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君と創る歴史  作者: 秋月
第3章~王国騎士選抜試験~
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第42項;二次試験『ノゾムセカイ』

騎士選抜一次試験はヴァルナの援護を受け、俺の『雪月華』の一撃を以て幕を閉じた。

終わるや否や、今まで何処に隠れていたのかと思うほど騎士…なのかどうかは分からないが大勢の鎧やらローブやらを纏った人が出てきて凄惨な姿と化した山の修復作業が行われた。

その作業は手際の良いもので破壊された木々や大地が瞬く間に時間を戻すかのように修復、整備されていく。

やっぱり魔法って凄いものだな、などと考えながらその工程を眺めていると途端にバーンがその場にいる全員に聞こえる声を発し、手早く転移用の魔法陣を展開させる。

素早く精密に編み込まれた魔力は俺たち全員を飲み込み、そこで視界が途切れた。


ハタと気付けば既に眼前にあった山の景色はなく、暗がりの部屋が広がっていた。

床には部屋の隅々にまで行き渡る白く光を放ち続ける複雑な紋様で形作られた巨大な魔法陣。

魔法陣の中心の真上には小さいな太陽とも思える白色の発光体が宙に浮かんでいる。

辺りを見渡せばいつものメンバーの他に、何人か見覚えのある上位組生徒がちらほらと佇んでいる。

頭の中で状況の整理をしていると不意にカツッと床を鳴らす音が聞こえた。


「…まずは一次試験合格おめでとう、とだけ言っておこう」


どこからともなく現れたのはバーンであり、その隣には黒のローブを纏った人物がいる。

黒のフードが顔をすっぽりと覆い隠しているので男か女かの区別もつかないが微かに見える白い肌とその身に纏う雰囲気は女性のもののように思わせる。


「お前たちは、一次試験においてあの大勢の中の生徒から『少しはマシ』と判断された者たちだ。存分に喜び騒いでおけ。さて……二次試験か」


淡々と並べられる身も蓋もない言葉の羅列に喜ぶ者もいなければ反論する者もいない。

多少ざわめく者がいた位だ。


「お前たちは知らないだろうが…普段お前たちが使う武器、いや武具というものは歴史が古くてな。太古の昔、まだ病院や学園、国という集いさえもなかった時代から武具というものは人の手によって存在していた」


誰一人として声を発する者はいない。

声を発しようにもこの状況下で何を口に出せばいいのか分からないからだ。

唐突な話に対する疑問? 今、自分たちのいる部屋について? 黒のローブを纏った人物の正体?

今この場にいる生徒は必死に事態の展開を理解しようとする事しかできない状況に陥っている。

それは俺たちも例外ではなく、イグサやウェイバー、アニーは最早訳が分からないといった表情を浮かべている。


「人々が自衛のための道具を手に入れる。それは定められた必然だった―――」


世界の創生…生まれ出でし頃の世界に住まう人類は皆総じて弱者であった。

獣・病・天災―――それら全てが自然の摂理に従い、世界に点在する人々に猛威という名の牙を振るった。

何千、何万という人が自然に抗えず耐えきれずにその命を落とした。

何千、何万という人が自然の残虐さに泣いた。

それでも人は、秩序なき混沌が蔓延る世界に抗った。

そうして―――人は大切なものを護るため、草で、木で、石で、骨で…そして体内を駆け巡る魔力で自衛のための武器を作るという一つの結果に辿り着いた。

ある者は獣に負けない鋭き剣を、ある者は病に屈しない特効の薬を、ある者は天災に翻弄されない堅固な壁を。

それらは人々を獣や病、天災から護り…まさに『神からの贈り物』と呼ぶに相応しいものだった。

そして今現在…世界中の全ての人が持つ武具は過去の遺物と国によって認識されている。

遥か昔に作られた素晴らしい力を持つ武具は何らかの古代にのみ存在した方法を以てして、今の人々に受け継がれている。

目覚めの時、武具は運命の赤い糸に惹かれるかのように人の前に具現する。

人が死す時、武具は光の粒子となって消え去り、再び運命の相手を待つ。


「これは『武史』という昔の学者が残した書の一節だ。今でも国は人の手に現れる武具について研究を続けている。過去に現れた武具、そして現代に存在している武具を全て記録し続けている。そして、『武史』の書に書かれた内容もまた、事実であると認知されている」


一度話をそこで区切り、バーンは右手を前に出す。

少しばかり力むように魔力を放出するのと同時に土色に光る球が現れ、それを握り潰すように掴んだ。

すると土色の光の球は元の形を崩し、奔流と化して広がり、瞬く間に一本の杖の形を成した。


「俺にもお前たちにも、太古の人々が遺してくれた武具が身体に、そして心の中に眠っている。それが目覚めるかどうかはお前たち次第だが……さて、どんな具合だ?」


手にした杖を再び光に戻して消し、バーンが隣にいる人物に顔を向ける。

そいつは考えるように「んー」と小さく唸り、やがて初めて口を開いた。


「ふむ。つい今し方、術式は完成した。何時でも構わんぞ」

「そうか」


バーンにとって満足のいく答えだったのか、口の端がゆっくりと釣り上がっていく。

ある種特有の嫌な感じのする腹黒い笑みという奴だ。


「喜べお前たち。退屈な話はおしまいだ。…今から、楽しい楽しい二次試験の―――幕開けだ」

『…っ!?』


嬉々とした笑みを浮かべるバーンを前にシグレたちは瞬時に身構えるが、時は既に遅かった。

膝からガクンと力が抜け、生徒たちは次々に地に臥していく。

それは例えシグレたちといえども例外ではなかった。


「夢へと堕ち、自身に対峙してこい。現と夢幻の狭間で己が欲望に溺死するか、はたまた全てを振り払って大きく羽ばたくか。もし黒い闇へと沈んでしまうのならば、所詮はその程度だったというわけだ」


地に膝をつけたまま、シグレは全身の力を振り絞って項垂れ楽になろうとする頭を上げる。

既にシグレ以外の全員が眠っているかのようにピクリとも動かず、その異様な光景を見下ろすのはバーンと謎の人物。

彼とも彼女ともいえない、フードで顔を隠したそいつはこの事態の享受を促す言葉を投げかけた。


「何時までも愚図愚図と抗うでないわ馬鹿もの。これもまた、練の内。さっさと行ってさっさと帰ってくるが吉よ」

「あ……あ、んた…は…」


言葉を一つずつ紡ごうとすると頭の中に鈍器で殴られたような衝撃が走る。

もはや意識が朦朧としていた状態のシグレは耐えられるわけもなく、世界は暗転した。




   ***



暗闇の中、風が通り抜けていくのを感じる。

軽やかな風に乗り、騒がしい人の声、何かを弾く金属音、綺麗な音色。

それはかつて俺が通っていた学園の日常風景だった……はず。

……かつて通っていた学園?

―――そんなはずはない。だって俺は……。ああ、そうか。これは―――


「……夢、か。そうだよな。俺は今も昔もこの学園に通ってたんだから」


スッと目を開くと開けた眩しい風景が視界に飛び込んでくる。

直ぐにここは屋上であると認識する。


「ようやくお目覚めかと思えば、寝ぼけてんのか?」


声がしてきた方に顔を向けると、危険という事で屋上に設けられたフェンスにもたれかかる普段見慣れた男の姿があった。

体操服姿のそいつは部活途中で抜け出してきたといったところだろう。

髪の毛から汗がぽたぽたと滴っている。


「こんな所で油売ってていいのかよ。華音(カノン)が探してたぜ。剣道部部長兼エースの時雨さんよ」

「…その言葉そっくりそのまま返してやるよ。お前だって陸上部エースだろ、ウェイバー」

「………―――まぁ、なんだ。休憩は必要ってことだな」


俺の問いかけに軽く目を逸らすこの男の名前はウェイバー・グラハム、云わずとも分かる留学生だ。

俺たちが通うこの学園―――アメストリア学園は才能のある者を多く育てる事を目的として成り立っている。

切磋琢磨を信条とし、才ある者には才ある者をあてがい、共に過ごさせ、励まし競い合わせる事で互いに成長させあうようにされている。

そのためには学園は国籍を問わずに世界中から才ある人材を集め、この学園に勧誘し留学させている。

ウェイバーもその一人でその身体能力をかわれて学園に来た。

来日からかなりの歳月が経つので最早日本語はペラペラも同然だ。


「って、俺の事はいいんだよ。お前、こんなとこでボーッとしてていいのか? 剣道部はメニュー一式終わらせねえと帰られねえんだろ? 今日も一緒に帰る約束してたじゃねえか」

「一緒に帰る……? 誰と? …まさかお前と―――」

「んなわけねえだろっ! 気色悪いわ!」

「だよな。俺も嫌だ」


ウェイバーが嫌、というわけではないがこの歳になって男二人で帰る約束ってのも……微妙に気が引ける。


「ったく…まだ寝ぼけてんのか。それとも惚気か。わざと俺に名前を言わせて、カップルアピールか」

「別にそういうわけじゃ……」

「どうだかね。俺が言う事でもねえけど、ちゃんと一緒に帰ってやれよ。サンの奴、楽しみにしてるみたいだしな」

「サンが………ああ、分かった」

「うし。じゃ、俺も戻るわ。んじゃまた明日な!」


片手をシュタッと上げ、ウェイバーは部活へと戻るべく走り去って行った。

サンと帰る約束、か。

そういえば授業が終わった後にそんな約束をしてたっけか。


「…戻るか」


まだ終わらせていない練習メニューを頭に浮かべながら、俺はグラウンドを挟んでプールの向かい側にある剣道場へと足を向けた。




   ***


(Sideバーン)

「……よし、成功だな」


やや不安な要素もいくつかあったがどうにか第二次試験用の魔法は成功した。

もしかしたらアマガサキと姫さんの二人は魔法抵抗(レジスト)する可能性があったかもしれなかったが、何とか異次元異想空間(ファンタズマゴリア)に送り出す事が出来た。

隣にはふぅと小さく溜息をつき、顔を覆っていたフードをうっとおしそうに脱ぐキューレの姿があった。

やれやれとぼやきつつ忌わしげに此方を見据えてくる。


「わざわざ顔を隠さんでも大丈夫じゃったと思うが?」

「あの二人に貴方の顔を晒せば、十中八九何かしら警戒しただろう。そうすれば無意識のうちに魔法抵抗されていたかもしれない」

「顔を隠していても警戒はされていたと思うのじゃが」

「顔を晒すよりはマシだ」


「そんなもんかの」と呆れた表情を浮かべ、顔を蔽い隠していたフードを脱ぎ去り銀の髪を揺らす女性―――キューレは胸元から一つの水晶玉を取りだす。


「特殊広域魔法に分類される、正式名称『理想叶いし庭園(アヴァロン・ガーデン)』。この魔法によって映し出される理想を覗き見るつもりか」

「なに、単純に興味があるだけのこと。あやつらがどんな夢想を抱いているのか…お主も興味が沸かぬか?」


『理想叶いし庭園』。

それは術者を中心とする半径五十メートル内に存在するものを対象と指定することで、指定した対象に夢の世界へ閉じ込める広域魔法。

その世界は対象の心の最も奥深く―――深層心理が望む世界を鮮明に映し出し、対象の無意識な欲望に強く働きかける。

並みの精神力ならば夢を現実と信じてしまい、抜け出す事は叶わない。

どの属性にも分類されず、かつ使用上条件や使用目的が特殊なこの魔法は『特殊広域魔法』として扱われている。


「人としての興味を惹かれることは否定しない。だが騎士としてそのような事をするのはあまり関心しないな」

「むぅ……相も変わらずのガチガチさよ。学園での態度とは大違いにも程があるわ」

「余計な御世話だ」


いかにもつまらないといった気持ちを示すべく、やれやれと首を横に振るキューレ。

名残惜しそうな目をしつつ手にある水晶玉を元の懐へと戻した。




   ***



(Side時雨)

コソコソと剣道場の入口に隠れ中の様子を窺ってみる。

奇声ともとれる大声と竹刀が防具を叩く乾いた音が絶え間なく聞こえてくる。

だがそこにいつもの張り上げるような凛とした声はない。


「…華音は、いないみたいだな」


何の理由でかは分からないが、今剣道場には華音はいないらしい。

そこで少しばかり安堵の息を漏らす。

何せ華音はこの学園で『ベストガール』ナンバースリーの座と共に『怒らせると一番怖い女子』トップの座を維持しているのだ。


凛とした雰囲気に端正に整った顔と素晴らしいスタイルを持つ一方、男子顔負けの身長に気迫、そして何より鍛え抜かれた恐ろしいまでの力。

女子の着替えを覗こうものなら恐怖の鉄拳制裁が諸手を挙げて歓迎してくれる。

被害者は主にW君だったか。

剣道部内では密かに『鬼の副部長』と囁かれている…そして一応部長である俺にも容赦ない接し方なのだ。

もしサボってたのがばれたら、確実に俺は制裁を下されるだろう。


「ならば、いない今が絶好のチャンス!」

「ほぅ……何がチャンスなのだ?」

「知れた事。鬼のいぬ間に部活に戻りサボりの隠蔽工作をする―――」


待て、俺は今誰の質問に答えたのか。


「ほぅほぅ。鬼のいぬ間にサボりの隠蔽工作か…誰がサボっていて、誰が鬼なのだろうな?」

「いや…それはその……」


後ろを振り向けない…なんという殺気。

俺は今、まさに蛇に睨まれた蛙の如く凍りついている。


「時雨は真面目だと思っていたのだが…最近ウェイバーに毒され似てきたか。これは少しばかり矯正しなければ部にも影響が出そうだな―――」


サン……俺もしかしたら一緒に帰れないかもしれない。

その後、俺は剣道場の隅で部員の視線に晒されながらクドクドと華音の説教を受けるのだった。

カディウス「というわけで今年最後の更新が終わったみたいだけど、今年も今日残り一日。何か感慨深いものがあるよね…」

時雨「それについては同意だが作者は特に何も思ってないみたいだぞ」

イグサ「せいぜいお年玉だヤッホー――イ! ぐらいだよねぇ…」

ウェイバー「…最低だなオイ」

カノン「設定によれば、作者とウェイバーの知能指数は同じくらい、とか」

ウェイバー「なんだと!?」

アニー「ま、まぁまぁ抑えてください。せっかくの大晦日なのですから」

サン「と、いうことで今年のご愛読ありがとうございました。来年もどうぞ『君と創る歴史』をどうぞよろしくお願いします。それでは、よいお年を!」

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