目録オンライン・インデックス


話には聞いてはいたのだが、今の今までやらなければならない事で一杯だったので全く手を出せずにいた。

何度も何度も暇を見つけては訪れようとはしていたけどその度に満室だったり、誰かの邪魔が入ったりと機会を奪われ続けてきた。

表面には一切出しはしなかったがそれは苦悩の日々だった。


「だけど……それも今日でおしまいだ」


チラリと自分の手の中にある小さな鍵を見る。

カディウスが司書であると聞いて何とか頼み込んで(脅して)予約を取ってもらったのだ。

それも約三日間連続と言う無理にも程があるような予約。

これも俺の努力の賜物というものだ。


「さあ、いざ行かん。俺のエルドラド」


宝物庫への扉に鍵を差し込んで回す。

施錠を外された扉はいとも容易く開き、俺を招き入れてくれる。

開かれた部屋の内装は特に変わった所もなく一つの机がポツンと置かれている。

予め説明を受けておいた為、使用に関して何の問題もない。

迷うことなく机の端の枠に自分のシンボルを当て嵌め魔力を通す。

なんでもこのシンボルが、個人の情報を刻む魔導登録器(マジックメモリー)になっているらしい。

一種の身分証明書のようなものなのだろう。

魔力を通すと同時、小さなモニターが浮かび上がる。


『―――聖騎士騎士組―――シグレ=アマガサキと認識。―――魔質……適合。自動更新型目録オンライン・インデックス起動します』


ウォン、と小さな起動音と共に大きなモニターが開かれる。

これが自動更新型目録オンライン・インデックス―――常時情報を更新し続ける、向こうの世界で言う巨大な電子図書館(ネットライブラリー)

向こうの世界で読書をしまくっていた俺からすれば宝の山だった。


「フ、フフフ、フフフフフフフフッ」


無意識に怪しげな笑みを漏らしながら、俺は目の前の画面に没頭していった。




「………レッ! ちょ……聞……!?」

「………………………」



「兄………、無………しな……さい…」

「………………………」



「お…! 返……しろ……いっ!」

「………………………」



「シグ………わた……声…………か?」

「………………………」



「あ………理……する…、………れ……よ?」

「………………………」



「君………とは。少……外…だ……よ」

「………………………」


「マス………。……を……すると……い…胸…で……ね」

「………………………」




「……………ハッ!」


ふとした拍子に今まで深くのめり込んでいた意識が覚醒する。

辺りを見渡せば簡素な部屋の中に物凄い勢いで動き続けるモニターのみが目に映る。

同時に眠気と空腹感と疲労感がドッと押し寄せてくる。

向こうの世界では、よく休みの日とかに本の一気読みをしてこんな状態になる事は多々あった為、懐かしい感覚だった。

久しぶりの自分だけの時間は、俺を十分に満たしてくれたようだった。



その後、誰かに会うと必ず『本の虫』とかそれに類似する言葉を投げつけられる。

理由を聞いても皆、少なからず怒ったような呆れたような顔をして目を逸らすだけだ。

何故だ?



   ***



『冥土の土産』


「はぁ……」


キラキラと陽光を受けて光るシルバー製のトレイを手に一人溜息をつく少女。

その身は黒と白を基調として清楚に彩られたエプロンドレスに白のキャップに包まれ、端から見れば完璧な『メイド』である。

それだけでもそういった憤好の者にはストライクゾーンのど真ん中であるが、彼女はそれだけではない。

彼女は一言で言えば美少女と呼ばれる凛とした存在だった。

端正で凛々しい顔つきに、黒曜石さながらの艶やかさを見せるストレートの黒髪。

一般女子の平均よりは少しばかり高めではあるが、大きいと言うよりスラッとしているという表現が似合うスタイル。

それらはけしてメイド服という輝きの陰に隠れる事はなく、むしろ服によって更に至高のモノへの昇華を果たしている。

そういった憤好の持ち主でなくても思わず振り返ってしまう、女性としては誰もが羨む魅力を彼女は放っていた。

しかし、


「いつもながらのことだが…憂鬱だ……」


今現在、メイド服姿の少女―――カノン=ウィアルドは鬱々としたブルーな気持ちの真っただ中に沈んでいた。


「確かに高給の仕事を探していたとはいえ………いや、今更愚痴を言っても仕方ない。だがしかし、あの時―――」


あの時、勢いに押し切られずにハッキリと断っておきさえすればこのようなヒラヒラした服装をすることはなかっただろう。

話はカノンが学園に入学した当時にまで遡る。


・・・・

・・・

・・


『済まないが、この街でなるべく高給の仕事は何かないだろうか? 内容は厭わないつもりなのだが……』

『え? っ! あらあらあらあらあらあら! 仕事ね、仕事を探しているのねっ!?』

『あ、ああ。何か心当たりが?』

『ええ。貴方みたいな可愛い娘が出来る簡単なお仕事よ! うふ、うふふふふふふふ』

『……………済まない。私は他を当たる事に……っ!?』

『逃がさないわ。貴方みたいな逸材…逃がしてたまるものですか! さあ行くわよ!』

『え、ちょっ離っ離してくれぇぇぇぇぇぇぇ!』


・・・・

・・・

・・


―――という経緯で、町の端のほうにある小さめだが内装外装がやたらと派手な喫茶店に連れ込まれ、あれこれ言われて結局言い込められ、今に至る。

ちなみにこの服装は店員の制服だとか。

この服装に着替えるだけで一気に多数の視線を浴びせられる気がする。

更に店の先達に教え込まれた言葉を客に言えば、殆どの者が紅くなる。

始めた当時はその言葉の内容に私も恥ずかしさを隠しきれなかったが、今では店員として大切な笑顔を以て言い放つ事が出来るようにもなった。

断固拒否していたこの店のスタイルもようやく身体に染みついてきた。

慣れとは恐ろしいものだ。


『でさ、ここの苺ショートデラックスが……でだな』

『……はただ単に……が見たいだけでしょ』

『はぁ…何で俺が……なんて』


溜息をついている間にどうやら客が来たようだ。

何やら聞き覚えがあるような声だったがそんな事を考えている場合ではない。

ちゃんと応対しなければ叱られるのは私だ。

今にも開けられるであろう扉の前で、シルバートレイをお腹の前に両手で抱えて準備する。

据え付けられたベルのけたたましい音と共に扉が開けられると同時に笑顔で声を出す。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


その時だった。

世界が一瞬ピシリと音を立てて、私は笑顔で凍りついた。

扉を開いて店内に入ってきた客はそれぞれが見覚えがある……というか完全に見知った顔だった。


「カノン、何やって…」

「ちょ、おまっ……そんな恰好が趣味だったのかよ…」

「いやいやいや! そんなわけないでしょ! それより早く……」


冷ややかな、ある意味いつも通りな反応のシグレ。

頬を微かに赤らめながらもマジマジと此方を凝視してくるウェイバー。

そして焦った様子で慌てふためくカディウス。


「あは、アハハハハハ、アハハハハハハハハハハ…………うわあああああああああああああんっ!」



…正直なところ、その後の事は覚えていないし思い出したくもない。

気がつけばボロボロの三人が地に伏せ、私の服には返り血が付着していただけだった。

 


   ***



『因果応報』


「はぁ……はぁ……はぁ……っ」


肩で大きく息を次の最良の一手を取る為に思考を加速させる。

ここは戦場で、俺は死地に一番に赴く特攻兵。

一瞬の判断ミスが即、死に繋がる地獄の様な状況で俺は微かに微笑む。

べつに頭が狂ってしまったわけじゃあない。

この地獄を乗り越えた先にある桃源郷の事を思い浮かべるだけで思わず顔が綻んでしまうのだ。

こればかりはどうしようもない。


「っ……次は………っっ!!」


カチリ。

無情な機械音がシンとしたこの場に響いた刹那、どこからともなく炎弾が此方目掛けて飛来する。

ドクンッと跳ね上がった心臓を抑えつけて音を立てずに回避する。


「あっぶねー……どんどん警戒率あがってんじゃねーか」


以前にもまして敵の攻勢…いや、守勢は激しくなっている。

奴らは必死に俺たちにとっての桃源郷を隠し通したいのである。

だからこそ、巧妙なトラップを仕掛けて俺たちを迎え撃つ。


緊張の糸は絶え間なく張りつめ続け、既に限界が訪れようとしていた。

だがここで倒れるわけにはいかない。

全世界に存在する俺の仲間たちの為にも半ばで朽ちるわけにはいかないのだ。

ジリジリと一歩一歩慎重に進み、トラップがある度に全力でその身を守り続ける。

あれから幾つの罠を超えただろうか。

ようやく、俺の目に光が見えた。


「お…おお……あの光は……」


感動に打ち震えながら慎重に進んでいく。

その時、天使のラッパのような声が耳に飛び込んできた。


『羨ましいです……私ももうちょっとあれば……』 

『フンッ! ……なんて、あったって邪魔なだけじゃない! う、羨ましくなんかない!』

『その通りだぞ。肩が凝ったり戦闘でも動きづらいなど…固定しておかないと邪魔なんだ』

『それに関しては私も概ねカノンの意見に賛成だな。邪魔な事この上ない』

『なんなのよ! それ、嫌味!? 皮肉!?』

『……貴方達は本当にくだらない話をしてますね。…ヴァルナには関係のない事です』


「お、おおおおおおおおお」


その瞬間、俺のテンションは最高潮にまで達し、今までの慎重さなど一切忘れて走り出す。

いざ天使の楽園へ! いざ我らが桃源郷へ!







カチリ。


「…へっ?」


高揚しきっていたのもつかの間、単調な音が響く。

恐る恐る下を向いた瞬間―――


「なぁぁぁぁ――――――――!?」


一つの星が空を舞った。








「んー? なんか猿の奇声みたいなのが聞こえない?」

「どうせまた、ウェイバーが覗きでもしようとしてトラップにかかったのだろう。愚かな」

「…不潔です」

「それにしても、ヴァルナも意外に…私以上カノン以下と言ったところだろうか?」

「ヴァルナには興味の欠片もない話です」





結論:カノン>ヴァルナ>サン>>>>>>イグサ≧アニー










「あ、流れ星」

「…下から上に向かう流れ星とか初めて見るんだが」

「………ウェイバー。大丈夫かな」

「あいつ、変な所で馬鹿だよな」










終われ。

「何このカオス。更新遅すぎっ! さぼりすぎっ!」

「……一応、作者の言い訳としては大学が忙しいらしいががg」

「どーせ一つのレポートとかに4~5時間かけてんでしょ」

「…否定できんな」

「ま、それはどうでもいいとして…次回からは新章に入るわ!」

「ほったらかしにされてるあのキャラが出てくるかもしれないとか……なんだこれ」

「作者を理解しようとしたら頭おかしくなると思うから気にしない!」

「…本当にこれでいいのか?」


byシグレ&イグサ

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