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君と創る歴史  作者: 秋月
第1章~異なる世界~
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第1項:始まりは扉の中に

「いいか、ここの関係代名詞はだな…」


人一倍低い声がシンとした教室に響き渡る。

その声に隠されてはいるが、カリカリという音やカチカチといった音も小さいながら聞こえてくる。

開け放たれた窓の外からは微かながら鳥の鳴き声が聞こえてくる。

その子守唄に加えて、春のポカポカとした陽気が眠気を誘う。

皆よく勉強できるよなとよく思う。

こんなに睡眠に絶好の環境は他に無いはずだ。

そうさ、だから俺は―――。


「ぐぅ〜…」


静かな教室には似合わないうえに、他の一定の音とは違う不協和音が黒板の前に立つ大柄の男の手をピタリと止めた。

男の額には怒筋が浮かんでいる。

所謂怒っていますよの合図。

しかし、俺は熟睡中なのでそんな事も露知らずひたすら夢の中で遊泳中なのだ。

しばらく手を止めていた男は手に握っていたチョークをバキッと折ると大きく振りかぶった。

そして―――。


「起きんかぁぁぁぁぁぁ!!!尼崎ぃぃぃぃぃ!!!!」


思い切り投げつけた。

ヒュンと風を切る音が生徒の間をすり抜け、窓際の一番後ろの席で熟睡している奴に向かって飛んで行く。

そして―――。


「痛えっ!?」


見事に命中。


「あ、ども。おはようございます」


ふと、額をさするとチョークの粉がビッシリと付いていた。

どれだけ威力あるんだよ…。


「尼崎!一学期初日の一時間目から寝る馬鹿がどこにいる!」


ここにいるじゃん…、とか言ったらまたキレるだろうな。

あの状態から更に怒らせると、英語教師の武山は面倒くさくなるから何も言わないでおこう。


「…まぁ、いい。俺の授業が暇になるほど余裕ならこの英文、訳してみろ」

「分かりません」

「即答するな!お前が分からないはず無いだろう!」

「別にいいじゃないすか。分からないって言ってるんだしさぁ…」

「第三者の如く言うんじゃない!!お前って奴は…」


ふと視線は周りに向けると男子はニヤニヤしてるし、女子はクスクスと笑ってる。

学年は変わったが、前に一緒だった奴も多くてこのやり取りは前の学年から続いている事だ。

笑われても仕方なかろう。

そんな事を考えているうちにチャイムが鳴る。


「はぁ…お前とはいつまで付き合わなければならんのだ…」

「卒業まで一緒かと」

「…頭痛がしてきた」


起立と礼の号令がかかり、武山は教室を出て行った。

いつもご苦労様だよな。

俺のせい?いやいや、アチラ様が構ってきてるだけだ。


「時雨〜。相変わらずだな」

「学年変わったからって性格変わるわけじゃないからな、当然だろ」


黒のショートヘアで鼻に絆創膏が貼ってあるこいつは神森勇人(かみもりゆうと)

バリバリのスポーツマンであり、所属する部活はサッカー部。

こんなんでエースストライカーというのだから世の中変わっているものだ。


「あ、今失礼な事考えたな。まぁ、いいや。それよりさ、今日カラオケ行かねえか?隣のクラスの藤宮や愛染も誘ってさ」

「女子を誘うとはこれいかに?」

「とどのつまり、合コンもどk」

「もどきってなんだ、もどきって。とにかく、パス」

「またかよ〜。お前、顔は良いのにそっち方面全然だよな〜」


勇人は口を尖らせてブーブーと文句を言っている。

それにそっち方面ってどっちだ。どの方向なんだ。


「今日は行きたい場所あるんだよ。だからどっちにしろパス」

「ちぇ〜、分かったよ。ただし!今度は付き合えよ!」

「…考えておく」


その後、チャイムが再び鳴り俺は夢の中へと落ちていったのであった…。

そして、時は日が沈みかけている頃にまで移る。


「じゃぁ、鍵ちゃんと閉めていつもの場所置いておいてね」

「分かりました」


俺に声をかけると、公務員のおじさんはバタンと扉を閉めて出て行った


「さてと…」


俺はライトを片手に移動を開始した。

ここは校舎の外れの書物倉庫だ。

昔は教師や生徒が資料や勉強に使う本を取りに来るために人の出入りが多く電気も通っていたが、最近ではそういう教師や生徒もいないらしい。

公務員のおじさん曰く、俺は珍しいらしい。

いいじゃないか、ここで本を読むのは授業を聞くより楽しいんだからさ。


「ここらへんのは殆ど読みつくしたしな〜…。もっと奥に行ってみるか」


書物倉庫と言っても、その規模はかなりでかい。

3階建てに加えて地下もある。

俺が読んだ数なんて覚えてられないほどに本があった。

俺がこの学園に入ってから一年が経ったが、未だ全てを読み終えていない。

当然といえば当然だが、入学当初から読み始めてるのになぁ…。


「こんな奥まで入ってきたことは無いよな…。全体的に本が古い感じだな」


一応、有名な進学校の書物倉庫だけあって高さだけではなく広さも尋常じゃない。

一階だけで入り口を除けば八つの部屋があるし、二階で五部屋、三階で二部屋ある。

今俺がいるのは、一階の部屋。

それも、他の部屋の入り口と違ってこっそり隠れるように設置されている部屋だ。


「この部屋は統一性無いなぁ…。詩集もあれば小説も結構あるし…」


他の部屋は殆どが種類別に統一されていた。

ある部屋は歴史書ばかりがズラッと並べられていたり、また違う部屋では絵画集が山のようにあった。

だがこの部屋だけは雰囲気が違う気がした。


「…もうこんな時間か」


部屋の窓から外を見ると既に真っ暗である。

埃かぶった窓からは見えづらかったが、よく見れば月も出ている。


「いつのまにかこんなに時間経ってたんだな。探索しかしてないっつーのに」


頭をポリポリ掻きながらライトで周りを照らしながら奥へと進む。

至る所に蜘蛛の巣が張り巡らされており、非常に動きにくい事この上ない。

部屋の隅では鼠でも走っているのだろうか、ガサガサと音がする。


「最初はビビッタよなぁ。まさか、鼠までいるとは思わなかったしな」


そう呟きつつも、ライトで周りを照らしながら見て回る。

しばらくしてライトの光はある一箇所で止まった。


「?」


何故だろう。

何故か気になる。

ライトの光が見つめる先にあったのは、他の本と対して変わらない表紙の古びた本。

そう、他の本と対して変わらないのに…。

時雨はその本を手にし、部屋の外に出て一階の中央に置かれている机とセットの椅子に座り込んだ。


「『レスティア王国歴史書』か。そんな国あったっけ?」


ちなみに彼、時雨こと尼崎時雨は学年順位十七位の実績を持つ立派な成績上位組だ。

一番得意な教科は世界史で、世界史だけを見れば学校ではトップの成績である。

この学園に入ってからで一番多く読んだのは歴史書。

それだけは覚えている。

頭の中でレスティア王国という名の王国があったかを考えながら表紙を捲る。


「…白紙?」


表紙を捲ってみても、そこに文字の列はなくただ真っ白な紙がひたすら並んでいた。

いくらページを捲ってみても文字は一向に現れない。


「何だってんだよ…」


少しやけ気味になりつつも律儀に最後までページを捲る。

もうページもなくなるな、と思った矢先にようやく文字らしきものを発見する。


「何だこれ、風景画か?」


最後から一つ前のページに描かれていたのはまるでカメラで撮ったかのようなリアルな絵だった。

多くの自然に囲まれた屈強そうな壁が城下の町と自然を一緒にグルッと囲んでいる。

その壁に一つだけ設置されている大きな鉄の扉にはその国のシンボルだろうか、太陽が描かれている。

そして、その自然と城下町を朝日をバックに山の上から見下ろす綺麗に描かれた長髪の女の人が馬と立っている。


「………」


思わず見とれていた。

その絵の異常なくらいのリアルさにもだが、時雨が見とれていたのは言うまでもなく馬と共にいる女の人である。

太陽をバックに立つ彼女の姿は女神のように美しく、凛々しかった。


「…持って帰るかな」


一旦、絵から目を離してからもう一度目を向ける。

つい何となくその絵に触れようとする。

それは時雨のこのレスティアという王国への好奇心がそうさせたのだった。


「こんな退屈な世界なんかじゃなくて…こういう場所で生きてみてえよな…」


時雨がその絵に触れた次の瞬間、フッと絵が消えてゲームで見るような魔法陣が机の上に光と共に現れた。


「な、なんだ!?」


驚愕の表情でガタンと椅子から転げ落ちて机の上の本を見た。

魔方陣はしばらくグルグルと回っていたが、やがてフワッと本が宙を浮いていた。


「なんなんだよ!幽霊か!?お化けか!?」


宙に浮いた本は時雨の前までスウッと飛んでくるなり、バラバラバラッといきなりページが勝手に捲られていく。

やがて、あるページでピタリと止まった。

そのページには扉が描かれている。


「さっきまであんな扉の絵…なかったよな?」


あまりの驚きのため自問してしまっている。

だが、不思議と恐怖を感じなくなっていた。


「行けるのか?さっき見たあの絵の世界へ…」


そろそろと手を扉の絵に近づけてゆく。

時雨の心には、もはや好奇心とあの国へ行きたいという思いでいっぱいだった。

近づけた手の先が絵に触れると、ブンッと音が鳴り絵が揺らめいたかと思うと本は扉になった。

扉は少しずつ開いてゆく。


「行ってやる。行ってやろうじゃねえか!こんなつまんねえ世界とはおさらばだ!!」


完全に開ききった扉の中の白い光に向かって時雨は駆け出し思いっきり両手を広げて飛び込んだ。

彼は選んだのだ。

自分の運命を左右する選択肢を。

このまま過ごすか、新たな世界を駆けるか。

彼は駆ける事を選んだ。

自分の物語を駆ける事を―――。

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