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君と創る歴史  作者: 秋月
第2章~悠久の時を超えて~
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第19項:昔々の物語

シグレとイグサが朧の里からグラスノアへと出発してから早一時間が経とうとした頃、サクヤはカムイと共に家で緑茶を啜っていた。

シグレ達が出て行った時と変わらずに里は活気に満ち溢れ、人々の声が絶え間なく溢れ続けている。

やがて、サクヤの持つ桜の模様が入った湯飲みの中のお茶が全て飲み干されそうになる時に一つの黒い影が庭へと走った。


「どうしたの。カグヤ」


サクヤがそっと湯飲みをテーブルの上へと置き、視線を庭に立つ着物姿のサクヤへと向ける。

カムイは依然、落ち着き払った様子でカグヤを見る素振りすら見せずに佇んでいる。


「サクヤはん。久方ぶりの行き倒れが見つかったで?」

「行き倒れ?」

「正確に言うと…迷子?」


このメアディ・アルで迷子になるという快挙を成し遂げたのは誰なのだろうか、とサクヤは考えたが思い当たる人物は浮かばなかった。

もっとも、過去にならそんな事をしでかす者がいたが過去は過去だった。


「身元は分かる?」

「まぁ…もの凄い迷子やで? 数人おるけど、全員が名家出身」

「全員がって…どういうこと?」

「王国守護十騎士の一人の愛娘にグラハム家の一人息子、ウィアルド家の息女に代々有能な賢者騎士を送り出してくるフェブレード家の息子。そいで、極め付けが―――」


その極め付けを聞いたサクヤは目を丸くし、テーブルを引っくり返しそうな勢いで立ち上がったが、幸いにも卓がひっくり返る事はなかった。




   ***




「ここがイグサの故郷か……」


一応、イグサの友人という事で客人用の家に迎えられたサン達は畳で敷き詰められた部屋に通された。

辺りを見渡しながらサンが物珍しそうに呟く。


「だから、あの時こちらに来ていればもっと早くに辿り着いただろうが!」

「いいじゃねえかよ! 結果的に辿り着いたんだからよっ!」

「そういう問題ではないだろうがっ!」

「何でそんなに必死なんだよ!」

「ぐっ……それはだな…」


里の忍びに見つけてもらった時から言い争っているウェイバーとカノンは未だに言い争いを続けていた。

そして今、ウェイバーの問い掛けにカノンが言葉を詰まらせた。


「確かに誘拐されたっぽいシグレは心配だけどよ、お前やたら必死だよな?」

「そ、そんなことは…」


不自然に目を逸らすカノンを訝しげにウェイバーは眺めた。

やがて、何かを思いついたかのようにニヤリと含み笑いをする。


「そうか。分かったぞ」

「な、なにがだ」

「お前、シグレのことが―――」

「わーーーーーーー!!」


カノンは即座にウェイバーの後ろに回りこみ、片手で口を押さえながらもう片方の手でホワイトウィングの刃を首に当てる。


「それ以上言えば、お前の首が飛ぶ事になる。……言わないと誓うな?」


もはや脅し文句を吐いているカノンの勢いと気迫にウェイバーは思わずコクコクと首を縦に振る。

その光景を見ていたアニーはもう一人のライバルがいるという事実の発覚に渋い顔をしていた。


「それにしても、この里にいるはずなのにシグレもイグサも来ないね」


カディウスもサンと同様に辺りを物珍しそうに見渡していた。

レスティアにある和風の物の殆どがこの朧の里の工芸品であり、この里限定の芸術品でもあった。

和の物はレスティアでは珍しく、その和の物が普通にあるというこの里にカディウスは強く興味を抱いていた。


「シグレ……まったく、何をしているんだ」


不機嫌そうにサンがボソッと呟いた。

その直後に縁側と思われる方の障子に人型の黒いシルエットが映り、そのシルエットが急に屈んだかと思うと、障子が静かに開けられた。


「失礼します」


静かに障子を開けたサクヤはゆっくりと一礼すると、物音一つ立てずに部屋の中へと入って静かに障子を閉めた。

そしてサン達の前まで移動する。

カノン達は綺麗な着物姿のサクヤの流麗な動きに呆気に取られていた。

しかし、サンだけはハッキリとした眼でサクヤを見続けていた。

それでもサクヤは構わずに再び手をついて一礼する。


「私がこの朧の里の頭領代理を務めている、サクヤ=ハーミレイといいます」


しばらく呆然としていたカノン達はハッと我に返るとサクヤと同じように一礼する。

それらと共にサンも一緒になって一礼する。


「ご丁寧にどうもありがとうございます。私達は―――」


カノンが代表として自己紹介をしようとしたところをサクヤの手が「言わずとも」と言った風に遮った。


「既に承知しております。ウィアルド家のご息女であるカノン=ウィアルド殿」


いきなり自分の名を口に出されたカノンは少し驚いた表情でサクヤの顔を見た。

サクヤはカノンの方を見やってから続けて視線を横へとずらしていく。


「グラハム家のご子息であるウェイバー=グラハム殿、王国守護十騎士の一人であるアレナ=トレアベルのご息女であるアニー=トレアベル殿。代々賢者騎士の家系であるフェブレード家のご子息のカディウス=フェブレード殿」


サクヤの視線は全員を通り過ぎた後に再び辿ってきた場所を戻り始め、やがてある場所で止まった。


「そして―――」

「……………………」


サクヤの金色の瞳がサンの瞳を、姿を、一挙一動の全てを捉えていた。

しばらくサンとサクヤは視線をぶつけていたが、ウェイバーやカノン達には分かるはずもなく、ただ静かに時間が過ぎていった。

やがてサンが痺れを切らしたかのように瞼を閉じると、ウェイバー達の方へと体を向けた。


「悪いが、席を外してはもらえないだろうか」


その言葉を聞いて一瞬だが、全員が驚きの表情を浮かべる。

だが、すぐに表情は元に戻り、それぞれが様々な表情を浮かべた。

アニーは心配そうな表情、カディウスは仕方がないといった表情、カノンは色々と考えているかのような表情、そしてウェイバーは明らかに不満そうな表情だった。


「何でだよ、俺達に聞かれるとマズイ事でも話すのか」

「…………」


ウェイバーに対してサンはただ黙って俯くしかできなかった。


「どうなんだ、答え―――おいっ!」

「サン」


自身の腕でカノンはウェイバーの言葉を遮り、そして落ち着き払った声でサンの名前を呼んだ。

カノンの呼びかけにサンは少しだけ顔を上げた。


「お前が何を隠したがるかは知らないが、今は私たちには知って欲しくはないんだな?」

「……今はまだ時じゃない。時が来たら、私は必ず全てを明かす」

「そうか。では、私達は席を外そうか」


するとウェイバーが再び不満の表情を浮かべるが、カノンの一瞥に軽く舌打ちをして部屋から出て行くカノンに付いて行く。

アニーとカディウスもそれに続いた。

障子が閉められ、足音が遠ざかるとサンは再びサクヤの方を向いた。


「良い仲間をお持ちですね」


先程までの雰囲気とは打って変わって優しげな口調で話すサクヤに思わずサンも微笑んだ。


「若干一人だけ不満だった者もいました」

「それでも、最後にはあなたを信じてこの場を離れたじゃありませんか」

「…そうですね」


不満そうなウェイバーをカノンが諫めている様子が思い浮かび、少しだけ苦笑してしまう。

それを見てサクヤもやはり微笑む。

だがすぐに、二人とも笑みを止めた。


「それで……この度は朧の里に何の御用ですか。世界の運命の一端を握る天照であるサン=フォニメント=ディオティナス姫殿下?」

「白々しい……シグレを誘拐するように指図したのはあなただろう?」

「心外ですね。なぜこの私……この里の者達がそんな事をする必要があるのです?」


サクヤがふぅと溜息をついて呆れるような態度をとると、サンの瞼が少しだけピクッと動いた。


「白を切る気か? トリメント病院の外側に張ってある結界には破られた痕跡があったんだ。そんな芸当が出来るのは、王国騎士の一部と……この里の手練くらいだ」

「それはそれは…私達にはもったいない言葉ですよ」

「…いい加減にして欲しい」


私は自然と苛立ちを覚え、手が強く握られている事を自覚していた。

ここまで強く苛立ちを覚えたのはいつだっただろうか…覚えている限りではもうかなり昔だった。


「眉間に皺寄っていますね…何故、姫殿下はそこまで怒っているのでしょう?」


相手がサクヤではなかったら、私は恐らく剣を抜いて斬りかかっていただろう。

だが相手はサクヤだ。

自分より遥か先にある高みに立っているのは重々承知。

承知しているからこそ、サクヤに敵わない自分にも怒りを覚えた。


「サクヤはん。もうその辺にしといたらどうや」


サクヤよりも少しだけ高音な声がサクヤとサンの耳に入ってきた。

サンが後ろを振り向くといつ入ったか分からないが、着物姿のカグヤが壁に寄りかかっていた。


「姫様。久しぶりやな」

「カグヤさん………」


手をひらひらと振るカグヤは一旦サンに向けていた視線をサクヤへと移す。


「もうその辺でいいやないか、サクヤはん。いくらイグサのライバルいうたかて、いじめ過ぎやで?」

「だってサンちゃんが今の所、一番の障害だし。ここでサンちゃんに何かしらシグレ君の事を否定させておけば、後々イグサが有利になるじゃない?」

「確かにシグレ君がこの里にずっと居てくれるんやったら私かて嬉しいわ。でも、元はといえば私等は里の未来のためにやったんやし。で、里の未来はシグレ君が保障してくれたんやから……。今となれば、もうシグレ君無理に迎える必要は…」

「甘いわよカグヤ!」


ビシッとサクヤは立ち上がってカグヤを指差した。

私には何の話をしているかよく分からなかったが、シグレがこの里のために何かをするということだけは聞き取れた。


「シグレ君の今の強さ、戦いながら成長する才能、そしてあの器。全てにおいて頭領に相応しいわ。それに容姿も本人自覚してないみたいだけど端麗だし、何より人を惹きつける何かがある。イグサの気持ちもあるしね―――他にも……」

「分かった分かった。―――で、姫様。シグレ君は今はグラスノアに向かってはるわ。小一時間ほど前に出たから急げば追いつくはずやで」

「……………っ!」


サクヤの演説らしきものに呆気を取られていたが、カグヤが耳元で囁いた事によりサンは我に返った。


「あ、ありがとう。カグヤさん」

「ええてええて。元は私等が連れてきたんやから」


まだ話し続けているサクヤを後ろにカグヤはヘラヘラと軽く笑っていた。

サンは少し痺れつつある足を叱咤して動かし、急いでシグレの後を追うべく外へ向かった。

障子を開けて出て行こうとしたところで自分に向けられたカグヤの声に一旦足を止める。


「姫様。自分が幼い時に一番楽しかった事を思い出しや。そしたら、今の自分の気持ちに気づけると思うで。それに、昔の記憶と一緒にある力にも」

「?…カグヤさん。それは一体……」

「ま、気にせんとはよ行きや」


カグヤの言葉に疑問を感じたが、今は急ぐべき状況なのでとりあえず挨拶と礼だけしてからパタパタと小走りでカノン達の元へと向かった。


「演技する方も大変やな、サクヤはん」


足音が遠ざかっていくのと共にいつのまにか話を続けている間ずっと動いていたサクヤの口が止まっていた。

サクヤはやれやれと言わんばかりに溜息をつく。


「娘の恋路の妨げになるような事するなんてね……。私も甘いかな」

「イグサの最大のライバルになるような相手に対して自分の気持ちに気づかせるような言葉送るなんて…サクヤはんらしくないとは思うけどな」

「まぁ、そうなんだけどね。でも、サンちゃんが自分の気持ちに気づいて、シグレ君に何かしらアクションを起こせば…結果としてイグサも成長するんじゃないかと思ってね。肉体的にも精神的にも。……それにシグレ君はイグサが頂戴するんだって信じてるし」


ムフフと口に手を押し付けながらサクヤは小さく含み笑いをする。

それを見たカグヤは感心しながらもどこか呆れたかのような表情を浮かべるしかなかった。




   ***




カノン達の元へ向かうサンは走り回っていた。

待機しているはずの場所に居なかったので近くにいた人に訊いてみれば皆、見物するとか言って出て行ってしまったのだとか。

女子陣はかなり反対していたらしいが。


「まったく……せっかくシグレの足取りが掴めたというのに」


走りながらもサンは呟きながら、先程のカグヤの言葉について考えていた。


『姫様。自分が幼い時に一番楽しかった事を思い出しや。そしたら、今の自分の気持ちに気づけると思うで。それに、昔の記憶と一緒にある力にも』


サンにはカグヤの言葉の意味が分からなかったが、それでも自分が幼かった時、一番楽しかった事を思い出してみる。


考えてみて思いついたのはありがちなものばかりだった。

誕生日や庭を歩き回る事……母様と話すこと…………友達と遊んだ事……友達?

その友達とは誰の事だったのだろうか。確か…自分を含めて四人、そのうちの一人が獣人。

一人だけ、その一人の名前だけを微かに覚えている…そう…確か…。


「オーフェニア=ベルナーク。いや、何かが違うような……」


今一つピンとこない名前にモヤモヤとしたが、今はシグレに追いつく事が先決だ。

そう思ったものの、先程思い出した友といつから会わなくなったのだろうかというような事を考えながら、サンはカノン達を探すために奔走した。

「いつも更新が遅れてスイマセン」(シグレ)

「……誰に向かって言ってるの?」(イグサ)

「手際が悪い管理人に代わって、出来ればいると信じたい読者様に向かって、だな」(シグレ)

「ふーん…」(イグサ)


今日のキミレキ豆知識:ウェイバーはもともと聖騎士組ではなく、忍者騎士組だった。

管理人が忘れていたが故に、聖騎士組に。

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