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君と創る歴史  作者: 秋月
第2章~悠久の時を超えて~
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第23項:感謝、予感

緑の商人と別れてから数十分が経過しようとしていた頃、シグレとイグサは露店を転々と見て回った後に町の端とも言うような場所でひっそりと存在している小さな公園のベンチに腰掛けていた。

そんな、あまり人が訪れなさそうな場所だが数人の子供達が砂場で小さな城を作ったり、なにやら騒ぎながら走り回ったりしている。

レスティアとゼルガドとは真逆の、争いには縁がないような場所だった。


「まさかこの国がこんな場所に建ってたなんてな」

「うん。まさか山の中腹にあったなんて。道理でワープする訳ね」

「あんな場所にあるんじゃ、登るのも一苦労だしな」


これは町の端まで来てようやく分かった事だったが、この町というか国―――グラスノアは極泰山の向かいにあるこの玄武山の中腹に斜面に沿って建てられていたのだった。

ついさっきも人が乗り越えられないぐらいの高さの魔法で出来た透明障壁越しに外を覗き込んで見たが、あまりの高さにクラッとしたほどだった。

また、斜面に沿って作っているために国は幾つかの断層に分けられ、それぞれが横に広がる階段で繋がれて段上になっている。


「でも、シグレにとっては故郷なんだよね。何か覚えてたり思い出した事とかある?」


イグサが身を乗り出すと緑の装飾商から買った鈴は澄んだ音を小さく奏でながら揺れ、やがてまた静かになった。


「少しずつだけど、思い出してきてはいる。事実、ここに公園がある気がした。それにここら辺一体を走り回った記憶も、うっすらとは残ってるしな」

「じゃあ、昔遊んだ友達とかの事も?」

「友達って言っても確かそんなにいなかったな。せいぜい、母さんの知り合いの俺と同じ歳くらいの奴が二、三人程度だった…かな」

「な、名前は覚えてないの!?」


身を乗り出してくるイグサに少したじろぐがすぐさま記憶の中を漁ってみる。

自分としても昔の事は一つでも多く思い出しておきたかったのでひたすら記憶の奥深くを探ってみたが肝心な部分が霞んだ記憶しか浮かび上がってこない。


「…名前は覚えてないけど、遊んでたのはここじゃなかったな。確か…少し広い平原みたいな場所だった。俺、シグレって呼ばれてなかった気がするんだよな…」

「そっか。ま、アタシもあんま覚えてないんだけどね」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、なんでもない」


「そうか」とシグレは一言返すと、一旦空を見やってから手中にある一枚の紙に視線を移す。

釣られてイグサも紙を覗き込むとそこに写っていたのは、黒の短髪と茶色の瞳が美しい活発そうな女性と、彼女によく似た小さな男の子。

一目見ただけでイグサには自分の隣にいる人物だと分かった。


「それってやっぱり…」

「ああ。昔の俺と、俺の母さんだ」


もういつから貼られていたのか分からない、汚れた紙には大きな文字で『尋ね人』と書かれ、紙とは違って未だ綺麗なままである写真の下には報奨金だろうか、ありえない額が記載されている。

王が必死で探している事を物語っているかのような紙にシグレは視線を落としたままだった。


「この金額だったら、昔は誰もが俺と母さんを捜したんだろうな……金のために」

「でも、多分報奨金とかに関わらず捜そうとしてくれた人は居るはずなんじゃない? さっきの人だって……金の事だけ考えてる奴ならあんな事は絶対に言わない」


時は金なり―――報奨金目当ての奴ならばまずは、見つけるまでにかかる時間とそれに見合った額かどうかを考えるはずだ。

いくらかかった時間以上の対価があったとしても手がかりが一切なく、忍びでさえも見つけられなかった人物を見つけるなど幻を追い続けるようなものだ。

ましてや、それが数年前に行方不明になった人物ともあれば今でも金のために捜す者は皆無だろう。


「あの人はさ、本当に見つかって欲しいと思ってるんだと思う。国のために、自分達を守ってくれている王のために」


少しするとシグレは手にあった紙を綺麗に小さく折ってポケットの中に突っ込むと、町の段で一番高い所に建てられている城の方へと目を向け、小さく呟いた。


「あそこに……居るんだな」

「…多分」


本当に小さな声だったが、イグサはその言葉の一字一句を漏らさず聞き取り、曖昧だが相槌を打つ。

シグレの目は変わらずに何かを見続けている。


「気が進まない?」

「本音を言えばあまり進まないな。だけど、そんな事も言ってられないからさ」

「じゃあ、行こっか」

「…ああ、そうだな」


気が進まないが返事を返すと、イグサはピョンとベンチから飛び出して城の方へと歩き始める。

だが一人で会うよりかはずっと良いのだと思えてしまい、今となっては着いて来てくれているイグサには感謝を覚えるばかりだった。


「ありがとな」

「ん? ねえ、何か言った?」

「ハハッ…いーや、なんでもないさ」

「?」


キョトンとしているイグサの横を通り抜けると、「なんなのよ〜!」と不満たらたらの言葉が飛んできた。

それに笑みを浮かべながらもシグレは最上層にあるグラスノアの白へと向かったのだった。




   ***




シグレとイグサが公園から城へと歩み出した頃と同時期、サン達はようやくグラスノアへの入り口となる門の前まで来ていた。


「うっは〜…。これが入り口の門かよ。これまたでっけえなぁ…」

「それはともかく。これ、どうやって入るつもりなのさ?」

「…カディウス、お前知ってるんじゃねえのか?」

「何で僕が知ってるのさ」


門を前に絶句するカディウスとウェイバーを他所に、アニーを背負ったサンとカノンは離れた所から門を見上げていた。


「この門がグラスノアへの入り口だと思うか、サン」

「入り口なんだろうが…人民のざわめき等が聞こえないから、多分…魔法陣があるんじゃないのか?」

「ワープか…」

「恐らくな………ん?」


サンとカノンが話している途中で、サンは自分の肩が弱くトントンと叩かれている事に気づき、少しだけ顔を後ろへと向ける。

サンの肩を叩いていたのは当然だが、アニーだった。


「どうした、アニー」

「あの……サン姉様やカノン様はさっきのを見ましたでしょうか?」

「さっきの、とは?」


カノンが少しだけ後ろに下がり、アニーの隣に位置するように立つ。


「えと、その……ここに来る途中で街灯がありましたよね? その中の幾つかが変な光り方をしていた気がするんですけど…」

「街灯…というとあの獣避けのためのあれか?」


カノンが手近にある街灯を指差すとアニーはコクリと頷く。

とりあえずサンとカノンは話題の中心である街灯にまで近づいてみた。


「この街灯が変な光り方を?」

「いえ…この街灯ではないんですけど…。少し戻った所…丁度、サン姉様が私を背負う番だった辺りからです」

「そうか。しかし、アルテミスを素材とした街灯に故障は……とりあえず、私は見ていないな。カノンはどうだ?」

「私もサンと同じだな。何か異変があれば、気づくとは思うんだが…」


二人とも見ていないと聞いたアニーは少しションボリとして小さくうな垂れてしまうもまた街灯に目をやった。


「気のせいだったんでしょうか……あ!」

「? アニー?」

「あれ、なんでしょう!?」


再びアニーが指差す方へと目を向けてみると、今度は空を指差しており、その先には赤い翼を持った塊が小さく見える。

赤い塊は大きく旋回しながらその場所を離れようとはせずに飛翔していた。


「分かるか、カノン」

「あれは……龍種だな。この辺りに住んでいる種だろう」

「りゅ、龍…あわわ…襲ってこないでしょうか?」


龍と聞いて驚き慌てふためくアニーを背中に、サンは笑みを零す。


「大丈夫だ。龍種は昔からこの地に生息している種で総じて知能が高く、温厚な生物だ。此方から手を出さない限り襲ってくる事はない。だから、心配しなくてもいい」

「そうなんですか…ほっとしました」


『示セ』


「うぉっ!?」


唐突に聞こえてきた聞きなれない低音とウェイバーの声に振り返り、近寄ってみるとカディウスとウェイバーが唖然としたまま門を見詰めていた。

その視線を追って門を見てみる。


『汝ラノ身ヲ明カス物ヲ我ノ前二掲ゲヨ』


「門が…喋った? どんな魔法を使っているのかな」

「論点違うぞカディウス! つーか身を明かす物って……」

「身の潔白を証明しろと言う事か?」

「サン、それはぜってー違う!」

「えと…身分証明、ってことでしょうか?」

「恐らく、それだろうな」


違うところに注目しているカディウスと誰かと同じようなボケをしているサンに突っ込みを入れるウェイバー、彼らを無視してカノンとアニーは何か身分証明できるものを探し始める。

その後、ようやく意図を理解して遅れてサン達も探し始める。


「駄目だ。俺は何もねえ。カディウスは?」

「僕も駄目。アニーやカノンはどうだった?」

「私も何もなかったです。すみません…」

「奮闘虚しく……」


何もなかったのを確認してなお探し続けるウェイバー達とは別に、サンはその手の中に一つの小さなブローチを握っていた。


「(これを使えば、中には入れる。だが……)」

「…ン。サン!」

「っ! ど、どうした?」

「どうかしたのはお前だっての」

「まぁまぁ…それで何かあった?」

「い、いや…私は、何も」


予想していたのだろうが予想通りの結果に全員が小さく溜息をついた。

嘘を着いてしまった事に少し罪悪感を覚えながらも、サンはふと空を見上げた。


「(……さっきの龍が旋回場所を変えている…)」


先程、アニーが見つけた龍は旋回場所を門の向こう側の上空へと変えていた。

別に生物として普通のような事に少しだけ違和感を持ったその瞬間―――


「っ!!!」

「サン姉様? どうかしたのですか?」


嫌な予感がゾクゾクとして鳥肌が立ち、アニーの言葉も耳には入らなかった。

空を飛ぶ龍に向けていた視線をすぐさま門に向け、門のすぐ間近まで寄ると手にあったブローチを掲げる。


『身ハ明カサレタ。入ルガイイ、潔白者達ヨ』


低音の言葉と共に門はゴゴゴと左右に開き、そして魔法陣が姿を現した。


「行くぞ!!」


唖然とする他の四人を放ってサンは先に魔法陣の中へと走りこみ、その姿を消した。


「サン、お前…持ってたのかよ」

「そこっ!? 注目場所違うよ! 彼女、学生証は持ってなかったはずだよ!」

「いつも邪魔だとか言って、机の上に放りっぱなしだな……」

「サン姉様は何で身分証明したのでしょうか……」


多くの疑問が残る中、考えていても仕方がなかったのでウェイバー達も魔法陣の中へと走りこみ、姿を消した。

「シグレ君に会えるのはもっと後やの?」

「出番自体がないからね……何とか増やせないか…」byカグヤ&サクヤ


キミレキ豆知識:アラーリの蕾(第22項より)

…緑と青色の混ざった苺大くらいの大きさの蕾。軟膏の元になる材料。



どうも、秋月です。

無事期末試験も終わり、夏休みに突入しようとしている頃です。

今回短めなのは、次からまた長くなるかなぁとか思って間話的な内容でお送りしたからです。決して手抜きではありm(ry

夏休みも文化祭の練習やら部活・大会などで忙しくなるとは思いますが、出来る限り早く更新できるように頑張りたいと思っています。

それでは!

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