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君と創る歴史  作者: 秋月
第1章~異なる世界~
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第2項:俺達は出会った

「ん…眩しっ…」


陽の光がさっと俺の顔を照らす。

いつの間にか朝になってしまったようだ。

出かける準備をしなくては、と思いノソッと起き上がって重たい瞼をゆっくりと開いた。


「…?」


まだ寝ぼけているのかと思って目をしきりに擦り再び周りを見渡す。

自分がいたのは学園の寮の自分の部屋ではなく、多くの木々が立ち並んでいる林の中だった。


「どこだ、ここは…」


一瞬、慌てふためこうかとも思った。

しかし、何の解決にもなりそうにないのでやめておいた。

林のど真ん中に胡坐をかき、腕組みをして昨日のことを思い出す。


「たしか…おじさんから鍵借りて…倉庫回って…歴史書見つけて…扉…そう、扉だ!!」


自分は確か、本の中から出てきた扉の中に飛び込んだ。

白い光に飛び込んだのは良いけど、後の記憶がさっぱりだ。

本当に違う世界に来てしまったのだろうか、本にあったレスティアという国に。


「とりあえず…どうするべきかな」


普段の俺はこんな事を考えないから、そんなすぐに次の行動なんて思い浮かんできやしない。

だがそれは俺のみならず、俺と同じ歳の奴らにも当てはまると思うから別に嘆きはしない。

そう、たとえ良い案が思いつかなくても嘆きなどは…しない。

自分を慰めるようにしながらこれからの事を考えていると、時雨の後ろから野太い声が聞こえてきた。


「何だこいつ?」


いきなりした声に時雨はバッと振り返るとそこに居たのは、二人組の人間だった。


「どっかの貴族のボンボンでやんすかね?兄貴」


明らかに下っ端的な雰囲気を醸し出し、その口調とよく似合う小さな背丈の男。

虎の意を借る狐の狐に当てはまりそうな奴だ。


「なら話は早いな。おい、ガキ。さっさと金目の物出せ」


そして、こいつはまさに頭が悪そうな巨漢だ。

隣の小さい奴のお陰で更に大きく見える。

それにしても今時カツアゲですか?いや、強盗かな。


「おい、ダンマリしてんじゃねえよ。さっさと出しやがれ!」

「お断りだね」

「なっ!」


時雨が強気の口調で断ると、でかい奴の顔が怒りで少しずつ赤くなっていく。

…見てて面白い。


「あ、兄貴に逆らったでやんすね!?兄貴はここら一番の悪党なんすよ!!」

「一番の悪党の割には、手下一人ってのはどうなの?」

「こ、こ…の…やろ…!!」


今にも爆発しそうなくらい顔が真っ赤だ。

拳を強く握り締め、今にも殴りかかってきそうな勢いでこちらを睨みつけてきている。


「ぶっ殺してやる!!!!!」


大きく野太い声が林の中を振動させ、木にとまっていたであろう鳥達がバサバサと音を立てて飛び立った。

その声は林の中を縦横無尽に響き渡り、ある一人の女性にも届いていた。


「なんだ、あの獣のような声は」


バシャッと木々に囲まれた天然の温泉から立ち上がり、とりあえず最低限の服を身に付け武器である剣を持って声がした方向に向かって駆け出す。

しばらく駆けた後、聞こえてきたのはブンブンと何かが空気を切っている音だった。


「喧嘩…か?」


それにしては実力に歴然とした差がある。

喧嘩(予想)をしているのは、自分と同じ歳ぐらいの青年とその青年の二倍はあろうかという巨大な男だった。

男がブンブンと空気を切り裂きながら拳を振り回しているのに対し、青年はその拳に掠る気配すら見せずただ漠然と避けていた。 


(速いな…。下手をすれば私と同じくらい…。それにしても、見慣れない服を着ているな…)


彼女は暫し、彼らの喧嘩(あくまで予想)を見物する事にした。


「ちくしょう!チョコマカと!動き回りやがって!」


通称兄貴であるこの男の拳は、未だ時雨に当たっていない。

この事について一番驚いていたのは男の拳を避けている時雨本人だった。


(相手の動きがスローモーションみたいに遅く見える。それに体が軽い…まるで羽みたいだ…)


時雨は喧嘩などをしたことはなかった。

正確に言えば、殴り合いのような喧嘩はした事がない。

そして、スポーツの経験も体育の授業でやった事があるくらいでそっちの成績はあまり良くはなかった。

しかし、時雨は男の拳をひらりと避ける。

男が鋭い正拳突きを繰り出すたびにヒュンッと風を切る。

時雨はそのするどい正拳をひらりと避ける。

体力の消費の多さにおいてどちらの消費が激しいかは一目瞭然だった。

男の額に汗が出始めたのを時雨はその目で視認した。


(疲れてきたみたいだな。そういえば、この前暇だったから読んだ本に載っていたあれ…今なら出来るかも)


時雨は大きく飛び退き、一旦距離をとる。

男は距離をとられた事によって一時的に拳を振り回すことをやめた。

息が切れており、肩で息をしている。明らかな疲労状態だ。例えて言うなら、3kmの持久走を走り終わったかのような。

時雨はボクシングでとるファイティングポーズをとった。もちろん、格好だけだが。


「はぁ…はぁ…。ようやくやる気になったか、クソガキ!!」


時雨は沈黙を通した。

男はその距離ならすぐに攻撃される事はないと思っているのだろうか、息を整えようと大きく息を吸っている。

その隙を時雨は見逃さなかった。

次の瞬間、時雨の姿はそこにはなかった。


「なっ!!!」


(!…今までで一番速い!)


時雨は今までの自分にはなかった瞬発力を使って一気に男の懐に潜り込んでいた。

その速さに驚いているのは、時雨本人と強盗の二人、そして陰からいつでも割り込めるように体制を取っていた女性だった。


「くらええええええ!!雑誌直伝!!!」


大きく踏み込んで左足を前に、右足を後ろにし膝を曲げて左足に重心を置く。

手の平を上に向けつつ、腰とつま先を連動させて反時計回りに回転させ、曲げた膝のバネを使って伸び上がると同時に拳を相手の顎の下から真上に大きく、突き上げた。

所謂、ボクシングでも決め手の一つに成りうる右アッパーである。

突き上げられた顎は大きく弾けとび、男は宙を舞った。

男がドサッと大地に落ちてからしばらくの静寂が辺りに漂う。

その静寂は、下っ端風のもう一人の男によって破られた。


「あ、兄貴〜!!!」


タタタと巨漢の男に立ち寄ると、安否を確認していた。

あれだけ見事に決まったなら脳震盪かなんかだろう。

とりあえず、目の前の勝負に決着が付いて一息ついた。


「ふぅ…。雑誌読んでてよかった…。って、なんであんなこと出来たんだろ?」


スポーツ、ましてやボクシングなんてやったことがない。

体育系の成績は人には言えないが、学年中三分の二以上の生徒が俺の上にいるとだけ言っておこう。

ふと、巨漢の男が倒れている方をみると下っ端風の男が必死で巨漢の男を担いでこちらを見ていた。

そして、こう叫んだ。


「お、おぼえてるでやんすよ!!!!!」


すげぇ…。

負けた奴が叫ぶあの伝説の言葉、俺初めて聞いたよ。

男達が走り去って、少し経ってからハッと気づく。


「村とか町がないか聞けばよかった…」


ズーンと気が重く滅入った。

これからどうしよう…。

思わず泣きそうになったその時に、凛と透き通った声が時雨の耳に入ってきた。


「素晴らしかったよ」


何処から声がしたのかわからなかったのでキョロキョロと周りを見渡すと、右側の茂みから茶色の長い髪女性が姿を現した。


「あんた、誰?」


これが俺と彼女の出会いだった―――。

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