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君と創る歴史  作者: 秋月
第3章~王国騎士選抜試験~
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第39項:意志と意地

「僕たちはウェイバーたちとは違ってゆっくり歩み進む。

あんな派手に前に出る必要もないし、出来れば目立ちたくないからだ。

途中で皆に激励の言葉も貰って少しだけ緊張も解けた。

…さぁ、気合を入れないとね。



「サン=イシュタリアとそのパートナー、…カディウス=フェブレードで間違いないな?」

「勿論」

「間違いないです」

「……よし、今更説明するまでもないだろう。全力を出してこい」


僕とサンは静かに頷きバトルフィールドへと歩を進める。

サンが背負っている大剣の柄に手をかけ微笑した。


「ふふふ…さて、今の私たちにどこまでやれるか…君はどう思う?」

「…やっぱりサンは凄いよ。何回も言ってるけどやっぱり凄い」

「むぅ、君はさっきからそればっかりだ。私も同じことを言わせてもらうが、私は凄くもなんともない。まだまだ自身を御せない未熟者だ」

「でも…」


やっぱり自分とは何処か違う気がする、そうもっと根本的な…心から。

そうでなくては、何が出てくるかわからない試験を前に笑みを浮かべるなんて……。


「カディウス」


凛とした声で呼ばれた自分の名前にふっと顔を上げる。

するとサンが真っ直ぐ此方を見透かすように見ていた。


「また卑屈になっている。君の悪い癖だ」

「あっ……ごめん」

「別に気にはしない、これから直していけばいいのだからな。さて、もう一度聞こうか。今の私たちで、どこまでやれると思う?」

「…僕たちがやってきた努力の分だけ、かな。ついでに言えば、やれるやれないじゃなくて、やる(・・)」


僕が言い終えたと同時に目の前に大きな魔法陣が浮かび上がって光を放つ。

もう間もなく転移されてくるであろう獣たちに気を払いつつ、身構える。

すると隣でサンが微笑する。


「フフフッ。そうだな、君の言うとおりだ。私たちは全力でやる。ただそれだけだ」


サンが微笑する中、いよいよ本格的に転移が始まったらしく光が更に輝きを強める。

目も開けていられないような光の向こうに具現し始める獣の姿が見えた。

サンが自分たちを鼓舞するかのように叫ぶ。


「さぁ…………行くぞっ…!?」

「…どうしたの?」


てっきり言葉と同時に突っ込むと思っていたサンが全く動かず、言葉を失っている。

額からは薄らと汗が流れ、目を大きく見開いて魔法陣が浮かび上がっていた方へと視線を向け続けている。


「(一体何が…?)」


ゆっくりと、サンの視線を辿っていくとそこにいたのは……


『シャオオオオオオ!!』


茶と白の混ざり合った体毛でその身を覆い、大型の鳥が持つ大きく鋭い嘴、天を翔け周囲の風を自在に操る高レベルの大型の獣。


「…グリ、フォン…」


普段ならばまず出会う事はないであろう危険度高ランクに属される獣。

その甲高く気高い鳴き声が耳を突き抜けると同時にぶわっと鳥肌が立つのが分かる。

危険。

それを告げる警鐘がガンガンと頭の中で大きく響き渡る。

しかし、その圧倒的な威圧感の中で聞こえてきたのは……


「すまないカディウス。やはりさっき言った通り私は……」


静かな、だが強烈な怒気か何かを含んだ冷徹な声。

心にわき上がる焦燥感を抑えつけながらもサンの方をゆっくり見やって、そして唖然とした。

そこに立ちつくしているのは、凄まじい熱を辺りに放出するかの如く纏うパートナーの姿。

ゆらりと揺らめく炎を連想させる彼女は唯真っ直ぐ、グリフォンを見つめていた。


「自分一人の勝手な感情さえ抑えつける事の適わない、愚かな未熟者だ」


そう呟いてグリフォンへと猛進を始める。

一体全体どうなっているのか分からず、僕は目の前の光景を漠然と眺めていた。

いつものサンの姿はそこにはなく、襲いかかる他の獣の攻撃を打ち払う鬼神……いや、我を失った戦乙女のような姿。

まるで夢でも見ているのかと、自分の目を疑ったその時。


ブォンッ!

「っ!! おおおおおおおっ!」


グリフォンが放った風の刃がサンの肌を斬り裂いた。

飛び散った鮮血とサンの激昂で僕は我に返った。

 

「くっ、こんな事をしている場合じゃ…。今すぐ行かないと!」


目の前の獣の群れに震える脚に鞭を打って身体強化の魔法を施す。


「僕は、サンのパートナーだ」


例え、大した力になれなくとも。

心の底から湧き上がる衝動と共に僕はサンの後を追った。




   ***



(Side サン)

身体中が熱い。

頭が、胸が、腕が、拳が……燃えるているかのように熱い。

全身を駆け巡っている血が滾っているのが感じ取れる。

全ては幼いころの遺恨。

目の前で大好きな人を痛々しいほどに蹂躙した獣と、それをただ黙って見ている事しかできない無力な自分に対する―――。


『シャオオオオオオオ!』

「ハアアアアアアアアアアア!!」


何も考えず湧きだす衝動だけで動く。

ここにいるのは私とグリフォン、漆黒の闇に覆われた舞台に立つのは私と奴だけ。

他に目に映るものは何もなく、また聞こえるものも何もなし。

目に映るのはグリフォンの堂々とした雄々しい姿のみ、聞こえてくるのは辺りに響き渡る鳴き声と空気を裂く音。


『ガァウッ!!!』

「………………」


一匹の狼のような獣がサンの脚にその牙をむける…がサンは痛みを見せる素振りすら見せずにいた。

狼のような獣は思わず萎縮する。

目の前の小さいが恐ろしいほどの闘気を持った人間に。

サンは一点にグリフォンを見据えたまま、剣で委縮したそれを薙ぎ払う。

大きく吹き飛ばされた獣は抵抗する暇さえ与えられず、絶命した。


『シャオオオオオオオオオ!!』

「…っ!」


高らかに響く声に呼応するかのようにサンは速度を上げ、大きくグリフォンの眼前に跳び上がって常人には手に余る大剣を渾身の力で振るう。


ガギィィィィィン!


しかし、渾身の一撃は視認できない何かで遮られる。

サンは一瞬でそれが高密度の風の魔力で編まれた障壁だと悟る。

が、そんなことでは全く動じるはずもない。

障壁を蹴り飛ばして大きく跳び退り、着地とともに再びグリフォンへと向かう。


「ハアアァッ!」

ギンッガギィンッギンッギンッ!


風の障壁の上からだろうと構いはしない。

ただ只管力任せに剣を振るう……この刃で相手の肉体を引き裂くために。

しかし、狂乱し、怒りに身を任せた戦い方で勝てるほど、サンの目の前の獣は容易い雑魚ではなかった。


『シャオオオオオオオッ』

バサッ!

「く…ぅ……」


障壁とは別に、己が象徴である双翼を大きく羽ばたかせ甲高い声と共にグリフォンは風の刃を巻き起こす。

鎌鼬のように鋭い風は土壌を削り草や木々を切り裂きつつサンに襲いかかる。

サンは自分の身体を吹き抜けていくかのような風に飛ばされぬように踏ん張りつつも剣の腹で懸命に風の刃を防ぐが必死の防御にも関わらず刃はサンの肌を無情にも切り裂いていく。

その時だった。


「っ! あっ、がぁ…!」


刃の嵐が静まったと同時に無数の痛みがサンの身体を襲った。

その正体は先程の狼のような獣の仲間の牙や爪。

不意にできた一瞬の隙を突いて仲間の仇討とも言わんばかりにサンに牙を向けていたのだった。

身体の奥底にまで響くような痛みに耐えきれず思わず膝をついた。

それでも獣は人のように礼儀正しく待ってくれはしない。


「く……………」


眼前に聳えるのは風の化身とでも言える獣。

グリフォンは頻りに翼をはためかせ高らかに天を仰ぐように上を見上げている。

その真上にあるのは風の刃が百重にも千重にも凝縮された一つの嵐の如き球。

猛々しい嵐を更に大きな風の膜で覆った風の爆弾。

グリフォンが翼をはためかせる度、それは大きさを増していた。


「(多くの獣に囲まれた上でのあれは…………)」


避けられない。

痛みのお陰でか、幾らか冷静になった頭がその判断を叩きだした。

グッと柄を握る手に力が入る。


「(やっぱり、私は未熟だった。一時の感情に流されて怒りに支配されて……もう昔の事だというのに)」


自然に目を瞑る。

そのせいでより風が集まる音が明確に耳に入り込んでくる。


「(終わり、か)」


ふと、氷を宿して刀を振るう彼の後姿が脳裏に浮かび上がる。

私よりもずっと強い………大きな背中。

もしかすれば私は足手纏いなのかもしれない。

だとすれば……


「(私の…存在する意味は……)」


サンの身体から抵抗する力が抜けたその時、サンの周囲の地面が大きく罅割れた。




   ***



(Side カディウス)

「(…かなりヤバい状態、かな)」


見た限り何かの感情に支配されたサンがやたらめったら斬り込んでいる。

一見優勢だけど、恐らくは……


「って、考え事してる場合じゃないか! …樹木の戦慄”薔薇茨(ローズ・ソーン)”!」


詠唱を短縮しての魔法発動。

我ながら進歩したとは思うけど今はそんなのどうでもいい。


「くっ! きりがない!! このままじゃ……」


今さっき倒した獣を見やり、再びサンの方へと目を向けると何かを堪えるように踏ん張っているのが見えた。

辺りの地面や木々が抉られている所を見ると風……鎌鼬のような攻撃を受けているのだろう。

今から行ったのではサンの周りにいる獣たちの動きを考慮に入れれば間に合わない。

ならば…


「やるしか、ないか」


瞬時に頭に浮かび上がったのは中級魔法。

今まで使っていた初級魔法ですら発動するかどうかいつも不安だった。

でも、今はそんなことは言ってられない。


「僕は……僕らは仲間だからね」


口ではそう言っても不安は拭いきれない。

魔法が発動できるのかという不安、もしかしたら仲間と思われていないのではないのかという不安。

心の奥がキュッと締め付けられる感じがしたが直ぐに頭をぶるぶると振るう。

悪い癖だ…サンにもさっき言われたばかりなのに。


「意地を見せるんだろ…カディウス=フェブレード」


大きく深呼吸し、”常盤の指輪”を嵌めた手を軽く振るう。


「魂を宿せし生命の故郷よ、今我が前に出でよ」


樹の魔力を細かく丁寧に、パズルのピースを紡いでいくかのように合わせていく。

無意識に自分の魔力が高まっていくのが感覚で感じ取れる。


「幾重にも重なりしその身を以って彼の敵を貫け」


スッと目を見開くとすぐ前には深緑の魔法陣がゆっくりと回りながら浮遊している。

僕は思い切り踏み込み手を前に突き出すのと同時に魔法名を叫んだ。


「”フォーレス・レイン”!」


魔法陣が消滅した途端、獣たちが大きな揺れにどよめき始めた。

サンの周囲の地面が盛大に罅割れ、天に向かって伸びるかのように無数の鋭い樹木の槍が獣の肉を容赦なく貫いた。

グリフォンだけは予想通りといっていいのか障壁でキッチリ防御しており、一瞬で辺りは僕とサン、グリフォンだけとなった。

僕が突進してきていることを悟ったのか、グリフォンは双翼をゆっくりと綺麗に折りたたみ、次の瞬間に弾けるようにバサリと開いた。

攻撃の態勢だ。

でも……


「ほんの僅かだけ、僕の方が早かったね! ”グラス・ソクラーティカ”!」


指輪をつけた腕を前に尽き出し無詠唱で防御魔法を唱える。

生い茂った草と樹木の防護壁が現れるや否や、凄まじい衝撃と防護壁を切り裂く音が聞こえる。

直後、後ろから狼狽混じりの声が上がった。


「カディウス! 何故!?」

「何故って…仲間だから、助けに来たんじゃないか。そんなことより、サンは早く攻撃の態勢整えなよ」

「そんなことよりって……君は分かっているのか! 相手はあのグリフォンなのだぞ!? ただでさえいい上位の獣であるのにそれに加えて君の属性は……」

「樹の属性は風の属性に弱いって言いたいんでしょ?」


そんなことは重々承知だ。

事実、会話を続ける中でも樹木の盾は悲鳴を上げるように軋んでいる。


「だからこそ早く、だよ。もう時間がない。いずれこの盾も粉々に吹き飛ばされる。だからその前に…」

「ならば君は逃げるんだ! 後は私が何とかする!」


まだ頭に血が上っているままなのかな……。


「……僕が逃げたとして、サンはどうするつもりなのさ」

「私は……」

「自分一人で何とかするとでも? さっきあれだけやられたのに?」

「くっ…それは…」


樹木が更に大きくメキメキと唸りを上げる。

時間はもう、殆どない。


「僕たちの目的は、この試験に合格して本当の騎士になることでしょ? そのためにペアを組んで戦ってるんだ」

「だがアイツは本当に……」

「『仲間』なんでしょ? 僕たちは」


『仲間』という所を一際強調して言い放つ。


「僕たちは仲間だ。だから助け合う。それだけじゃない。僕だって勝ちたい。目の前のグリフォンを倒して、勝って本当の騎士になりたい。そのためにもサンの力が必要なんだよ……だから」


後ろを振り返り、サンの目を一心に捉える。

「僕が君をサポートする。攻撃魔法に乏しい僕よりも、ずっと凄まじい火力を持つサンの準備が終わるまでの時間を稼ぐ。サンがその一撃で仕留めれれば、それで終わりだ」

「……………………………………………君って人は………フフッ」


しばらく間が空いた後、サンが微笑する。

いつもの彼女が戻ってきた気がした。


「すまない。どうやら知らず知らずのうちにネガティブ気味になっていた。だが、本当にそれでいいのだな?」

「それは愚問だよサン。今までの僕とは違う。これは僕が決めた事なんだ。自分の意志と意地は何が何でも貫き通してみせるよ」

「そうか……ならば、任せたぞカディウス!」


サンの快活な声が聞こえた後、後ろからゾクゾクするような熱気が漂ってきた。

どうやら準備が始まったらしい。

とすれば、僕がすべきことは……


「仲間の準備が終わるまで、この猛った風を抑えきること、かな」


今となっては持ちこたえているのが不思議な位の防護壁。

だが不思議な事に破られる不安など全くもって心の中にはなかった。

それどころか力が泉から湧き出るように漲ってくる感じだ。

今までとは違う何か。今の僕は、自信で溢れかえっていた。

傷だらけの盾に手をかざす。

今までの自分を、新たな自分に変える為に、切っ掛けとなる言葉を紡ぐ。


「開けよ、華」


傷だらけの樹木の防護壁は音を立てて砕け散り、赤く揺らめくものを纏った大きな花弁が露になる。

それを見た瞬間、カディウスは自分が少しだけ前進したことを確信した。

シグレ「ようやく更新、か。全くうちの作者ときたら……」

サン「言い訳は全てにおいて受験勉強とのことらしいぞ?」

シ「それでも一月以上だぞ? 少しは俺らの事も動かしてほしいもんだ」

サ「ふむ。こんな小説を読んでくださっている読者様にも申し訳が立たない。とりあえず読者様に挨拶だけでもしておこう」

シ「そうだな。……ってことで、作者は受験勉強まっただ中なわけで更新速度は亀並みなんで気長に待ってやってください」

サ「どうか、これからも『君と創る歴史』をどうかよろしくな」

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