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第一話 入学試験

国立西京大学。


西日本名門の魂融合の研究機関であり、封印者養成施設でもある。


毎年、多くの優秀な封印者を輩出しており、最上級封印者になるための登竜門とされている。


そんな名門大学の正門前では、今、日曜にも関わらず、多くの人が、集まり、ごったごったしていた。


自分の番号を、確認し、正門に入る順番を待っている者もいれば、受験生を応援にきている親も、数人いた。


そのようないろいろな人が、正門前で、集まっている中、明らかに他の学生と違う服を着た男性二人が、人の波をかき分けながら、正門を通り抜けようとしていた。


「今年も、多い受験者数ですなあ。」


二人のうち、長身で、きちんと背広を着た男性、最上健一が、大きなため息交じりで人の数をながめて、言った。


今日は、西京大学の入試であり、最上は、この試験のため、朝の6時に起き、試験の準備をしてきたのだ。


最上の顔は、疲れのためか、普段より痩せこけて見えた。


「まあ、無理もないよ。」


最上よりは、少し小柄で、最上と同様に背広を着た野武士を思わせるような風貌の男性、工藤歳三が、最上の顔を気の毒そうに眺めながら答えた。


「魂融合は、画期的な技術だ。しかしまだまだ、不明のことも多い。また、優秀な封印者は、どこの組織でも必要とされている。これほど、今、必要とされている職業は、そうないだろう。」


と工藤は、受験生の多さを納得しているように言った。


が、工藤自身も、なぜ、魂融合を磨くために名門西京大学に入ろうとする人がこんなにいるのか理解できないでいた。


魂融合。それは、2029年、世界で、初めて、魂というものが、実際存在することが確認されたことから、始まった。


そして、2050年、現代では、自分の魂を他の魂と融合させることにより、昔では、超能力、魔法と言われる力、魔力を手に入れることが、出来るようになっている。


この能力の養成のため、各国は、大学、また、国の研究機関をはじめ、民間の研究機関まで、熱心に取り組ませている。


だから、別に名門の京大学に入らなくても、普通の封印者で、二流か、三流の会社に勤めるつもりならば、十分、そこらにある大学でいいのである。


工藤は、そんなにこの大学で、学ぶことに意味があるのかと考えつつ、ようやく人込みをかき分け、正門をくぐり、第1模擬練習場(試験会場)に向かった。


まだ、3月で、気温は、低いが、人混みで、熱気が、すごい。


二人とも、汗を少しばかり、かきながら、足早に、大学構内を、歩いた。


「それに、試験は、今日で、終わりだ。明日からは、春休みではないか。」


工藤は、歩きながら、最上を元気づけるように言った。


工藤も、最上も、大学の教員ではなく、二人とも、西京大学の学生であった。


入学試験が、終われば、3月は、基本的に休みなのだ。


しかし、最上の反応は、あまりよくなかった。


「それはそうですが。今日の試験は、模擬戦ですよ。あまり、設備を、痛めないように、戦ってくれるといいんですけど。」


最上は、工藤の後を追いながら、うんざりしたように言った。


西京大伝統の試験の模擬戦。


西京大学の入試は、他の大学と同様に一般に、筆記、実技で行われるが、一つだけ、伝統的に例外があった。

それは、西京大学学生による学生推薦。


西京大学のトップクラスの学生が、認めた者を合格させる制度である。


この試験では、完全なる学生と受験生の10分間の模擬戦で行われ、二人は、その審判、準備、後片付けに呼ばれたのだ。


「受験生は、入学することしか興味ないですから。試験の後片付けまで、考えてくれるといいですが。」


最上は、この試験で、学生が、主体になって、行うのが、不服なのであった。


工藤も、試験制度自体に、不満はないが、学生が、後片付けまで、行うことに対しては、最上の意見に、同意出来た。


封印者同士の模擬戦の試合会場は、封印者の能力にも、耐えれるようなっており、耐熱性、耐電導性に優れ、かつ丈夫な素材であるセラミックスタイルでてきている。


さらに、壁には、防弾チョッキにも、使われるアラミド繊維が、使用されている。


しかし、本来の力を出すことができる封印者では、一人で、軍隊1師団に匹敵するといわれている。


まだ、未熟とはいえ、西京大学のトップクラスの能力者が、力を出せば、試合会場が、常に無傷というわけにはいかない場合が、多いのだ。


「試合会場の掃除、修理をなるべくしなくても済むよう試験官の学生に、厳しくいうべきだな。」


二人は、そんなことを言いながら、ようやく、西京大学の非常に広い構内を歩き、第1模擬練習場に前に到着した。


第1模擬練習場は、西京大学の出入り口から、歩いて、10分ほどの所にあり、西京大学の持つ模擬練習場としては、一番近いところにあった。


大きさは、丁度、高校の運動場ぐらいの大きさで、模擬練習場の中では、普通の広さである。


そして、模擬練習場では、中心が、模擬戦が行われる戦闘フィールド、周りが観客席になっており、今回の試験の模擬戦は、西京大学の学生が、見物することも、可能となっている。


春休みにも、かかわらず、20人強の視線が、そそがれていた。


目当ては、模擬戦の参考だ。


最上、工藤が、到着したときには、既に、試験は、始まっており、前の組の最後の試合が、行われているところであった。


(試合会場は、予想より、ダメージは、少なさそうだ。)


工藤は、そう思いつつ、最上に、模擬練習場の設備内にある試合関係者の控え室に入るように促した。


最上と工藤が、審判をするのは、次の組の試合であり、まだ、試験官の人物に注意する時間はありそうだと考えたのだ。


「お待たせしたました。次の審判を務める最上と工藤です。」


最上は、控え室の扉を開け、次の試験官に声を掛けた。


「先輩方は、遅いです。」


長身で、艶のある短髪の黒髪。そして、誰が見ても、スタイルのいい女性が、部屋の片隅にある椅子に座っていた。


封印者学部が、着なければならない白と赤の制服を着て、出番を待っている。


「なんだ。霞君が、次の試験官か。」


最上は、がっかりしたような声を出した。


霞京子。


1年生ながら、京大学の実力ナンバー9位にランクする女性である。


端正な顔立ちと、抜群のスタイル、そして、封印者の確かな実力から、1年生の中では、「女王」と言われているが、上級生にとっては、生意気で、気に食わない人物と思われていた。


「霞君。君が、準備ができていればいいんだ。僕たちは、ただ、次の試験官の様子を見に来ただけだから。」


工藤も、最上と違い、表面には、見せないものの、内心、がっがりしていた。


なぜなら、霞京子は、上級生の頼みを、素直に聞いてくれるタイプではないからである。


恐らく、先ほどの、工藤達の願いを聞いてくれるとも、思えなかった。


(せめて、霞が、手を抜いて戦ってくれるといいんだが。)


しかし、目を閉じ、精神統一している京子を見て、恐らく、無理だろう。


「では、試合の注意事項の紙をここに置いておくから。くれぐれも、本気で、相手と戦い、ケガをさせないように。」


工藤は、最低限度のことは、守るように、京子に、忠告をした。


「わかりました。なるべく手加減するように注意します。」


京子は、まだ、目を閉じたままで答えた。


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