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笑わない龍血の姫と笑わせたい灰の騎士 ~ゲーマーが異世界を行く~  作者: ぼたもちまる
第一章 ゲーマーが行く 迷宮探索拠点都市ラトレイア
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第十八話 龍血の姫 と 灰の騎士

 ――夢を見ていた。



 それは遠い、遠い時代の戦いの記録。


 軌道エレベーターを巻く程の巨大な三柱の神龍が、ファクトリーを守ろうとする機甲師団と戦っていた。

 軌道リングの基部から切り離され、地上に崩落を始めるファクトリー。


 唯一残された機動強襲巡洋艦が、地上の被害軽減の為に落下軌道を逸らそうと成層圏より最後の突撃を敢行する。


 地上では敵も味方も入り乱れ、自分達の上に落ちて来る巨大なそれを見上げている。

 最後まで己の使命に殉ずる者、祈りを捧げる者、逃げ出す者、何も出来ない者、誰もが自分に課せられた天運を祈り、呪う。



 これはただの“記録”だ。


 今はもう、神話になってしまった遠い神代の記録――




 瞼を開けると、そこは既に馴染んだ宿処の自室だった。

 視線を巡らすと、ベットの脇にはサクラが居た。

 大正メイド服姿で姿勢良く椅子に座るサクラを見て、僕は少し安心する。



「……おはよう」

「おはよう御座います、カイトさん」



 他にも言う事があったんじゃないかと後になって思ったけど、それしか出て来なかった。

 いつものように、少し困った笑顔を見せるサクラは取り乱す事もなく、どこか安堵した面持ちだ。



「えーと……どうなったのかな……」



 若干……ではなく、かなり重い身体を起こしながらサクラに聞く。



「はい、“大侵攻”より九日が経過しました。今はもう皆落ち着いています」

「九日……? その間僕は……」

「ずっと、寝ていました。……心配、しました」



 そう言って、ベットに投げ出されていた僕の左手を取って自分の胸に抱く。

 あわわわ、柔らかいですぞ、今は不謹慎な気がしますけど急激に頭に血が上って行くのがわかります。



「そそその、ごめんサクラ。無謀で勝手な真似をして、許してなんて虫が良いけど……その、心配をお掛けしました」

「正直な気持ち、凄く怒りました。凄く哀しみました。でも生きていてくれた、それが嬉しいんです」



 優しく僕に微笑み掛けるサクラ。

 やはり、この娘を裏切るような事は出来ない。

 迷宮に挑むなら、ちゃんと話して、ちゃんと理解してもらってからにしよう。



「サクラ、いつもありがとう」

「はい」



 とりあえず、聞くのは怖いけど、聞いておかないと駄目な事から。



「その……ヨエルとムイタは無事?」

「はい、大丈夫ですよ。カイトさんがヨエルくんとムイタちゃんを探しに飛び出したと言うのは聞きました。本当に無茶なんですから」

「あー、本当にすみません……」

「いえ、良いんです。実は二人は、第一壁の大門に居た所をギルド職員に保護されて、直ぐに馬車で逃されていたんです。入れ違いになっていたようですね」

「まじかー、取り越し苦労かー。でも無事で良かった」

「ふふ、毎日カイトさんのお見舞いに来てくれていますよ?」

「そうか、今度お礼をしないとな」



 顔が熱い。

 だってサクラはずっと僕の手を胸に抱いているんです、無謀な事をしてしまった手前離してとは言い辛いんです。



「リシィ……達は?」

「リシィさんもテュルケさんも無事です。あのお二方はそもそも竜種ですから、生命力は他の種族とは比べ物になりません」

「なるほど、良かった……」

「一番酷かったのはカイトさんです。リシィさんの【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】がなかったら、死んでいた所だったんですよ? 反省してください!」



 あれ、怒ってる? これ凄く怒っているよね? ジル……どう言う事?



「ごめんなさい……」



 素直に謝っておいた。



「二人共下に居ますから、降りて顔を見せてあげてください。お腹も空いているでしょうから、直ぐにご飯にしますね」

「うん、ありがとう」



 やっと手を離してくれた。

 いや、怒りたくなる気持ちもわかります。自分でも自覚あるもの。

 サクラはもう一度微笑んで、部屋から出て行った。




 改めて自分を見る。


 鈍い金属光沢の灰色の手甲が目に入る。

 やはり夢ではなかった。


 ジャコッジャコッと音を立てて掌を開いたり閉じたりしたけど、自分で動かしている自分の腕に間違いはない。

 毛布を剥ぐと、その下にもやはり灰色の脚甲があった。


 若干厳つくて……そう、トーチャのパーティのメイン盾さんのような、有機的なデザインの甲冑だ。

 何だろうなこれ……引っ張っても脱げる訳でもなく、一体化しているのは間違いない。

 触覚まであるけど、どうにも馴染まない感触なので若干気持ちが悪い。


 これは、別にサクラでなくとも怒るよな……。

 とりあえず、顔を洗って下に降りよう。




 新たな自分の身体である甲冑のせいで着替えるのに手間取った僕は、たっぷり時間を掛けて一階へと降りて行った。



「おはよう、カイト。随分お寝坊さんなのね」

「おはよう御座います! カイトさん!」

「お……おはよう二人共」



 円卓には元気そうなリシィが、カウンターではサクラと一緒にテュルケがいつも通り元気に調理を手伝っていた。

 リシィの肩口からは包帯が見える。元気そうに見えても、傷は負っているのだ。


 ……ん?



「何か僕、普通にこの世界の言葉喋れてない?」



 耳に触れると翻訳器もない。



「それは多分、その腕と脚のせいね」



 僕の腕と脚を指差し、リシィが言う。



「どう言う……?」

「それ、私の【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】なのよ」

「はあ?」



 【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】って言ったら、あのでっかい銀の槍の事だよな?

 いや、正確には何なのかって言うのは聞いた事はなかった。



「えーと、どう言う事なのか聞いても大丈夫?」

「ええ、その上でカイトにはお願いもあるわ」

「……!?」



 今は瞳は緑色なので、怒られるとかそう言う事でもないみたいだ。



「私がテレイーズの当主で、龍血の姫だと言う事からの話になるけれど」

「うん?」

「テレイーズ家と言うのは、神代期に存在した神龍テレイーズの血を受けた竜種の末裔。そして私は、“龍血の姫”とは、一族でただ一人、神龍より授かった神器をその血に代々受け継ぎ、次代に継ぐまで護り続ける宿命を背負った神子の事なの」

「や、やっぱりあの銀の槍は神器なんだな……」

「ええ、正確には五つの神器の内の一つ、ね」

「まさか……」



 自分の腕を見る。

 銀色と言うには、あまりにもくすんで灰色になっている手甲。



「そのまさか。あの時理由はわからないけれど、私の血に触れたせいなのか、神器の内の一つ【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】がカイトに宿ってしまったの。それがその腕と脚」

「あわわわ……それ、結構まずいんじゃ」

「まずいどころではないわ。一族の者に知られたら、私もカイトもどうなるかわからないわよ?」

「ど、どうすれば……」

「どうにも出来ないわ。どうしてそうなったのかもわからないんだもの」



 ああ……思わずエセ外国人風に『ホーリーシィィット!』と叫び出したい気分だ。どうしてこうなった。

 ……どうしたもこうしたもあいつ等の仕業か。なんてこった。



「……この腕と脚が何なのかと言うのはわかったけど、それでどうして僕はこんな自然に言葉を話せるようになったんだ?」

「それは神器の記憶ね。記録、と言った方が良いかしら? 神器は神代の記録を今も保存していて、触れるものにその記録を見せるの。理由はわからないわ」

「その記録の中に言語があって、何かがどうにかなって僕の記憶と繋がったみたいな感じ?」

「どうかしら、だって前代未聞なんだもの。詳しくは多分誰にもわからないわ」



 だよなあ……。



「あの、怒ってる……?」

「……」



 リシィはこちらを見て無言。

 でも瞳は特に赤くはなっていない。セーフ……?



「うんー? あの状況ではカイトに非があったとは思えないから、怒ってる怒ってないと聞かれたら、特に怒ってはいないわね」

「そ、そうか……ありがとう、リシィ」

「でも、こうなってしまった以上は仕方ないから、私に協力する事は確定だからね?」

「えっ!?」



 何故か少し頬を赤らめながら、自分の折れた角を指差すリシィ。



「私がラトレイアに来た目的は、この角を奪った盗人を追い掛けて来たからなの」

「角を盗んだ……?」

「ええ、竜種にとって力の源である角を奪うと言うのは、その生命を奪うに等しい。だから私は全てを投げ売って、角を取り戻す為にこの地に来たわ」



 ひょっとして、リシィが笑わなくなった理由って……それか?

 カウンターを見ると、眉根を寄せたテュルケが頷いている。そう言う事か……。



「奪ったのはセーラム高等光翼種 第二位神族……ノウェム メル エルトゥナン。私達は、そいつの行く先と目的を探っているわ」

「そいつは今どこに?」

「恐らくは迷宮に」



 世界中に撒き散らされバラバラだったピースが、不自然にも集まり綺麗に嵌って行く感覚。

 何が何でも僕を迷宮に誘おうとする、そんな不快な予感。


 確信はない、だけどこれも恐らくは“三位一体の偽神”の手の内だ……。

 ほんと、クソったれだな……!


 トゥーチャ達に助けられ、サクラに引き合わされ、リシィ達と出会った、ひょっとしたらここで起きた事の全てが……。



「カイト」

「……ん?」



 少し前よりも更に頬を赤くして、視線を彷徨わせているリシィ。

 瞳は、何か、文字通り色々に明滅している。



「カイト!」

「はいっ!?」

「そんな訳だから、私に協力して欲しいの」

「うん? 神器が必要なのは仕方ないよな……僕に出来る事は……」

「そう言う事じゃなくて!」



 様子がおかしい。

 ポーカーフェイスが崩れている。

 あからさまに表情があると言う訳ではないのだけど、兎に角変だ。



「リシィ、どうし……」

「わわわ私の……私の! ……あの、私のおお、おっとに……違う! ……き、きし……そう! 私の騎士になりなさい!」

「はあ!?」

「私を奪ったのだから! ちゃんと責任を取りなさい!」



 その言い方は駄目! 主に僕の世間体がマッハで危険だから! 奪ったのは神器だよ!?



「待って!? 奪った……と言うのも聞き捨てならないけど、奪ったのは神器だよね!? 僕、寝てる間に勝手に動いて何かした!?」

「うるさい! 兎に角決定は決定なんだからっ! カイトは私に一生跪くのっ!」

「はあっ!? 待って、話し合――」

「うるさいっ! これは決定なのーーーーっ!!」



 何これ? 誰これ? これ、素? 高潔で誇り高い龍血の姫はどこに行った!? 駄々っ子か!!

 何がどうしてそうなったのか、珍しくテンパったリシィの動揺は、サクラとテュルケが生暖かい視線で料理を運んで来るまで続いた。



 僕はこの日、リシィに跪く……うん、まあ仕方がないか。


 “灰の騎士”になった。

第一章終了と言う事で、ここで一旦幕を引きます。

ここまでお付き合いいただき、ありがとう御座いました。


やっぱり、このくらいのゆるい展開の方が落ち着きます……。


本来なら、リシィがどうしてこうなったかとかは幕間等で書く予定だったのですが、その辺りは近い内に投稿を始める再編集版の本編に含むつもりでいます。

この作品はここで終わりですが、物語は若干設定等も改変して再編集版で続きを書いて行きますので、もし宜しければ、この後もお付き合いいただければありがたいです。



再編集版↓


『笑わない龍血の姫は僕の前ではツンデレない ~ゲーマーが異世界不条理を覆す!~』

https://ncode.syosetu.com/n8984ex/

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