第五話 吸血鬼の長老
西京市。
西日本につくられた最大の封印者養成学校都市であり、西日本では、トップレベルの魂融合の研究と封印者の育成が行われている。
町は、人工島にあり、大阪湾から、海上に500mぐらいのところを埋め立ててつくられている。
人口は、30万人程度。
広さは、普通の中核の都市と同じぐらいあり、1地区、2地区、3地区、4地区、5地区の5つの地区に分けられていた。
5つの地区は、都市の道路や、鉄道のインフラ整備が進んだ順番を指しており、1地区が最初、5地区が最後になっている。
そして、西京駅は、1地区の中心に存在し、西京市に出入りする玄関駅となっていた。
春の夜、22時。
朝、夜の通勤ラッシュが、ひとまず落着き、もう、西京駅を利用する人が、ほとんどいなくなる時間帯。
一匹の魔物が、建物の陰に隠れ、息を潜めていた。
その魔物は見た目は、普通の中肉、中背、中年の男の恰好をしているが、口から鋭い牙が生えていて、目が異常なほど鋭かった。
魔物の正体は、吸血鬼族、長老。
1000年は生きた強者であったが、吸血鬼の権力争いに敗れ、今は、自分の寝床を探すのに苦労しているのであった。
彼は、ここ2日、新鮮な人の血を吸っておらず、かなり弱っていた。
着ている服も、ネクタイや、背広だが、泥や汗で汚れており、さらに、地面に座っているため、パッと見ると、浮浪者だと勘違いされても不思議ではないほどであった。
(私も、そろそろ、引退の時期が来たか。もう、自分の時代は、終わりといったところか。)
長老は、夜の空を眺めた。
春の空には、透き通っており、雲一つない。
長老は、今まで、自分が生きてきた過去を振り返る。
人間よりも、体力、寿命、知力が優れているといわれている吸血鬼の一族が、繁栄できない理由は、その戦闘本能を抑えられないからだと言われている。
そして、若くして、吸血鬼の中でも、ずば抜けて戦闘本能の才能高かった長老は、次々と、自分よりも格上の吸血鬼を倒し、20世紀最高の吸血鬼とまで、言われるまでになった。
しかし、その地位と名誉を得た代わりに、多くの同胞を抹殺し、その権力争いのおかげで、吸血鬼3分の1が死んだと言われている。
彼の過去は、正に、血塗られた過去であった。
「ほう、こんなところに、まだ、魔物がひそんでいましたか。」
長老がそんな過去を振り返っていると、彼の後ろの通路から、低くしかし、よく通る声が聞こえてきた。
長老は、ビクッとし、後ろを振り向く。
後ろには、長身の男が、気味が悪いほど、ニコニコしながら、立っていた。
年は、30前後、片手には、呪符を持っているところから、推測するに、封印者か。
長老は、とっさに、体をお越し、戦闘態勢を整える。