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君と創る歴史  作者: 秋月
第2章~悠久の時を超えて~
28/48

第27項:過去、美しき氷のセレナーデ 其の二

駆け出した俺達は左右に大きく別れて的を絞らせないように努めた。

常に一箇所には留まらずにひたすら動き回る事で攻撃を受ける確立を減らす事が目的だ。

無論目的はそれだけではなく、二手に別れて自分が相手のために、相手が自分のために時間を稼ぐ事。

すなわち、地元属性と天元属性の切り替えを試みる為の時間を稼ぐ事こそが二手に別れた最大の理由だった。


今はイグサの方へと龍の意識が逸れている。

つまりは俺の試しの時間だ。


「魔力の質を変える……か」


イグサ曰く、サクヤさんが言うには『心のレバーを切り替えろ』、リミッターは錠のような存在、自分の強さが錠を外す為の鍵。

リミッターは外せば開いたままらしいが、錠と鍵の二つが手元にあるのならば閉めることも可能だろう。

まぁ、閉めるのは手抜きとかするときぐらいだろうな。


「言ってみれば……魔力の質を変えるためのレバーに掛けられた錠を外すのが俺達に残された道ってか」


とは言うもののそんな感覚分かるはずもない。

俺はまだいい、カグヤさんとの戦いで一度天元属性―――水の属性が発動しているのだからコツさえ掴めばすぐにでも使えるようになる可能性がある。

問題はイグサだ。

本人は発動した事はないと言う―――つまりは俺以上に感覚を掴むのが難しい。

ならば、俺が先に発動してイグサが感覚を掴むための時間をより多く稼げばいい。

修行の時と実戦の時では得られる経験値の量、感覚はまるで違う。

イグサならこの戦いで俺と同じように使えるようになるかもしれない。


「それ以前に、まず俺が使えるようにならないといけないのか……」


思わず溜息が出る。

この世界の人間のように小さい頃から魔力を扱う訓練などを行ってきた人間ならともかく、俺は幼少期以外は向こうの世界で暮らしてた。

幼少期以外は―――。


・・・・

・・・

・・





『いいか、シグレ。魔力というのは普段から無意識で操ってるものだ。知覚出来ないのは未熟な証拠。俺達ヒトは生まれ落ちた時から本能的に身体を巡る血と共に魔力を、属性を流し始める。その時から己に自動的にリミッターが掛けられ、地元の方の属性しか流れないようにロックされる。不成熟な身体を、命を守るためにな。つまりは本能的に無意識に操るのではなく、確固たる意志を持って、己が自身でイノチを、チを、マリョクを、ゾクセイを御する。それさえ出来れば地天どちらの属性も自由に使えるようになる』

『……父上、よく分からないよ』

『まぁ、大丈夫だ。これから出来る限り俺がシグレを鍛えるからな。お前は俺とツバサの息子だ。先の大戦で皆と共に勇猛果敢に戦った俺達の、な。お前なら俺が教えさえすればすぐにでも使えるようになるさ』

『父上が教えてくれるの!?』

『ああ。俺の時間が空く限り、な』

『やった! ありがとう、父上!』





・・・・

・・・

・・


俺は、俺にとって言ってしまえば異世界(・・・)に飛ばされるまで親父に属性の切り替えを学んでいたんだった。

いつからその事を忘れてしまっていたかは分からない。

だが、小さい頃に叩き込まれたものならば、俺自身が忘れていようとも身体が覚えている……はず。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


月華を右片手に握り締めながらも体中の力を抜き、自然体のままそこに立ち尽くす。

深く息を吸い込んでは吐き出し、また吸い込んでは吐き出す。

少しずつ聞こえていた音が一つ……また一つとその姿を消してゆく。

やがて、まるで世界と完全に遮断されたかのように、俺の周りから音が消えた。


「(この感覚……覚えがある。遠い昔に感じた事がある……)」


瞼を閉じている事とは恐らく全く関係ないであろう俺を包む闇―――心の中。

その闇は完全に真っ暗ではなく、所々から小さな光が伸びてきていて星空のようになっている。

そんな中でもハッキリと見える、あみだくじのように繋がっている青い光の筋。


「(分かる。これは…………俺の氷の力だ)」


クール、ドライ―――異世界で母さんが死んでから他人が俺に対してよく用いた形容詞。

だが俺の氷から感じるのはそんな形容詞では表現できないものだった。

冷たい氷のはずなのに温かい、融ける事のない永久氷壁が冷たさを残したまま融けたかのような。

孤高、孤独、悲哀……それら全ての一人であった時、囁かれた言葉を打ち消した後のような。

それは氷であって氷ではなかった。

否、氷であって氷ではなかったものが、氷だけの存在になってしまい、再び氷であって氷ではなかったものに戻ったものだった。


「(魔力とは……属性とは心の力。確固たる意志を持ち、己が心を―――)」


ゆっくりと瞼を開け、未だ自分を包む闇の奥に見える鍵が刺さりっぱなしの白い鳥の羽のような錠。

俺は不思議な浮遊感を感じながらもゆっくりと錠へと近づく。


「(制御する!)」

ガコンッ


刺さりっぱなしの鍵を思い切り回すと、羽型の錠は音を立てる。

小さい頃に親父と一緒に特訓して開けた筈の錠を再び閉じたのは自分ではない。

そんな事をするのは、唯一人だった。


「(ありがとう……母さん)」


その瞬間に錠は消え去り、周りに伸びていた青い光の筋に新たに水色の筋が加わり、あみだくじのような筋は更に複雑に繋がりあった。

全てが繋がり終わった時、星のように点在する光と青と水色の光の筋が接続に呼応するかのように光った。

今、俺の血液と共に流れる魔力のラインに氷ともう一つ、水の属性が流れ出した。




   ***




意識を心の中から外へと向けると、少しずつ音が姿を現してきた。

立ち尽くしていた俺の方へと龍を行かせない為にかイグサが真逆のほうで龍と立ち回っている。

だが明らかに苦戦しているようで既に龍の周りには物凄い数の手裏剣やクナイが落ちており、かなりの爆発の跡も床に残っている。

すぐさまイグサの援護に向かうべく駆け出す。

右手に握られた月華に目をやると先程心の中で見た水色の光が宿っている。


「……よし!!」


外れかけのリミッターを完全に外したお陰か身体能力もかなり上昇しているらしく、イグサの元へ辿り着くのにはさして時間はかからなかった。


「シグレっ!!」

「今度は俺が引きつける!」

「分かった!!」


宙ですれ違うかのように交差するとイグサは素早い足取りでシグレと龍から距離を取った。

シグレはそれに振り向かず、予め鞘に納めておいた月華で居合いの状態から一気に龍の方翼の根元へと横の斬撃を放った。


ズシャァッ!

『ギャオオオオォォォォォ!?』


龍の悲鳴じみた叫びと共に片方の翼がドゴォォンと床に落ちた。

傷口からは大量の赤い血は出ているがさっきのように治る様子は見られない。


『グオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!』


今の一撃が龍の逆鱗に触れてしまったのか、龍の目は血走り、吐き出す息は常に炎を纏っている。


「……イグサに引きつけるとは言ったものの……もしかしてピンチ?」


冷や汗を垂らしながらもシグレの口元は微妙に歪んでいた。




   ***




アタシの心の中は、燃えていた。

真っ赤な真っ赤な炎の中には今までのアタシの記憶の断片が映し出されてる。

昔の、あまり覚えていない小さい頃の記憶。

学園に入ってからシグレに会うまでの記憶。

シグレに会ってからたった今この瞬間までの記憶。

その一つ一つが、その記憶の一部分一部分がまるで魂を持ったかのように自ら炎を上げていた。

イグサは一つ一つの炎の傍らにある小さな茶色の物体を見つける。


「(あれって……シグレに貰った鈴?)」


燃え滾る炎達の傍らで静かに佇むのは確かに自分がシグレに買って貰った琥珀の鈴。

しかし本物は今も自分の首にしっかりとついている。


チリーン

「(…………何か聞こえて……)」


チリーン……

この静かな空間の中で明瞭に響く自分を導くかのような音。

イグサがそれは鈴の音だと理解するのにさほど時間はかからなかった。

耳を澄ませて音の出所を探る。

しばらくして、一つだけ揺れている鈴と回りに白い靄のようなものを纏った炎を見つけた。


「(これ、なんか靄がかかってる。中は……あまり見えない)」


その炎の中には他の炎と同様に何かの場面が映し出されているのだが、靄がかかっているせいで誰が誰だか分からない。

だが、その炎の中に映っている場面は何故だかとても懐かしく、大切な気がした。

恐る恐る手を伸ばし炎の先に指が触れると同時に、炎の中に鍵のようなものが見えた。


「(これって……)」


さらに手を伸ばし、まさに鍵を掴もうとしたその瞬間だった。


『――――――イグサぁぁぁ!!』

「(え―――)」


突然聞こえてきたシグレの自分の名を呼ぶ声に手が鍵の手前でピタリと止まる。

次には物凄く体の芯まで響く衝撃と共にアタシの意識はそこで途絶えた。




   ***




正直、あまり負ける気はしなかった。

リミッターの解除と共に上昇した身体能力、龍の属性である炎に強い水の属性である自分。

先程までの自分にはなかった様々な要素が今の自分に自信という武器を与えてくれていた。


「さあ、今度は俺の番だ」

『グオォオオオォオオオオオオ!!』


俺の言葉が挑発のように聞こえたのか、紅龍は真っ直ぐ俺の方へと向かってきた。

帯刀した月華に手をかけ、腰を下ろした体勢で紅龍が近づくのを待つ。

巨大な震動がどんどん俺の方へと近づいてくる。


「水月華居合い―――天滝(あまだき)!!」


近づいてくる紅龍に向かって俺は水属性を宿した斬り上げ、斬り下げを放つ。

放たれた二撃は水の衝突音と共に紅龍の堅い皮膚に傷を残した。


『シャギャアァァアアアアアアアア!!』


龍は痛みを感じる素振りすら見せずに炎の息吹を此方に吐いてきた。

怒りが頂点に達しているらしく、血走った目はギラギラと光りながら此方を睨みつけている。


「―――水壁ッ!!」


咄嗟の斬り上げから放たれた水の属性が具現し、俺の前に立ち塞がって炎を防ぐ壁と化した。

朧の里での戦いで使った”氷壁”の水属性版だがこの系統の技は鞘に納めずに放てる。

斬り上げる瞬間に属性を付加させるだけでいいからだ。

他の技は基本、鞘に納める事で鞘の中の月華に属性を溜める必要がある。

それが数秒しか物に属性をとどめ続ける事が出来ない俺の戦い方であり、居合いはその数秒を活かす為の速さを重視した技なのだ。

もっともそれは俺がまだ未熟だからなのだが。

龍の口から吐かれた炎は俺の水に触れ、水を蒸発させて水蒸気を生んだ。


「―――マズイ!!」


生じた水蒸気で一瞬だが視界が遮られてしまった。

俺に対して相手―――龍は巨大だ。

一瞬の隙が相手の途方もない威力の攻撃を受ける事に直結してしまう。

シグレは即座に後方へと飛び退き、月華を振るう事で水蒸気を掻き消した。

水蒸気が晴れた時に目の前に竜の姿はなかった。


「どこに……っ!!」


先程まで目の前に居た龍の姿を探して辺りを見渡す。

すると目に飛び込んで来たのは、集中し、心の奥底にまで深く潜り込んでいる棒立ち状態のイグサへと向かって突進して行っている龍の姿。

思わず目を見開き、本能的にイグサへと向かって俺は駆け出した。

そして俺は―――


「――――――イグサぁぁぁ!!」


悲痛な叫びとも取れる声で彼女の名前を呼んでいた。

俺の声に反応したのか、イグサはキョトンとしたまま下を向いた顔を上に向けた。

刹那。

イグサは紅龍の長い尾に吹っ飛ばされ、ドゴンと壁にめり込んで前のめりに倒れた。


「イグサ―――」


更に俺は加速し、いち早くイグサの元へと辿り着こうとした。

そんな焦った状態の俺は後ろから何かが迫ってきている気配を感じた。


「! しまっ―――」


迫っていたのは先程イグサを吹っ飛ばした長い尾だった。

イグサを飛ばした後に器用に回転し、そのまま俺へと向けてきたらしかった。

そして俺もイグサと同様、強烈な一撃で壁へと吹っ飛ばされた。


「がぁっ!!」


半身と背中に重く鈍い痛みが身体に染みるように走った。

そのままイグサと同じように前のめりで倒れるが、寸での所で月華を床に突き刺し、何とか身体を支える。


『グォオオッォォオオオオオオオ!!!』


龍の咆哮で今にも押し倒されそうになる身体を何とか支えながら一歩一歩歩みを進める。

体の所々から危険を知らせる痛みが響いてくる。

それでも何とか、龍の前に立ち塞がるように、イグサを護る様に立った。

正直、先の一撃でもはや風前の灯状態だった。


『ギャゴオオオォオオォオオオオ!!』


龍は容赦はしないと言っているような咆哮をを上げた。




   ***




「おい、レクリフ! 頼む、俺の事はいいからシグレを―――」

「落ち着いてください、陛下」

「これが落ち着いてられる場合か!!」

「落ち着いて、入り口の方をご覧くださいませ」


レクリフが指差す入り口をオーディンは逸る心を落ち着けて向いた。


「どうやら、援軍のようです」


そこに居たのは若草色の髪をした凛とした雰囲気を持った女性だった。




   ***




「なんや、これは……」


若草色の守護騎士隊騎士隊長―――ジャンヌを唖然としていた。

目の前に広がる滅茶苦茶になった謁見室、再び暴れ出しそうな紅い龍。

そして―――


「あっこにおるンは……あん時の兄ちゃんと嬢ちゃんやないかいっ!!」


龍の前で息絶え絶えになっているのは先程まで自分の店で一緒に話していた二人だった。


「何でこないなとこに……ってそんなこと言ってる場合やない!!」


ジャンヌは腰に携えた剣を抜き、龍に向かって駆け出す。


「よっしゃあーーーー! 今行くで、って痛っーーーーー!!!」


勢いよく駆け出したジャンヌだったが、進行方向にあった何かにぶつかった。

ぶつけた所を手で労わりながらも前方にある何かに手を当てる。


「何や、これ。なんか透明な壁みたいな奴が……」

「おお、やっと着いたぞ!!」


首を傾げながら前にある何かを触るジャンヌの耳に気の抜けた言葉が入ってきた。

ジャンヌは思わず振り返った。


「あ、アンタ……誰や?」

「おおっ! 貴方のお陰で助かった!! ところでシグレとイグサを知らないかって―――っ!!」


途端、少女の顔が真剣味を帯びた顔つきに変わる。

ただ気配が怒りを含んでいる感じだった。

目の前の少女はすぐさま大剣を抜き取り、そのまま何もないかのように(・・・・・・・・・)龍に向かって駆けて行った。


「な、何でやねん!!」


ジャンヌにはもう、成り行きを見守る事しか出来なかった。




   ***




「やっべえなぁ……」


イグサは気絶……といっても咄嗟に防御を取った俺よりもろに直撃を受けている時点でほぼ戦闘不能。

俺が護りきれなかった責任でもある。

俺はといえば、体中に激痛が走り、まさに死に体。

目の前の龍、片翼切断、所々に俺のつけた傷があるが……アドレナリン大量分泌でもしてるのか、怒りは頂点に達していて元気。

そんな龍が再び尾をゆらりと動かし始めた。

俺は死を覚悟した―――はずだった。


「はああああああああああああ!!!」


物凄い勢いで走ってくるサンを見るまでは。


「さ、サン!?」

「でやあああああああああ!」


勢い良く駆けて来るサンはその勢いを大剣に込めて、今にも俺に襲い掛かろうとする尾を一刀両断にした。

途端、龍の悲鳴が上がった。


『ゴギャアアアアァァアアアアアァ!!!』

「無事か!? しぎゅれ!!」

「…………噛むなよ」

「う……スマン…………! ふんっ!!」


格好つかなそうに項垂れるサンだったが、突如後ろへ振り向き、愛剣であるサンライズを大きく振り回す。

大きく振り回された大剣は遠心力も伴って、迫っていた龍の前脚を強く弾き返した。

仰け反る龍の姿を見てサンは不敵に笑みを浮かべた。


「後ろから襲うとは言語道断の行いだ。この私が直々に躾けなお…」


今まで威勢が良かったサンが急に黙りこんだ。

何事かと思い、痛む身体に鞭を打って、一直線上に並んだサンの脇から向こう側を覗き込んだ。

そして俺も言葉を失った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


俺達から少しばかり距離を開けた龍は四肢をしっかりと床につけ、爪で反動に負けぬように固定している状態だ。

そうした体の安定を図った構えで大きく開かれた口に見えるのは、龍の頭より大きい桁外れの火焔の塊だった。


「くっ……!」


サンが横目で此方を見た。

イグサは気絶、俺もとてもじゃないが動けそうにもない。

いくらサンでも男一人と女一人を担いで避けるなんて事は出来ない。

必死で脳をフル回転させるも良い考えは一つも浮かびはしなかった。

その間にも火球は更に大きさを増し、とうとう龍の姿さえも火球で見えなくなるまでの大きさになってしまった。

この部屋の全てを焼き尽くす大きさの火球―――俺達に逃げ場はなかった。


「助けに来たと言うのに……何も出来ないのか……」


サンが苦虫を噛み潰したような表情で小さく呟く。


『死ぬな、シグレーーーー!!』


遠くから親父の声が聞こえてきた。

横目で見やればレクリフのシールドに護られている親父が見える。

せっかく会えた親父に俺は怒鳴る事だけしかしなかった。

本当は寂しかっただけだ。

母さんが死んでから周りの親子が羨ましかった。

父親がいる奴が、母親がいる奴が、羨ましく妬ましくもあった。

だが、俺も、ようやく父親に会えた。

向こうにはいなかった本当の仲間というのにも会えた。

まだ、死にたくはない。

仲間と過ごすために、親父の事を知るために。

まだ、死にたくはない。

そう思った俺の耳に、不意に誰かの声が飛び込んできた。


『マスターの存在を確認。……結界による他者の介入不可……結論、結界破壊による進入を選択します』


小さな声だったがハッキリ聞こえてきた澄んだ声。

次の瞬間、何処からかバリンとガラスが割れるような音が響き、綺麗な水色の物体がサンの真横へと着地した。

シグレもサンもそのあまりの速さに反応できず、動けなかった。


『その場所はマスター及び、あなた方を護るのに適した場所です。退きなさい、アマテラス』


反応こそ出来はしなかったが、何者かが手刀でサンの首を打ち、気絶させて後ろへと放り投げた。

放り投げられたサンの代わりに俺の前に立つのは―――俺と同じくらいの年の少女だった。

水色―――というか雪のような腰まで伸びたストレートロングヘアに、頭の両サイドに付けられた雪の結晶を模した水晶の髪飾り、左耳には小さな三日月のイヤリング。

ノースリーブである青と白の綺麗に彩られた向こうの世界で言うチャイナ服。

そしてジッと此方を見詰めてくる透き通るようなエメラルド色の瞳。

少女が不意に口を開いた。


『確認のため、一応問わせていただきます。あなたは、ヴァルナのマスターでしょうか?』


ヴァルナと名乗る少女の質問は俺にはさっぱりだった。

それ以前に、俺は意識が朦朧としていた。

反応のない事を確認するかのようにヴァルナは続いて龍の方へと身体を向ける。


『応答なし。マスターは現状を理解していない模様です。マスターに説明をする前にまず……』


一瞬にしてヴァルナは俺の前から姿を消した。


『マスターに向け続けているその暑苦しいものをどけてもらいましょうか』


未だ大きくなり続けている龍の火球の前にヴァルナはいた。

火球の前へと跳んだ状態でヴァルナは青と水色が混ざった魔力を宿した脚で跳び蹴りを放つ。

信じられない事にヴァルナの跳び蹴りで、一瞬にして火球は霧散してしまった。


『本当に火ですか? それは』


紅龍相手に全くと言っていいほど力を見せていない様子のヴァルナ。

俺は唖然としながらもそこで意識を失ってしまった……。


「次回は、私の活躍が見られます」byヴァルナ


キミレキ豆知識:ヴァルナとは雷神インドラ、火神アグニとともに重要な位置に置かれ、天空神、司法神(=契約と正義の神)、水神などの神に置かれた。



どうも、秋月です。

まずは報告だけをば……この更新を終えて、次の更新があるのはおそらく11月始めを過ぎてからになるだろうと思われます。

というのも、すぐそこまで迫りつつある中間テストに、それが終われば修学旅行……まぁ、いつも更新遅いんでたいして変わりませんが。

とにかく、更新が遅くなる事といつも遅い事に対してご了承くださいませ。


さて、ようやく本編でシグレの精霊が登場です。

これまではシグレメインの戦いが多かったんで精霊やヒロイン達、他キャラの戦いもふんだんに出てくる予定です。

それだけではなく、学園生活の一部などの間話なども……。

更新遅いですが、これからも頑張っていきます。

それでは!


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