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第六話

長老は、弱ってはいたが、まだ、彼の眼には、生気は衰えてはいなかった。


彼は、1000年生きて来た吸血鬼である。


絶対絶命という修羅場を何十回も、味わってきた。


そして、なにより今なお、彼は、現役の戦闘タイプの吸血鬼である。


今目の前にしている封印者の器量から推測するに、まだ、自分の方が格上だと直感的に感じている。


相手の方も、それに気づいており、殺気や、気迫という戦う気は、毛頭なく「これは、驚かせて申し訳ないです。」と丁寧にお辞儀をした。


「私の名前は、封印者、黒岩圭吾といいます。以後お見知りおきを。」


「では、黒岩君とでも呼ぼうか。私に何か用があるのかね。」


長老は、まだ戦闘態勢を崩さず、こわばった表情で相手の出方を伺う。


「こんに弱っていて、みすぼらしい吸血鬼、封印者の養成特区なら珍しくないだろう。その上、私は、かなり高齢の吸血鬼でね。吸血鬼の同胞からも、長老といわれているが、もう、現役の吸血鬼ではないのだよ。」


「私に、冗談は、通じませんよ。20世紀最高の吸血鬼、ボビー=イーグルさん。」


黒岩は、そういうと、呪符を持っていない方の手を黒い上着のポケットの中に入れ込む。


その動作を、長老は、決して、見逃さない。


私の正体をやはり、知っていたか。


正体を知っていながら、近づくのは、己の力を利用したいか、それとも、己を殺したいかどちらか。


そして、すぐに、自分を殺さないところから見て、恐らく、前者の方だろう。


私の能力を、封印し、力ずくで、利用しようとしているのだ。


奴が、魔力拳銃か、それとも、もう一枚の呪符を出すにしろ、奴が、妙な動きをしたら、魔術結界を使用し、奴の動きを止めてやるわ。


長老は、もう、自分が吸血鬼であることを隠すこともせず、魔力を体中から放ち、口から長い牙を出し、完全なる戦闘準備をしていた。


だが、黒岩は、相変わらず、ニコニコとしながら、長老を眺めながら、言った。


「流石に、1000年は、生きている吸血鬼だけのことはありますね。私の考えは、お見通しといったところですかね。私は、確かに、あなたが思っているように、あなたの力を利用しにきたのです。ですが、一つだけ、間違っていますよ。」


「何を、間違っているとうのだ。お前たち封印者は、私の魂を融合の材料にしたいだけだろう。」


「確かに、他の封印者たちは、そうでしょう。20世紀、最高の吸血鬼といわれたあなたほどの魔物を材料に魂融合できれば、最高の封印者になれるに違いないですから。何しろ、魂融合で生まれる魔力の大きさは、魔物の精神力、質によるといわれていますからね。しかし、私の依頼主は、最高の封印者を作り出すより、最高の技術を生み出す方に興味があるのです。」


「つまり、私に何をしろというのだ。」


「まあ、一言でいえば、あなたに亜人になってほしいのです。つまり、本来、人間の魂を基本にして、魔物の魂を融合させていたものを、今度は、魔物の魂を基本にして、人の魂を融合させたいのです。そして、あなたには、その実験体になってほしいというわけです。」


そういうと、黒岩は、先ほどから、ポケットに入れている手を、抜き取り、1枚の紙を取り出す。


そして、先ほどから、話についていけていない長老に、その紙を渡した。


「これが、亜人の説明と、契約の内容です。あなたにも、悪い話ではないと思います。」


長老は、渡された紙を熱心に目を通す。


取り分け、亜人の研究内容についてどれほど、自分にメリットがあるのかをじっくりと読む。


亜人。


それほど、私の力を伸ばしてくれるとは、思えないがと思いつつ、ジロリと黒岩を見る。


黒岩の方は、相変わらず、ニコニコしながら、長老を見ていた。


まるで、最初から、長老が、この話を受けるのをわかっているかのようであった。


この若造め。


私を舐めよって。


と長老の頭に一瞬、黒岩に対する反感を感じ、殺してやりたいという殺気を出しかけた。


しかしである。


長老の決心は、決まったように、黒岩に近づくとにやりと笑い、


「いいだろう。その話に乗った。だが、私にも、一つ条件を加えたい。それを受け入れてくれるなら、喜んで実験体になってもいい。」


「わかりました。確かに、亜人になることは、あなたにとって、これからの未来の大きな賭けになる話。では、こんな路地では、なく、別の場所で改めて伺いましょう。その方が、落ち着きますし、私の依頼者も、ぜひ、あなたに会いたいと思いますので。」


黒岩は、そういうと、ゆっくりと長老に背を向け、歩き始めた。


路地から、二人の人影が、風のように、すうっと消え、再び、黒い夜と長い静寂が、訪れ、西京駅の周りの街頭の明かりと、月光が、照らす夜になった。

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