第七話 西京大学のナンバーズ
4月。
西京大学では、入学式が終わり、多くの学生たちが、それぞれの活動を始める時期になっていた。
飲食店や、本屋でアルバイトをする者や、剣道や空手といった部活動を行う者、そして、外国を体験するためと長期留学を行う猛者もいる。
西京大学は、基本的に、4年制を取っており、他の大学と同様、必修単位と選択単位を収得し、卒業という形であり、それほど、単位修得が大変というわけでもない。
学部によるが、最も単位修得が多いと言われている1回生から、2回生でも、4月間の休暇があり、アルバイトも可能という非常に、緩い。
大学の方針として、社会的な規律を守ってもらえれば、学生の自主性を重んじており、勉学に励んでもらうのも良し、部活動で、汗を流すのも、良しとしている。
一時は、大学にも、国民は、税金を払っているのだから、それなりの教育をしろという国の方針があったのだが、多くの学生が、そのために、留年、退学をしてしまった。
その上、卒業試験では、カンニングや、不正行為は当たり前という学生のモラルの低下も引き起こした。
そして、最終的に、親としては、大学すら卒業できないは、困るということになり、結局、国も、税金を払った分だけの設備、学習の機会を整えるが、それを利用し活用するのは、個人の問題という方針に決めたのである。
西京大学封印学部も、その方針の例外ではない。
己の封印術を磨くための室内練習場、実戦練習場は、予約を取る必要はあるものの、24時間開放されている。
また、封印術に関する本や、研究資料も、一部は、検索禁止項目もあるものもあるが、基本的に自由に閲覧可能である。
図書館の本も、1万冊を超え、パソコンのデータベースも、常に更新され、最新のデータが入ってる。
つまり、自分の能力を向上させるには、十分な環境が整っており、軍事技術にアクセスできる八神一郎であっても、その設備環境には、かなり満足させるものだった。
そんな慌ただしい4月であり、学生たちのエネルギーが、己のやりたいことに向いているのがわかる時期に、一郎は、疲れ切った表情で、家に帰る準備をしていた。
それは、彼のもともと明るい表情が少ないことから、きているのもあるが、今回の表情は、指導教官霞京子に呼び出されていることが原因であった。
「どうしたんだ、一郎。」
「虎之助か。」
体は、服の下からも、分かるくらい筋肉隆々、そして、顔は少し日に焼けてスポーツマン的である、いかにも元気溌剌そうな男が、心配そうな顔で一郎の席に寄ってきた。
「これから楽しい大学生活が始まるというのに、その顔はないだろ、一郎。大学生活は、スポーツ活動、バイト、ゲーム、飲み会。今迄みたいに、社会に出ても何にも役に立たないくだらない受験勉強をする必要もないんだ。それとも、一郎、おまえ、西京大学で、優等生組に入ろうでも、思っているのか。」
そういいながら、虎之助は、ニヤニヤ笑いながら、一郎を励ましてきた。
劣等生にとって、西京大学でのこれから成績よりも、入学できたことの方が、重要なのである。
西京大学に、劣等生として、入ったとはいえ、あの名門大学に入れたことの方が嬉しい。
たとえ、劣等生組といえ、無事に卒業できれば、就職は、安定だ。
そんな態度が、見え見えの虎之助に一郎は、苦笑しながら、
「いや、俺自身、これから、大学で、猛勉強して、将来、A級封印師や、第5階魔法を極めるつもりはないよ。それに、そこまで、俺に才能があるとも思っていないし。俺も、お前と同様、西京大学卒業資格と封印師収得資格さえ手に入れれば、それで十分だと思っているよ。」
そして、一郎は、一息置くと、声を潜めながら、
「俺が、心配しているのは、今日、指導教官にナンバーズへの参加を勧められたことだよ。」