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君と創る歴史  作者: 秋月
第2章~悠久の時を超えて~
27/48

第26項:過去、美しき氷のセレナーデ 其の一

グラスノア王―――オーディンとその家臣であるレクリフに向かって真っ赤な炎を吐き続ける深紅の巨大な龍。

シグレとイグサは龍に立ち向かうべく、突撃したのだった。




   ***




龍の元へと駆ける途中、シグレは手にある月華を大きく振るって大きく突出した岩の一部分を切り落とす。

切り落とされた岩の一部は地に落ちることなく、シグレの手にしっかりと握られた。


「いい加減に、しろよ!!」


一度月華を鞘に納めて、手にある岩を未だ炎を吐き続ける龍に向かって投げつける。

ガンッと見事にシグレが投げた岩は龍の背中に命中するも龍は炎の息吹を止める素振りすら見せない。


「ここは怒ってこっち向くだろ……普通」

「龍の身体を覆ってる鱗は大抵の衝撃は吸収するって! 学園で習ったでしょ!?」

「俺は習ってないぞ!!」

「……忘れてた!!」


勢い任せに龍に突撃したが、イグサも急な龍の出現に気が動転しているようだった。


「とりあえず、王様達から気を逸らさせないと!」

「了解!!」


今までシグレと平行で走っていたイグサはスピードを上げ、先に龍へと近づくと大きく飛び上がり獅子王を片手に大きく両手で投擲動作を行った。


爆鎖円(ばくさえん)!!」


動作に合わせて放たれたのは十数本の赤くなった手裏剣。

赤くなっている理由は恐らくイグサの炎の属性が込められているためだろう。

手裏剣は真っ直ぐに空気を切り裂き、龍の背に突き刺さり円の形を描いた。


「シグレ!! 続けて攻撃よろしく!!」

「任せろっ!」


大きく返事を返すと、こちらを向いていたイグサの顔は再び龍の方へと向き、獅子王を持った手で印を結んだ。


「弾けろ!!」


その瞬間、龍の背に円のように形作っていた十数本の手裏剣が大きな爆発を起こした。


『グォォォォォォォォ』


流石の龍も十数の纏まった爆発を背に受けて痛みがあったのか、息吹を止めて振り向こうと身体を少し捻った。

好機とばかりに俺は月華に手をかけて強く踏む込み、身体を低くして真っ直ぐ龍の懐に飛び込むかのように飛び込む。


「月華居合―――」

ザンッ


まずは龍の足に縦の一閃。

続けて刃を逆に向け、地を斬り上げるように青い波動と共に大きく振り上げ、龍の腹を軽く切っ先だけで裂く。


ザンッ


最後に龍の足を切り離すつもりで強く横薙ぎの一閃を放った。


「氷柱!!」


かなりのスピードで地面すれすれを跳び、月華で三回切り払った後に着地。

有り余った勢いで地をザーッと滑りながらも月華を鞘へゆっくりと納める。

やがて刀が鞘に納まりきり、チンと音を立てると先程の月華の切っ先が触れた地と龍の腹が繋がるかのように大きな氷の槍で貫かれた。


『ギュォォォォォォォォォ!!』


流石の龍も腹を氷の槍で貫かれたお陰で咆哮を挙げた。

最後に足を切断しようとした強い一閃が足を切断してなかったのには驚きだったが、こんな芸当が出来るようになっている自分にも少し驚いた。


「シグレ! 避けて!!」

「っ!」

ドゴォォォォォンッ


聞こえてきたイグサの叫び声に咄嗟に反応し、その場をシグレが飛び退くと同時に龍の長く太い尻尾が地を強打していた。

すぐにさっき自分がつけた傷の場所を見ると既にそこには傷はなかった。


「なっ!」

「龍の生命力は異常なほどに強いんだよ。それにあの龍、炎属性だからアタシ達の炎や氷の属性は効き難いうえに回復も早い……」


先程まで宙を舞っていたイグサがシグレの隣に駆け寄ってくる。

その顔に余裕はなかった。


「どうすればいいんだ」

「属性の不利を覆すような強力な一撃を決めるか、弱点の水属性で攻めるか」

「俺はまだ自分の意志で水の属性は使えないんだが」

「やるしかないでしょ」


「だよな」と返事をするも、俺の背には冷や汗が流れている。

目の前には大きく口を開けて威嚇してくる巨大な深紅の龍。

その翼は大きく広げられ、後ろ足で立つ事によって使う事のできる鋭く巨大な爪。

俺達はただ、苦笑するしかなかった。




   ***




「ここは一体どこなのだ……」


今、彼女が立ち尽くしているのは丁度回廊のど真ん中。

シグレとイグサの危機を直感して真っ先に駆け出したのはいいものの遭えなく迷ってしまった。


「とりあえず。そう、とりあえず上、だな」


そう呟きつつ側にある階段を駆け上がりひたすら走りに走る。

階段を見つければ駆け上がり、回廊に出れば全力疾走。

それを繰り返しても繰り返しても一向に目的地には着かない。


「まったく、なんという城だ。レスティア城より広いのではないのか」


はぁ、と溜息をつきながらも辺りを見回す。


「この並んだ多くの扉。この辺りは応接室か客室か……ん?」


ふと背後に微かだが魔力の流れを感じ取る。

探知できる範囲は個々の実力や才にもよるが、サンの探知できる範囲はおおよそ五メートル弱。

その限りなく狭い範囲の中、サンは魔力を感じた。


「………………」


静かにサンライズを抜く。

鞘からサンライズが抜けきった事を感じ、攻撃態勢を取りながらすぐさま振り向いた。


「召喚……の魔法陣」


振り向いた先にあったのは小さいながらもれっきとした召喚用魔法陣。

サンは警戒しながらも少しずつ、魔法陣へと近づく。


「っ!?」


瞬間、顔―――正確には目を狙ってか、何か黒い影が飛び出してきた。

サンは咄嗟にサンライズで向かってくる物体を突き刺す。

『ぐぎゃぉっ』という奇怪な声をあげ、黒い物体は動かなくなった。


「なんだ、この黒い生き物は……気持ち悪いな」


サンライズに突き刺さっているのは烏のような生き物だった。

通常のそれとは違い、四つの翼を持っているが。


「誰がこんなものを。全く、こいつの飼い主のセンスは相当に酷いな……ぬ?」


突き刺さった烏(とりあえず確定)を引っこ抜くと同時に、魔法陣から小さな魔力の塊が飛び出してきている。

辺りは一斉に不気味な羽音で包まれた。


「ペットの面倒もろくに見れんのか。このような気味の悪い生物の檻には頑丈な鍵が必要なんだぞ。おまけに、無駄に多いぞ」


もはや回廊の壁は見えない。

不気味な羽音を立てているカラスたちの目が一瞬、獲物を見つけたようにキラリと光る。

次の瞬間、


『『『『『『『ギュギャアアアアアアア』』』』』』』


烏達はサンに向かって突っ込んだ。

黒光りした鋭い爪と嘴は一斉にサンに向けられている。


「躾がなってないぞ。今時の飼い主はこれだから……っと、早く行かなければならなかったな」


サンは剣の柄を両手で握り締め、勢いよく真上に空を刺すようにして突き上げた。


「灯篭!!」


突き上げられた剣と同じようにサンの周りから炎が生じ、燃え上がってサンを護る盾となった。

突然の炎の障壁に烏達は驚くが最早後の祭りである。

突っ込んで来た烏は全て障壁にぶつかり、その身を焦がして燃え尽きてしまった。


「物理的に壊せただろうか……?」

ザンッ


次の烏が召喚される前に魔法陣に剣を突き刺してみる。

すると陣は少しだけ揺らぎ、やがて霧散してしまった。


「ふむ。初めて技を使ってみたが……成功してよかった」

『隊長っ! 城内に大量の魔法陣が出現! 烏らしきものが大量に送り込まれています!』


この城の兵士だろうか。

それにしてもやはり質より量の飼い主らしい。

城のあちこちに魔法陣が出現しているみたいだ。


「あほぅ!! グラスノアの精兵が烏如きに負けるわけないやろっ!! 応戦しぃ! ウチは王の元に行く!!」

『は、はい!』


少し高めの変わった口調で怒鳴られた兵士は一目散に駆けて行った。

声が聞こえてきた方へと静かに歩いていくと、今まさに階段を駆け上がろうとしている若葉色の髪をした女性が見えた。


「王、ってことは一番上……。よし。迷子の子猫状態は終わったぞ!!」


希望が見えたサンは嬉しそうに彼女の後をついていった……。




   ***




シグレとイグサが紅龍と戦いを繰り広げる中、グラスノア王オーディンとその臣下であるレクリフは玉座を離れてはなく、じっとシグレ達の戦闘を見続けていた。

オーディンの傍らから離れる事はなく、またシグレ達にも加勢しようとすらしていないレクリフはレイピアを斜め前方に構え、自分自身とオーディンを覆うように力の波動を放出し続けていた。


「レクリフ、俺の事はいい。それよりもシグレ達に加勢して…」

「それは出来ませぬ」


オーディンの言葉をピシャリと遮るレクリフ。

素っ気無く返ってきた臣下の言にオーディンは思わずたじろいだ。


「陛下。貴方様はこのグラスノアにおいて必要不可欠な存在。今、私めがこの場を離れ、陛下の身に何かあってしまってはそれこそこの国の終わりなのです」

「だ、だがっ! シグレは俺の子だ! シグレも俺と共にこの国に不可欠な存在となろう! 動けない俺に代わってシグレを……」

「陛下。よくシグレ様を御覧なさってくだされ。シグレ様の目の輝きと属性の波動、何もかもが若かりし頃のあなたにそっくりではありませんか」


体勢を維持したまま、レクリフは目を細めて目まぐるしく動く忍びと共に戦うシグレを見詰める。

鋭い斬撃を放つ太刀筋、まだまだ未熟ともいえる拙い属性の流動。

オーディンにはシグレが昔の自分の姿と重なって見えた。


「あの方は紛れもなく、陛下……オーディン様とツバサ様のご子息でございます。そのシグレ様が今此処でお倒れになるとお思いなのですか?」

「…………自慢じゃないが、俺もかつては最強とまで謳われた事もあった。ツバサも……共に戦ってくれた最強のパートナーだった」

「最強のお二人の間に誕生した子が最強に成る前に死ぬはずはありません。……今はただ、見守りましょうではありませんか」

「そう、だな。今はただ―――」


今はただ、己が息子の戦いぶりを目に焼き付けよう。

オーディンはそう決意したのだった。




   ***




ザンッ!!


龍の皮膚を斬りつけると同時にバックステップで後退する。

すぐさま自分がいた場所に炎の息吹が飛んで来た。

相も変わらず、龍の皮膚は何事もなかったかのようにみるみると傷が治癒していく。

イグサも攻撃を続けているみたいだったが、まったく勝機が見えなかった。


『ギャォオオオオオオオオウゥ!!!』


ちょこまかと動き回りつつ攻撃してくる俺達に龍はいい加減イライラしてきたのか、大きな怒号を上げた。

俺とイグサは一旦大きく後退した。


「全くといっていいほど効いていないな」

「防具に使われる最高峰の素材の龍の鱗。それに加えて、ずっと昔から受け継がれて来た究極といえるほどの自己治癒力。それを相手にアタシ達は不利な炎と氷の属性で挑んでるからね」


半分呆れ気味にイグサは溜息をついた。


「一応、訊くけど……天元属性の使い方、知ってるか?」

「まだ発動した事のないアタシにそれを普通は訊く? ま、一応かなり昔母さんからコツって言っていいか分からないけど、教えてもらった事はあるよ」

「説明、できるか?」

「少し待って。今から少しの間、アタシ達を、現世から……隔離する」

「お前、何言って―――」


俺は途中で口を止めた。

イグサの右手の親指と人差し指の間に挟まれているのは何枚か重なった符。

特殊な文様が描かれているその符はバッと広げられ、イグサが腕を振るうと俺達を囲むように四方に散らばった。


「―――絶っ!!」


イグサが忍び刀を床に突き刺すと、亀裂から光の線が散らばった符に向かって伸びてゆき、更に符から符へと線が伸びていく。

やがて全てが繋がった時一瞬だけ視界が霞み、気づけば立方体の中にいた。


「これは……」

「時間ないからさっさと説明始めるよ」

「ああ―――って龍がこっちに向かってきてるぞっ!!」


シグレが周りを見てからイグサの方を向くとこちらに向かって物凄い勢いで突進してくる紅龍が目に入った。

イグサは向き直るがそれでも至って冷静だった。


「今、この立方体の中は完全に現世との繋がりを遮断してる。例え、龍でもこの結界には触れられない」


冷静なイグサを余所に龍は今にもぶつかりそうな距離まで迫っている。

そしてもうぶつかるであろうという距離まで着たとき、俺は思わず眼を瞑った。

腕を顔の前に持ってきて衝撃に備えるが、何時までたっても衝撃は訪れなかった。


「大丈夫だよ、シグレ。この結界―――断絶結界の中は現世に存在していて存在していない空間だから。それより、説明始めるよ」

「あ、ああ。頼む」

「母さん曰く、『心のレバーを切り替えろ』だってさ。属性は血液と共に体内を巡っている魔力に宿っている。血液と一緒に巡る魔力の質が変われば属性も変わる」

「だから切り替えのレバー、か」

「魔力は心が生むものだからね。でも、心が生む魔力の質を変えるって事は魔力の生産過程を変えるって事だから。それに耐えうるだけの力が要る。本来、人はだれでも天・地、どちらの属性も使う事は出来るの。けど、心を切り替える必要がある天元属性だけはリミッターがかかってるんだって」

「天元属性を使うに値する実力があれば、自己の意志でリミッターが外せるって事か?」


俺の質問にイグサは無言のままで首を横に振る。


「リミッターはあくまで錠のような存在。鍵となるのは自分の強さ。錠さえ外せば、それはもう外れたままなんだって」

「つまり……」

「後は自分次第。魔力の生産過程を変える感覚を掴めるかどうかって事になるね。まぁ、シグレはカグヤ姉さんとの戦いで一回水の属性使ったんだし、使えるよ、きっと。だから、頑張りなよ」

「頑張りなよ、ってお前……お前も使うんだろ?」

「へっ?」


まるで自分には関係ないかのように振舞うイグサ。

俺の言葉にキョトンとしていた。


「あ、アタシ!? 無理無理無理! 使えるわけないでしょ!」

「……何でそんな風に決めつけるんだ?」

「だ、だって。シグレはカグヤ姉さんに勝つほどの力があるからいいけど……アタシは姉さんから一本だって取った事ないし……」

「それ、いつの話だ?」

「確か、学園に入る前だから四年ほど……前? イタッ!」

「バーカ」


俺はすかさずイグサの額にデコピンをかました。

不満があるような顔つきでイグサが額を擦りながら此方を見てくる。


「男子、三日会わずば剋目して見よって言うだろ。四年前と今じゃ大違いだろ」

「アタシ、女なんだけど…・・・イタッ!」

「屁理屈言うな。男女限らずに決まってるだろ」


俺はハァと溜息をついてから、そっとイグサの肩に手を置く。


「やってみないと分からないだろ? 出来なかったとしても俺は責めない」

「でも……」

「命・令だ」

「何でシグレが私に命令してるのさ!?」

「その鈴。買ってやったろ?」

「むぅ……。シグレって案外悪だね」

「何とでも言え。それより、行くぞ」


シグレは今にも消えそうなくらいに薄くなってきた結界の壁に寄ると再び月華の柄に手をかける。

頭の中で魔力のレバーを切り替える事をイメージする。

こんなイメージだけで切り替わるとも思えないが、切り替えるという確かな意志がなければ変わらないのも事実だろう。

集中し、研ぎ澄まされている感覚の中でシグレは小さいながらもイグサの声が聞こえた気がした。


「ありがと、シグレ」


イグサも集中を始め、己の武器である獅子王を握り直した。

「次、次こそ……出番」by???




どうも、最近更新が亀な状態の秋月です。

八月下旬から十月下旬までの間に色々あるからでありまして……ついこの間までは文化祭の練習などで時間がありませんでした。

昨日、ようやく文化祭が終わった状態です。

続いて、十月始めに体育祭。それが終われば中間テストに英検2級。それが終わればしゅーがくりょこー(ぉい

まだまだ忙しくなりそうな勢いです。

そして来年は受験。恐ろしいです。

それでも何とか暇を見つけて書き続けていこうと思っています。

根性で!!

そんなグダグだな管理人が書く小説をよろしければ今後も読んでやってくださいませ。

それでは!


PS.秋月のクラスの出し物である「Alice in the Disney」がグラウンド部門で見事最優秀賞に輝きました。

バンザーイ!

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