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笑わない龍血の姫と笑わせたい灰の騎士 ~ゲーマーが異世界を行く~  作者: ぼたもちまる
第一章 ゲーマーが行く 迷宮探索拠点都市ラトレイア
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第十六話 名前を付けるとしたら“クソッたれ”

 大通りに飛び出すと、そこではありとあらゆるものが散乱し、建物は窓も扉も固く閉じられていた。

 ラトレイアから逃げ出したのか、地下壕に避難したのか、あれだけ居た人々は今は疎らだ。



 “大侵攻”――座学の中で聞いていた、三年程前に正騎士ロードナイトに率いられた【鉄棺種】が大量に地上に現出した事態。

 第一次が数百年前、第二次が三年前、そして今。


 おかしいだろうこれ?


 僕だけではない、ラトレイア全てが“三位一体の偽神”に踊らされている予感がする。

 本物の神かも知れない、悪魔かも知れない。どちらにしても碌でもない存在なのは確かだ。



 通りに止められたままの無人の馬車に飛び乗る。

 動かし方なんて知らない。教科書は以前プレイしたアサシンゲームだけだけど、どうにかする。


 要は“手綱は決して離すな”だ。




◆◆◆◆




 全力で馬車を走らせても、第一壁が見えて来るまで一時間以上は掛かった。

 戦闘の終結が近いのか、それとも破壊されてしまったのか、既に砲音は散発的になっていた。


 大通りは直線だ。もし探索拠点区から逃げて来ているならヨエルもムイタも見掛ける筈だけど、ここまで子供は一人も見ていない。

 脇道に逸れたのか、どこかに隠れているのか。

 それとも全てが杞憂で、今頃母親と再開しているのか。


 それで良い、そうであって欲しい。



「見えた」



 第一壁目前の大運河。

 馬車の勢いを殺さず、そのまま橋に突っ込む。



「何て事だ……」



 大運河の対岸には多くの【鉄棺種】が破壊され、第一壁の瓦礫と共に積み重なっていた。


 第一壁を乗り越えられている……。


 防衛陣地に目を向けると、今だ衛士が慌ただしく行き交っている。少なくとも突破はされていない。

 防衛陣地側には【鉄棺種】の残骸はないと言うのに、いくつかの砲が破壊されている。

 確か、遠距離攻撃をする“砲兵アーティラリー”と言う【鉄棺種】が居た。そいつの仕業か。




 第一壁の大門は閉じられている。

 乗り越えられたら意味がない、けれど開けられていても意味がない。


 今も壁の上からは、『ドンッドンッドンッ』と言う砲音が聞こえている。

 けれど、監視塔から見下ろした時に見た砲数から考えると、その音はあまりにも少なかった。


 僕は馬車を降り、脇にある人用の通用門から中に入る。

 遠く、大断崖の方角からは爆発音、破砕音、人の雄叫び、ありとあらゆる戦闘音が聞こえて来る。

 入り乱れ過ぎて何の音かはわからないけど、少なくとも、まだ探索者も衛士も戦っている事だけはわかった。


 そこにはきっと、サクラやリシィ達も……。



「どうすれば良い……?」



 父親を探すとしたら探索者ギルドに行くべきだ。

 だけど、確かここは許可のある者しか入れない区画だ。

 区への入口の大門には誰も居なかった。


 ……待て、そう言えば橋にすら(・・・・)誰も居なかった。


 普通は封鎖するだろう?

 ……クソ! これもあいつらの仕業か! “三位一体の偽神”!

 寒気がする。やはり駄目だ、関わってはならない。


 気が付くと、直ぐ背後から声が聞こえていた。




 ――進め 進め 進め



 ――望みは手に入れたか?


 ――望みはこの先にあるぞ?


 ――望めばまだ間に合うぞ?




「ああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」



 走り出した。探索拠点区の路地へ。

 網目になっている路を、当て所もなく、急かされるままに無我夢中に走る。


 どれだけ走ったか、どこを走っているか、そんなものを気にしている余裕はなかった。

 追い掛けて来る何者か、だけど振り返っても誰も居ない。なのに背後に居る。


 わかった、僕が名前を付ける。



 ――“三位一体の偽神(クソったれ)”だ。



 路地から飛び出す。

 直ぐに視界に飛び込んで来る光景。



「はは……本当にクソったれだ」



 路地よりは広くなった通りには、探索者、衛士とも判別の付かない遺体が積み重なっていた。

 身体に大穴を開けた者、胴の半ばから寸断された者、頭を失っている者、街角が血に染まっている。


 吐き気を催す光景、胃液が逆流する。

 それでも吐いていない、吐かずにいられたのは――



『カイト!? 何でここに!?』



 リシィが目の前に居たからだ。


 因果を捻った結果がこれか? 何でここに連れて来た“三位一体の偽神(クソったれ)”!?

 答えはない。それが答えだと言わんばかりに、ここに僕の望みがあると言わんばかりに。



 リシィの視線の先、通りの奥を見ると一体の【鉄棺種】が居た。


 タカアシガニを思い起こす、長い、長い脚が八本。けれど、それが繋がる胴体は円盤状で酷く頼りなさげに見える。全長は十メートル程。全長の殆どが脚だ。

 円盤の上部にはレールガン……ではないな、SF染みた砲が一門。

 下部には“棺”を抱え込んでいて、脚を中心に“肉”が纏わり付いている。


 教科書で見た“砲兵アーティラリー”だ。



『カイト! そこの路地に隠れていて! 良いわね! 動かないで!』



 リシィが黒杖を振るう。

 黒杖だけでなく、リシィの全身からも溢れ出した金光は空中に光の槍を形創り、杖の動きに合わせて砲兵に殺到する。

 その数は何本も、何十本も、リシィが黒杖を振るうたびに留まる事なく降り注いで行く。


 だけど、命中するのは極僅か。

 砲兵はその長い脚を利用して、アクロバティックな上下動でその殆どを回避する。


 ――ギィンッ!


 僕とリシィの間の路面が爆ぜた。

 見ると、大きく太い鉄針が固い石畳を穿っている。あの状態で反撃して来る?

 しかしリシィは微動だにしていない。その理由は砲兵の傍に居た。


 テュルケ……だ。


 砲兵の傍で縦横無尽に、建物や時には砲兵まで使って飛び交っている。

 右手には逆手に持った包丁と、伸ばした左手の先にはおたま。どう見てもギャグにしか思えない。


 だけどどうだろう、鉄針が撃ち出される兆候を見ると、おたまで砲兵を打ち射線をずらす。

 それを確実に、リシィに当たらないように、寸分違わぬタイミングでこなす。神業だ。



「凄い……」



 なのに……これは、分が悪い。


 弱点かとも思う脚は長い割に動きが早く、時折脚を狙った光槍を器用に避ける。

 それに砲兵の円盤状は避弾経始だ。貫徹力が足りず、当たっても弾かれ、光槍では殆どダメージにはなっていない。

 傾斜装甲を抜くには装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の“侵徹”の概念が必要だ。

 それなりに地球の技術や知識が流入していると言っても、この世界にそんなものがあるとは思えない。


 じゃあどうすれば良い? 他の探索者はどうやってこいつを倒している?


 紐で脚を巻く? どこにそんな長い紐があるのか。

 壁の上まで走って機関砲に狙ってもらう? 駄目だ、それならもう撃たれている筈。上面を狙えるなら可能性があったのに。

 サクラ……どこに居るかわからない。


 前面に侵蝕が見られないのも最悪だ。

 そもそもこいつは、遠距離攻撃で倒すものじゃないのでは……。


 リシィを見ると額には玉の汗が滲んでいる。体力は無限ではない。

 テュルケの動きも鈍さが目立って来ていて、鉄針がリシィの傍に着弾している。時間がない。



『月輪を統べき者 天愁う孤を掲げる者 銀の灰を抱く者 白銀龍が血の砌 打ちて焼きてまた打たん――』



 リシィが何かを唱え始めた。

 その合間も光槍を撃ち続ける。撃ち続けながらも詠う。


 金光が銀光に変わり、頭上には長大な銀の槍が形創られて行く。


 見ただけでわかる。これは――違う。

 神器……そう、以前聞いた神器だ。


 何の知識も持たない僕が見てもわかる、“神格”を持った何か。

 あれで穿つなら、硬いだとか傾斜装甲だとか、そんなものは一切関係がない。


 これはそう言うもの(・・・・・・)だ。



『――貫け 貫け 貫け 貫け 貫け 銀槍を以て万象を穿て 葬神の五槍――禍神を滅する龍血の神器! 受けてみなさい! 【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】!』





 ――大気が爆ぜる。



 銀槍は射出と同時に命中は――した。



 なのに――何でだ――



 何で――何でなんだ――




 視界の片隅で鮮血が舞った。


 砲兵を見ていた僕は、それがリシィのものだと気が付くのに遅れた。

 肩から血を吹き出したリシィが、後ろに大きく吹き飛ばされて、倒れた。



「リシィ!?」



 テュルケも居ない。

 砲兵の直ぐ傍の建物の壁には、今の今までなかった筈の穴が空いている。

 砲兵は、その円盤部を半分削り取られて膝を付いている。


 何が……あれか……!?


 砲兵の円盤部が、一回りも二回りも小さくなって、その分が“腕”になっていた。

 ……文字通りの“奥の手”だ。こんなの教科書にも載っていなかった。

 あの瞬間、腕でテュルケを弾き飛ばして反撃までこなしていたのか……!



 リシィに駆け寄る。

 右肩が裂けている、頭の直ぐ傍を鉄針が抜けていったせいか意識がない。

 砲兵は……まだ動いている。

 完全に動き出す前にどこかに身を隠さないと。


 自分が出て来た路地を見る。砲兵側に五メートル。行ける。


 リシィを抱え上げ、走り出そうとした所で砲兵と目が合った。

 銀槍に穿たれ、円盤の前部に付いている目と思わしき三つのレンズは、その大部分を割られていた。

 それでも、こちらを見ている。

 破壊された身体を起こす。円盤の外周にあるレールの上に備え付けられている腕が、レールが破断された事で端から外れて落ちた。



「何で……まだ、動けるんだ……」



 それは馬鹿な問いだ。相手は生物ではない。

 ギゴォォォォ――と歪な音を立てながら、再起動した砲兵が勢い良く立ち上がった。


 しまった……思わず後退ってしまっていた。

 路地から距離が空いている、だけどこのくらいなら――


 ……前に進めない。


 足が竦んでいるとか、そう言う事ではない。

 前に進もうとすると地面が揺らぐ。


 まるで――“空間そのものがスライドする”。



「クソッ……“三位一体の偽神(クソッたれ)”がああああああああああっっ!」



 振り返り、砲兵から遠ざかる方向へと走り始めた。

 次の路地までは二十メートル程、あそこまで辿り着いてしまえば図体のでかい砲兵は入って来れない。

 リシィは驚く程軽い。意識のない身体は脱力し、余計な負担になると言うけどそれでも尚軽い。


 砲兵から射出された鉄針が、遥か上、建物の屋根に着弾する。

 恐らく照準を破壊されている。

 背後から聞こえる破砕音を耳にし、肩越しに後ろを見ると砲兵は盛大に建物に突っ込んでいた。 

 しめた、姿勢制御だとか、そもそも制御中枢のようなものを損傷したに違いない。


 砲兵は姿勢を戻す度に鉄針を撃って来る、しかし全て明後日の方向に飛んで行く。至近弾すらない。


 これなら逃げられる。



 もう、路地に届く――




 どんなに必死になっても、全ては“三位一体の偽神”の掌の上だ。


 こんなものが“神の思し召し”なら、僕は全力でお断りしたい。


 全力でお断りして、ぶん殴りに行きたい。



 だけど、もしこれが本当に“神の思し召し”なのだとしたら――

もう直、事態が収束した段階で第一章が終了となります。

その後はまだ予定ですが、再編したものを別に投稿しようかなと考えています。


と言うのも、“三幕構成”と言うものを勉強してしまったせいで、ずっと気になっていた冗長になっていた理由がハッキリした事と、一話3000文字前後でカジュアルに読めるものにしたい、と言う理由からです。

後は設定をもっとわかり易くとか、メインヒロイン出るの遅いとか、主人公の目的をハッキリとか、その辺を直したい。


仕切り直しになってしまいますが、もし今後もお付き合い頂けるようでしたら、宜しくお願いします。

とりあえず、一章分書き切ります。

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