第二話
二人は、控え室にいて、お茶を飲み、次の試合が来るまで、待つても、良かったのだが、京子の精神統一の邪魔をするのも、いけないと思い、今、行われている試合を見物することにした。
試合は、西京大生の一方的な試合であった。
受験生は、なんとかして、魔力を使って、京大生にアタックを仕掛けるが、ことごとく防がれていた。
「毎年、見るのですが・・・。ひどいものですね。」
最上が、そういうのも無理がなかった。
この試合では、受験生は、京大生に勝つ必要はなく、ただ、己の能力を試験官と学生に見せればいいのだ。
しかし、受験生は、ほとんど、魅力を見せる前に、西京大学生に組伏せられていく。
西京大学生も、試験ということで、力を抜いているつもりだが、それでも、受験生のレベルが、低すぎるのだ。
「ふむ、生徒の自主性を重んじているのだが、この制度もそろそろ考えなければならないか。」
工藤は、半分本気のようなまた、半分あきれたように言った。
そんなことを考えているうちに、10分が、経過し、試合が終了する。
お互いをたたえ合いながら、受験生と試験官が、礼をした。
受験生のほうは、魔力を使いきって、立つのも、やっとであったが、西京大生の試験官は、汗一つながして
いなかった。
(さて、次の試合は、どうなるか。あまり期待は、できないが。)
工藤が、そう思いながら、審判席に着き、そして、最上が、立ち合い場所に付いた。
「では、次の受験生、入場してください。」
最上が、自分自身に気合を入れるように言った。
次の受験生は、受験番号123番、身長は、175cmほど、目が、異様に鋭い。
髪は、短く刈り上げで、少し、不精髭を生やしていており、服は、黒色の学生服をきていた。
「八神一郎です。よろしくお願いします。」
「はい、呪符は、なんでもいいが、学校で許可したものを使用するように。では、準備してください。」
最上が、わざと緊張を和らげるような声でいった。
呪符。
それは、己の魂を具象化するために、使う紙であり、式神を生成する。
そして、式神の見た目は、封印者の魔力により、刀や、防具、動物など形を変え、封印者の戦闘能力を高める。
一郎が、呪符を取り出し、魔力を込め始めた。
呪符が、光輝き、日本刀に変化した。
日本刀「明倫」。
一郎が、長年、使い続けた刀剣型式神であった。
そして一郎は、明倫を構えて、戦闘フィールドの指定位置で、準備をする。
一方、試験官の霞京子が、短髪の髪をさらに、後ろに縛り、制服のマントを翻しながら、控え室のほうから出てきた。
観客から、期待と歓声が、上がる。
「あの人が、西京大学ナンバー9位にいる人だろ。」
「すげっえ、気合入っているな。」
「模擬戦の参考になりそうだ。」
「でも、相手が、気の毒。一瞬で、終わってしまうじゃない。」
漏れて聞こえてくる自分の噂に、京子は、半分あきれていた。
京子は、確かに封印者としての才能があり、素晴らしい容姿であることも、認識している。
しかし、それを噂されるのは、どうも、気持ちのいいものではなかったし、なにより、京子の精神が乱れる。
封印者にとって、精神を乱されるのは、魔力制御の乱れにつながるのだ。
(お願いだがら、試合前だから、気を使ってよ。)
京子は、思わず、仏頂面になった。
最上は、そんな不機嫌そうな顔をしている京子のほうに近づき、細かい指示を与えた。
「いいか。これは、模擬戦と言っても、相手の能力を見る試験だ。いいね。」
最上は、心配そうに注意した。
「大丈夫です。手加減は、するつもりですから。」
京子は、十分分かっているように、頷いた。
もともと、京子自身も、本気で、戦うつもりは、毛頭ない。
西京大学でも、トップクラスの自分が、本気を出せば、勝負は、一瞬で、終わってしまうだろう。
しかし、相手の力量次第では、少し本気で、戦いたいとむずむずしていた。
(八神一郎ね。少しは、私を楽しませてくれるといいんだけど。)
鋭い目で、京子を見る一郎を、眺めた。京子は、気合だけならば、他の受験生とは、何か違うものを感じた。
「具象化。」
京子も、呪符に魔力を注ぎ、日本刀を生成する。
「雷馬」京子の刀の名前である。
そして、一郎、京子の二人の刀から、すざましい殺気が、ほとばしった。
「では、始め。」
最上の声が、静かな会場に響いた。
一郎、京子ともに、お互いにらみ合いを始めた。封印者にとって、最初の攻撃こそが、重要になってくる。
なぜなら、相手の能力を知るポイントだからだ。
先に動いたのは、一郎の方だった。
一郎の刀が京子を薙ぎ払い、突き上げる。
すばらしい剣の速さである。
しかし、京子も、負けてはいない。
一郎の明倫の動き、威力、タイミングに合わせて、雷馬で、防ぐ。
さらに、京子は、一郎の一つ一つの動きを真剣に目で捉えていた。
剣術の腕は、大したものだと京子は、思った。
今までの受験生の中では、剣術だけならば、間違いなくトップレベルだろう。
しかし、封印者の戦いは、剣術だけで決まらない。
むしろ、その封印者のスキルが、重要であり、審査対象になる。
京子は、一郎の攻撃に対抗すべく、己の刀の能力を開放した。
雷馬から、高圧の電流が、流れ出し、周りの空気を切り裂いた。
「電気」これが、京子の能力である。
名前の通り、電光石火の速さで、電撃を飛ばし、相手を感電させる。
「電光。」
(私のこのスピードの攻撃には、絶対ついてこれない。)
京子から、何十もの電撃が繰り出され、一郎に襲い掛かった。
そして、一郎に無数の電撃が、走り、工藤、最上、誰もが、これで一郎が倒れ、試験は終わりだと思った。
やっぱり、霞京子に手加減しろといっても、無理だったかと工藤は、思った。
まあ、受験生の大体の実力は、わかったし、採点でもするか。
工藤は、採点用紙を取った。
その時、工藤は、自分の目を疑った。
一郎は、平然と立っているのである。
(うそでしょう。)
京子も、驚いていた。
最速を誇る電撃攻撃を今まで、防がれたことは、なかった。
いや、防がれても、無傷でいる人間は、いなかった。
(私の能力を防ぐ力があるのかしら。だったら、どうやって防いだの?)
霞は、最上の様子をうかがった。
最上のほうも、驚いたようであった。
(手加減のし過ぎか。いや、霞に限って、そんなことはない。むしろ、これが、八神一郎の能力か。)
最上は、そう思い、試合を止めない。
逆に、京子のほうを向き、能力を確かめてやれというような合図を、目で送った。
(何かあるわね。)
再び一郎と対峙した。
そして、京子は、用心するため、バックステップをして、距離を取った。
一郎の方は、屈伸運動をして、自分の体の異常がないかチェックしていた。
「では、教官、行かせてもらいます。」
そういうと、刀を斜めに構え、ものすごい速さで連続突きを行った。
研ぎ澄まされた剣劇。
千本突き。
剣術を行う者が、最初に習う初歩的な技だが、極めた者が、行うと上段者でも、防ぎきれない。
さすがに、京子も、手の甲や、腕に一郎の刀が、当たった。
剣道の試合なら、これで、1本取られていただろう。
しかし、これは、封印者同士の試合である。
どんなに、一郎の刀が、手や、腕に当たろうとも、相手が、参ったといわなければ、勝ちにならない。
さらに、京子は、魔力を、体全体を覆っている。
京子の魔力を超えるほど、攻撃でなければ、傷一つ付けることができない。
そして、京子は、冷静に一郎の攻撃を分析していた。
私の雷光を防いだことから見て、彼は、防御的な能力を持っている。
今でも、自分の固有の能力で、攻撃しないのは、そのため。
それなら、悪いけど、これで、こいつの能力を確かめてやる。
再び、京子は、一郎から、距離を取ると、刀に電流を流す。
そして、刀を天井に突き上げ、渾身の電流を流した。
「雷竜。」
空気に電流が走り、雷が、一郎の頭上に落ちた。
天空の雲に、電流を起こさせ、ワザと雷を作り出す。
京子が、使用できる最速最強の威力を持つ技。
あまり威力のため、京子が、実践で使う機会がほとんどなかったのだ。
ゴロゴロ、ドシャ。
一郎の姿は、光に包まれ、第2模擬練習場が、雷により、揺れる。
そして、一郎は、体から、湯気をあげながら倒れた。
「おい、医療班をすぐに呼べ。霞、何考えているんだ。」
最上が、青ざめた表情で、叫んだ。
「これは、試験なんだ。殺傷ランクSのスキルを使う奴が、いるか。おい、君大丈夫か。」
しばらく、ピクリとも、動かない一郎に、最上は、急いで、駆け寄り、声を掛けた。
すると、一郎は、倒れたまま、答えた。
「大丈夫です。それより、これで試合は、終わりですよね。」
一郎に、そう言われて、最上は、自分の時計を見た。
丁度、試合を始め、10分経過していた。
「試合終了。試験結果は、後で通知します。」
一郎が、よろめきつつも、しっかりとした足取りで立ち上がった。
「イタッと、流石に、西京大生。これほどとは、思わなかったです。」
ぼろぼろの服を、一郎は、眺めつつ、京子に礼をした。
会場の誰もが、唖然としているの振り替えらず、一郎は会場を後にしたのだった。